71話 リリアンからの提案
フィリップは桃色のサテンに白い糸でレースのような刺繍が入った可愛らしい指輪ケースを持って間の部屋のドアを開けた。
「リリィ、指輪が出来てきたよ」
「わぁ!」
嬉しそうに顔を輝かせ、リリアンはオコタンを横に置いてベッドを降りるとフィリップの元に駆け寄った。
リリアンがベルニエに帰る直前に贈った指輪がキツくなったのでサイズを合わせて作らせていたのが今朝出来上がったとフィリップの元へ届けられた。
僕の贈る指輪をこんなに喜んでくれるなんて可愛すぎる。
もう僕の息の根を止めに来てるんじゃないかと思うくらいだよ。
それに僕も僕だ。
日中に渡してもいいのに、わざわざ夜、この部屋で渡しているのだから。
この部屋の中だけは2人きりで誰の目もないし邪魔も入らない。
何を言ってもしても秘めやかで、とても特別な空間、特別な時間という感じがして親密度がより上がる気がする。
でも最近、小悪魔リリィが毎晩降臨するから困ってる。
実はあの災害視察から帰った夜に間の部屋で一緒に寝てからずっと毎晩こうなのだ。間の部屋でリリィはベッドに座って僕が来るのを待っている。僕の顔を見た時の嬉しそうな表情!自覚なく僕を煽るのだから堪らない。
そう、最初はさすがにこの部屋で毎晩寝ようと約束はしてなかったよ。
だからあの日の翌日は居ないだろうと思いながらも、もし居たら1人待ちぼうけをくらって寂しい思いをさせてしまうかもと、さほど期待はせずにドアをノックし薄く開けて一応、間の部屋の中を確認したんだ。
そしたら、灯りが点いてて、リリィがベッドの真ん中にオコタンを抱いて座ってて、僕の部屋の方を向いて僕が来るのをじっと待ってたんだ!いったいいつから?それも無自覚にも僕を誘うような白くてひらひらした可愛いネグリジェを着て。
く〜、何それ天使が過ぎるだろ〜。
もうやることなすこと可愛いやら嬉しいやら感動するやら、グッとくるやらで身動き取れずどうしようかと思った。
それ以来、待たせないように部屋に戻ったら最初に間の部屋を確認するようになったんだ。
いつから待ってるのかと思ってそれとなくエマにリリィは何時に寝るのか聞いてみたら20時だという。
しかもエマが言うには「最近、早くから眠くなったとおっしゃられて20時より早くお休みになられてますけど20時を目安にお休みの支度をしております」だって。
でもベッドで待ってるリリィはちっとも眠そうにしてないんだよ?
ってことは、リリィはこの時間が楽しみで仕方がないって事だろ?もう僕をそんなに喜ばせないで欲しい。
いや、喜ばせて欲しいけど。
そう言うわけで、リリィの顔を見て部屋に戻ったことを伝えてからシャワーを浴びて間の部屋に行くようになった。
実際のところ寝に行く前の準備をしないと一緒に寝るなんてもう無理だ。いつ理性が崩壊するか自信がないんだ。シャワーを浴びながらリリィの名を呼ぶのが日課になったけど、こんな目と鼻の先で僕が何をしてるかなんてリリィにはまだ判らないだろう。
それから爽やかな顔をしてリリィの待つ部屋に行くんだ。少しお喋りをして同じベッドで一緒に寝るだけ。腕に抱いて穏やかな寝息と温もりを感じるだけも至福の時だ。あ〜可愛い。
リリィはとても寝つきがいい。リリィに合わせて早く寝るから早く目が覚める。めちゃめちゃ早寝早起き生活で、朝たっぷりと時間があるから本を読んだり筋トレにジョギングにと何でも出来るからこれはこれで良いと思う。
「フィル兄様、どうもありがとう!開けて見てもいいですか」
「ああ、もちろんだよ」
なんという偶然か、今夜のリリィの格好と指輪ケースが絶妙にマッチしていた。
リリィも桃色生地に白いレースリボンをあしらったネグリジェで、寝る時なのにレースリボンのヘアバンドまでして。まるでこの指輪ケースのデザインを前もって知っていたかのようだ。
指輪ケースの妖精か!可愛すぎてこのまま永久保存したいくらいだね。
「可愛い、アウイナイトが2つになってます」
「そう、デザインが同じだと飽きるかなって思って変えてもらったんだ。でもダイヤモンドと交互にするのは同じだから大して代わり映えしなかったかな」
「いいえ、今までよりもっとキラキラしていて綺麗です。今までのも素敵だったけどこれもとっても・・・。
あっそうだ!フィル兄様、指輪って結婚や婚約の時に贈り合うものなんですよね?」
ドキッ!
「うん、そうだよ」
リリィ、何を言い出すつもりなんだ、まさかもう僕の下心に気づいたのか。
「ニコ兄様はソフィー様とのご婚約の時に贈る指輪を忘れずに用意しているでしょうか?領地や辺境に行ってたからそんな時間が無かったのではないかと思って心配になってきました」
「あー、そっち?
そうだね、ニコラがベルニエに行く前に準備に取り掛かっていないと出来上がりは間に合いそうにないね。でもそんなことは一言も言ってなかったから気がついてもない可能性もあるな」
「あの、私に両親から何か必要な時の為にっていくらか本邸に置いてくれてるらしいのです。それで王宮の指輪を作る職人さんにお願い出来ないでしょうか?それでも足りないかしら」
「うん、ここで作らせるのは僕から言えば大丈夫だ、石を入れないシンプルな指輪ならそう時間はいらないだろう素材も揃ってるし間に合うようにさせるよ。まずニコラにどうするか聞いてみないとね、サイズのこともあるから明日ニコラに使者を送ってみようか」
「はい、ありがとうございます」
リリィはとても嬉しそうだ。
その笑顔の為ならお安いご用だしニコラの為にだって人肌脱ぐよ。
僕は頼むだけだけど宝飾職人達はリリィからの頼みだと言ったら余計喜んで作ってくれると思う。
「せっかく彼らが今日仕上がったとリリィの指輪を届けてくれたからさっそく新しい方に交換しておく?」
「はい、お願いします」とリリアンは手を差し出した。
前回も僕が指輪をはめたから当然今回も僕の役目と思ったようだ。それは良い傾向だ。もっといつでも何でも頼っていいからね。
しかし引っ張っても回しても全然外れない。
「痛い?」
「ええ、ちょっと」
「こんなにキツいなんて、ごめんよ」
「でも、大丈夫です」
「これ以上ダメだ」
「止めないでフィル兄様、もっとして下さい」
「リリィが傷ついてしまう。痛いだろう?」
「あ、止めないで」
ちょっと待って。
自分で言ってて今気がついたけど、ここまでの会話ヤバくない?
「リリィ、やっぱりこれ以上無理に引っ張るのはダメだ。石鹸をつけよう。石鹸で滑りを良くしたらスルッと抜けるんじゃないかな」
これ以上は僕の精神が保たない!もう、そうやって一刻でも早く抜くしかない!
ここにも浴室はあるが薄暗くムーディな作りになっていて危険だ。気分を変える為に明るいリリィの部屋のパウダールームに行ってリリィの指に石鹸の泡をつける。
しかし、リリィを前に立たせて後ろから指をしごくように泡立たせてやりながら、何か別の事をうっかり想像してしまい猛烈に、猛烈にヤバくなってきた。
墓穴を掘った、こっちのシュチエーション方がよりヤバいじゃないかっ!
フィリップは指輪を落とさない様に気をつけて抜くやいなやリリィの手に渡して逃げ出した。
自分の手はタオルを持って泡だらけのまま拭く間も惜しんで。
「そうだリリィ、今晩中にニコラに言っておかないと間に合わないかもしれないから、ちょっと行って来る!これは洗って拭いて置いといて!」
「指輪は後で嵌めるからね」と言う声は閉まった扉の向こうからギリ聞こえた。
リリアンは突然慌ただしく出て行ったフィリップに驚いたけど、ニコ兄様の為にそんなに急いでくれているフィル兄様に感謝してもう見えなくなった背中にお礼を言った。
「フィル兄様〜、ありがとう〜!」
そういう訳で一応その日の内にニコラの元にフィリップからの伝言が届いた、何事かと思うようなめっちゃ遅い時間だった。
フィリップは
お年頃ですから
_φ( ̄▽ ̄ )
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