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57話 ソフィーへの手紙

 夕方、私宛にニコラ様からお手紙が届いた。

 ニコラ様らしいカッチリした力強い文字が並んでいる。


 ・・・・・・


 ニコラ・ベルニエ

 ベルニエ伯爵本邸


 王都モルガン・オジェ宰相邸

 ソフィー・オジェ様


 ベルニエ領 , 92年7月17日



 私の最愛の人ソフィーへ


 両親から君との婚約について了承を得られたよ。

 早くソフィーに会ってこの喜びを分かち合いたいがまだすぐには帰れないんだ。

 今、私たちはベルニエ本邸にいる。王太子殿下はリリアンを連れて王都に帰るが私は別行動になり辺境伯領にお使いに行ってから戻る事になったんだ。

 その代わり話していた訓練合宿はキャンセルすることになったから夏休み中は最初の予定より却って君と過ごせる時間を多く持てることになるはずだ。とは言っても王都に帰るまでに予定では3週間程度かかりそうだけど。

 婚約式の日取りについては今秋くらいはどうかな、一緒に話し合おう。


 ソフィーに会える日を心待ちにしている。君も僕の帰りを待っていて。


 ニコラ・ベルニエ


 ・・・・・・


 ああ、ニコラ様!ソフィーは幸せです。お帰りになる日をお待ち申し上げております!!



 手紙は3日前の日付だ。さすがフィリップがマッハで送っただけある。


 ニコラは泉に行くことになりバタバタしていて気持ちに余裕がなかったのか、宰相モルガンから婚約の申し込みが伯爵邸に既に来ていて、それを了承する返信を同時に送ったということを書き記すのを失念していた。

 婚約の申し込みに行くではなくて、婚約の日取りを決めようとは書いていたのだけど。



 夜になり帰宅したモルガン宛にもクレマン伯爵の名で手紙が届いていた。もちろん婚約の申し込みを受けるという内容だ。

 モルガンはさっそくソフィーと妻のブリジットを呼んだ。


「ソフィーよ、私はベルニエ伯に嫡男ニコラ・ベルニエとお前を婚約させたいと申し込みの書簡を送っていたのだが、その返事が今届いた。申し込みを受けると書いてある。お前達2人を婚約させるが否はないな」


「えっ!」


 ソフィーは思いがけない話題に心底驚いた。

 父がそんな事をしていたとは今の今まで聞かされていなかったから。


(今、お父様は私とニコラ様と婚約させるっておっしゃった?)


 てっきり、ニコラが彼の両親の了承を得て打診を送ってもらい、戻って来たニコラ自身が婚約の申し込みに来るのだと思っていたので、宰相をしている父を彼がウンと言わせることが出来るかがまだ気がかりだったのだ。

 ソフィーは宰相家の令嬢だから誰か国の中枢にいるような家の者と政略的に縁組をされる可能性が高かったからだ。


(お父様はきっと花祭の時の様子で私が彼を好ましく思っていると気がついて、私の事を思ってそうしてくださったんだわ!)


「はい!お父様どうもありがとうございます。

 お父様のような優しく思いやりのある方の娘で私はなんて幸せ者なんでしょう!

 ニコラ様と一緒になれるなんて夢のようです。本当にありがとうお父様」と言うや父の胸に飛び込んだ。


 モルガンは可愛い娘に抱きつかれてめっちゃうれしい。

 父に感謝感激する娘は喜びに泣いている。モルガンもジーンときて心から感動していた。



 今の今まであのにっくきニコラを目の前にした暁には、あの劇場での一件を知っているんだぞとネチネチと突いて暴露し散々嫌味を言ってギッタギタにいたぶってやりたいとさえまだ思っていたのだがソフィーの感謝の涙ですっかり心が浄化された。

 もう浄化され過ぎて、自分の頭の上を天使が飛び回る幻覚さえ見えそうだ。


 そうやって、ニコラは知らない間に恐ろしい公開処刑を回避した。


「ああ、いいんだよ。お前達はきっといい夫婦になるだろう。ベルニエ領は遠いがお前が私の娘だと言うことに変わりはない私は寂しがらずに息子がもう1人増えたと思うことにするよ。

 領主の奥さんになるんだ、その勉強もしなければいけないね。なに、お前なら大丈夫だよ」とソフィーの頭を撫でて言った。


「はい」


「ソフィー、おめでとう。良かったわね」


 ブリジットもそんな父娘を見てとても嬉しそうだった。


「ええ、ありがとう!お母様」


 親子は未来に思いを馳せほんわか幸せに浸った。




 翌日、そんな会話が繰り広げられていたとは知らないマルタンがいつものように朝食をとるためにダイニングに入ってきた。


 今日のメニューはガレットだ。


 そば粉をクレープ状に丸く焼いて生ハムやチーズ、卵などの具をのせてさらに香ばしく焼いて4隅を折って正方形に仕上げたものだ。


 これはマルタンとソフィーの兄妹ともに大好きな料理で、いつの間にか誕生日やお祝いの日の朝の特別メニューになったものだ。


「おや、今朝はガレットにしてくれたのですね。

 宮内相には打診の状態でまだ辞令が出た訳ではないのですが、ありがとう。おかげで今日は仕事に精が出せますよ」とマルタンは機嫌よく言った。


「そうだったのですか、お兄様おめでとうございます良かったですね」とソフィーは素直にお祝いを述べる。


 シェフは(これはソフィーお嬢様の婚約が決まったお祝いなんだけど・・・)と思ったけれど、マルタンの宮内相打診も多分お目出度いことなので「はい」と言って話を合わせておいた。


 ソフィーのガレットには苺でハート形の装飾があったし、可愛い花も飾ってあったのだけど。



 モルガンとブリジットもそこにいて朝食をとっていたが、微笑むだけで特に何も言わなかった。


 ちょっとこうなったら鈍いマルタンがいったいいつになったらソフィーとニコラの事を気がつくのか興味が出てきて面白くなってしまいサラッと教えてしまうのが勿体無くなってきた。


 心優しい母ブリジットもたまにはお茶目なところもあるようだ。


 なーんて、意地悪せずにマルタンにも誰か早く教えてやってね!

フーゴとリヤの話、王子様は女嫌いの外伝

『誰も知らない2人だけの物語』をアップしました


10話完結しました


楽しんでいただける内容になっていると思います

よろしくお願いします


誰も知らない2人だけの物語

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