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32話 早朝の君

 タッタッタ


 休日の早朝。残すところあと4日、まだ試験期間中だが気分転換に走りに出ることにした。

 王都のセントラル広場へ通じる大通りを今日も走っていた。


(彼女はマルタン妹だった)


 宰相邸はニコラのいつものランニングコース沿いにある。いつもはマルタンはまだ寝てるだろうなと思いつつ走るその道を、今日は彼女はまだ寝てるだろうかと遠目にその邸に目をやった。


 いつもは誰の姿もない2階の出窓にその姿を見つけた。


(ソフィー)


 太陽がまだ顔を出していない明るくなり始めたばかりのこの時間に。偶然だろうか、それとも俺が通ると思って?

 まさかと思いつつ期待をしてしまう。


 彼女の視線もニコラを捉えた。絡んだ視線が外せない。こんなにあからさまに見ながら走るなんて相手に失礼なことは分かっているのに。笑顔を向ける余裕も、挨拶をする余裕もない。ただ、見つめ合って走り去るだけ。




 翌日も同じように走っていた。


 今日は出窓に彼女の姿はない。期待しすぎたか、確かに俺がここを通る事を彼女が知っているわけはない偶然だったんだ。そう思って目を前方に戻しかけた時、すぐ近くの守衛ボックスの陰に彼女が立っていた。


 宰相邸は大通りに面しているために裏門が無い。正門には守衛が常時立っているが、使用人や出入りの業者が通るこちらの通用門は正門から離れた所にあって、今は堅く閉ざされていて誰もいないはずだった。


「わっ、おはよう、ソフィー」たった今、気にかけていたその人が目の前に現れて驚いた。ニコラは足を止めて声をかけた。


「おはようございます、ニコラ様。こんなに早い時間に走っていらっしゃるのですね」


「ああ、今の時間なら人通りもなくて何度も足止めされたりしないからね。君は昨日はあの窓の所にいたね、いつもこんなに早起きを?」


「あの、いいえ。昨日と今日、早く起きてしまっただけです」


「眠れなかった?」


「いえ、その。・・・シリル様にニコラ様が朝、ここを通ると教えていただいたものですから。あの、ごめんなさい。走っていらっしゃったのに足止めをしてしまって」


「いや、いいんだ。今日は、今日も君がいるといいなと思って走っていたから」


「えっ!?」

 心拍が跳ね上がる。顔が熱を持つ。ソフィーはいきなりニコラの無自覚攻めをくらってしまいあたふたと動揺が隠せない。


「シリルとはよく話をするのかい?」


「あ、は、はい。あの、屋敷がすぐ近くで顔を合わせることがよくあるものですから。それに私の友人が彼の婚約者なものですから」

 ふぅ、ソフィーは話している内になんとか平常運転を取り戻した。


「ああ、なるほど。シリルの婚約者は彼の従姉妹と聞いたんだけど、そうなの?」


「はい、そうです。幼少期から相思相愛だと2人とも言ってます。ずっととても仲が良いですよ」


「へー、それは羨ましい話だな」ニコラは素で羨ましがってしまった。



「ならばソフィーは?君も婚約者がいるのか?」


 想いを寄せ続けたニコラが近い。

 その銀青の瞳に射抜かれたらハートはもうクラッシュ寸前だ。


「あっ、いっ、いいえ・・・」


「では、私が立候補しても?」


「ひえっ!?ひゃっ、ひゃい」


 ソフィーは余りにも夢のような展開で飛び上がってしまいそうになったが、なんとかコクコク首を縦に振って返事を返した。


 ニコラはやる時はやる男なのである。



「では、試験が終わった翌日にデートしようか、改めて誘うから予定をあけておいてくれないか?実はその次の日から領地に帰らないといけないから、当分こっちに居ないんだ」


「・・・は、はい」


 口を開くが胸がいっぱいで声が出ない。一呼吸置いて返事をした。彼が私を誘ってくれているなんて、本当に本当に夢みたい。



 そこでニコラはソフィーの持っている可愛らしくリボンをかけた包みに目を落とした。


「それは?」


「あの、これは先日のお礼にニコラ様に差し上げられたらと思ってチョコレートを用意したのです。これではとても足らないほどの御恩ですが、シリル様に甘い物もお好きだと聞いて・・・。でも、今はお荷物になってしまいますよね、改めましょう」


「いや、ありがとう。走ってお腹が空いてるんだ。今、開けて食べてもいいかな?」


「はい、もちろんです。どうぞ」

 ソフィーはニコラに包みを開いて見せた。手が、手が震えるっ!


 2色の平たい正方形のチョコレートには、ニコラのイニシャルのNが洒落た飾り文字で入っていた。

 それがニコラのために心を込めて選ばれた物だと教えてくれる。

 今日、彼女が早起きまでしてここに居たのはやはりニコラを待つ為だったんだ。



 ニコラはそのチョコレートよりも食べたい物が出来た。



 通用門の柱に腕を付き、彼女を囲うと


 その可憐な唇に口づけをし、味わった。



 ニコラはやる時はやる男。


 そして、意外に手が早かった。

早起きは三文の徳!


いや、三文どころじゃないだろ、ニコラはソフィーの心を手に入れた!!


 _φ( ̄▽ ̄ )




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