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4話 ふたりの事情

 今まで領地にいて社交もしていない幼いリリアンに、交流のなかった侯爵家からお茶会という名の顔合わせの申し入れがあった事には特別な背景があった。


 ニコラとリリアンの父クレマン・ベルニエ伯爵は辺境伯家の出身だ。

 男ばかりの5人兄弟の三男で学園で伯爵家のジョゼフィーヌと出会い、恋愛し婿入りして伯爵家を継いだ。


 そのクレマンの父であるマルセル・ジラール辺境伯の血縁者は婚姻相手としても何をするにも引く手数多だ。


 建国の時のことだ。元々雪と氷で閉ざされ人は住んでいないと思われていた山岳地帯に暮らしていた少数民族が国王に忠誠を誓い、戦いで大きな貢献をした。その功績を称え王女が降嫁したのがジラール辺境伯の始まりと言われている。この国では侯爵に並ぶとされ、国境を守る国の守護神として尊敬されている。


 また、その身分の高さだけでなく頑強で高い身体能力を持つとされていた。実際に近年よくある幼児が亡くなる原因不明の流行り病にも1人も罹りさえしていなかったのだから信憑性が一層増した。


 ベルニエ伯爵家ではニコラを出産して以降、ジョゼフィーヌが領地経営に熱心だったので子供は兄妹2人しかいないが、他のクレマンの兄弟は皆子沢山だ。

 流行り病で子供を亡くしたり、そもそも跡取りの居ない家だけでない、貴族はどこも優秀な跡取りが欲しいものだから辺境伯の血は周囲が相当羨ましがり、縁をつなぎたがるのだ。



 そして今代、沢山いる辺境伯の孫達の中で女性はリリアンしかいない。


 辺境伯の息子達以上に人気が出るのは当たり前と言えた。その上、リリアンは可愛いらしいルックスで気立ても良いときているのだから。



 あまりに早く周囲から攻勢をかけられるのを嫌い、リリアンの存在は国王夫妻とその側近、親類縁者くらいにしか伝えていなかったけれど、口止めもしていないのでそろそろ話が出る頃かと思っていた。逆に秘匿し過ぎて良縁を逃したのでは意味がない。


 クレマンとジョゼフィーヌは結婚する相手について早くから決めてしまうつもりはなく、声がかかっても当面は婚約者候補の一人に留めておくつもりだった。それはこの国の貴族として一般的な考え方だ。



 この国の貴族の結婚可能年齢は男性は18歳、女性は16歳だ。

 以前はどちらも16歳だったが、学園初等科までは貴族は男女皆通う義務があり、男性は高等科を卒業しないと爵位を継ぐことが出来ないとしたため男性は学園を卒業する18歳に引き上げられた。

 だが、女性の方は例の流行り病がまたいつ大発生するか分からないので出産可能年齢を少しでも長くするために結婚可能年齢を引き上げることはなくそのままにしたからだ。これらは現在の国王リュシアンの代になって変わったことだ。


 跡取りが必要な貴族は結婚が早い。しかしより良い相手を見極めるためや途中で問題が起こり解消になるリスクを避ける為に婚約を決めるのは遅い。婚約者候補ならば「気があります」という意思表示をお互いにしたと公表するという感覚で解消も容易い。


 なのでリリアンの親も婚約者“候補“としてお互いにキープし合い、しばらくは手紙のやりとり程度の浅い交流で相手を見極めつつ結婚の1年前辺りで婚約をすれば良いという算段だ。相手の年齢によりリリアンが15から17歳くらいだろうか、そのくらいの年齢になると本人たちの結婚への気持ちも固まってくるだろう。できればお互いに愛情を持てる相手が良いとも思っている。


 リリアンには伸び伸びと幸福感に包まれ成長してほしい。


 娘に対する親の願いだ。




 一方、フィリップに兄弟はいない。流行り病は王族でさえも乗り越える事が出来ず2歳下の弟を亡くしていた。


 当時、王は側妃をとってまで次の子を成そうとはしなかった。戦争の終結の証としても、これから友好国としてあり続ける為にも隣国の王女と結婚したのだから彼女との子フィリップに譲位しなければこの結婚の意味が薄れてしまうという論説だ。



 フィリップは16歳になった。文武両道で真面目な努力家。知恵とそれを使う良識、判断力にカリスマ性、まだ発展途上とは言え、バランスが良く王の資質は高いと言えるだろう、ある一点を除いてはだが。

 きっとそれさえも乗り越える。スペアは、不要だ!




 フィリップが生まれる前、いやそれどころか国王がまだ王太子で結婚もしていない頃、戦争が起こった。


 それはそれまで良好だった隣国からの前触れのない攻撃で始まった。


 国境近くに3つの大きな湖を持つ我が国に、水不足に悩まされていた隣国が水源を求めて突然攻め入って来たのが発端だった。辺境伯の守る領地にはしっかりと訓練された騎士団があり王都からもすぐに騎士団を派遣し全く水源には手を出させなかったが相手はしつこく奇襲を何度もかけて来た。


 大きな戦争にしたくなかったので防戦に重きを置きながら和平を呼びかけていたが相手は頑なで国内は『もういっそ一気に息の根を止めるまでやっちゃえば?出来るでしょ!?』という空気に傾きかけていた。


 しかし、流行り病が起き次第に両国ともその状態が深刻度を増してきて、ついには戦争が終わるきっかけの一つになった。


 幼児の死亡が戦争が始まった直後から増え始め、乳児も乳を飲まなくなる年齢になるとこの病に罹るので子供の数が減る一方だった。

 お互い国はもっと病気に対する対策に注力したいし、騎士が戦いで家を空け続けることも避けたいし、戦死者もこれ以上出したくない。

 また長引くと戦争に乗じて国内外で不穏な動きも出てき易くなり更に不安定になりかねない。



 かなり寛大な条件だと思うが一方的に戦争をしかけてきた相手国から賠償を受け、水は有償で隣国に分水することにして講和条約が結ばれた。


 戦争が終わって程なく流行り病も一度は収束したかに見えたが、しばらくするとまた発生する。最近では短期間で収束するようになったとはいえ小規模に今も各地で繰り返している。

 未だに原因や治療法は分からないままだ。



 そんな流行り病の事がなくともフィリップは王位継承者としていずれ結婚し、跡取りとなる子供をつくることは最も重要なことだとちゃんと理解している。

 けれどまだ婚約者も婚約者候補もいなかった。


 今の国王は友好の証として王女を娶り、今後も定期的に王族の誰かが縁を結んでいく予定だ。しかし血が混ざりすぎるのは好ましくないのでフィリップの代は国内の貴族から選ぶことになっている。


 ところが良い相手がいないのだ。

長々と説明回でした。読みにくくなかったでしょうか?



次回予告!

フィリップのこと、まだ続きます!!

 _φ( ̄ー ̄; )



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