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60話 バセット兄妹の神対応

 オコタンを抱えて部屋の外に出たパメラは奥の部屋の前に立つ男、即ちフィリップの護衛に「これ、リリアン様の大切な物だから殿下の部屋に置いておいて」と渡した。


 絶好の隠し場所、そこなら絶対にバレリーにバレることはないだろう。


 しかしバレリーに対してはよく我慢できたものの、先輩に対してこれほど尊大な態度がとれるところはまあ、パメラらしいと言わざるを得ない。



 戻ったパメラはリリアンにぬいぐるみがその後どこにあるのか伝えたいのだが、ここが護衛業務の微妙なところで同じ室内にいても元々朝と夕の挨拶以外言葉を交わす機会が無い。その上、バレリー夫人がいつも張り付いていて全く伝える機会がなかった。


 その内に遅番のエマが来た。彼女が仕事を始める前に言っておくべきだろう、挨拶をして横を通るエマをそっと引き寄せて耳打ちした。



「エマ嬢、リリアン様のぬいぐるみが今朝ゴミとなる危機に瀕しておりましたので救出し、現在は王太子殿下の私室にあります。そこにあることをリリアン様にバレリーに聞かれないよう教えて差し上げて下さい」


 エミールによく似た顔を間近に近づけられて、エミールの言うようにエマ嬢などと呼ばれてまるでエミールにヒソヒソと耳打ちをされているようでパメラ相手に顔を赤くして答える。


「はい、ありがとうございます。そう伝えます」


 女同士なのにやけにしおらしくなったエマを見てパメラはピンときた。


「私は兄上と顔がよく似ておりますゆえ、ときめかれましたか。もし私にときめいたのなら、男勝りでも女性が好きというわけではありませんのでご遠慮願いたいのですが」と人の悪い笑顔を見せる。


「いいえ、いいえ、いえそのえっと」


 エマがまだ赤面したまま両手をぶんぶん振ってパニクったのでパメラもさすがにちょっと悪かったと思った。


「ちょっと意地悪が過ぎましたね、今のはなかったことに致しましょう」


 そう言って余裕の表情で微笑むパメラ。


 うっ、男前かっ!

 

 エマはうっかりパメラにときめいてしまい倒錯的な魅力にやられてしまいそうだ。エミール様を右にパメラを左にしたらパラダイスだな、と内心と思ったが急いでそれは無いパラダイスはナシと訂正した。



 リリアンはエマにオコタンの居場所を聞いて安心した。やっぱりパメラ様はオコタンを助けてくださっていた。信頼メーターが100を振り切った。

 フィル兄様の部屋だと取りに行けないけど無事ならいい。




 フィリップ達の災害視察は7日間もかかった。


 せっかく現地に国王、王太子が訪れたのだ。ただ見に来て帰ったでは何のために行ったのか分からない。被害状況を一つ一つ見てまわり、雨が降ったからで片付けずそこに被害が出た原因を探った。

 リュシアンは浸水被害のあった地域の復興を急ぐように指示した。

 

 小麦畑は秋に作付けだが石混じりの土砂を広く被っていて使えるかどうか分からない。小麦保管倉庫の被害は甚大で濡れた麦は使い物になりそうにない。他地域から補給を寄越させるからすぐに王都が食糧難に陥ることはないが立て続けに同じことが起こると大変だ。


 フィリップとシリルに今後同じような被害が起こる可能性を調べ、同時に被害が起きないように検討し対策するよう申し渡した。


 2人は調査班を指揮し過去にも同じような被害があったかどうか近隣に聞き取り調査をしたり、過去の災害についての資料が残ってないか調べさせた。

 小麦畑になぜ大量の土砂が流れ込んだのか、川の蛇行の仕方が関係していそうだった。小麦の保管倉庫は今後のことを考えて嵩上げするか場所を変えるか、水車が壊れないよう何か対策はないか。


 周囲の状態を見て考えるのはやはり机上で考えるよりずっと現実に即した良い案が浮かびそうだ。ここからはシリルらと戻って対策を練っていく。


 とは言っても思ったよりやることが沢山あり過ぎて簡単ではなかった。


 忙しくとても疲れた。



 王宮に来たばかりのリリィのことが気になってはいたけど、それどころではなかったのも事実で。被害が出て困っている現場を放ってリリィの顔を見に帰るわけにも行かず。



「あー、本当に疲れたよ。ベルニエから帰った翌日からずっとだもんなぁ!」と独りごちる。


 私室に戻るとソファーにオコタンが座っていた。


 一瞬、リリアンも部屋にいるのかと期待したがそんな訳ない。もうそろそろ寝る頃だ。



 オコタンを抱きしめて息を吸うとリリィの香りが・・・いや、オコタンの匂いだな。でもちょっとリリィの香りがする。スーハースーハー。



「殿下、そうとうお疲れですね」


「うわっ、お前がいたの忘れてた」


「ええ、大丈夫です。今のは見なかったことにしますから」とエミールは言った。


 ここら辺の対応がパメラと兄妹である。



 フィリップは自分1人で部屋に戻って大丈夫だと言ったのだがエミールが長い間宮殿を開けていたからとフィリップの身の回りの品が過不足なく整えられているかなど私室の状態の確認のため付いて来ていた。


「そのクッションのくたびれよう、リリアン様の物でしょうか?それにしてもなぜここにソレが有るのでしょうね」


「これはリリィの親友オコタンだよ。

 僕が疲れているかと思って自分が来られないから代わりに置いておいてくれたのかな。その心遣いに癒される。リリィはこれがないと寝られないと言っていたのに」


「でしたらちょっとお声をかけられては?

 王宮に着いてすぐから長い間顔を見ず心細く心配もしておられるでしょうから、ソレをお返しになる口実に帰ってきたことを伝えて差し上げたらリリアン様も安心なさって良く眠れることでしょう」


「それはそうだが。

 しかし、いくら僕でも夜に正面きって部屋に行くのは良くないだろう」


「ちょうどお目付役に私がいますから、そこから行けば問題ないでしょう」と2人の私室の間にあるドアを指す。


「いや、ここは鍵がかかっていた。婚儀があるまでは閉めているのだろう」



「そんなはずはありませんが」と言ってエミールがドアノブを回して押すとカチャリと軽快な音がして普通に開いた。



「へ?あれ?」


「殿下、ここはドアを押して入るのですよ。以前、側室を設けていた頃に鍵をかけて使っていたのでトラブルが多かったとか。現在はお互いの身の潔白を示すために鍵はそもそも取り付けなくなったと聞いています」



 エミールはとんでもないことを教えてくれた。


 エミールは神か!!

 天国仕様じゃないか、リリィの元へ自由に行けるなんて!





 そう、今日のところは。

 疲れ切ったフィリップと慣れない環境で頑張っていたリリアンは今夜の束の間の逢瀬は何ものにも変えがたい貴重なものになるだろう。だが、いずれ地獄にもなる悪魔の囁きだ。



 エミールはニコラと同じく


『貴族は結婚まで清い交際をすること』なんて子供の頃から繰り返し教えられるけど、それを本気で守ってる人なんていますか?いないでしょう。あれは貴族ならではの建て前中の建て前なんですから。


 と、考えているクチだった。


 国王陛下が続き部屋を用意したくらいなんだから、問題ないでしょうと。

次回、フィリップ突撃なるか?

な〜ら〜な〜いか〜

_φ(* ̄▽ ̄* )



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