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72話 トントン拍子

 なんと婚約式の前日に両親が領地から王都にひょっこり出て来た。


 何故かすでに謁見の間でニコラとソフィーの婚約式が行われる事を知っていて、もちろん出席する事になっていると言うが、ニコラが婚約式をすると送った手紙を読んで出発したのでは今ここに間に合うはずはないので驚いた。



 実は、ちょうどフィリップが河川災害対策の一環で運河計画の全容と工事などで留意する点を詳細に説明させる為にジョゼフィーヌを喚んでいた。それが領地を出発するのにタイミング的にバッチリだったのだ。


 しかもクレマンがせっかく馬車を出すなら自分も行く、ジョゼフィーヌが1人の時に盗賊や事故に遭わないか心配だし、子供達の顔を見たいと金魚のフンのごとく付いて来てたのも好都合だった。



 ただ、出発時はニコラの婚約式の日程が決まる前で『運河予定地で河川災害が発生した災害対策の為に至急王都に上がれ』ということだったからとにかく急いで出発したため王宮に上がるといっても簡素な活動しやすい服を選んでいたくらいで婚約式の準備はなにもしていなかった。


 そこもフィリップは抜け目なく、迎えの使いをやって途中で合流させニコラの婚約式が王宮で執り行うことを伝えてベルニエ夫妻の衣装などはこちらで準備させるから、とにかくなるべく早く、遅くとも日曜の午前中までには王宮に着くようにと道を急がせていた。



 早くから親元を離れて暮らしていたニコラは気持ち的には自立していて今回も両親抜きで行うつもりだったけれど、いや、だからこそ両親が揃って婚約式に出席してくれるのはとても嬉しかった。




「あなたに王都に来たことを伝えに寄っただけなのよ。

 明日の午後なんだから明日でも間に合うけれど、なるべく早く来いとの仰せだからこのまま王宮に向かうわ。

 とりあえず全部詰め込んで来た氷街道と運河の資料がすごい量なの。これを明日バタバタと運び込む訳にはいかないでしょうし。あなたはどうする?」


「私はソフィーと一緒に行く予定だから、明日の午後1時に王宮に着くように出ます」



 その位の時間に来るようにと殿下に言われている。

 指輪を受け取って、それぞれ控え室で正装に着替えて、関係者に挨拶して・・・と。



 フィリップとリリアンが婚約指輪は宮殿宝飾部で注文すれば良いと言ってくれて、先日ソフィーと宝飾部の工房を訪ねて彼女の好きなデザインを選んだ。


 夜中に殿下からの使者が来た時は何事かと驚いたけど、お陰で婚約式に間に合うように作って貰えることになった。そこまで気に掛けて貰えるなんて勿体無いことだ。



 さらにその時、指輪にかかる費用はいらないと普段の負担の礼に殿下が持つとまでおっしゃって下さったのだ。

せっかくだけどやっぱり婚約の証なので「自分で払いたい」と言ったら「お前らしい」と了承し、随分サービスした破格の値段にして下さった。


 学園で殿下の護衛をしているので俺も収入がある。

 本物の騎士でもないし、友人だからと最初は報酬を貰うのを断ったが結局今は提示された額の1/5を必要経費として毎月受け取っている。1/5と言っても人に言ったら羨ましがられそうな結構いい額だ。


 それでも領地から辺境に急遽行くことになって最初の予定より宿泊費、食費、馬の餌代も2頭分で3週間分も余分にかかってたから本当は安くしてくれてすごく助かった。


 それから指輪ケースはリリアンがプレゼントしたいと言ってくれた。俺と姉になるソフィーに贈りたいというので有難く受け取ることにした。


 注文した婚約指輪は最高級素材のプラチナで真っ直ぐじゃなくて少し波打ってる様なデザインだ。


 ソフィーは「何となくNの文字をイメージさせるから」と言っていたけど、横から見るとSの文字にも見える。


 俺たち2人にピッタリだと思った。



 当日、ソフィーと王宮に着いて指輪を受け取りに行ったら、「申し訳ありません、まだ少し仕上げ工程があるので後でお渡します」と言われた。奥でまだ磨き作業をしていると。

 それはそうだ、たった3日で2つも仕上げて貰わないといけないのだ。逆に殿下に急げと言われてもクオリティを追求してくれる彼等に職人魂を感じて有難いと思ったほどだ。


「いや、こちらこそ無理を言った。今日中じゃなくても数日遅くなっても大丈夫だから、楽しみにしているよ」と返事しておいた。


去り際にソフィーがガッカリしていないかと見ると「婚約記念日と指輪交換記念日と記念日がまた増えましたね」と嬉しそうだ。彼女がポジティブ思考の持ち主で良かった。


でも、記念日がまた増えたって・・・指輪交換記念日って何すんの?




 ベルニエ家の控室に入るとリリアンも正装していてエマにアウイナイトのネックレスをつけて貰っていた。


 ニコラを見とめて報告する。


「お兄様、今日は私も婚約式に出席するようリュシー父様に言われたのですよ。私もお兄様の婚約申請書に見届け人のサインを入れるようにって!」


「そうか、頼むぞ」


「はい!」


 リリアンはいっぱしの大人扱いされて喜んでいるのだろう。


 しかし父上が「なんだその、リュシー父様っていうのは!もう陛下は〜、まだ違うだろ〜」と拗ね始めた。


「まあ、まあ、あなた。こちらでお世話になって可愛がって下さってるんだから」

「そうだけど」


 ニコラはリリアンに耳打ちした。


「リリアンのお父様と言って抱きついてやれ、それで父上の機嫌が治るだろ」


「うん!リリィ〜のお父様〜!!」


 リリアンが両手を広げてクレマンに向かって走っていくと案の定クレマンは「はーい、本物の父様だよ〜」と破顔してリリアンを抱き上げた。


 リリアンはそのままクレマンの頬をツンツンしながら近況報告をしている。支度の出来たジョゼフィーヌもサラと隣に来てリリアンの話を聞いて笑っている。



 ニコラもパリッとした正装に着替えて衝立から出て来たらエマが来てサッシュという肩からかけるリボンを着けてくれ、髪をオシャレ〜に整えてくれた。

 それを見て母上が「男前になったなった」と言った。なぜ2回言う。



 部屋を見渡す。


 殿下のお陰で家族全員がこうしてここに集うことが出来た。

 和気あいあいと歓談し、なんとも平和だ。


 皆が自分とソフィーの為に集まってくれたと思うと心が温まるな。




 そこにエミールが来た。


「ご挨拶をしたいと申されていますが、もう宜しいですか」

「はい、どうぞ」



 やはり正装したソフィーの関係者が来た。


「お邪魔しますよ」と一番に入って来たのはお年寄りの夫婦だった。

 多分、ソフィーの祖父母かな?気難しそうだけど顔はブリジット夫人に系統が似てる気がする。



「ほお!これは!!なんとも立派な青年じゃないか!」

「ええ、ええ、これはこれは!」


 ニコラを見て目を見張るとスタスタと近寄っ来て心底嬉しそうに手を握ってきた。



「初めまして、ニコラ・ベルニエです」


「私たちはソフィーの祖父母、伯爵ジェローム・デュランとその妻オデットだ、いや、ソフィーは果報者だ。こんな偉丈夫そうそう居るものではない。こんな喜ばしいことが有ろうか」



 いやそこまででは〜、身体が大きいだけですから。



 彼らの後ろにはソフィーとモルガン宰相、ブリジット夫人、マルタンの他にモルガンの父親も来ていた。



 ジェローム伯爵とオデット夫人は後ろを振り向きモルガン宰相を見た。


「先ほど君の謝罪を受け入れたが、今、心から和解をしよう。

 これほどの若者と縁が結べるのも君が宰相という職についているお陰だろう。なんとも目出度い。私たちの心は喜びでみちている、古い事にいつ迄も意地を張っておったが調度潮時だ」


 そう言ってモルガンの方に向かうと握手を求め固くその手が握られた。


「ありがとうございます」そう言ってその手を握り返し、モルガンは頭を下げた。モルガンも積年のわだかまりを綺麗さっぱり洗い流して和解を心から喜んでいるようだった。



 ソフィーとブリジットがニコラの側に来た。


「先ほど、お父様がお祖父様たちにお母様との結婚の時のことを初めて謝罪したの」


「ソフィーが結婚する事になってようやく親の気持ちが分かったって言ってね、正当な許可も手続きも踏まず結婚に持ち込んだ事を私にもデュラン家にも悪かったと私の両親に謝罪してくれたの。

 両親もさっきは頭を下げられたから不承不承それを受け入れたんだけど、ここへ来てあなたと会って心から和解する気持ちになったって言ってくれたわ。あの表情を見て!本心から言ってくれてるでしょう?これからはきっと仲良く出来ると思うわ。

 ニコラ様ありがとう、あなたのお陰で21年間もこじれにこじれていた関係がようやく修復されたのよ、うれしいわ」


 そう言ってブリジット夫人は目に涙を浮かべながらも嬉しそうだ。


「うまく行く時は何でもこうやってトントン拍子に進むものなのね。

 愛さえあればと言うけれどやっぱり皆に祝福されてこそよ。ああ、私達夫婦もこれから穏やかで本当に幸せな人生を歩んでいけそうだわ」



 夫と両親の不仲は相当なものだったのだろう、ブリジット夫人は間で板挟みになって苦しんでいたようだ。その問題が解決しそうで良かった。


 だけどデュラン夫妻には誤解があって、ソフィーの事は宰相の娘だからという理由で選んだ訳ではなくて彼女だからこそ愛しているのだし、体がデカいというだけで俺への評価が高すぎる。

 でもそんなことを今くどくどと言い含める必要はないだろう。彼らが心から喜んでくれていることをこちらも喜べばいいのだ。




「それでは皆さん、そろそろお時間ですから謁見の間に移動しましょう。謁見の間では静粛に。

 2人は陛下の正面に並んで立つようになります。ニコラはソフィー嬢の右側に立って2人の間は30cm、関係者は先に説明した通りに順番に入り整列します。係の者の指示に従ってください。場が整いましたら王族の皆様が入って来られます」


 そう言ってエミールが皆を引率して行く。



 今日はパメラも緊張しているのか場を弁えているのか「師匠〜」などとふざけたりせず、クレマンの後ろを歩くリリアンに真面目な顔をして付いている。



 そして広い謁見室にはエマやサラまで特別の計らいで観覧させてもらえるらしく後ろに入れて貰っていた。リリアンが皆がいた方がいいなとおねだりしたらすんなり通ったそうだ。通りで御仕着せでなくいつもにはないドレス姿で着飾っていた筈だ。



(しかし、エミールが言ってた王族の皆様って?殿下だけだと思うが)

 まだ一介の学生同志の婚約式に陛下や妃殿下が顔を見せるとは思えない。たぶん殿下が来られることを宮殿の慣習で王族の皆様と言うんだろう。そうとしか思えない。



 ドアが開かれ、ニコラとソフィーは何より格式の高い謁見の間へ足を踏み入れた。

知らない内に

舞台が整ってきましたよ

_φ( ̄▽ ̄ )



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