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36話 マルセル・ジラール辺境伯

 ことは慎重に運ばねばならぬ。



 これが最後、逃すと永遠に聖なるホペイシアの血を再興させるチャンスが訪れることはないだろう。


 私は既にホペイシアの純血種ではない。私の3代前には既に人間と混血になっていたのだから。




 聞くところによると、私が生まれる前にもう氷の女王は絶えて久しく曽祖父の時代にはホペイシアは男ばかりで100人足らずだったという。その頃、寿命がとても短く私の祖父や今の私ほど長生きするものは稀だったらしい。

 彼等はこのまま地上から消え失せるより、人間と血を交えてでも我らの血を残す決断をした。



 誰からも知られていなかったホペイシア達は氷の山を下り、人間の言葉で少数民族『銀の民』と名乗り、人の前にその姿を現した。



 折りしも人の世界では、何十年にも渡り幾つもの小競り合いが繰り返された末に残った2つの勢力が最後の戦いをしているところだった。


 勝つのはどちらでも関係ない。我々は人間の女が欲しかっただけだから。それを掠奪ではなく、正攻法で手に入れる事がこれからホペイシアが生き残っていく為に必要なことだったのだ。



 銀の民の1人が激しい合戦の中、奥へ奥へ歩を進めると一層激しさを増していた所があった。大将らしき男がもう一方を城の奥にある隠し部屋に追い詰めたところだった。その大将が大声で呼ばわっていたから分かったのだ。

 手前にいる雑魚どもを全員切り捨て、その大将の首も切って落とし、その首を奥に隠れた男の前に持って出た。


 斯くしてこの隠れていた男がプリュヴォの初代王となった。


 そして銀の民の1人に侯爵の爵位をやると言った。


 銀の民の1人は他の人間どもと同じ名の爵位を得る事を好まず、辺境に住まうから辺境伯とせよと言った。辺境は我々が守ってやろう、我々をお前の国の民とすれば良いと。


 こうして銀の民の1人は辺境伯の爵位を賜り、このプリュヴォ王国の一員となった。初代王はこの男の裏切りを恐れ自分の娘の王女を降嫁させた。

 人間の中での頂点など興味もないが、爵位と王女は我らに利するだろう。苦労せずともより上等な女が手に入る。


 これがジラール辺境伯の始まりだ。



 しかし、人間の国の王女と言えど所詮は人間だ。


 ホペイシアの血が人間と混ざるにつれてその特徴を持つ者が少なくなり弱くなった。産む子の数も少な過ぎる。やはり病気はしないがその多くが早逝なのだ。

 その為に再び地上からその血そのものが消え失せようとしていた。もうホペイシアは忘れ去られ、銀の民の存在さえおとぎ話になりそうな、今まさに風前の灯だったのだ。



 例え銀の色を誇る私の子であっても、もう銀の髪と目を持つものはヴィクトルのみ。それでも人間より遥かに高い身体能力は5人とも持っていた。しかしその子どもたちの世代はその良き特徴がより消えかけているようだ。


 リアムの子達に至っては色どころか体が大きく頑強で身体能力が高い、病気をしないという身体的特徴も消えかけて、もう普通の人間並みかそれ以下の者まで出始めた。


 もうこれ以上は限界だったのだ。



 そんな中でクレマンの所に思いがけず女児が誕生した。


 ニコラには銀の髪と目はしていないものの銀の民の他の特徴は強く出ていたから、クレマンの子には期待していたのになかなか次を作ろうとせず、やきもきしたものだった。


 だが、リリアンと名付けられたその娘には、祖父から聞いた古の『氷の乙女』の特徴がはっきりと見られたのだ。


 美しい銀の髪と、氷の山肌に晴れた空の色を映すかのような銀空の氷の瞳を持つ娘が!


 遂に待望の氷の女王が復活する時が来たのだ!

 あの娘に残りわずかなホペイシアの種を蒔けば、いくらでも無限に子を産み、ホペイシアは再興できる。


 祖父が生きていたら、我が血筋に氷の女王が生まれた事をどんなに喜んだことだろう。親子三代に渡る夢が最高の形で現実になると思うと武者震いがおきるわ。



 銀の民の名を脱ぎ、氷の山へ帰ろう!

 我らが誇りを取り戻すのだ!



 これで再興できると喜んだのも束の間、それを成すには少しばかりの祖父から伝えられた話だけではどうすれば良いのか到底知識が足らないことに気がついた。そこで氷の山の更に深部にあるホペイシアに関するあらゆる伝説が残されているという、人を寄せ付けることなき『氷の宮殿』を探す事にした。


 祖父から『その時』が来たら氷の宮殿が姿を現すだろうと言われていたからだ。彼らも探し求めていたが遂に見つけることが成らず帰らぬ人となってしまったが、あの時はまだ『その時』では無かったということだろう。



 この6年余りの間、とにかく山中を探索し続けた。なんの痕跡も見つけられないが諦められなかった。


 そして、とうとう見つけたのだ!

 氷の宮殿を!!


 それは私のように寒さに強く雪山に慣れ親しんでいてもなお辿り着くのは不可能な、狭く深い深いクレバスの底にあった。


 いくら山を探し歩いても見つけ出すのは奇跡と思われる場所だが、当然のことと受け止めた。実を言うとこの度は見つかるという確信があったからだ。


 氷の宮殿を見つける数週間前に、私は麓近くの水場で今まで見た事のない毛色の灰色の仔馬が弱り横たわっているのに遭遇した。


 そのたてがみは銀色にも見えないこともない。


 いや、これはどう考えても銀の馬ではないか!?



 私はこれを吉祥と捉え、担いで連れ帰り世話をして元気になったらリリアンに贈るように、そしてリリアン以外その背に乗ってはならぬとヴィクトルに言い置いて、単身山に戻り未だ未踏の最深部に歩を進めた。


 雪山での足取りはいかに私であろうとゆっくりだ。落ちたら出られず死んでしまうこともある深い割れ目クレバスがあるからだ。

 表面に見えている場合は避けて移動すれば遠回りになろうとまだ良いが、上に雪を被っている時はそこにクレバスがあると分からない。そういうヒドゥンクレバスがありそうな場所はなかなか先に進めるものではない。


 雪に長い棒を刺しながら1歩ずつ前に進めるかを確認し、もし穴があれば慎重に横に移動しながら気が遠くなるような作業を繰り返すのだ。スッと入る時体重をのせてしまえば棒もろとも落ちてしまう危険な作業だ。


 そんな地道な探索をしていたある日、雪上にテンの足跡がついていた。それがずっと続いていたから油断もあったのだろう。


 頭上を影がよぎり。見上げるとイヌワシが飛んでいた。

その勇壮な様を目で追っていた次の瞬間にバランスを崩し、私はヒドゥンクレバスに落ちたのだ。




 しかしまったく幸運な事に偶然、そこにある、氷の宮殿にたどり着いたという訳だ。




 リリアンもそろそろ言い伝えにあった『氷の女王の銀の馬』を駆り、この地『氷の宮殿』に戻る日が近づいたということだろう。


 何もかもが良い方向に進み始めた。




 私の手で、必ず達成してみせる!

 リリアンを『氷の女王』としてホペイシアの再興を!そして私は蘇ったホペイシアの真の初代王となり伝説になるのだ!

登場人物紹介


マルセル・ジラール辺境伯 リリアン達の父方のお爺ちゃん 62歳

 辺境の人にしては長生きです

 ヴィクトルは長男

 クレマンは三男



ジイちゃん、お前ってやつはリリアンに何しようとしてるんや〜

 _φ( ̄▽ ̄; )




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