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5話 王子様は女嫌い

 フィリップの生まれた時期は前後を含めて出産ラッシュだった。

 戦争が終わったことや、当時の王太子の結婚や王妃の懐妊で国中がお祝いムードに包まれていた。特に貴族は生まれてくる王子の側近か結婚相手になることを望んでいたであろうし、庶民たちも流行り病が終息してきた安心感から、そして子供を亡くした家の新たな希望にと、競うように子を産んだ。

 


 フィリップと同い年の令嬢達にはアングラード侯爵家で生まれたカトリーヌを筆頭に有力貴族子女のイザベル、パメラの3人がいてそれぞれが派閥を作り、フィリップを争って今でも仲が悪い。


 始めて一同に会したのは5歳の時で、側近や婚約者候補に成り得る子供を見出す意図を持って、まずはフィリップと同じ年の貴族の子供が集められて王侯貴族の娯楽の為だけに有るジョワイユーズ宮殿の庭園でお茶会が開かれた。


 爽やかな空の下、フィリップが紹介された令息からの挨拶を受けていると後ろから妙に親しげに声をかけてくる者がいた。


「フィリップさま!わたくしのフィリップさま!」


 え?誰?

 振り返ると見知らぬ令嬢だ。


「ちょっと、何言ってるの!」

 目を吊り上げた別の令嬢が割って入ってきた。

「下がりなさい、あなた邪魔だわ」


 自分が前に出たいだけだった。


「あなたこそ、向こうに行ってちょうだい」


 また別の令嬢が突っかかってきた。


「あなたこそっ」

 キーッとなって3人が突き飛ばしたり、

 髪を引っ張ったり、

 噛みついたりの大乱闘になった。


 他の令嬢はもちろん、子息たちもこの3人に恐れをなして遠巻きにしている。大人達は最初こそこの場で様子を見ていたが、和やかな雰囲気に安心してもう宮殿内の娯楽室に入ってしまった。彼ら自身の社交の為に。


 残された侍女、遠巻きに配置された騎士たちは動き出そうとはしない。今になって思えば彼らに命じれば良かったのだろう。


 フィリップはあっけにとられていたが、直ぐに自分が何とかしなければと思い制止に入ったところ、他の子を狙って繰り出された爪で顔を思いっきり引っ掻かれたのだ。


 それはその場にいた全員にショックを与え3人も真っ青になり一気に静かになった。


 彼女達はまだ屋敷の中で甘やかされていて、王子に気に入られたら王妃になれると言われて来た上に、フィリップ自身が魅力的だったのでどうしても自分が一番だと知らしめたかったのだ。方法を間違えたけれど。


 子供の細い爪で出来た傷は長く跡が残った。それにそんな風に攻撃的な態度を誰にもとられたことがなかったので驚きと恐怖を感じてフィリップの心にも傷が残った。


 定期的に行っていく予定だった子供のお茶会はしばらく開催を見合わされていたが、その後も行われることはなかった。

 時期が来たら必ず結婚して子を成すようにするから、公式な行事やパーティーにはちゃんと出席します。だから今は学ぶ方を優先したいと両親に言った。フィリップ自身があの中から将来の嫁を選ぶなんて、どうしても乗り気になれなかったから。


 一方で年の近い子息達との交流会は頻繁に行われた。これは有望な者を側におく為に必要だし楽しかった。


 ニコラもそんな中で親しくなった1人だ。彼は当時から体が大きく堂々としており、実際に力も強いらしいが落ち着いた性格だった。売り込みの激しい他の者と違って穏やかに話ができる。学園に入る時、彼を側に置くと言ったのは我ながら名案だったと思う。


 そんなこんなで12歳で学園の初等科に入学するまで、年の近い女性と意図的に交流はしなかった。あちこちで熱い視線をそそがれても黄色い声を上げられても実害はないので無視だ。ただ笑顔で返すなんてことはしない。勘違いさせるわけにいかないから。

 その程度だったから比較的穏やかに過ごせたし、表情や態度に出ることもなかったと思う。鉄壁のガードに守られて寝る時以外は独りになることはなかったし。



 そんな中、護衛騎士やニコラの隙を突いてフィリップに色仕掛けでせまるような者が出だした。

 有力貴族の令嬢達が手を出せない今の状況なら、もし気に入っていただけたら玉の輿とばかりに。皆なかなか肉食系である。


 最初は入学直後の学園で鍛錬後にフィリップがシャワー室に入ったら待ち伏せしていた女生徒が抱きついてきた。その時の対応が学生の出来心だと一ヶ月の謹慎程度だったのが甘すぎたのだろう、色気に自信のある女教師が上目遣いに手を重ねてきたり、王宮内でもテーブルの下に潜んだり、寮では掃除女中が退室したと思わせて潜んでいたりなど有り得ない行動をとる者がいて気が休まらなくなってきた。


 一番酷かったのは前宰相の娘か。

 これはちょっと濃い話で、思い出したくないので割愛する。


 今では王太子に睡眠薬や媚薬などの薬を盛るのはもちろん、色仕掛けで迫ったり、誘惑しようとしたと王や王太子が認定すれば少なくとも本人は処刑、そそのかしたり手引きした者もがいれば同罪、家には取り潰しも視野に入れて相応の罪を問う。

 実際に王権簒奪や王家存続の危機もはらむ大問題だ。

 王太子を拉致や監禁、危害を加えた場合に次ぐ重罪となったのでようやく静かになった。


 そんな風に怖い目に合わされてきたので女性に好意を持てない。

 今も少数のごく身近な信頼する者以外は警戒するし、なるべく関わり合いたくない。学園で必要なら会話はするけど2人きりになるような事態は徹底的に避ける。


 フィリップには自分に向かう女性のその目が下心を持って舌なめずりをしてこちらを伺っているように見えて仕方がない。気持ちが悪い。だが立場上目を逸らすわけにいかず、焦点を合わさないようにしてやり過ごす。

 お年寄りも時として孫のためにハンターになるので安心はできない。


 なのにどうだろう?

 リリアンを初めて見た時に感じたこの感情は今までにないものだった。


 瞳は邪気がなく澄んでいて美しい。話をする時のその表情が変わるさまを、可愛らしい所作をずっと見ていたくなった。自己顕示欲や媚びるような嫌な感情を感じない。ワクワクする。そばにいたい、ずっと見ていたいし自分を見て欲しい笑って欲しい、腕に囲って触れて、ずっとずっと可愛がっていたい。どんどん色んな気持ちが沸き起こる。


 こんな小さな子にときめき?それはないだろう。

 でも、そんな感じに近いかも。


 とにかく可愛いからいつまでも愛でていたいのだ。

登場人物紹介


喧嘩3人娘 カトリーヌ、イザベル、パメラ


カトリーヌ・アングラード リリアンがおよばれしているお茶会の侯爵家の長女 腹違いの弟と妹がいます 16歳

 「喧嘩の首謀者扱いされてるけど、フィリップ様に最初に話しかけただけで、手を出したのはイザベルよ。私は転びそうになって掴んだのがたまたまパメラの髪の毛だったのよ。私が侯爵家令嬢で1番偉いから責任があるって言うけどねぇ、あれからの淑女教育の厳しさと言ったらなかったわ。私、損な役回りで辛い思いをさせられているの」


イザベル 有力貴族の娘です 16歳

 「だいたい、パメラったらなんであそこで私に噛み付くのよ、髪を引っ張ったのはカトリーヌなのに!それになんて荒技かけてくるのよねまったく狂犬だわ!本当に私、この件には関係なくない?しばらく歯形が腕に残ってショックだったし被害者もいいところよ。大切なフィリップ様のお顔を傷つけたのもパメラよ。あの子だけ怒られたら良かったのに、お父様たちに私まですごく怒られたんだからやってられないわ」


パメラ 有力貴族の娘です 16歳

 「両親からフィリップ様の目にとまりなさいと言われていたから頑張ったのよね。とにかく私が一番強いところをフィリップ様はもちろん皆に見せつけられたと信じているわ。ただ私の爪がフィリップ様の天使のような滑らかな頬に3本の線を描くことになったのはやり過ぎだとたしなめられたけどね。だけど、あれこそまさに『爪痕を残す』だわ。私のことだけを見つめる青い瞳。驚いた顔のフィリップ様も素敵だったわ~」



・・・とりあえず君たち反省してないだろ

 _φ( ̄ー ̄ )



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