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31話 出会いはみんなの願い

 フィリップがリリアンにお揃いの指輪を贈ってから、フィリップは右手の薬指に指輪を嵌めている。

 それがやけに目立つ。気がする。


 ニコラは思った。

 女嫌いを通していた殿下と同世代の我々は、全く女性と接触がなく知り合う機会を失っているのだ。これはかなり苦境に立たされているのではないか。ぼやぼやしていたらすぐ学園を卒業だ。

 今になって気がついたが、子供の頃から殿下抜きで女性と交流してたら良かったことない?


 なのに自分ばっかりサッサと相手を見つけてイチャイチャして、俺たちにはストイックな生活を未だに強いたままではないかと。



 学園が男女別々の校舎で別々に授業を受けるようになって久しい。もう何年か経つのに、いまだに校舎は別々のままだ。同じ授業でも別々に行われるので男性の行動範囲と女性の行動範囲は分断されていてすれ違うこともない。


 あの時は理由を明言されていなかったが殿下の女性恐怖症の発作を引き起こさないように配慮しての事だった。殿下は花祭のときにはっきりと女性恐怖症を克服し、女嫌いもいつの間にか解消されていたことに自ら気がついて皆の前で王太子としての誓いを立てられたのだ。


 もう、男女共学に戻していいんじゃないか?

 そもそもこの貴族が通う学園というものは、貴族としての心がけを学び、ふさわしい人となるということはもちろんだが縁を繋ぐという目的がある。友人を作る、皆の人となりを知る、中でもかなり重要なところに異性と知り合うこと、つまり将来の良い伴侶を見つけるということがあるのだ。


 それだけじゃない。


 だいたい、リリアンがタウンハウスに初めて出てきた今回。久しぶりに会って抱き上げるのは兄のニコラであるはずだった。可愛い妹に会えるのを楽しみしていたのに、この先もう抱き上げる事は永遠に無いだろう。もう今は殿下の思い人になったのだから。


 そういうわけで、溜まっていたのだろう・・・色々と。



 ストレスが。



 らしくもない行動をとった。

 共学に戻すよう働きかけようとしたのだ。




 殿下に直接言って共学に戻してもらうよう働きかけても良いのだが、彼が悪いのではない。なんだか古い事を持ち出して言外に責めるような事はしたくないし。生徒会に上げてみるか・・・。


 試験まであと3日というタイミングだった。殿下と選択授業が違った教室の移動がてら生徒会室にふらりと寄ってみた。

 成績優秀なシリルがいるはずだ。彼はずっと生徒会役員だ。


 ノックをして、中からどうぞと返事があった。


「シリル、要望を出すから専用の紙をくれるか」


「珍しいな、ニコラじゃないか。何を出す気だか聞いても?」


「ああ、そろそろ共学に戻してくれって出そうかと」


「やっぱりな。この2、3週間は連日そういう要望が寄せられてるよ。殿下に合わせて俺らの学年は特に婚約者が決まっていない者ばかりだからな。張本人の殿下だけ婚約者が出来たって皆焦れていたんだろう。女性部からも届いているよ、ほらこれ」



 机の上には分厚く綴られた要望書が数束。女性全員分ありそうだな。


 それらとは別にデカデカと嘆願書の文字。そこには カトリーヌ・アングラード の名が。


 うわ、圧が違う。


 カトリーヌも出会いを求めているということか。


 いったい誰が『引き摺りまわし令嬢』カトリーヌの餌食に狙われているんだろう。くわばらくわばら。


 となるとその重ねられた下の紙はだいたい分かった。突き倒し令嬢イザベラと狂犬令嬢パメラあたりだ。まあ、彼女達は殿下が好きだったくらいだから相当な面食いだ。俺は関係なくて良かった。



「おい、ニコラ。何考えてるか珍しく顔に全部出てるぞ。これ見て『うわ〜』って顔だ。自分には関係ないって思ってるだろう?だが、喧嘩令嬢の3人にお前は特に気をつけろ」


 カトリーヌの嘆願書をポンポンと叩きシリルが言った。


「なんで俺が。一番関係ないだろ」

 有り得なさすぎて笑ってしまう。


「これだからね。自覚した方がいいよ、殿下が決まったら二番手はお前だって皆んな言ってるよ」


「まさか、側近にはならないって公言しているし、地方の伯爵家だ。ウチの領のメイン産業は畜産だぞ。令嬢方には王都で宮殿勤めが人気だって叔父が言ってたよ。って考えると相当俺ヤバイな。図体でかいし顔怖いし。個人で出さずにA棟でも署名集めるか」


「そうかな〜?まあいい。そんなニコラに朗報だ。さっそく試験は男女同じ教室で受けることになったんだ。別々だと教室と監督教員を倍の人数用意しないといけないから無駄な事はやめようって教員の方から提案があってね」


「本当か?前情報なしにそんなことをされたら緊張して実力発揮できないやついるかもな」


「あはは、お前が緊張とか、笑える」


「俺じゃないよ、誰かだよ」まあ、隣に座るのが誰かによっては気になるかもな。

「ところでシリルは決まった人がいるのか」


「まあな」


「えっ!抜け駆けか?誰だよ相手は」


「ふっふっふ。予鈴がなったよニコラくん」


「今度教えろよ、じゃあな」


「ああ、じゃあ」


 そのまま教室に戻った。何やってんだか駄弁っただけで用紙も貰ってなかった。




 周りのやつらに聞くとシリルは従姉妹と婚約しているらしい。なるほど、そういう手があったか。残念ながら俺には使えない技だがな。従兄弟は何故か全員、男だから。



 その日の昼過ぎ、同意する者は記名せよと紙が回ってきた。見ると署名を書くようになっている。共学の要望書提出の代表者の欄に殿下が名前を連ねて下さっていた。


 シリルが各学年ごとに取りまとめて学園に上げようと用意してくれていて、すでにあの時は他のクラスを回っていたらしい。それを早く言え。




 いよいよ試験が始まった。


 初日は領地経営学だ。これは領地を継ぐ予定の者がとる選択課程だ。さすがに女性はほとんどいない。

 でも、試験会場に2、3人いるだけで視界が華やかに感じてしまう。


 3日目の法学、5日目の数学になると必須過程だ。試験会場に入っただけで女性が多すぎて目がチカチカしそうだ。

 丸暗記した重要な法律や公式が頭から飛んでいかないように集中する。単位を漏らさず取って休みを満喫するために。



 その日は午前と午後に試験があった。

 昼食をとった後、殿下達と話をしながら階段を上がっていた。


 上から女生徒がゾロゾロ降りて来始めた。もう殿下を女性がいるというだけで庇う必要はない。

 後ろで情報通のやつが言った。女性も実技のあるテストで時間がかかって少し遅れて今終わったのだと。



 女性の声で上から「ニコラ様」と聞こえ、目をやると女生徒が降ってくるところだった。


 日々の鍛錬で鍛えた危険察知能力や、動体視力や、瞬発力や、その他色々を駆使しニコラは正しく彼女らを助けた。


 2、3段かけ上がると、

 1人を左腕でその腰を優しく捉えて衝撃を吸収し、胸に抱き込んで落ちるのを止めた。

 1人を右手でその手首を掴んで落ちるのを止めた。ぷらーん。


 その強い体幹で2人分の落下による衝撃をものともせず。


「おお〜、流石だな」と殿下が驚いて拍手を送る。

「こっから落ちてたら被害甚大だったな」

「すげー!いいもの見た」とワイワイ周りが盛り上がる。


 この2人が下まで落ちていたら、大怪我だけでは済まなかっただろう。他の者達も巻き込まれていたに違いない。



 腕の中の女生徒を覗き込んで声をかける。

「大丈夫ですか?」


 彼女は普通に階段を降りていたところを、後ろから来た者、つまりニコラに声をかけようとした女生徒に突かれたのだ。なんの前触れもなく。驚いただろうし、恐ろしかっただろう。


「は、はい。大丈夫です。あの、助けて下さってありがとうございます、ベルニエ様」


 彼女はあの時の令嬢だった。どうやら怪我はしていないようだ。

 そして既にニコラの事は彼女に知られているらしい。


「俺の名を?君の名は?」優しくサポートして階段に立たせて聞いた。


「ソフィー・オジェと申します。本当に助けてくださってありがとうございました」と頭を下げた。


「オジェ嬢、謝罪させますから、ちょっと踊り場に上がって待っていて下さいますか」


「はい」


 さてと、徐に掴んだ腕を引き上げて、もう1人を階段に立たせる。


 本当はこいつも優しく助ける事は出来たのだが、そこは拒否する。


「あ、ありがとうございます。私はか・・・」


「カトリーヌ嬢、これはどういう事かな?あなたは彼女を突き飛ばして階段から落とすつもりだったのか?」


 しまった!

 名乗らせずにおこうとしたのに、大失敗だ。うっかり名前を呼んでしまった。内心焦るニコラ。

 しかし何でもないように目を眇めてカトリーヌを見た。


「はわわ、素敵、しびれる。ニコラさまぁ」


 カトリーヌの反応がおかしい。なぜ私の名を呼ぶ、教えた覚えはないぞ。

 何か聞いてはいけない気がする。これ以上は。


「あなたは彼女に謝罪する気があるのか、ないのかハッキリ返答いただこう」


 さすがのカトリーヌも謝罪をしておいた方が心証が良いだろうと判断した。

「謝罪致しますわ」


「そこのあなた、私がうっかりつまずいてしまった時、あなたがちょうど前にいましたのよ。巻き込んでしまって申し訳なかったですわ」


 取り巻きの令嬢供もウンウンと頷いている。

 まあ、言い方がアレだがカトリーヌならばこれでも及第点だろう。下手に関わらない方がいいし。


 ソフィーもそれで了承した。

「はい、その謝罪を受け入れます。ベルニエ様のおかげで誰も怪我をせずに済みました。私も怪我をしておりません」


 ニコラはカトリーヌに言った。

「よろしい、今後は気をつけるように。では!」

 長居は禁物だ。


「はい」カトリーヌは失態をしたばかりのタイミングで売り込むより、改めてアタックした方が良いと思い、出直すことにしたため大人しく、有り得ないことのようだが大人しく去って行った。王妃(?)教育の賜物か?



「じゃあ我々も行こうか」

 フィリップは一連を横で見ていたが、面白げに笑って階段を上がりだした。

 他の教室を移動していた者達は、少しの物見高い見物人達を残し、もうとっくに捌けている。


 そしてあろうことか

「オジェ嬢、災難でびっくりしただろう。気をつけて行きなさい」

 などと、声をかけて通り過ぎている。



 あのフィリップ様が!オジェ嬢に!?

 ちょ、殿下、急に手を広げ過ぎ!



 などと驚いている間に、他の面々も通り過ぎざまに声をかけているではないか。

 皆、出会いに飢えているのは分かるが、お前等俺を差し置いて抜け駆けだろ。


「オジェ嬢、お気をつけて」にっこり笑って去る者。


「大丈夫だった?私はルネ・カザール以後お見知り置きを」とあいさつをする者。


「君、怪我はない?あの、ソフィー嬢って呼んでよいかな?」馴れ馴れしい者。


「足を挫いたりしていませんか、もし良ければ私が保健室に同行致しましょう」お前、下心アリアリか!?


「可愛らしい方だ。どうぞ私に・・・」


 そこでそいつの頭をむんずと掴んで回れ右させる。

「お前、ここをどこだかわきまえろ」



「ソフィー。大変だったね。兄上様は元気かい」と後ろから更に親しげに声をかける者がいた。シリルだ。


「はい、シリル様。兄は元気でやっております」と笑顔で返している。


「シリル、オジェ嬢と知り合いか」


「ああ、ニコラが彼女を知らないとは意外だよ。ソフィーは宰相補佐殿の妹だ」


「え、マルタンの妹?そう言えば私と同い年にいると聞いたことがあるが、会ったことなかったかもな。私はいつも殿下と共にいたから」


「あの、ベルニエ様。兄を名で呼んでおいでならばどうぞ私の事もソフィーとお呼び下さいませ」


「ええ、では私のこともニコラと。ソフィー」


 思わぬところであの令嬢と知り合い、名を呼ぶ許しを得てしまった。

 ラッキー!!




 試験会場に入り、シリルはニコラの様子をチラリと見た。

 一見いつも通りだが、私には分かる。あの口元は浮かれて内心ルンルンに決まっている。彼はこの後の試験で実力を発揮出来るのだろうか。


 実は先ほど、下から見ていたシリルはニコラが噂通り本当にカトリーヌのターゲットになっているのを知り、うわぁ最悪だろと頭を抱えたが、結果的に出会いを求めていたニコラがソフィーと偶然知り合えて良かったと思っていた。


 なぜならソフィーが一目惚れをしたあの日、シリルに『あの背の高い、筋肉のすごい彼』の事を尋ねていたから。それからずっとニコラに心を寄せていることを知っていたから。


 だから、ちょっとアシストしてみたんだ。二人の出会いをね。

シリル様、気が利く〜ぅ!!

そしてまた

パメラの異名が増えている!?

 _φ( ̄▽ ̄ )



登場人物紹介


シリル・マルモッタン 生徒会役員あるときは生徒会会長 16歳

 成績優秀

 婚約者がいるらしい

 ソフィーをよく知っているっぽい



いつも読んでくださいまして、どうもありがとうございます!


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