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6話 ニコラの名案

 ニコラが永遠に続くかと思っていた時間がようやく終わりを迎えた。ベルニエ伯爵が帰って来たのだ。


 既にフィリップ王太子の屋敷への来訪を聞いており、夫人と共に直接客間に顔を見せるなり固まった。


 何故かリリィが王太子の膝に座っていて、楽しそうにおしゃべりをしている。

 

 顔の距離が近い、なんなら抱かれた状態で手も握られているじゃないか。

 不敬じゃないか、いや逆だ。いくら子供といっても赤ちゃんじゃないのだヤバくはないか。


 ニコラに視線を向けると逆に助けを求めるような視線でぎこちなく頷いてきた。父の心の声が聞こえたに違いない。



 ベルニエ伯爵夫妻の存在に気がついたフィリップはスッと立ち上がり「ベルニエ伯爵、夫人、留守中お邪魔しているよ」と声をかけた。


「王太子殿下にはご機嫌麗しく、お目にかかれて光栄です」と礼をとるのに手を上げて応えフィリップは性急に要件を言った。


「さっそくだか3件ほど伯爵と話がしたいことがあるのだが時間はとれるか」


「はい、もちろんです。よろしければ今、伺いましょうか」



 リリィは夫人と退出した。


 夫人はカーテシーをさせようとしたが、フィリップが片膝をついて手の甲にキスをし「またね」と送り出した。まだ小さいのだし他人行儀な挨拶は寂しいじゃないか。ちなみに夫人がするのは礼儀だから。


 ニコラは工房に一緒に行く予定だし、フィリップの予定やら気持ちやら知っておいてもらったほうが都合が良いので同席させた。


 まず一つ目は馬車を引いて来た馬の一頭が脚を痛めたのでしばらく預かって欲しい。必要な物は用意するということ。


 二つ目はベルニエ伯爵領の工房にニコラと訪れるということ。その際日程が許せば邸を訪れたり、領地を観てまわるということ。


 三つ目はリリアンに兄のように接する。という宣言だ。


「リリアンと少なくとも月に一度は交流を図りたい。

 私がベルニエ伯爵邸を訪れることもあるだろうし、王宮に招ぶこともある。もちろん伴なって出掛けることもある。まずは花祭にパレードを観覧するため離宮に招待したい。もちろん伯爵と夫人、ニコラもだ。リリアンのドレスと靴、アクセサリーは私が贈る。何か不都合はあるか」


「娘が殿下に気に入って頂けたことは大変喜ばしい事でごさいます。養子という訳ではなく、兄妹のような交流ですか。おそらく前例は無い事ですね」


 言いながら思案にくれ、だんだん独り言のようになってくる。


「不都合ですか、不都合に発展する可能性は大いにあるが。

 うーん、しばらく考える時間が欲しい所だが、花祭も近いし予定的に余裕が無いから結論を先延ばしは出来ないしなぁ」


 婚約者になれと言うのなら話は早いがそうでないからややこしい。

結婚相手としてはもちろん何をするにしても縁を結ぶなら王族に勝るものはないのだが。

だとしても妹だと連れ回されて皆はどのような目で見るだろうか。

さすがリリアンとなるだろうか、逆に殿下のお手つきを疑われ外聞的にもタイミング的にも良縁が遠のくのではないか。

しかし、これだけ気にいられているのだ長じて殿下の寵愛を受け妃になるということもあるかもしれない。

 いやいや、まず当面の問題として侯爵家のお茶会だ。昨日はドレスの採寸に来させたし、向こうも何らかの準備を進めているところだろう。

欠席は一度承諾しておいて断るのは信用に関わるから出来ないが、それより子息との婚約に関する打診がある可能性が高い。そっちはどう躱す?

 

 頭の中をつらつらと考えを巡らすがすぐに答えは導き出せそうにない。


「急な話だから困らせたか。

 先に確認しなければならなかったな、リリアンに婚約者はいるのか」


「いいえ、まだ居りません。しかし、2週間後のアングラード侯爵家のお茶会にリリアンを連れてくるようにと招待を受けておりまして出席すると返答しております。その際に婚約をしてほしい云々の話があるのではないかと考えております」


 本来はこちらで考えて後日改めて返事を返すのが望ましいのだが、まずは王太子からの信頼を得る方が良いと情報開示してしまう方に舵を切った。

あと出来れば夫人もここに呼び戻したい。ジョゼフィーヌ〜!!カムバック!!


 クレマンは伯爵としての才覚より剣の腕や騎士団の統率の方が向いていて、その他の領の経営だとか家族に関する時の決断は夫人の方が向いている。いや、無能じゃないよ、騎士団に関する事なら判断力高いんだよ!?


 余談だが残念なことにニコラは父に似ている。


「成る程、私が口を出して中止にさせるのは少々やり過ぎだろう、アングラードにリリィを行かせるのは不満だが」


 表情はそれほどでもないが心中は嵐が吹き荒れる。


 ちょっと自分も何とかして同席して邪魔してやりたいと思ったがそれも大人気ないことは分かってる。ちょっと感情的になっただけだ。

 それに、あそこには幼い頃にフィリップを争って他の令嬢の髪を引っ張って引き摺り回していた娘カトリーヌがいるのだ。恐ろしい。藪から蛇が出てきそうだ。


 あと、万が一リリィがマチアスを気に入って結婚したいなんて言い出したらどうしよう、そんなの辛過ぎて死にやしないがもう死にたい。


 無言の時間が続き居心地悪い。

 ニコラは余り深く考えず、友人同士の戯言の感覚で口を挟んだ。だって、こういう難しい話は苦手なのだ。


「もうリリアンを表向き殿下の婚約者候補ってことにしたら、その間はお互いに変な虫は寄ってこないし一緒に行動するのはむしろ普通だ。それで良いんじゃないかな?」


 フィリップにとっても伯爵にとっても、なんだかとても都合の良い話に思われた。実際のところ貴族、特に王族は結婚するまでは清い交際だ。

 妹として交流するんだけれど、待遇は婚約者のそれと同じでちょうど良い気がする。


 そうだ、そうだね、そうしよう!ということになった。


 ならばまずは父である国王に許可を得て諸々万事怠りなく成さねば。アングラードのお茶会までになるべく早く余裕を持って王太子の婚約者候補になった事を貴族中に周知させるのだ。

 ニコラの案を採用することにしてフィリップはすぐに王宮に戻ることにした。


 御者が馬車を邸宅の入り口前に着けるのが間に合わず少々玄関ホールで待ったが構いはしない。ちなみに馬は負傷している馬の代わりに一頭借りた。ちょっと体格と毛艶に差はあるが問題ない。


 馬車に颯爽と乗り込んだ所でふと思い出しニコラに輝く笑顔を向けて言った。

「工房にはテスト明け休みに行きたい。再試験にならぬように勉強しておけよ」


「ちょっ、殿下!大丈夫です」


 いくら浮かれているからといってそんな誤解を受けるような悪い冗談はやめて欲しい。勉強を疎かにして剣ばかり振っているのかと休日に家庭教師などを送り込まれたら学生の自由を満喫できないじゃないか。成績は中位だけれど赤点は取ったことはないのだから。


 そしてフィリップは笑顔全開ニッコニコ、ご機嫌で帰って行った。

ちょっ、フィリップ様が浮かれすぎ!

そしてニコラ、グッジョブ!

 _φ( ̄▽ ̄ )


登場人物紹介


クレマン・ベルニエ 伯爵 リリアンの父です厳ついです 36歳

 婿養子です本当は私が領地経営をするはずだったんですが苦手でね

 領地では私設騎士団を統括してます


ジョゼフィーヌ・ベルニエ 伯爵夫人 リリアンの母です 34歳

 今回はあまり活躍できませんでしたがいずれ私のターンがきます

 領地の経営は得意な者がすればいいじゃない

 それは私と家令の仕事です

 当時は学園が男女共12歳から15歳の4年間しかありませんでしたので、

 卒業して18歳と16歳の時に結婚しました

 甘い雰囲気はない二人ですが恋愛結婚です



マチアス・アングラード アングラード侯爵家嫡男 10歳

 登場人物と言えるのでしょうか、会話の中に名前が出ただけですが

 たぶん優秀でしょう

 リリアンの見合い相手

 喧嘩三人娘の筆頭、カトリーヌの義弟

 そう、あの事件の後カトリーヌの母は離縁され、侯爵は再婚しました




ここまで読んでくださいまして、どうもありがとうございます!


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