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65話 悩めるニコラ

 ニコラはベルニエには寄らず辺境伯邸から直接王都に向かい昨日の夕暮れ前にタウンハウスに戻って来た。


 国王陛下に謁見の申し入れとリリアンに会いたい旨を伝える使者を送っておいたら朝一番で返答が返って来た。


 今日の十時に来いと。

 陛下らしいスピード感だ。疲れて寝坊していたらアウトだった。



 身支度を整えながら考える。


 まずは王宮に行き、グレースから預かった手紙を陛下に渡さねば。その時にどういうことかと聞かれるかもしれない。なんて説明すればいいのか今も頭を悩ませている。


 グレースはニコラに預ける手紙を前もって見せてくれていた。


 マルセル・ジラール辺境伯の愛用しているダガーが届けられたことと、夏合宿が始まる直前になっても戻って来てないことから辺境伯の身に何か起こった可能性があるとした上で当面は長男ヴィクトルに代行させることを伝え、辺境伯のすべての権利を長男ヴィクトルに移譲し業務をさせることについての正式な委任を国王陛下に請うものだった。


 とても簡潔明瞭で具体的な事も詳しい説明も書いていない。好奇心の強い陛下には絶対にダガーが届けられた経緯とか判断に至った経緯を聞かれるんだろうな〜。


 単独で氷の山を探索してクレバスに落ちたなんて普通は確認しようがないことだし、それでダガーだけ見つかるのもオカシイ話だし。


 陛下が納得のいく答えを無理矢理考えて用意するなんて俺には無理だ。


 はぁ。分かりませんで通すか。




 王宮に行くのだからラポムも一緒に連れて行ってリリアンに届けておこう。




 宮殿に着いてエクレールとラポムを預ける時に馬の世話をしている馬丁がもうラポム用の馬房が用意されていますよと教えてくれた。

 王族用の馬房だけど、俺には入る許可が出ていますから見て行きますかと言ってくれたのでエクレールだけを預けてラポムを連れて行ってみた。


 約束の時間まで余裕があったし、どんな所か見たかったから。


 そして、ふと気がついた。


 宮殿の馬房は明るく広く清潔とはいえラポムは精霊なんだ。他の馬と一緒にこんなところに入れてしまっていいんだろうか。


 自分用の馬房に入ろうとしていたラポムに聞いた。


「ここで他の馬と一緒の扱いで大丈夫か?なんならベルニエ邸にいてもいいんだぞ。リリアンが乗りたいと言う時に連れて来てやるけど、どうする?」


<今回の旅で散々馬扱いしておいて今さら面白いことを言うね、ニコラは!もちろんぼくは馬なんだから大丈夫に決まってるさ。それにリリアンの馬なんだからVIP待遇に決まってるし>


「確かにウチより待遇はいいな、元気でいろよって・・・まあいつも元気かお前らは」


<まあね、ときどき仮病に罹るけど>


「何だよそれ?

 あーそうだった、そう言えばリリアンの件もどうしよう。お祖母様は俺が必要だと思った時にリリアンに教えるといいと言ったけどアレも何でって不思議に思われないように上手く伝える自信がないよ。

 俺は必要な嘘でも嘘をつくのがホント苦手なんだ。

 リリアンが本当に子守唄で人を眠らせることが出来る力を持っているなんて、まるで魔法だろ?そんなのなんて伝えればいいんだよ」


<あ、ニコラ!うしろ、うしろ!>


「え?」


「ニコラ、お帰り。リリアンの魔法が何だって?」


「わっ!」



 すぐ後ろにフィリップがいた。ふうん、という顔をして。


 さすがのニコラも青くなった。


 マズ!

 何でベラベラと声に出してしまったんだ、俺!


 旅の間は周囲に人が居ないことがほとんどでラポム相手に独り言みたいに会話していたので、王都に帰って来てもまだその調子で間違えてしまったと言い訳したい。



「殿下はいつからそこに?」


「ニコラが入ってくる前からだよ。ほら、ラポムの馬房の隣はレゼルブランシュだろ。

 今、休憩を兼ねてブラシをかけてやってたんだ」


 フィリップがそう言って手に持ったブラシを見せてにっこり笑う。



 殿下のその笑顔が怖い。あとさっきからラポムがうるさい。


<フィリップだ〜、フィリップ!フィリップ!ニコラの独り言ぜーんぶ聞かれちゃったかもね〜!>


 そうラポムは騒いでいるが当のフィリップにはその声が全くこえてないようだ。

あんまり楽しそうなので、まさかラポムは殿下がそこにいることに最初から気づいていたのでは?と疑ってしまいそうだ。


<うん、でも大丈夫でしょ?ニコラなーんにも悪い事してないもん平気、平気!>


 その言い草、どうやらラポムはフィリップが居ることを知ってたみたいだ。

 お伽話では精霊は悪戯好きってよく言うけどリアル精霊は意地悪なのだろうか。


 と現実逃避してラポムと脳内会話をしていたらやっぱり殿下が聞いてきた。


 まあ、リリアンに関する事を見逃してくれるはずはないよね。



「ニコラ、以前言ってたリリィとおままごとをしていたら秒で寝るっていうの比喩ではなく本当だってことなんだな。

 リリィがおままごとで子守唄を歌うから寝てしまうってことで合ってる?それも銀の民の特徴っていうやつなの?」



 本人にも伝えてないうちから今後『身の危険』を感じる相手ナンバー1になるだろうと思われる殿下にバレてしまった。そこまで理解されているともうどんな言い訳も通りそう無いよ。

 とはいえ、相手が子守唄の秘密を知っていようがいまいが歌ってしまえばこっちのもので耳を塞いでも寝てしまうんだから一緒じゃないか?


「そうです。子守唄はリリアンだけが持つ身を守る最強の武器だと辺境伯邸を出る時にお祖母様に教えられたんですが、それを本人にいつ伝えるか、どう伝えるかをまだ悩んでいまして」


「なんだ、そんなことで悩むことはないよ。その役目は私が変わってあげるからニコラから教える必要はない。その力について詳しく教えてごらん」


「後は、耳を塞いでも脳に届くから関係なく眠らされてしまうということくらいです。私が知っているのは」


 教える必要はないというのは、教えるなということだ。敵に塩を送ってしまったかもしれないがもう仕方がない。殿下が上手くリリアンに伝えてくれると信じよう。




 その後、殿下と一緒に国王謁見の間に向かった。


 ニコラの預かった手紙は国王の侍従を介して渡された。その場で目を通したリュシアンは言った。



「マルセル・ジラール伯は氷街道事業で亡くなったのか、それとも氷の山か」


「氷の山でございます。先月の頭に氷の山を探索すると言って出掛けて行ったままです」


「その亡骸なくとも遺品としてダガーが届けられたことでグレース夫人は亡くなったと確信したということか。氷の山は厳しく危険な山と聞く。年老いてなお健朗だった。残念なことだが仕方がない。

 グレース夫人には諾と返す、ヴィクトルを辺境伯とする委任式についてはこちらから追って連絡する。

 ニコラ・ベルニエよご苦労だった。リリアンには応接室で待つように言っておいたから顔を見に行ってやってくれ」


「はい、ありがとうございます」


(色々詳しく聞かれずにあっさり終わった〜!良かった〜!)


 安堵しふと見ると宰相モルガンが真っ直ぐこちらを見ていた。


 なぜかギクッとする。

 そうだ、アレをせねば。いよいよ自分にとっての本丸、モルガンの攻略だ。


『お義父さん、お嬢さんを私に・・・』ってやつ。


 婚約の申し込みがあって返事を返してあるから話は早いはずだが、戻ってくるのが遅くなったことの弁明をしておいた方がいいかな。お義父さんと呼ぶのはまだ早いか、宰相様?モルガン様?今まで俺なんて呼んでたっけ?


 と頭を悩ましているうちに国王陛下と共に宰相も部屋を出て行ってしまった。焦るな、どちらにしてもここで俺が宰相に話しかけるのは礼儀に反する。改めて訪問の約束を取り付けなければ!




 懸案だった2つの問題が片付いて後はそう、リリアンにトゥリアイネンの湧き出る泉の水を飲ませるだけだ。


 リリアンのいる場所にフィリップも行くから案内するという。


 フィリップが言うにはリリアンの私室はこれから行く左翼エリアの最上階にあり、そのフロアには他にフィリップの私室しかなく侍女、従者、護衛と清掃担当の下男下女の決まった者以外は出入り出来ないことになっているのでリリアンにも応接室や遊戯室など専用の部屋が設けられているとのことだ。


「すごい待遇だな」


「まあね、婚約者候補扱いではないな。王妃、王太子妃の扱いだよ。父上に聞いたら何度もリフォームするのも却ってセキュリティ的に危険だから先々の事を考えて一度に済ましたって言ってたよ。私の部屋までそっちに移動してていつの間にって驚いたけどベルニエ伯爵夫妻が来て婚約者候補と決めてからすぐ工事を初めていたらしい」


「リリアンはその部屋をみて何か言ってたか」


「ああ、本物のお姫様の部屋みたいって喜んでくれてたよ」


「そうか、それならいいか」


「心配か」


「いや、プレッシャーとか感じてるかなと。喜んでるようなら良かったよ」


「私も出来るだけのことはするよ」


「ああ、それについては心配してない」


「ニコラ達家族が来た時の専用個室も用意してあるからお前もいつでも王宮に泊まれるようになってる。お気に入りのぬいぐるみがあるなら置いておいても大丈夫だぞ」


「ないよ」




 中央から左翼エリアに入る時に一応ニコラの持ち物チェックがあったので水のボトルを取り出してそれを手に持ったまま歩いていた。


「それにリリィに飲ませる水が入っているのか」


「ああ、そうだ。トゥリアイネンの美味しい水だ」


「名前からして美味そうだ」


「おお、だろ?今、名前を付けたんだけど。

 これを飲めば銀の民唯一の乙女が被る災いが払えるという事だ」


「銀の民は謎が多いな。聖なる水ってところか」


「そう・・・他の誰にも言わないで欲しいんだが、飲んだだけ新鮮な水が増える。だからこのボトルを捨てさせないでくれ」


「ええ?どういうことなんだ」


「聖なるボトルの聖なる水?若返りと元気になる効能付きだと教えられた。だけど誰でも彼にでも飲ますなとも言われた。だから他の人にバレないようにして欲しい」


「どんなカラクリなんだ夢が有り過ぎだぞ。銀の民以外は飲んではいけないということか」


「いや、俺たち2人だけしか飲むなとは言われなかったからいいんじゃないか」


「じゃあ後でリリィに飲ませて貰おう。聖なる水か、楽しみだな。でもリリィがこれ以上若返ると困るんだが」


「まさか、肌がツヤツヤするとかそういう意味だろ。俺もこれを飲みながら帰って来たんだツヤツヤしてないか?」


「うーん、どうだろ?」


「その程度の効能か、まあそんなもんだろ。でも長旅でも全然疲れてないぜ」


「お前は元々強靭だからな。私は視察でヘトヘトに疲れたからあの時に飲みたかったよ」


「リリアンにまず飲ませないといけないから、その後で飲んだらいい」


「ああ、護衛の立ってるあそこだよ」



 ドアが広く開かれたままになった部屋。近くまで来るとリリアンの楽しそうな声が聞こえてきた。

リリアンの秘密が

あっさりバレてしまうとは!

案外ドジなニコラ

_φ( ̄▽ ̄ )



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