68話 マルタン真実を知る
ニコラは辺境からの最後の宿からソフィーに宛てて手紙を出していた。
帰る予定の日とその後に王宮に上がるという予定があること、帰ったら早めに婚約の申し込みの挨拶に行きたいのでソフィーの父の予定を教えて欲しいと手紙にしたためていたが、ニコラが帰った日も翌日の王宮に上がる朝も、タウンハウスにはまだソフィーからの返事は来ていなかった。
待っていればいいのかもしれないが、王宮の帰りに前を通るのだから宰相邸を訪れてみようと思った。
だって、もう何日もソフィーの顔を見てないんだ。
居たらちょっと顔を見て帰るし、居なかったら仕方がないその時は諦めて大人しく帰るさ。
エクレールに騎乗し向かっていると前をソフィーによく似た女性が侍女に日傘を差してもらい歩いていた。追い抜きざま違う人でも咎められないよう気を使いながらチラと確認するとやっぱり!
「ソフィー!」
驚きから笑顔に変わるその顔が久しぶりのせいか、以前より更に女性らしく美しく輝いて見える。
「まあ!ニコラ様!?」
ニコラはエクレールから下りてソフィーに並んだ。
再会を抱き合って喜びたいのは山々だがここは人目があるので自重した。
「昨夜、ニコラ様からのお手紙が届いたところだったから今日お会いできるなんて驚きました。
お元気でいらっしゃいましたか?
返事は先ほど持って行かせたところですからまだお読みになっていらっしゃらないでしょう?
父は5日後の日曜日がお休みなのでその日が都合が良いと申しておりました」
「手紙より俺の方が早く王都に戻って来ていたようだね。では日曜日に挨拶に行かせてもらうよ」
「はい、そう伝えておきます。今は宮殿からのお帰りですか」
「そう。これで頼まれていたお使いは全て終了したよ。
ようやく自分の事が出来る。
何より君に逢いたかった。
今も顔を見に行きたいと思っていたところなんだ」
ソフィーは足を止めてニコラを見上げた。
「ニコラ様、嬉しいです。
あの、もし宜しければ家に寄っていかれませんか。今は母しか居りませんが昼食をご一緒にいかがでしょう」
もう昼が近い、宰相邸はすぐ目の前だ。
ニコラもまだ話がしたい。
「迷惑でなければ少し寄せて貰いたい」
「はい、ぜひ」
そうして、宰相邸を訪問することになった。
エクレールを預け、玄関へ向かうと守衛からニコラの来訪を告げられたブリジット宰相夫人が出迎えてくれた。
「いらっしゃいませ、ニコラ様。ソフィーの母、ブリジットです。
この度はソフィーとのお話を受けて下さってどうもありがとう、私たちもとても喜んでいますのよ」
「ブリジット夫人、こちらこそありがとうございます。
私の方から申し込みをしたいと思っていたところです」
「まあそうでしたの、今日はどうぞゆっくりしていって下さいね。
ソフィー、先に客間でお話をしていたらいいわ用意が出来たら呼びますから」
「はい」「はい、ありがとうございます」
婚約の前段階として夫人の手応えは上々だ。
ソフィーに腕を引かれ客間に向かう。
当たり前だが侍女が付き添って一緒に客間に入ってきた。お目付役がいるので仕方なくテーブルを挟んで対面のソファに座る。
ソフィーが遠い。
「ああ、そうだ。ソフィー、俺たちのことをすっかり殿下に話してしまった。君の許可も得ずにごめん」
「いいえ、隠れて付き合っている訳ではないのですもの、そんなの許可なんていらないです」
そうは言ってもあんな事まで話したし・・・ソフィーに許して貰って余計罪悪感に襲われるよ。
ん?そういえばパメラが変な事を言ってたな。
「さっき、王宮でパメラに聞いたんだけど俺たちのデートが他の人達に知れ渡ってるとか、あと絵も出回っているとか言ってたけど。何か誰かに言われたり困ったりしたことはなかったかな?」
そうニコラが言うとソフィーは真っ赤な顔になった。
「ニコラ様、早耳ですわね。こちらに帰ってきたばかりなのに」
「どうした?何かあったのか」赤い顔を心配して問うと首を横に振って嫌な思いはしていないという。
「ドロテ、さっきのを持って来て」と侍女に言った。
侍女が部屋を出てドアが閉まったのを見届けてニコラは立ち上がりソフィーの元に寄った。
「ソフィー、会いたかったよ」
ソフィーも「私もです」とニコラに手を伸ばす。
侍女があの出窓の部屋まで行って戻ってくるまでに 2、3分はあるだろうか。
時間を惜しむように口づけを交わす。
性急な口づけに早くも足の力が抜けそうなソフィーを抱き上げるようにして尚も求めていると・・・
カチャッ
とドアが開き、一呼吸置いて
「ワァアアアー!!」
叫び声がして2秒、ようやく唇を離して見るとマルタンがぶっ倒れていた。
純なマルタンには刺激が強すぎたようだ。
「お兄様」
「まいったな」
「どうしましょう、このままだと通る邪魔になるし、ドアも閉められないし」とソフィーは困惑している。
マルタンは通り道を塞ぐように倒れている。が、マルタンを運ぶくらい訳ないことだ。
この客間にあるソファは1人掛けと2人掛けで、大人の男性を寝かせるには狭いのでマルタンのベッドまで運ぶことにした。
「ニコラ様、お手を煩わせてごめんなさい」
「いやこれくらいのこと何でもないよ」そもそも人の家の客間でキスをしたニコラが悪いのだし。
マルタンをお姫様抱っこして階段を上がる。
あ〜あ、こうしてお姫様抱っこでベッドに運ぶのはソフィーであって欲しかった。
マルタンが途中で意識が戻った時、ニコラの腕に抱かれ階段を上がっていた。
焦るマルタン。
「いや、ちょっと待て。
まだ女性を抱いたこともないのに先に男に抱かれるなんて、なんか嫌だ!」
早く降りなければと急にもがき出したマルタン。
「何を言ってるんだ。
今、階段だ。危ないからジッとしていろ」
ニコラに言われて落ちたら大怪我だとゾッとし、ニコラの胸に顔を付けすがるように引っ付くと借りてきた猫のように大人しく運ばれた。
(僕はこの国?宮殿?を背負って立つ宮内相なのに威厳も何もなにもあったものじゃないか)
「オホホ、嫌だわ。ニコラ様ったら抱き上げる相手を間違えていてよ」
先ほどのマルタンの悲鳴を聞いて、何となく察したけど一応様子を見に来てみたブリジット夫人が可笑しそうに笑っている。
「まったくです。チェンジしていいですか」
ニコラも笑ってふざけて応え、階段を上がりきった踊り場にマルタンを下ろした。
「えっ?どういうこと?何なの?その母上との馴れ馴れしい感じ」
「どういうことかしらねぇ」とブリジット夫人は微笑み逆にマルタンに問う。
マルタンは宮内相に就いてずっと連続勤務だったが、パメラの助言のお陰でようやく具体的な仕事に入れる目星がついた。それで今日はお休みを取ったので疲れを取るためゆっくり朝寝坊をして起きてきたところだった。そしたら執事にニコラが来ていると告げられ、宮内相就任の祝いを言いに来てくれたんだと思って客間に向かったんだ。
だから、ニコラは僕に会いに来たんじゃないの?
「あっ!さっきニコラ、ソフィーに何してた!」
我が妹に不埒な真似を!
いくらニコラでも許さんぞ!ぷんぷん!
そこでニコラは気がついた。
自分たちが交際していて婚約間近であることをマルタンがまだ知らないという事に。
もちろん友人として親しくしていても、いちいち何でもマルタンに報告するというような付き合い方ではない。しかしどうやら家族からも知らされてなかったようだ。
「しばらく会えていなかった恋人との抱擁ですよ、マルタン兄さん」
ニコラはマルタンの扱いを心得ていた。
「兄さん?マルタン兄さんだって!?・・・おお、弟よ!」
マルタンは喜んで一瞬で手の平を返した。
「そうか、僕が2人の仲を取り持ってやろうと思っていたのだが、そういうことなら仲良くやり給え弟よ」
「はい、そうします。
ありがとう、兄さん」
この後、ニコラがマルタンの事を再びお兄さんと呼ぶことは、ほぼ無いのだがここでは笑顔付きで大サービスしておいた。
「さすがニコラ様ね、鮮やかなお手並だわ」とブリジット夫人は称賛する。
ソフィーは「お兄さま、私たちのことを知らなかったのですか」と驚いていた。
その後、昼食を一緒に食べた。
ニコラのスープは具沢山で並々と注がれ、オムレツは皆より3倍はBIGだった。
身体が大きいから気を使わせたようだ。
マルタンはニコラが何も言ってくれないので自分から宮内相になったことを明かした。
「ニコラ、私はこの度陛下から任命されて宮内相に就任したんだよ。歴代一位の若さで。知ってた?」
「へえ、おめでとう。それはすごいな。
昨日の夜、王都に帰って来たばかりだったから知らなかったよ」
「王都にいなかったんだ?」
「ああ、一ヶ月近くね。殿下と一緒に領地に帰っていたんだ」
「そうなんだ、そう言えばだいぶん前にそんなこと聞いてたな」
「それで宮内相って大丈夫なのか?情報に疎すぎないか」
「情報に疎いって・・・最近誰かにも言われたな・・・パメラか。まあパメラのお陰で軌道に乗ったんだから感謝こそすれ。いや、先日リリアン様に中央通路で会った時にパメラが専属護衛だっていって一緒に付いて歩いていてね、最初は分からなかったんだけど、髪を短く切っていたし、でも」
「マルタン、今日はニコラ様はソフィーに会いに来られたのよ。それに日曜日の婚約式の話をしておかなきゃならないから、あなたの話はそれくらいにしておいてね」とうとうブリジットに釘を刺された。
「ええええー!婚約式だってぇ!?
ニコラもソフィーも僕より早く婚約ぅ?学生なのに〜?そんな〜!!」
こうして無事にマルタンは、ニコラとソフィーの交際と婚約を知ることが出来た。
これでマルタンも仲〜間
_φ( ̄▽ ̄ )
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