58話 リリアンの新生活
リリアンの新生活初日はこんな感じだ。
王宮に着いて私室になる部屋をフィリップと見に来たときに最初に紹介されたのはリュシアンの言うところの世話係つまり専属の侍女は年配の夫人2人だった。
調整役を頼まれていたエミール・バセットが2人を紹介してくれた。
「リリアン様の侍女として付いて貰うことになったバレリー夫人とロクサンヌ夫人です。
彼女達はパトリシア王妃殿下の王妃教育をされていた方々でベテランですので安心して分からないことは聞いて下さい。ゆくゆくはエマ嬢に侍女頭になってもらいますので敢えて今回は若い侍女候補は外しました」
侍女としてリリアンの生活をサポートすることに加え、バレリー夫人はマナー指導が担当でロクサンヌ夫人は教養担当ということだ。
彼女たちは他国から来たパトリシアを本人にやる気があったことと元々王女であるところも大きいがたった1年でプリュヴォ国の王妃として通用するレベルに仕立て上げた実績がある。
「リリアンです、バレリー様、ロクサンヌ様どうぞよろしくお願い致します」と挨拶をした途端に注意が飛んだ。
「リリアン様、王太子妃になるお方がそんな低姿勢では使用人になめられます」
「はい」
王太子妃って、誤解なんだけど訂正しなくていいのかな。
私は身を守ってもらうことと、フィル兄様の妹役でここにいるんだけど。
国王様はご存じなのに。
そうだきっと婚約者候補と発表してしまっているから何もしないわけにいかないということだろう。王宮で預かっているのだから高いマナーと教育を施しておいてやろうという陛下のお心遣いに違いない。
リュシアンの企みでは、リリアンが新年度に学園に入学できるだけの準備として基礎的な勉強と平行して王宮でのマナー教育、実際は王妃教育をしていくので効率よく学べるように先生たちを直接そばにつけて日常生活を送る間も学びの場にしようという魂胆だ。
そして伯爵邸から付いて来たエマを将来王妃になるリリアンの侍女頭にするつもりだ。
既に王宮内でキャリアのある若く野心を持った王妃付きの侍女と一緒にしたら地方から来たばかりで新参のエマが嫌がらせや虐めに合うのではないか、上手く上下関係が構築できないのではないかという気遣いから年齢の近い者を排除したのだ。
エマに関して言えば、両夫人と3人でリリアン専属侍女の仕事を回し1年くらい経って王宮の仕事に慣れてから下に若い侍女を付けるという計画だ。
リリアンのことを思っての配置だし、エマの事もまでも配慮してくれているのは有り難いことだと感謝すべきだろう。
世話役というより教育係である彼女達は心を開いてくだけた会話ができそうな相手ではなく、これは逆に王宮に慣れていないリリアンとエマを内心不安にさせたが黙って受け入れた。
夕食は王族の皆様と一緒にとることになっているらしい。
「リリアン様は、これから国王陛下、王妃殿下、王太子殿下と王族の方々とご一緒の晩餐でございますがリリアン様は現在、王族の方々をどのようにお呼びですか」
「国王陛下様、王妃様・・・ではなくてパトリシア母様、フィル兄様です」
敬称が重なるので国王陛下に国王陛下様というように様は付けてはいけないと教えられる。
それは良い、だが後の2つは修正しようがないだって自らそう呼んでくれと言っているのだから。
「・・・まあ、公式の場では呼び方を改めて下さい」
「・・・はい」
そして晩餐が始まると早々にリュシアンに言われた。
「リリアン、私のことはリュシー父様と呼ぶように。幼いのに親元を離れているのだ。私を父と思うが良い」
「はい、ありがとうございましゅ。りゅ、りゅしー父しゃま」
余りにも突拍子も無いことを言われリリアンは盛大に噛んでしまった。
恥ずかしいけれど助け舟はどこからもこない。ひぇ〜!!
パトリシアとフィリップはそれを聞いてニコニコしているけれど、リリィ可愛いと思っているだけで『失敗した』とか『やらかした』と思っていないから助け船を出しようがないのだ。
食事はとても美味しいがその後の会話は深刻な内容だった。
「先の大雨で河川氾濫と土砂崩れ、小麦畑と水車小屋や小麦の倉庫の浸水被害が次々と報告されてきたんだ。
私は最近、現地を実際に見ることの重要性に気づいてね、今回初めてそれぞれを私が視察調査に行くことにしたのだ。フィリップお前も勉強だと思って一緒に来るように。
同行は土木と財務の者に加えてエミール・バセットとシリル・マルモッタンにする」
「シリルを、ですか」
「そうだ、学園を卒業したら時期宰相候補として補佐につけることになった。この夏休みはその準備の一環として災害対策班に参加してもらう」
「父上、マルタンはどうかしたのですか」
「ああ、それを言ってなかったな、マルタンは宮内相に就任したのだ。お前たちがベルニエから帰って来る2日ほど前だったかな」
「ええ!?」「まあ!」知らないうちにマルタンが出世してた。
ちなみにエミールがメンバーに名を連ねているのは、フィリップが居ない時の王太子に割り振られた執務はエミールがしているから重要なことは同じように知っておかなければならないからだ。
フィリップ5歳、エミール9歳の時から一緒に勉学に励み、体調が悪かった時、旅行で不在の時、試験中なども・・・まあ今は王太子は寮生活の学生だし仕方がないが、ほとんどエミールが実務をしてフィリップが確認してサインを入れるという状態だ。
だから余計に元宮内相の父親ゴダールが大きな失敗しようと、妹パメラが問題を起こそうとエミール・バセットという男は重要で手放せない人物なのだ。
翌日からリュシアン、フィリップ、エミールは視察に出たので王宮にいなかった。宰相は残ることになっているが通常であればこの3人が同時に城を空けることはないのだが余程の被害なのだろう。陛下にはこの災害復興のために何か思惑があるに違いない。
リリアンの生活は今のところ年配侍女によって管理されている。
バレリー夫人は別に意地悪な人ではない。きちんとした淑女のマナーを教えたいだけだと思う。
だけど、リリアンの日常の全てを知る位置にいる。
まずオコタンを抱いて寝るのを止めさせられた。
今日は朝起きてから寝るまでの全ての一挙手一投足を監視されているかのようだ。王妃パトリシアだって過去も今もそんなストイッックな生活はしていないのだが。
エマも他人事ではなく、一緒に聞いて王宮マナーを勉強している立場なので言いにくいが厳しすぎると思う。
「リリアン様、大丈夫ですか。これではまったく息がつけません。誰か・・・王妃殿下にお願いして別の侍女に代えてもらった方がいいと思いますが」
王妃殿下はふわふわほわほわした方で下手なお願いごとをすると余計にややこしいことにならないか心配だけど。
それにリリアン様が不平不満を言う方だと誤解されて評価を下げることになるのも嫌だし難しい。
「ええ、でもきっとすぐに慣れるわ。今はまだ知らないことばかりだから厳しく感じるけれど覚えればきっと普通になるんだと思う。大丈夫よ」
「はい、無理だと思ったらすぐこのエマにおっしゃって下さい。何とかしますから」
バレリー夫人に代わって次の日はロクサンヌ夫人が担当だ。
彼女も別に意地悪な人ではない。王太子様の婚約者候補として外交の場に立つ時に失敗をしないように知識を身につけさせておきたいだけだ。
リリアンは母ジョゼフィーヌの考えで6歳よりちょっと前から基礎的な読み書きに加えて算術や母国語、国内の地理などの学習を初めていた。他家の令嬢よりかなり早い。
そのおかげでいくつか問題を出されて充分に学園の入学試験に合格出来る学力があることが分かった。
だからそんなにガツガツ勉強をしなくて良いのだが、王妃に必要な外国語や外国の地理、外交マナーなどの勉強が始まった。
いくつもある災害現場が王都から少し離れているらしく頼りのフィリップとエミールはなかなか戻って来られなかった。
フーゴとリヤの話、王子様は女嫌いの外伝
『誰も知らない2人だけの物語』
10話完結しました
フーゴとリヤだけでなく
氷の宮殿のことや
謎めいたグレースの過去
トゥリアイネンの湧き出る泉の真の効能
ヴィーリヤミとススィも活躍します
楽しんでいただける内容になっていると思います
よろしくお願いします
誰も知らない2人だけの物語
https://ncode.syosetu.com/n8577hv/
いつも読んでくださいまして、どうもありがとうございます!
面白い!と少しでも思ってくださる方がいらっしゃいましたら
★★★★★やブックマークで応援していただけると嬉しいです!!
とてもとても励みになっております!




