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40話 不穏な手紙

 ニコラはフィリップに「私たちにはリリアン専属護衛隊がついているからここはいいぞ」と解放されたので、一足先に屋敷に戻ってきていた。


 そしてつい先ほどニコラがリビングで座って寛いでいたところにジョゼフィーヌがソフィーとの婚約の話について聞こうとクレマンや家令のエリックとやって来たのだ。



 フィリップと今ここに入って来たばかりのリリアンは「大事なお話中ですね?」と部屋を出ようとした。まあ2人は別の部屋で2人だけでお喋りして待つのは全然、全く問題ないので。


 ニコラは王太子を別の場所で待たせるのは失礼だと思い、すぐに終わるからどうぞ座って下さいと声をかけた。

『ソフィー・オジェと婚約する、速やかに手続きに入って欲しい』と言って終わると思っていたから。



 ジョゼフィーヌは言った。

「ニコラ、あなたは心に決めた人がいるって聞いたわ。宰相家のご令嬢だそうね?」


「ええ、そうです。婚約を申し込みたい旨の書状を送っていただけますか」


「だったら、婚約を了承した旨の返事を出しておくわ。婚約の日程を決めなければね、あなたが向こうに戻って先方と決める?」


「え?」


 クレマンが言った。

「ニコラ、モルガン殿から先に申し込みがあったらしいぞ」


「ソフィーはそんなこと言ってなかったが」


「本人に言わずに出したのでしょうね。

 なかなか色よい返事が貰えない事もあるから『送るぞ、断られたぞ』って毎回言われるのも酷でしょう?だから返事があってから本人に伝えるのはよくある事なのよ。

 花祭の翌日の日付が入っていたから発送順で言うと1番乗りね」


 ソフィーが断われることは絶対にないと思うが。


「花祭の翌日?」ニコラがモルガンに突っかかった、あの翌日とはこれ如何に。


「あなたが銀の血を持つからではなく、あなただから声をかけて下さったのでしょう。モルガン様はあなたを認めて下さったのよ良かったわね、ニコラ」


「はい」


 まあそういうことなら良かった。


 話は順調に進みそうだ。ソフィーと結婚出来る!!

 嬉しい、早くソフィーに伝えたい。もう王都に帰ろうかな?夏の辺境伯領地獄の合宿は今年はキャンセルしようかな!


「良かったな!」


「お兄様、良かったですね。おめでとうございます」


 フィリップとリリアンも祝福の言葉を贈る。


「ああ、ありがとう」


 側から見てもウキウキしているニコラにジョゼフィーヌは釘を刺しておいた。


「そちらの書簡はもう関係ないと無視しないで一通り目を通しておきなさい。誰があなたと縁を持ちたがっているのか今後の付き合いの中で有効な情報ですよ。見たらこちらに返して頂戴ね。当主の名で断りを送らなくてはなりませんから」


「はい、母上」


 何気なく1番上にあった書簡を手に取ると、その下にあった他より小さい封筒がコツンと床に落ちた。


 どれも封が開けられて、中を確認してあったがこれはまだ封が切られてなかった。


「これは?」


 エリックが礼儀正しく申し出た。


「他の物はベルニエ当主宛であったので私が封を開け中を確認いたしましたが、それはニコラ様宛でありましたので許可なく開けることが躊躇われまして、数日内のお帰りが分かっておりましたのでそのままにしておりました。

 申し訳ありません。やはり中を確認しておいた方が良かったでしょうか、急ぎの物でしたか?」


「いや」


 封筒を返してみると、差出人に知らない名前が記されている。



 姓はなく、ヴィーリヤミ と書いてある。



 聞き慣れない音の名前だ。




 そこでドサドサドサーッとついに書簡の山が崩れ、床に落ちた。

 拾いながら見るとアングラード、ルグラン、バセット・・・喧嘩令嬢供の家紋と釣書在中の文字。


 真っ赤な封筒に金の装飾が入っていたり、緑の封筒にギンギラ銀のスワロフスキー・クリスタルで装飾が入っていたり・・・これ豪華すぎるだろ。

 こっちは金ピカの封筒で顔が写ってるよ!ド派手にギラギラ光って目が痛い。


 封筒から発せられる圧がすごい。


 娘たちだけでなく親も同類かと思ったら違ったようだ。3人とも当主の名で送るべきなのに本人達が自分の名で送りつけてきたみたいだ。常識が無さ過ぎだろう。


 怖っ!


 摘まんで拾い、下の方に差し込んで山は崩れないよう2つに分けておいた。



 だがあの3人、実は気が合っていて仲良しなのでは?

 アレが示し合わせて送ったのではないのなら奇跡だろ。



 斜め横に座るフィリップがポツリと言った「ギリ、セーフだったな。先に婚約決めとけばアレ等も大丈夫だろ」


「ああ、セーフだ。ソフィーに命を救われた」


 長年要注意人物に指定されていたせいで指定解除された今も、2人はあの喧嘩3人娘がまだ怖いのだ。


 あんなに綺麗な封筒のお手紙を頂いて、そこまで言うの?とリリアンは内心思ったが口を挟むのは慎んでおいた。




 それはともかく、だ。


「父上、母上、ヴィーリヤミ という名の者をご存知ですか」


「いいえ、聞いたことないわね。この国の名前では無さそうだし」


「・・・ヴィーリヤミか、この古風な音の響きからしてそいつは銀の民の末裔かも知れんぞ。

 我々の先祖はプリュヴォ語じゃない全然別の言葉を使っていたんだ、今はもう話せる者もいないと思っていたが銀の民の血を引くのは我々だけではないからな。

 しかし少なくともお前を知っているのだろう、なら辺境伯領で会ったことがあるやつじゃないか?」


「訓練でかな?」


 俺が辺境伯領に行くのは夏と冬の合宿訓練だけだ。

 何か思い出しそうだ。

 ここまで、胸まで来ているような気がするけど喉まで出てこない。


 フィリップが促す。

「その手紙を開いてみれば分かるんじゃないか」


 ああ、その通りだ。


 エリックがレターナイフで封を開けて返してくれた。


 紙切れのようなものに尖った文字で走り書きのようにしたためられている。とても丁寧に書かれたものでは無かった。




 ・・・・・・


 ニコラ・ベルニエ殿



 我らは氷の乙女の守護者なり


 今、時が来た



 氷の乙女に災いを運ぶ者がいる


 山火事が怖いなら

 火を付けてはならぬ

 火があるなら

 火事が起きるその前に

 火は消さねばならない


 火は水にて消える



 追伸


 我らのことは他言無用


 ・・・・・・



 ちょ、ちょっと待って!他言無用って今、声に出してここにいる者達、家令と侍女に護衛隊の面々にまで読んで聞かせちゃったよ。重要な事は最初に書いとけよ。


 しかしこの手紙の意味がよく分からない。

 謎解きは得意じゃない。



「何者だ災いなどと、氷の乙女とはリリアンのことを言っているのか?」とフィリップ。


 いつになくとても厳しい表情をしている。リリアンが不安気にフィリップを見上げた。


「大丈夫。必ず君を守る」フィリップはリリアンを安心させるように微笑みかけて、頭を撫でてその肩を守るように抱き寄せた。



「まずは我々の頭で分かることを整理しよう。それからどう対処するか考える」とフィリップ。


 リリアンは横に座って肩を抱かれていたのだが、これから難しい話が始まるのだ。座り直さなければならない。


 フィリップのお膝の上に、座り直させられた。


 リリィ、両手で抱いて守っておくから安心してね?(注:彼はふざけているわけではありません)



 ジョゼフィーヌが言った。


「殿下、実を言いますと私たち夫婦はリリアンが生まれた時から心配しておりました。

 銀の髪を持つ女児だととても喜ばれたところまでは良かったのですが、この子の祖父である辺境伯から人の目に触れない所へすぐに引っ越せ、国王と親戚以外には言うな、11歳になるまで大事に守れと言われました。

 それをリリアンの為だとおっしゃって、でも一方的で他の子供に言わないことだったのでなぜだろうと不安ばかりが募って。

 そのヴィーリヤミとかいう全く知らない人物の言うことを気にするのも何ですが、災いを運ぶ者とはもしかするとこの子達のお祖父様の事ではないかしら?」


 ジョゼフィーヌは他の孫達に対するものとは何か違う扱いに辺境伯の得体の知れない強い執着を感じていたのだ。


「なぜ11歳までと限定しているのだ?」


「私たちも未だにはっきりした事は分かりません。マルセル様は尋ねても言う通りにすればいいと言って教えてくださいませんでしたから。

 クレマンが言うには銀の民の男性は昔は13歳が成人だと言われていたそうですから、もしかすると女性は11歳で成人なのかもしれません。女性は基本的にいなかったので分かりませんが、考えられるのはそれ位しか」


「11歳で成人?」


 フィリップはあっけに取られる。ニコラが13歳で成人並みの身長になると言っていたが、彼らはというか銀の民はその年齢がまさしく成人だというのだ。


 クレマンが言った。


「私たちはともかくこの子に幸せな人生を送って欲しい。父の言う無茶振りを聞いていたのもこの子が拐われでもされたらと心配だったからで・・・それほど父からは鬼気迫るものがあって」


 クレマンはジョゼフィーヌと違い辺境伯自身が脅威の対象とは思ってはいなかったのだが、父がこれほど口煩く言うほどの脅威はあるのだろうと思っていた。


「うう・・・」


「どうしたリリィ、怖かったか?」


「おなか・・・空いた・・・」


「あっ!!夕食を忘れていた。もうこんな時間か、とりあえず食べるかっ!殿下、ダイニングへどうぞ!」


 真面目に話し合っていたはずなのにあっさりとダイニングに移動した。


 その途中でニコラはリリアンに「お祖父様からの誕生日カードを見せてくれる?」と聞いた。屋敷内だが先ほどの話があるので安全のため一緒に部屋に取りに行く。


 フィリップは「わあ!リリィらしい可愛い部屋だね」と嬉しそうにしていた。オコタンにも久しぶりだねと声をかけられていた。何やってんだ殿下は抱きまくらに。


 ニコラはリリアンから渡されたカードをなんとなく封筒から出して、見てみた。



 ・・・・・・


 私の女王様かわいいリリアンへ



 今年の誕生日は忙しくて


 お前の顔を見に行けないのだ


 しかし、悲しく思わないでおくれ


 私も悲しくなるから


 代わりに銀の馬をプレゼントしよう


 まさに氷の女王様にふさわしい贈り物だろう?


 私はお前の為に氷の宮殿を探しているのだ


 銀の馬は吉祥でもある


 もうすぐ見つかるだろう


 11歳にならずとも


 その時はその銀の馬に乗って


 お前の帰るべき所


 私のところへおいで


 氷の宮殿で待っているよ



 いつもお前の事を想っている

 お前の爺じ マルセル・ジラール辺境伯

 XXX


 ・・・・・・



 なんだこれは?本当にお祖父様からの手紙なのか?



 変態ロリコン爺さんみたいで怖すぎる。


 ぶっちぎり。これが今日一番の怖い手紙だった。

XXXって?

_φ( ̄▽ ̄; )




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