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59話 女性護衛騎士

 リリアンが王宮に来て数日後、早くもというべきだろうが、フィリップと兄のエミールにすればとうとうパメラが配属になった。


 リュシアンは来月からと言っていたが、災害視察で多くの者が宮殿を空けるので穴を埋める為にパメラをもう投入しようと言い出した。

 リリアンとパメラを呼び出しておいて任命式をモルガンと4人だけで済ますとリュシアンはまた現場に戻って行った。


 パメラはまだ訓練を始めて間もないがスムーズに課題をこなしていて今のところ問題も起こさず存外優秀だとの報告を受けていたのでリュシアンは心配していなかった。




 パメラは名門貴族の令嬢だが、活発過ぎて令嬢の枠に無理に収めようとしたのが間違いだったらしい。


 幼少期から元気が有り余っているタイプで優しい兄達を相手に力で屈服させ自分の強さや勇敢さを周りから認められたいと強く思うような子だった。

 ドレスを来てオホホウフフなんて笑い大人しく刺繍をして座っていなさいなんて生活が我慢出来ず、そのフラストレーションを発散するために常に暴発していたのだ。



 背は高くないが、今は髪を短くして真っ赤に染め上げ、新しくリリアン専属護衛パメラの為に仕立てられた騎士服を着込み室内ドア横に立ってビシッと背筋を伸ばし控えている姿は凛々しく志の高さが伺える。


 顔は常に正面を向き、視線も表情も変えることがない。



 でも、パメラの心の中は案の定、初日から荒れ狂っていた。


(この年取った侍女どもの口煩いこと!リリアン様の表情に余裕が無くなっているのが解らぬか。いっそぶった斬ってやりたい)


 ここに来るまでの謁見室からの帰りはパメラも護衛として同行してきたが、その道すがらも侍女達がリリアンに「先に立ち止まってはいけない」「王族方以外には道を譲ってはならない」「歩くペースが早すぎる」「扇子はいつも持っておくべき」などと横でくどくどと言い続けていた。



 王族とリリアンに騎士の忠誠を誓い、腹が立ったからといって国王陛下が任命した侍女を、しかも宮殿内で自分の意思でぶった斬ってはいけないことは理解しているので自分を律して耐えている。


 まだリリアンとは任命式で騎士の誓いを述べて名前を言い合っただけで会話はしていない。


 だけどパメラは自分のあるべき姿、あるべき任務を与えてくれた恩人リリアンを早くも我が主人と心酔している。


(それに、・・・リリアン様はあのニコラ様の妹君だ)


 そう、だからよりリリアンが特別な存在に思えてしまっているのは間違いない。





 パメラは朝、リリアンが起きる時間より早くにリリアンの私室の前に行き待機する。そしてリリアンが起きたらパメラは室内に入る許可をいただきリリアンが見える近くで護衛に付く。

 夜は晩餐から私室に戻りリリアンが下がって良いと言えば業務終了だ。パメラの寝泊まりする部屋は宮殿内にある。侍女のエマと隣同士の部屋になるらしい。


 エマは王宮に来て以来ずっと寝る時以外はリリアンと一緒にいて、朝はリリアンが起きる前に部屋に入り着る物や入浴など朝の準備をしていたのだが、今朝は遅番に割り振られていて別の侍女がいるはずだった。


 パメラがリリアンの私室前に来た時、夜間からドア前に立っていたリリアン専属護衛隊の一人がパメラに言った。


「パメラ殿、どうも中の様子がおかしい。声をかけても返事がないしリリアン様の朝の支度が済まないのに勝手に入っていくわけにいかず。様子を見て貰えまいか」


 これぞ女性護衛騎士の腕の見せ所というところだろう。


 パメラは「分かった」と頷いてノックをして耳を澄まし返事を待った。



 朝っぱらから何か煩くバレリー夫人がリリアンに叱言を言っているようだ。


 ノックをもう一度して、返事がなくても入った。


 パメラにはリリアンを守ることが一番優先されるという任務の都合上、パメラの判断で許可なく入室する権利が与えられていて咎められないことになっている。



「リリアン様、おはようございます。パメラ・バセットただいまより本日の任務に就かせていただきます」


 リリアンはオコタンを抱きしめベットから下りて立った状態のまま、目に涙を溜めてパメラに向かってコクリと頷き了承の意を表した。声で返事を返したらパメラを頼って泣いてしまいそうだった。


 バレリー夫人はパメラがいても気にせず言い放つ。


 いや、もしかしたら自分の存在意義を見せつけるためにわざわざもう一度最初から言ったのかもしれない。


「リリアン様、そのように薄汚れたぬいぐるみは王太子妃になるお方が持つのにふさわしくありません。それに先日もう抱いて寝ないとおっしゃったのは嘘だったのですね。それもとても王太子妃になる方のなさる行為ではございません。そのくらいのことはもちろんお分かりになりますよね。

 私との約束が守れないようでしたら、守れるようにいたしましょう。そのぬいぐるみは捨てさせていただきますわ。あとでゴミに出すように申し付けますから。さあ、早くそれを置いて朝の支度をさせて下さい」


 リリアンは確かに抱いて寝るなそう言われて、そう返事をせざるをえなかった。反抗したら無理矢理取り上げられることは容易に想像できたから。

 エマが「ソファに置いておいて寝る時だけこっそりベットに持って入ればいいですよ。朝は入浴の支度をしている隙に戻しておけば大丈夫でしょう」と言ってくれ、そうしようと思っていたのだけど、夜暑くなりそうだったので天蓋のカーテンを開いたままにしてもらって寝ていたせいで、朝イチでバレてしまった。



 昨日はずっとバレリー夫人に対して従順に「はい」「はい」と返事をしていたリリアンが今は返事を返さずまだぬいぐるみを抱きしめて立ったままだ。


(なるほど、あのぬいぐるみはリリアン様にとって特別に大切なものなのだろう。私にもある)


 そう、こんなパメラでも生まれた時に祖父から贈られたというレ・プティット・マリーの水色のクマのぬいぐるみをこよなく愛し大事にしていた。バセット家では『鬼の目にも涙、パメラにもクマのクー』などと揶揄われているのだ。


 どんなに冷酷な鬼のような人でも同情や憐れみで涙を流すこともある、それと同じようにパメラのような乱暴者にもクマのぬいぐるみに可愛い名前を付けて大事に可愛がるようなところもある、というように。改めて考えると酷い言われようだな。



「リリアン様、そのぬいぐるみ、今、私が捨ててまいります」とリリアンの前に跪き(伝われ!!)と念じながらジッと目を見た。


 リリアンはバレリー夫人が他の人にさせるといった仕事をわざわざそう言って引き受けようと跪き、真摯な態度で申し出たパメラの意を(たぶん、私の悪いようにはしないと思ってくれている)とくみ取り「はい、お願いします。パメラ様」と言ってオコタンをそっと渡した。


 バレリー夫人は「様はいりません」と言いながらも満足した様子で朝の支度をするためにリリアンを急き立てて行ったが奥の部屋に入り際リリアンはパメラにこっそり頭を下げて礼をした。


 どうやらパメラはリリアンからの信頼を得られたようだ。

<登場人物紹介>

パメラ・バセット 登場人物紹介に再登場

 兄は王太子フィリップの従者 エミール・バセット

 父は元宮内相(元宰相ルナールとレベッカを宮殿に入場させフィリップを危険にさらした責任をとり引退)

 すっぽん令嬢、切り裂き令嬢、狂犬令嬢など様々な異名を持つ自他共に認める暴れん坊

 この度、リリアン専属護衛騎士の募集にこれぞ私の生きる道と立候補しました

 女性初の騎士職に着くためとっとと退学届を提出してきました


オコタンを救出しました!

_φ( ̄▽ ̄ )



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