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29話 颯爽と現れたのは

 リリアンが朝の支度をしてもらい、マルクが専属護衛たちとやりあってる時、クレマンとジョゼフィーヌは食卓に付き、もう来るであろうリリアンを待ちがてら家令のエリックから不在時のあれこれの報告を受けていた。


 もちろん、王都にいる間にも受けているし、この後にも細かく聞くのだけれど。



 そこに他領に放っている特派員という名の密偵から知らせが届いた。王都と隣接しているアングラード領からだ。


『速報:5月31日午前11時 アングラード領に 国王陛下が突然来訪し 領主である侯爵家 領民共に大騒ぎ 抜き打ちで視察か』



「へー、国王様の視察なんて初耳よね。リュシアン様ったら変わらないわね、突然思い立って突拍子もないことをされるところが」


「そうだな、でもあの決断力と行動力は国王たるに相応しいよ。ま、相手をする周りは大変だろうけどな!」


「そうね、大変過ぎよね!あはは」


「無茶するからなーあの人!アッハッハ」


 まさかこんな遠いところまで昨日の今日で来れる訳ないので全くの他人事である。


 しかし、アングラードに常駐させている特派員の新人がうっかり国王一行に直接諜報してしまい、逆にその後の国王の移動に関する情報を主人であるベルニエに送ってはならないと全特派員に命令が下っていた。


 唯一届いた速報からそれを読み解かねばならなかったのを、まだ2人は知らない。




「ふう、お父様、お母様おはようございます。エリックもおはよう、リサおはよう」


「お早う、リリアン。疲れは取れたかい?」


「はい。旅の疲れは大したことはありません。今朝、部屋の外が賑やかでしたし、これから別の疲れがきそうですが」


「ああ、あれな。なんでこんな我々が帰ったばかりのこのタイミングで朝っぱらから来るかなあいつは。ところでそのマルクはどうした」


「護衛の方々が私が朝食を食べる間、しばらく捕まえていて下さると」


「さすが殿下の選んだ護衛達は気がきくな!それはいい。では我々は穏やかにまずは朝食を食べようではないか」


「はい」


「ねえリリアン、さっそくだけど国王陛下から書簡が届いているわ。リュシアン様がおっしゃられていた王妃kyっ・・・ごほっ、ごほっ、んんっ、んんんん、王宮に出入りする為のマナー教育のことだけど、こちらに講師を送るってことだったでしょう?それは再来月リリアンが登城してから始めるって。それまでは今まで通りでいきましょうね」


「はい」


 お母様、ひどくむせていらしたけど、大丈夫かしら。



 私の朝食は普段通りのパン・ド・カンパーニュをスライスしたものを軽くトーストし、バターとオレンジマーマレードを塗ったものとミルクティーだ。もちろん、本邸の食事も美味しい、だってこっちもジェフが作ってるし。


 ジェフは本邸の料理長なのにサラが私達と王都に行くことになって離れ離れは嫌だと付いて来ちゃったのよね。王都の料理長は滅多にないチャンスとちょっと早いバカンスに行っちゃって。


 だけど、王都のパンは美味しかったな。と思っていたらお母様もそうだったみたい。


「王都で食べたバゲット、美味しかったわよね。あれ、また行って食べたいわ。ま、昨日帰ってきたばかりだけどね!」


「ああ、さすがオーギュスタン様だ」


 お父様が変なことをおっしゃってるわ。パン屋に様をつけるだなんてマナーの先生が聞いたら怒られちゃうわよ?しかもなんだか大層なお名前ね。


 オーギュスタンだなんて、まるで王族か貴族みたいじゃない。


「ええ、オーギュスタン様は情熱的で努力家でいらっしゃいますからね。ここまでにお成りになるなんて並大抵のご苦労ではなかったでしょうに」


 お母様までパン屋に。そこまで?そこまですごいパン屋だったのね。うん、確かにフィル兄様と食べたあのカスクートサンドのパンもすっごく美味しかったわ!


 お口にあーんってして食べていただいて。


 あーんするフィル兄様って、カッコ良くて可愛いの。ふふ。


 場所を弁えずうっかりニマニマしはじめるリリアンだった。




「おう、リリ!ようやっと起きたか!寝坊助め」


「ああ、マルク。おはよう」

 とりあえず面倒なので反論せず挨拶だけしておく。



 ジョゼフィーヌがマルクに聞いた。


「ねえ、マルク。あなたどうやってここまで来たの?1人で来たの?あなたまだ7つでしょ」


「7歳だからって子供扱いすんな!もう大人だ。そんなの決まってるだろ。1人で馬で来た」


「大人ねえ・・・。それでいつ出発したのよ、家の人には言ってきたの?」


「確か出ようとした時にピエールが追いかけてきて聞くから言ったような。ピエールも馬鹿だよな、走って馬に追いつくはずないだろーによ」


「はあ、ピエールを困らすな」


「お父様、ピエールって?」


「リアム家の老執事だよ。リアムが赤ん坊の頃から面倒見てくれてるんだ」


「で、家はいつ出発したの?マルク」


「んーと今日何日だ?あ、一ヶ月ちょっと前だな!途中ちょっと迷ったり、警棒持った変なのに追いかけまされてちょっと戻ったりしたけど、まあ、なんてーこと無かったわ」


「頭痛い。なんなの?無茶苦茶だわ」


 リリアンは頭を抱えた。


 遠かったから年に2、3回で済んだマルクとの遭遇は、自力で来るようになったらいったい何回になるんだろう。というか、帰る気はあるのだろうか。


「お、リリアン。頭痛か?アランじゃあるまいし俺らは頭痛とかならねーだろ、お前は変わってんな!」


「確かに頭は痛くないけど比喩よ!難しい表現であなたには分からないだろうけどね!頭が痛いと感じるほど、あなたがあり得ないってことよ」


「そんなに心配すんなって、オレは無敵だからな!」


「ああ、話が通じない。疲れた」


「お前、疲れたってさっきまで寝てたくせに何言ってんだ?」


「いやいや、その疲れたじゃなくて。もうこの無限に続く意味ないやり取りもう嫌よ!」


 ふと顔を上げると護衛の方達が(あっちへ連れて行っときましょうか)って顔で見てる。そうして欲しい。




「奥様、また書簡が届きました。リアム様からでございます」


「ああ、ちょうど良いところへ。いつ迎えに来るのかしらね」


 いそいそと封を開けるジョゼフィーヌ。期待の目を向けるリリアン。祈るように指を組むクレマン。


「えっと、何々?祭りから帰ったらマルクがベルニエに向かうと出て行ったと聞いた。そちらに向かっている模様。ジャンとアランを迎えにやる。私は仕事があるから行けない。ではよろしくだって」


「ジャンとアランだって?状況は悪化してるじゃないか」


「ええ、しかも2人は学園生よ?試験が終わるまでこっちに向かえないんじゃない?それならニコラの方が先に着くでしょうからマルクはニコラに頼んだ方が早いわね」


「ダメだよ。ニコラは殿下を案内してもらわねば。今回は殿下もリリアンに会う為だけに来るんじゃないんだ」


 うう、お父様の言葉が地味にリリアンのハートを傷つける。



「しかし、リアムん所のあいつらはなんであんなに面倒なのばっかりなのかね。インテリ気取りの小難しいジャンにあのアランのジメジメしたのが来たらもう・・・。

 もう保護者無しで来さすなよホント。

 はあ、女難の相っていうのを聞いたことがあるが、男難の相っていうのもあるのか?リリアンは変なのばっかり引き寄せて」


「お父様、ひどい。あんなのを引き寄せたつもりはありません。ぐすん」


「あなた、超大物釣り上げたリリアンに男難の相なんてあるわけないでしょう。ただ見境なくモテてしまうだけですわ。大体彼らは従兄弟だし」


「オレは大物か」喜ぶマルク。


「今の話の何をどう聞いたらそうなるんだ。

 えらく満足気に都合のいいところだけ聞いてるが、違うぞ。

 リリアンは王太子フィリップ殿下の婚約者候補になったのだ。お前は1ヶ月も前に家を出たから知らなかったんだろう。

 大体リリアンにその気がないし、リアムの所の息子と結婚してもウチには何のうまみもないのだ。この際ハッキリ言うがマルク、お前にリリアンを嫁にやることはない絶対にだ。諦めてくれ」


「はあ?何言ってるんだ、諦めるとか関係ない。オレはリリと結婚するんだ。誰だそんな奴知るか!」




「王太子をそんな奴呼ばわりする不敬な奴は何処のどいつだ?」


「ギャアー!!」「ワアー!!」


「お父様、お母様!?あっ、国王陛下様、いらっしゃいまし、えっとお会いできて光栄です。どうぞ中へお入りになって下さいませ」


 のっそりとドアから前触れなく現れたのはリュシアン国王陛下だった。


 なぜここへ?

次回予告!_φ( ̄ー ̄ )


勇者マルクは愛するリリアンのため

魔王リュシアンを倒せるのか!?


 


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― 新着の感想 ―
[一言] マルクみたいな勘違いキャラ時々出てきますが、何故かマルクは憎めないですねぇ 子供だからかな?
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