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49話 ふたりのごっこ遊び

 馬車の旅も4日目。


 昼近くになっても薄暗く、しとしと雨が降っている。こんな日は事故が多い。馬車はぬかるみに嵌らないように気をつけながら通常よりゆっくりペースだ。


 外の景色も代わり映えせずエマはさすがに馬車での移動に飽きて来たが、目の前のフィリップとリリアンは絶好調のようだ。



 昨日のスペシャル・エディションの効力はまだ続いている。


 フィリップがリリアンを「僕のシャルロット」と呼ぶと、リリアンが見るからにぱあっと顔を輝かせて嬉しそう〜に「はい、レオ様」と返事をするのが可愛いのでフィリップは事あるごとにそう呼んでいた。



 昼食後、馬車に戻ってきたフィリップに差し入れられた箱。


 受け取ったフィリップはリリアンを膝に乗せて自然にごっこ遊びが始まった。


「僕のシャルロット、後でおやつにこれを食べようね」



 さっき雨の中お付きの者に買いに行かせたお菓子は無事に手に入れることが出来た。ここの名物のお菓子は見た目も味もリリィを喜ばせるに違いない。



「はい、それは何でしょう?レオ様」


「ケルノン・ダルトワーズっていうチョコレート菓子だよ、シャルロット」と言ってエマに渡そうとしていた箱をリリィに渡して開けさせる。


 そこには青紫とでも言おうか、美しい色のタイル状の小さいお菓子が整然と並んでいた。



「まあ、なんて綺麗な色なんでしょう、こんな色のチョコレートは見たことがありません。レオ様」


「これは幸せを運ぶ青いチョコレートって言われているらしいよ」


「素敵ですね!」


「ほら、あの屋根を見てごらんシャルロット。この地方の屋根に使われている伝統的な屋根瓦に似せているから名前がケルノン・ダルトワーズって言うんだ」


「屋根瓦が幸せを運ぶのですか?レオ様」


「商売をしている者が、幸せの青い鳥にでもひっかけてそう謳い文句にしているんだろう。前にこれを食べた時はそんなことは言ってなかったから」


「ええ?そんないい加減な」


「でも、食べたら美味しくて幸せになるのは本当だ。後で僕のシャルロットも幸せにおなり」


「はい、しあわせになります。レオ様」



 そうして3時のおやつの時間にリリアンはフィリップにケルノン・ダルトワーズを手ずから食べさせてもらい、お互いにしあわせな気持ちになれたのだった。



 一応母上にも同じ店の上品なお菓子たち、ナッツやドライフルーツが乗った同じ色の板チョコや、同じ色のマカロンをお土産に買っておいたから父上がナナメにしたご機嫌も良くなるだろう。我ながら完璧なフォローだ。



「レオ様、お指をお拭きします」


 チョコを摘まんでいた指をリリィに拭いてもらいながらフィリップはいい事を思いついた。



「僕のシャルロット、あの時(劇では)は僕のことをレオと呼んでくれたのに、今日はレオ様と呼ぶんだね。心の距離が離れてしまったのかな、寂しいな」


 しょぼんとしたフリをしてリリィを見る。



 そうだった。シャルロットはレオ様をレオと呼んでいたわ。


「そんなことはありません、レオさ・・・レオ」と小さな声で名前を呼んでリリィはフィリップの指をまだ握ったまま、もじもじしている。


 慣れない呼び捨てに恥じらうリリィ最高!可愛すぎる。



「僕のシャルロット、昨日は敬語なんて使ってなかったのに今日はよそよそしいね、もしかすると心変わりかな、他に誰か好きな人でも出来たの?」


 つい、調子に乗って意地悪を言ってみる。


「レオ様、いえレオ、あの、そんなことはありま・・・ないで・・・ないわ」


「だよね、僕たちは結婚するんだものね。じゃあ、僕のこと好き?」


「はい、好きで、好きよ」


「ほら、ちゃんと言って?」


「好きよ」


「いいね、じゃあ僕のことだけ愛してる?」


「・・・あ、愛してます」


「リリィ?」


「愛してる」


 どさくさにまぎれてリリィと呼んだけど、リリィはその特別な意味を持つ言葉を口にする緊張からか気がついていない。


 顔から火が出るほど真っ赤に茹だったリリィが可愛いさ爆発。


「僕も愛してるよ」


 リリィはフィリップに間近で愛を囁かれ、ごっこ遊びの演技と分かっていても照れからかフィリップの胸に顔をうずめて動かない。


 フィリップはそんなリリィをよしよしと抱きしめ『レオとシャルロットごっこ (SEver.) 』ですっかりご満悦だ。


 ごっこ遊びを装って愛してると言わせた。しかしこんなにたわいもなく愛の言葉を囁くとは簡単だな、これ他にも何か使えそう。




 その一部始終をエマは見ていた。傍観者として。



(王太子殿下、必死ね)


 必死すぎて笑える。


 いや、愛してると言わそうとして、7歳令嬢相手に16歳の麗しい王太子様のその必死さが逆に尊いわ。リリアン様が大変そうで同情するけれど。


 退屈な雨の1日が逆に楽しめました。(ありがとう)と心の中で合掌しておいた。




「おい、・・・何で手を合わせてる」



 エマはうっかりリアルに手を合わせてしまい面白がっていたことが速攻でバレた。

退屈な馬車の旅が

楽しめてなによりです

_φ( ̄▽ ̄; )




いつも読んでくださいまして、どうもありがとうございます!


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