表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

70/262

70話 ソフィーと萌え絵を

 午前中、リリアンの部屋で別れた時は殿下は執務に戻るとおっしゃっていたから今日中に連絡が取れるだろう。


 もし見届け人を引き受けてくれるなら、殿下の予定に宰相を含め婚約式の日程を合わせることになるだろう。急ぎこちらの要望を書き記してオジェ家から使者を出して貰った。


 もし殿下に断られたら誰に頼む?父上か母上に夏休暇中に間に合うよう来てくれと頼むか。



 ソフィーと知り合って間がないとはいえ婚約式の段取りについて何も調べていなかったのは不味かった。直前でバタバタすることになってしまって。

 これなら宰相から嫌味を言われても仕方がない、諸々のことを含めて甘んじて苦言を受けるつもりだ。



 使者が返事を受けて帰って来るまで、客間に戻って待つことになった。


 ソフィーが先ほど侍女に取りに行かせた物を見せてくれた。


「今日はこれを買うためにセントラル広場に行っていたんです」



 さっきは筒状に丸まっていた紙は今は額縁に収めてある。


「あ、これがパメラの言っていた姿絵?」


「はい、そうです。でもそれはニコラ様お一人を描いた絵を指す言い方で、私も一緒に描かれているこちらはショップでは『萌え絵』と名前が付いておりました」


「へー」何、その変なネーミング。


「最初に出た時は知らなくて手に入れ損ねてしまったので、ずっと再販を待っていたのですが1度に10枚しか出品されないから競争率が高くて大変でした」


 ソフィーは晴々とした、いかにもやり切りました!という笑顔で言った。

 この萌え絵は夢見る乙女の心を掴んだ。いつもより更に競争率が高くしかも出品される度に値段が高くなっていくから大変だ。同じシチュエーションの絵がいつ打ち切られるのか分からない。いろんな意味で早く手に入れるに越した事はないという販売戦略。敵もさる者よ。


「ふーん」


 手にとってよく見せて貰ったがカフェでデートしていた時の絵だった。

 ニコラが正面の席に座るソフィーの手に自分の手を重ね、見つめあっている。


(これ、俺がソフィーに結婚しようって言った時だよね、よくもまあこんな瞬間を切り取ったものだ。よく見てんな)



 実にそっくりにニコラが描かれている。

 小っ恥ずかしいくらいに。

 しかし、ソフィーが後ろ姿なのが残念だ。


「俺よりソフィーの顔が見えるように描いてくれてたら良かったのに」



 ソフィーは先に額縁まで用意していてこの絵を手に入れるためにこの休み中に何度も侍女達と手分けして並びに行ったのだ。自分の顔が描かれていなくても後ろ姿でも、ようやく手に入れることが出来て嬉しいばっかりだ。



「いえいえ、ニコラ様のお顔が見えていないと意味がないんです。それから私が後ろ姿なのは、この絵を買われた方達がニコラ様と自分がデートしているように想像しやすいようにということだそうですよ」



「ん?ソフィーはそれでいいの?俺は君としかこういうことしたくないんだけど?」



 楽しげにこの絵のことを説明しているソフィーを問答無用に抱え上げ二人掛けソファーにどっかりと座った。ソフィーは突然ニコラの膝の上に座ることになり恥ずかしがってアワアワしている。


「ほら、落ち着いて?」


 ソフィーの身体が収まりが良いように抱き直し、顔を近づけると急に大人しくなり、とろんとした表情を見せた。

 ソフィーの瞳を覗き込んで、その愛らしさにフッと笑うと頬に手を当て目を閉じて唇を重ねた。


 だんだん深く・・・。



 カチャッ


 お約束のようにマルタンがまたいい所で部屋に入って来た。


「わあっ!」


 ニコラがキスしながらチラと目をやると今度は倒れてはないがナナメ後ろに飛び退っていた。猫か。


 しかしなんだろう?

 俺がソフィーに何かすると誰かに見られる呪いにかかっているのだろうか?


「あの、殿下から手紙を預かって来たって」


 マルタンがパーに広げた片手で顔を隠し、指の隙間からこちらを覗き見ながらもう片方の手を伸ばして手紙を差し出して来たのでソフィーを抱いたまま受け取る。


 さすが宰相邸は王宮に近いので返事が早いな。


「ありがとう。どれどれ?」



『ニコラへ


 見届け人の件は了承した

 日曜日のニコラとソフィーの婚約式は

 王宮の謁見の間で午後3時から執り行うように

 モルガン宰相にも以上の事を確認済み


 王太子フィリップ』



「え?王宮の謁見の間で?殿下が忙しくて出て来られないから俺たちの方から来いということかな」


「そういうことでしょうね。それに王太子殿下に来ていただくのはさすがに畏れ多いから私たちが王宮に上がらせていただいた方が失礼がなくて良いかもしれませんね」


「まあ、王宮なら陛下に婚約申請書をそのまま提出して帰れるからラクだしね」


「はい」



 ニコラは自邸に帰ることにした。王宮で婚約式ならば正式な儀礼服を着なければならないだろう。実際のところ昨日辺境から帰って来たばかりで何も準備ができていない。

 あと両親にも一応、夏休み中に婚約式をすることになった事など、ここまでの事の次第を手紙で知らせておくべきだろう。


「ソフィー、いったん家に帰って婚約式の準備をするよ。

 打ち合わせが必要なことがあったら言ってくれ。

 それと今度その絵描きに俺たち2人の絵を描いて貰おうよ。俺も君の絵が欲しい、こちらを向いているのをね。じゃあね」





 2日後・・・。


 そう言ってニコラが帰ったからなのか、偶然なのか。


 ソフィーがまたF&Nファンショップがゲリラ出店しているのに遭遇して、ニコラと自分の並んだ絵を婚約の記念に描いて欲しいとダメ元で頼んでみたら快諾されたということで、さっそく今日は宰相邸に招いて描いて貰うことになった。



 マイア・カバネルと紹介された自称F&N専門の姿絵萌え絵画家は、最初に欲しいという人に売ったのが木炭で描いた練習画だった為その流れで普段販売しているのは木炭画らしい。しかし、今回は長く残る物をというソフィーの希望で油絵になるそうだ。


 こうして注文を受けて描くのは初めてらしい、ソフィーはもう報酬は前払いで渡してあると言っていたが大丈夫なのだろうか。



「大丈夫です。油絵こそ得意です。木炭画ばかり描くと思われていますがあれは数をこなすのに適してまして絵の練習とお金にして次の画材を買う為なのです。私にとって王太子様を描く至福をエンドレスで味わう為の肥やしです」とニコラの不審げな顔を見て太鼓判を押してきた。



 2人で並んで立つだけかと思ったら、それではシュチエーション的に旨味がないと言われ色々ポーズをとらされた。主に俺が恥ずかしい思いをするやつ。



 跪いて薔薇の花を一輪差し出してソフィーに求愛するポーズ。


 ソフィーをお姫様抱っこして見つめ合い微笑むポーズ。


 後ろからソフィーを抱いて覗き込むポーズ。



 こんな無理矢理なポーズで幸せそうに笑えと言われても笑えるかって、もう表情筋が強張ってソフィーといるのに怖い顔になってしまう。



 はあ、一時はどうなることかと思ったけど、結局色々やらされた挙句に2人がごく普通に寄り添って立つ絵になった時は心底ホッとしたよ。


 そしてポーズが決まるまでは長かったけど、それからは早かった。ここでは下絵だけ描いて後は自宅のアトリエで仕上げるという。


「大丈夫です。私の絵に関する記憶力は並みのものではありません。今見て描いたかのように仕上げてまいります」というからやっぱり絵を売って商売してる人はすごいなとは思った。パッと見、胡散臭そうだったけど。



 ソフィーはマイア・カバネルの絵の大ファンで、彼女が言うには絵が上手なのは勿論のこと、とにかく心情をのせた表情の表現力が巧みらしい。


「期待して大丈夫ですよ」ソフィーがそう言うならそうなんだろう、出来上がりが楽しみになってきた。




 後日、素晴らしい仕上がりの油絵がオジェ邸に届けられたのを見た時は感嘆したが、同時にあの無駄にとらされた数々のポースの絵があの描いてもらった翌日にはF&Nファンショップでさっそく萌え絵として売られ、一枚当たりの値段的なベストヒットを記録したのだと聞かされた。


 ニコラはマイア・カバネルに礼を言われたが、販売中止と回収要求をした。しかし買い手は誰か把握していないと言われ、もう手遅れだった。

 絶対にマイアは最初からそのつもりで、ちゃっかり自分の売る作品の為にポーズをとらせたに違いない。



 マジで止めて。恥ずか死ぬ。

マイア・カバネルはちゃっかり

ニコラを糧とする

そしてソフィーは一通り

手に入れたに違いない

_φ( ̄▽ ̄ )



いつも読んでくださいまして、どうもありがとうございます!


面白い!と少しでも思ってくださる方がいらっしゃいましたら

★★★★★やブックマークで応援していただけると嬉しいです!!


とてもとても励みになっております!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ