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63話 新・新生活

 早朝、フィリップは目を覚ました。

 腕の中でリリアンがすぅすぅと眠っている。



 誰も僕をヘタレと呼ばないで欲しい。これは王太子として貴族として当たり前の事だから。


 この安心しきっている寝顔を守れるのは僕しかいない。



 そっと起こさないように腕を抜いてベットから抜け出しリリアンの部屋へのドアを開けた。そしてリリアンを抱き上げ、彼女のベッドまで抱いて行き寝かせてやる。そしてオコタンも横に寝かせておいた。

 まだその身の純潔を他人に疑われるのは可哀想だ。


 覗き込みそっと愛しげにリリアンの頬を指の背で撫でたけど、それ以上触れることを戒めるようにその手をグーに握ってベッドから離れた。



 フィリップは自分の部屋に戻った。




 せっかく固い意志で夜を乗り越えたフィリップだったけれど、残念なことに間の部屋のベッドを使った形跡があるだけでもう疑われて名実ともに婚約者だと思われてしまうことになる。


 だけどそこのところに気がつかないのは、ぼんぼん育ちゆえ仕方がないのだ。



 尚、昨夜リリアンが急に前触れなく部屋から出て来た時にドア前で深夜番をしていたジローは、翌日フィリップに詰め寄られそうになったがいち早く危機を察し「何も見ていません」の一点張りで難を逃れたということだ。





 すっかり明るくなった部屋にエマが入って来た。


 声をかけられて目が覚めたリリアンは自分の私室のベッドで寝ていることに気がついた。フィル兄様と一緒にいたはずだったけど?


 そこにオコタンがいて、夢ではなかったことが分かる。



 今日からフィル兄様が王宮にいらっしゃるんだった!

 それだけで安心やら喜びやら何やらで気持ちが上がってくる。


 だけど、これだけはすぐにやっておかねば。


「エマ、エマ、オコタンをどこかに隠さなきゃ」


「リリアン様、もう隠さなくても大丈夫です。殿下とエミール様がリリアン様のために待遇を変えて下さったのですよ」


「え!」


「今日から侍女は私1人に戻りました。これから募集をかけて下さるそうです。

 それから殿下が夏休み中はリリアン様も夏休みです。

 バレリー夫人とロクサンヌ夫人はそれぞれマナーと教養の講師専門になるそうですよ。この部屋にはもう来られませんからオコタンはここにいて大丈夫です」


 両夫人は自分達が教える内容についてのマニュアル作成をリリアンが夏休みを満喫している間にしなくてはならないので忙しくてとてもこちらに来るどころではない。

 実際のところ、リリアンには伝えないがこの部屋への入室は禁じられた。



「私が寝ている間に皆が決めてくれたのね、エマどうもありがとう。大変だった?」


「いいえ、昨夜パメラ様と話をしていたところにエミール様が来られたので現状をお話したらすぐ対応するとおっしゃっていただけました。角が立たないように殿下から話して下さったそうです。さすが殿下とエミール様ですね」


 エマはここへ来る途中でエミールから説明を受けたが今朝からもう環境改善されるとは驚きだった。



「ええ、そうね」と返事をしながら急に自分の身を縛っていた荊棘の檻から解放された気分になった。自分では気がつかなかったけど随分と窮屈に感じていたみたい。


 それにしても私にも夏休みなんてすごい!

 1月までガリ勉生活の毎日だと思ってた。



 ノックがしてパメラが入室許可を求めて来たので入るように言う。


「リリアン様、おはようございます。パメラ・バセットただいまより本日の任・・・わっぷ!」


 リリアンはパメラに抱きついたが、ちょっと勢いが付き過ぎた。


「どうもありがとうパメラ様!オコタンを救ってくれて、そして私を助けてくれて」


「喜んでいただけて私も至上の喜びでございます」


「ねえパメラ様。いつもピンと立って微動だにしないけど、1日中大変でしょう?もっとラクにしていいのよ。椅子に座っていいし、お喋りもしていいのよ。オヤツの時間は一緒に食べましょう?」


「大丈夫です。ジッと立つのも体幹がしっかりしていないと出来ません。これも訓練の一環ですし他の護衛隊の面々も立っていますよ」


「うーん。確かに護衛隊の方々はそうだけど」


「リリアン様、先に朝のお支度を済ませましょうか。朝食の時間までまだ時間はありますが今日は殿下がご一緒なのですからいつもよりオシャレしましょう」


「はい!」


 そうして髪を左右2つに分けて高い位置でツインテールにしてもらう。


 用意ができた頃、フィリップとエミールが一緒に行こうと迎えに来た。リリアンはフィリップと手を繋ぎ歩きながら気持ちも新たにようやく新生活が始まった気がした。




 朝食時、パトリシアがポロッと言った。


「あー、今日からはあの2人がいないから普通に喋れるわ」


 あの2人とはバレリー夫人とロクサンヌ夫人のことだろう。

 下手なことを言ってお叱言をくらわないように気をつけていたらしい。


 皆、(えっ、自分がそんなに苦手に思っているのにリリアンの講師として指名したのか?)と思ったがパトリシアはもちろん誰も王妃教育を任せられるほどの人物を他に知らないのだから仕方がない。


 リリアンは(どおりでパトリシア母様はここ最近全然お声をかけて下さらなかったはずだわ)と納得した。




 その日は長い視察明けで1日休養日になったフィリップとレゼルブランシュに二人乗りで乗馬を楽しんだ。


 パメラも護衛として付き従う。



「パメラ様はとても堂々と乗りこなしてらして、乗馬がお上手ですね」


「はい、兄達が乗ってましたので自然に始めました」


「私も私の馬がいるのです。ラポムが戻ってきたら私も馬に乗る練習が出来るからその時は教えて下さいね」


 パメラはフィリップの方を見た。フィリップは頷く。


「はい、承りました。ラポムの帰りが待ち遠しいですね」


「ええ、お兄様が連れて帰ってくれるからもう 2、3日したら戻るはずです。ね?フィル兄様」


「ああ、ニコラもそろそろ戻ってくる頃だろうね」



(ニコラ様・・・)


 パメラはリリアンがニコラの妹ということは意識していたが、まずは訓練と今の生活に慣れる事に集中していて自分がその目前に立つことになるということまでは思い至ってなかった。

 いつも堂々として高圧的なパメラの胸もその名を聞くと流石に高鳴った。




 フィリップは朝からパメラがリリアンに従う様子を注意深く見ていたが、リリアンは心から信頼しているようだし、パメラからも言葉や態度から強い忠誠心が伺えた。


「パメラ、私はお前のことを手のつけられない暴れん坊だと思い込んでいたよ。だが今その思いを改めた」


「いいえ、本当に暴れん坊でしたからその評価は間違っていません。

 私はリリアン様に私が私らしく生きる道を与えていただいたのです。リリアン様専属女性護衛として誠心誠意努めます」


「リリアンをよろしく頼む」


「はい」



 それから広々として手入れの行き届いたジョワイユーズ宮殿の王家専用広場の木陰にシートを広げてピクニック気分で3人でサンドイッチを食べた。大きな木の下は風が通って爽やかだ。


「お昼寝したくなるような気持ちよさですね」


「ああ、そうだね。寝てしまっても僕が連れて帰ってあげるから大丈夫だよリリィ」


「いいえ、せっかくフィル兄様とパメラ様とこんなに楽しい遠出を楽しんでいるのに寝てしまったら勿体ないですから寝そうになったら頬っぺたをつねって起こして下さいませね、フィル兄様」



 リリアンはこの遠出が余程楽しいらしい。シートを敷いてもらってる上に、この暑いのに冷えたらいけないと言われてフィリップの膝に座りそうせがんでいる。



 フィリップはリリアンの頬を軽く摘み「つねるなんて無理だ」なんて言って撫でている。



「あはは、殿下も形無しですね」


 それを見ていたパメラがお腹をかかえて笑い出した。

 我慢していたけどもう無理だ。



「お前そんなに笑うか、私は王太子だぞ」


「いいえ、以前の冷たく固まった表情よりずっと良いと申し上げたい」


「お前は相変わらず尊大で怖いもの無しだな」



「あら、フィル兄様はパメラ様と親しかったのですか。先ほどは初めてお話をされたように見えたのですが」


「いや、12、3年は喋ってないし親しかったというほどでもない。5歳までは貴族と言えど誰とでも遊べるわけでなく高位高官の子供達が遊び相手だったんだ。

 パメラはエミール達と一緒に宮殿に来て、本当に幼少の頃に何度か遊んだことがあるんだ。

 その頃もこんなに髪を短くしていて名前は女みたいだけど男だと思ってたんだ。いつかエミールにお前の弟は最近見ないなと言ったら妹ですと言われて驚いたよ」


「パメラ様はフィル兄様が女性が苦手だから男の子の格好をしていたのですか」


「まさか!そこまでする義理はないし殿下が女嫌いになったのはもっと後だ。

 その時は私が長い髪が面倒だと嫌がって自分で勝手にハサミを入れてケチョンケチョンになったから全体を短くするよりなかったのですよ」


「ケチョンケチョンって何だよ。

 リリィ、パメラはね兄どもを顎で使う女傑でね、手が汚れたら兄上、手が汚れたから拭いてください!などと言って濡れたタオルを取りに走らせたり疲れてもないのに疲れたといって兄を馬にして上に乗って歩かせたりともう手がつけられなかったよ。パメラが最初に乗った馬は長兄のゴダールだと思うよ」


「女だと思ってなかったくせに」



「まあ、ニコ兄様も持ってないような武勇伝ですね」とリリアンは笑っている。


「ニコラは強いけど真面目で正義感が強いからな、そういう武勇伝は持ってないだろう。パメラの気の強さはあの頃から全く変わらなくて恐れ入る」


「私にとっては褒め言葉ですね」


「ああ、そうだ。使いどころを間違えなければお前の勝気は長所になる」


「殿下もすっかり棘が落ちて、いい国王になれそうですね。リリアン様のお陰で」


「だって、リリィ。リリィのお陰でいい国王になれそうだ、ありがとう」と言ってまたイチャイチャ始めた。


「やれやれ、あの王太子の威厳はどこにいったのやら」



 抱きしめられ、うずめられたフィリップの胸から顔を上げてリリアンは言う。



「うふふ、みんなが仲良しで嬉しいです。今度はエミール様やエマも一緒に来られたらいいですね!」


「ああ、そうだね」「そうですね」


 とリリアンに微笑んで応えながら2人は思った。


(なるほど、それは使える)と。




 昨日までと打って変わって楽しい1日に心が弾む。


 戻ってからエマに付いて歩いてどんなに素敵な1日だったか報告する。ツインテールがピョンピョン跳ねてそれがリリアンの気持ちを表しているかのように見えた。

フィリップはヘタレではないですよね?

そしてジローは無事でした!

_φ( ̄▽ ̄ )



いつも読んでくださいまして、どうもありがとうございます!


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