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54話 伝説のフーゴ

 フーゴとリヤについて、この村に古い伝説が残っているらしい。



 フーゴはこの村に暮らす羊飼いで、牧羊犬を共として羊を連れて移牧する仕事をしていた。


 移牧とは、春から秋にかけての半年を麓に住む村人たちから預かった1000頭以上もの羊を、冷涼な草の多い山岳地に連れて行き、丈夫で美味しい牧草を十分に食べさせてまわることをいう。


 ただ羊を連れて歩けばいいだけではなく、肉食動物に襲われないように保護しなければならないし、一頭もはぐれさせてはいけない。

 毎日牧草地と山小屋のある比較的安全な場所を往復させなければならないので羊飼いはその間はずっと山小屋で過ごすことになるのだ。


 そして秋になれば滋養を蓄えた羊を連れて村に戻る。


 フーゴは山を下りても乳を絞り羊乳チーズを作ったり、羊毛を刈るための作業場に連れて行く。

羊たちの恋と出産もフーゴしだいだ。春に出産時期がくるように近親にならないようコントロールする。秋になると種付けのために雌の羊舎に雄を入れたり、出産を手伝うのもフーゴの仕事だ。



 羊たちは穀物の栽培に適さないゴツゴツした岩の多い山間部に住む村人にとって肉や乳、羊乳チーズなどの食料として、また羊毛や毛皮を得る為にもとても重要な存在なのだ。


 だからもちろん羊飼いの仕事もとても重要なものだった。


 フーゴは実直な性格で、人々は自分の大事な羊を彼に預けた。



(羊飼い?実直?フーゴは吟遊詩人でジゴロみたいな男だろ?人間視点では話が美化されているのか)



 フーゴは羊を連れて上がった山の上で、ある日美しい娘に出会った。


 色白のスラッとしたその娘は名をリヤと言い、毎日フーゴに会いに訪れるようになった。


 2人が恋に落ちるのは必然だったのだろう。



 秋にフーゴが山を降りるまで、山小屋で一緒に暮らすようになった。だが、秋になり一緒に村に来てくれと言ってもリヤは首を横に振るばかりで仕方なくフーゴは1人で山を下りた。羊飼いだから、冬はここに居られない。



 もう2度と会えないものと思っていたが、春に山に上がるとまたリヤがやって来て一緒に暮らした。とても幸せな時間を過ごしたが秋になるとまた1人で山を下りることになった。


 リヤは山に咲くユリの女神だったのだ。彼女はそこを離れることが出来なかった。


 フーゴにそれを告げられず毎年春から秋に一緒に暮らすが冬には別々だ。厳しい雪の降る山でリヤがどうしているのか気になったフーゴは山を下りたふりをして戻って覗くとそこにはリヤの姿はなく一輪のユリがあった。


 翌年の春、リヤは姿を現さなかった。


 その代り・・・。


 秋になり山を下りる日、山小屋のドアを叩く音がして、フーゴがドアを開けると足元におくるみに包まれた赤ん坊が蔓を編んで作ったカゴに入っていた。


 リヤを思わせる色白のかわいい女の赤ちゃんだった。

 フーゴは赤ちゃんを抱き上げ泣いた。もうリヤには会えないのだろうと悟って。



 羊飼いのフーゴは赤ちゃんを育てられない。

 その子は春から秋までは神殿が預かることになった。


 フーゴはリヤを想い神殿の庭に山から採ってきた白いユリを植えた。



 リヤはまだフーゴと娘を愛していて、2人を見守っている。


 寒さが苦手なフーゴの家に温泉が湧き、フーゴの住む村のある谷は他より雪が少なく風水害も起こらず暖かだった。そして神殿のユリは咲き続けた。


 女神と人間であるがゆえに添い遂げられなかった悲しい恋物語。


 そしてフーゴもまた死ぬまでリヤとユリの花を愛し続けた。




「ここに残る話はこんな話だよ。川を渡った先、まさにこの宿のある所がフーゴが住んでいたとされる場所なんだ。この狭い土地のここだけ地名が「アルマス」と付いているのさ。古語で『愛される』という意味だよ。

 2人はよほど深く愛し合っていたんだろうよ、この土地の気候を変えるくらいにね」


「ええ、ニコラが遭難したあの時くらいなのよ、雪で外にも出られないほどの日が続いたのは」とアンニカが補足した。


「それまで山の神を祀っていた神殿は、いつの間にかユリの女神の神殿に変わった。皆が2人に感謝してユリの女神にばかり祈りを捧げるから。

 羊飼いと恋におちた女神の神殿、ラカストゥア神殿になったのさ」


「あのレリーフは2人の逸話にある神殿に飾ってあったものなのよ」


「神殿が壊された時、瓦礫の中に奇跡的に無傷で残っていたのを村長が大事に保管していたんだが、温泉が再び湧き出したならここにあるのが似合ってると皆が話し合って持ってきてくれたんだ。観光にも一役買ってくれて、これを見るために訪れる客もいるくらいだよ。年に1組くらいだけどね」



 ニコラはエルミールやヴィーリヤミがしていた話と随分と内容も印象も違うので半信半疑で聞いていた。


 だって、エルミール本人がそんなことを言っていなかったのだから。そもそもエルミールは百合の女神ではないし。


 でも、その土地の気候を語るのにそれらしい神話や伝説が残るのはよくあることだ。それを物語として聞くだけでも面白い。

 ニコラがそうと知っていたとしてもユリではなく氷の女神なんて教える必要はないのだ。この伝説はこの村に残っているものなのだから。



 気持ちのいいベッドで寝て、美味しい朝食をいただき、ニコラは辺境伯邸に向かいますと宿を出た。


 見送りに出たアンニカがニコラに屈むように言い、赤いスカーフを首に結んでくれた。


「この訪問の記念よ」


 小さめのスカーフで首に掛け対角の角を前で結ぶのだという。小さく入ったユリの刺繍を背中側にして。


「これをあの時も身に着けていれば、ニコラも遭難しなかっただろうな、辺境伯に教えといてやってくれ。ウチの土産物だし!」


 こうして山に入ると遭難しない。

 これは羊飼いのフーゴがしていた格好で、リヤが守ってくれるから。


 他に羊の革の帽子と肩掛けカバン、羊飼いの杖も有効だとか。



 温泉宿アルマスのオリヴェルとアンニカはまたいつか来てね、待ってるぞ!と笑顔で手を振って見送ってくれた。


 気持ちの良い2人ですっかり打ち解けた。

 またいつか来たい。



 エクレールに跨りラポムを連れて村の様子を眺めながらゆっくり歩かせる。


 橋を渡ったところで羊飼いの格好をした子と挨拶をしてすれ違った。


 いるんだな、ここには今も羊飼いが。


 ベルニエ領は牛や馬と同じように羊やヤギも丘陵地帯で放牧しているがそんなに頭数はいないから羊飼いはいない。振り返って目を細め、しばらく見ていた。


 あ、そうだ。この川の上流の方に行けばすぐに分かると言っていたっけ。


 道すがら、せっかくなのでそのラカストゥア神殿跡に足を伸ばしてみることにした。今は崩れて神殿は土台が残るだけらしいがユリの花が見られるらしい。




 ニコラは息を呑んだ。




 そこには、


 谷の奥の奥まで一面の百合の花が・・・!




 そして神殿跡と思われる所々に残った石の基礎から少し谷寄りに、かなり古い物と思われる石碑が立っていた。


 古語で文字が彫られていて、その石碑の足元にそれを現代語に訳した石板がある。




 あの、



 あの詩がそこに刻まれていた。




『純白の百合の

 その大輪の美しさ

 圧倒的な存在感

 高貴なリヤよ

 なのに小首を傾げる

 可愛さよ

 ああ、リヤよ

 リヤよ



 フーゴは永遠に君を愛す』



 ああ、


 2人のいた証がこんなにたくさん、ここに残っている。




 フーゴは確かにリヤを心から愛していた。そしてリヤも。



 ニコラは思った。


 それだけは間違いないんだ、と。

フーゴおぉぉ

 。゜゜(´□`。)°゜。ウエーン


あ、すいません。

わたし、フーゴ大好きっ子で。


後日、フーゴ主役の外伝をupさせてください。

本編とは別で連載モノです。



いつも読んでくださいまして、どうもありがとうございます!


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