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47話 フィリップの眠れない夜

 フィリップの心中はさておき、その日の宿に着いた。


 リリィ達は王都からのベルニエまでゆっくり観光をしながら帰ったらしいが、僕は行きは道を急いでいたので観光はしていない。なので夕食前にちょっと周辺を散策してみようと宿を出てきた。

 ここは古い立派な建物が多い趣のある町で、東側に広い川が流れているらしい。


「フィル兄様、向こうの広場にメリーゴーランドがありましたよ。それからあちらに行くと綺麗な川があって、噴水がありました。それから・・・」とリリィが観光ガイドをしてくれる。


 しかし油断は禁物だ。どこに危険が隠れているか分からないのだから手は咄嗟に外れないように念の為に恋人繋ぎだ。


 こうして観光地を歩いているとなんだか新婚旅行みたいだな。



「フィル兄様?お母様がここは織物が名産だと言っていましたよ。王妃様にお土産になさいますか」


「あっ、母上の事をすっかり忘れてたよ」



 父上がベルニエの土産だと渡した牛革の小物入れはノベルティグッズだったらしい。


 裏にお店の名前と営業時間、定休日それに『ご来店お待ちしております』と刻印がされていたと母上がほっぺたを膨らませていたっけ。


 聞くと父上がベルニエ伯爵邸の客間にあったのを、土産にすると貰ってきたと。父上もひどいよね自分だけ遊びに行っといて母上だってそれは怒るよ。まあ、僕は完全に手ぶらで帰るところだったけど。


「リリィ、母上へのお土産を一緒に選んでくれるかい?」


「はい、もちろんです。素敵な柄ばかりですね。

 王妃様のお好きな色は何かしら、よくお召しになるのは・・・」


 そんな真剣な顔で選んでいるリリィを見ながらそのうち王妃様じゃなくてお義母様って呼ぶようになるのかな、なんて考える。



「リリィも好きなの選んだらいい、なんだったら全部買っとく?」


 と言ったら、リリィはものすごくびっくりした顔してた。可愛い。




 宿に戻って夕食を食べて、そしたら後は寝るだけだ。

 昨日危険だから一緒に寝るって言っておいて今日は別々で寝るって言ったなら、いつ危険が去ったのですかってなるよね。


 今夜、リリィに手を出さない自信がない。


 ニコラがいればリリィはニコラに預ければ良いけれど、もう一緒の部屋で一緒に寝る選択肢しか僕達には残されていないんだ。



 寝る支度を済ませ、寝室でソファに座りお喋りをしていた。


「フィル兄様、ニコ兄様が結婚されたら私にお義姉さまができるんですよね。嬉しいな。

 宰相様のご令嬢ということは、その方のお兄様は花祭のときに最初に挨拶にみえた方ですか?確かお名前はマルタン様」


「そうだよ、よく名前まで覚えていたね」


「はい。オコタンに名前が似ていたので。

 では、いずれその方も私の義理のお兄様になりますね?」


「う、うーん。マルタンはリリィの義兄になるのか。しかもニコラとも義兄弟?」



 あれ、僕だけ除け者っていうか、2人はリリィの本当の兄で、兄だと言いながらいつも一緒にいる僕は本当は兄でもなんでもないって?

 なんだか納得がいかない。


 いや待てよ。


 僕がリリィと結婚したらニコラは僕の義理の兄。

 ニコラがソフィー嬢と結婚したらマルタンがニコラの義理の兄か。

 うえっ、僕が1番下の弟でマルタンが1番上ってやっぱり納得いかない。マルタンが1番下でなければ。


 まあ、誕生日順と同じ並びなのだが。


 色々考えを巡らせて、つい口に出てしまったのは結果的に最悪の言葉だった。



「リリィ、もう僕を兄と呼ぶのは止めようか」



 これからはフィルって呼んで欲しいと言う前に、ショックを受けたリリィの目にみるみる涙が浮かんでぷっくりと溜まり辛そうな表情で必死に泣くのを堪えようとしている。



「・・・うう、にぃさ、まと、よんじゃあ、ダメですか・・う、うっ」


 そう言うと、リリィの目から幾筋もの涙がこぼれ落ちる。



「ごめん。ごめんよリリィ。いいよ、いいんだよ」


「にいさま、フィルにいさま・・・うっ、うっ」


 いつも賢く聞き分けの良いリリィが泣いている。

 謝りながら抱きしめて背中を撫でてやってもリリィの涙はなかなか止まらない。必死で堪えようと声を押し殺しているのがいじらしい。



 そうだった。


 リリィは一昨日、急に王宮に上がることになったんだった。それも自分に災いをもたらす者がいるかもしれないという謎の情報の為に。


 今まで領地で両親やごく限られた人達だけに囲まれて暮らしていて王都に来たのもこの春が初めてという箱入り娘のリリィが、今、親兄弟と離れ1人で王都に向かっている。


 これからどんな毎日になるのかも分からない未知の世界に急に飛び込むことになったのだから、不安に感じていないはずがなかった。


 それを幼いながら笑顔で乗り越えようとしていたのに、僕はなんて心無い言葉をかけてしまったんだろう。1番大切な時に突き放すように聞こえることを言ってしまった。

 ニコラが僕にしてくれたように、僕もリリィに寄り添うべきこの時に。



「ごめんよ、リリィ。ずっとフィル兄様って呼んでいいんだ。マルタンが兄になるって聞いて面白くなかっただけでつまらない事を言ってしまった。ね、リリィ。また兄様って呼んでくれる?」


「うっ、えぐっ。・・・はい。・・・ぐすん、ぐすん」



 しばらくグスグス言っていたリリィは泣き疲れて眠ってしまった。


 僕はソファでリリィを抱いて赤ちゃんにでもするように背中を叩いてやりながら反省していた。


 さっきまで、君を組み敷いたらどんな顔をするだろうとか、ペタンコのおっぱいはどうやって攻略するんだろうとかバカな事ばかり考えててゴメン。

 すっかり頭がお花畑だったよ。


 君が大人になるまで待つ。

 それまで僕は君のお兄さんで構わない。


 一番近くで、いつも君が笑っていられるように。



 しかし、まだ7歳になって2週間しか経っていないのかぁ。リリィが16歳になるまで先が遠いなぁ。


 月明かりの明るい夜だった。

 リリィをベッドに寝かせ、自分も傍に横になったが月明かりに照らされたリリアンの顔を見守りながらそうやってフィリップは色々考えていたため、あまり寝られなかった。




 翌朝、泣いて目を腫らしたリリィと眠そうなフィリップをみたエマが悲鳴を上げ、フィリップは「殿下、リリアン様に何をされたんですかっ!!」と詰め寄られた。


 リリアンがホームシックにかかったのだと言ったら納得してくれたけど、すごい剣幕だった。これなら王宮でリリィに何かあっても彼女がついてるから大丈夫と思えるくらいに。




 まあ何はともあれ、この調子ならエマが心配するまでもなくリリアンは無事に王都に着けそうだ。

お花畑フィリップさん、

リリアンに

なんてこと考えてたんですか!

_φ( ̄▽ ̄; )




いつも読んでくださいまして、どうもありがとうございます!


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