50話 王宮のお出迎え
今日はアングラード領に入る。ここを過ぎたら帰ったも同然、王都も近い。
朝、フィリップの元に国王リュシアンから「リリアンは王宮に直接上がるように」との伝令が届いた。
どうやらリリアンを迎える準備がある程度は整ったのだろう。リリアンの安全を確保するために王宮で対応したいと急ぎで書簡を送っておいて良かった。
突然連れて帰ったと準備に右往左往するところをリリアンが見たら居心地が悪かっただろうから。
アングラードは道が悪いからレゼルブランシュで越えようと思っていたのだが、昨日こっちは大雨になっていたので落石を心配して馬車で移動して欲しいとのことだ。
落石があったら馬と馬車とどちらが安全かと言えば微妙だが、護衛達の進言を聴き取り敢えず馬車にしてリリィは膝に座らせ守っている。
しかし本当にガタガタで、この間のオウム写真集を開いても揺れてよく見られないし、おやつも食べにくい。
話題は自然にこれからの事になった。
「侍女はそのままエマが付くことになるから心配はいらないよ。
専属の世話係長と他にも侍女が何人か付くだろうけどリリィもエマも何か困ったことがあったら僕に言うんだよ。
僕の侍従になるエミール・バセットを着いたら紹介するから彼に言ってもいい。
ニコラにも度々顔を見せるように言っておくからね」
「国王陛下様はマナー教育を受けるようにとおっしゃっていました。きっとすぐお勉強が始まりますね?」
「ああ、でも時間はたっぷりあるからゆっくり進めればいいと言っていたから心配はいらないよ」
それから王宮の地下は取調室や牢屋があって危ないから行かないこと。
庭園はいつでも出て歩いて良いけど、宮殿の外に出かけたいときは必ず事前に世話係長に知らせること。
王都の案内をする。服やアクセサリーやお菓子屋さんとか行きたい所があったら言って。
今、流行りのお菓子はとか、乗馬をするなら・・・などとたっぷり1日半王宮や王都の話をしていたらアッと言う間だった。
宮殿に入って行く道すがら、リリアンは林や庭園を抜ける景色を懐かしく感じていた。初めてここに招かれた時はフィル兄様が王太子様とは知らなくて侯爵邸に向かっていると思っていたんだった。
タウンハウスにさえ来たのは初めてで。短い間に随分と取り巻く環境が変わったものだわ。
何よりこんなに近くにフィル兄様がいてくださる。この幸せをずっと手放したくないけれど・・・。
せめて傍にいられる間は一生懸命に、大事に過ごそうと心の中で決意を新たにした。
「リリィ、着いたよ」そう言って先に降りて手を差し伸べてくれるフィル兄様。馬車の外に降りるとこちらは雨も上がって青空が見えている。
エマには待機していたフィリップの従者エミール・バセットが馬車を降りるその手を取ってくれた。
「リリアン様、お初にお目にかかります。フィリップ王太子殿下の従者をしておりますエミール・バセットと申します。以後お見知り置きを。どうぞエミールとお呼びください」
「はい。エミール様これからよろしくお願いします」とリリアンが返事を返す。
エミールはエマに向き直り、にこりと笑いかけて言った。
「エマ嬢、あなたも私の事をエミールとお呼びくださって結構ですよ。
こちらで困ったことや分からないことがあればサポート致します。しばらくは私は王宮に詰めることになっていますので顔をあわせることも多いでしょう、気軽になんでも聞いてください」
「は、はい。ありがとうございます、エミール様っ」
スマートな物腰のエミールにエマ嬢とかってちょっと令嬢扱いを受けてドギマギした。
エマが馬車の中で座っていたままですぐ降りてしまったリリアンの服のリボンや髪を軽く整える。
それを待ちながらフィリップはエミールに尋ねた。
「それでエミール、例の件はどうだったんだ」
「あー、ダメでした。パメラを理由に全滅です」
「1人くらいは会ったのか」
「いいえ、中にはハッキリと狂犬を飼っている家は危険だから近寄りたく無いとまで言われてしまい、もう諦めの境地ですよ」
「お前は私の侍従になると決まっているのだし、家は由緒ある名家だし、ただ一点を除いてあらゆる条件で引くて数多のはずなんだがなぁ」
「それほどではありませんが、ここまでとは妹の影響は余りにも絶大と言わざるを得ません。しかもそのパメラが今度はリリアン様の専属護衛騎士になると言い出しまして」
「ええっ?なんで?どういう事だ!?」
めっちゃ動揺するフィリップ。
「はい、この度リリアン様が王宮で暮らす事となりその安全の為に女性の護衛を付けたいと陛下が申されまして、そもそも騎士に女性はいませんから実力と意欲のある者を即戦力として短期訓練をして使いたいと募集したところ、立候補して来たのがパメラしかいなかったのです。
パメラはこれこそが自分のやりたい仕事、天命だと言って学校にも早々に退学届を出し何時もにも増したやる気を見せておりまして、とうとう昨日、陛下がやってみろとお許しになられたのです。
私も説得しようと試みたのですが頑固で。妹を止められず申し訳ございません」
「いや、父上が許したのならしばらく様子を見るよ。専属護衛隊もいるし目に余る動きがあればその時に辞めさせる。リリィに危害を加えないか心配ではあるが。
まあ、父上の話を聞こう、行こうか」
と4人が歩き出そうとした時に、エマの袖を引っ張る者がいた。
エマが驚いて何かと振り向くと初日の馬車で同乗したお互い名乗りもしなかったあのフィリップの衣装担当のお付きの者だ。
一言も喋らなかったのは一目惚れでもして緊張して座っていたということか、エマの手に手紙を握らせて走って逃げようとしたところをエミールに襟首を掴まれた。
「ダニエル、殿下の御前で何をしたのだ。ご令嬢にも失礼だぞ。片付けが終わったら私のところへ来い」とそれだけ言うと早く行けと解放した。
「エマ嬢、私の部下が無礼を働きまして申し訳ありません。よく言って聞かせます」とエミールはダニエルに代わってエマに謝罪する。
それに対してエマの「はい」と頷く仕草が、いつになくしおらしいではないか。
それをフィリップは顎に手を当て見ていた。
ん?んん?
エミールを見つめるエマの目がハート型になっている?
ほほう、これは案外近くでまとまるかもな。
エマよ、馬車で散々ニマニマ笑われていたのは気が付いているぞ。今度はこちらが笑う番だからな!
仕方がないエミールとエマ、2人のために一肌脱いでやろうか・・・まあ、本音を言えば面白そうだからだがな。
誰かの恋のお手伝いをしたかったフィリップ
上手くいけばいいのだが
_φ( ̄▽ ̄ )
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