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28話 マルク参上

「おばさん、久しぶりー。リリ居るー?」


 出た。リアムの息子マルク!


 彼はリリアン親衛隊の隊長を自称する男。7歳の従兄弟だ。彼より年上の従兄弟達も親衛隊員であるのに隊長を自ら名乗っている事からもその性格は推して知るべし。


 父親が港湾警備隊の隊長をしているため、港町に住み町のものと親しく交わっているせいで性格は庶民感覚が強いのかざっくばらんで、いや、それは関係ないかもしれない。


 ハッキリ言って図々しい。



「ええ、久しぶりね、マルク。その挨拶のされ方、いつまで経っても慣れないわ。私達王都から10日もかけて昨日戻って来たばかりなのよ。リリアンは疲れてまだ寝ているわ」


「オッケー!じゃあ、オレ起こしてくる!」


「いや、だから疲れてるんだって、」ああ、行ってしまった。


 あの台風小僧は。


 今、1番相手にしたくないタイプなんだけど、そういう時に限って来るのよね。


 しかし、港からベルニエまでどの位あるのよ倍とまではいかないにしてもそれに近いわ。まさか1人で来たの?いったいいつこっちに向かったのよ。ちゃんと親に言ってるのかしら。


 はぁ、と息を吐き仕方がないので後に続く。



 リリアンの部屋の前に着くとやはり遣り合っていた。


「どけよ、リリを起こすんだ。オレはリリの従兄弟だ。怪しいヤツじゃない」


「ダメです、従兄弟殿。リリアン様が寝ておられる所に近づくことは許されません。今後、部屋に入ることも許されません」


 やはり彼らがいて良かった。


 マルクはフィリップが寄越した護衛の2人に遮られリリアンの部屋の前で足止めをくらっている。


「なんなんだよ、お前ら。リリアン様の護衛って、オレはリリアン親衛隊隊長様だぞ!」



 マルクよ、お前はアホなのか。どう見てもその護衛の格好は王立騎士団の護衛服だぞ。



「ですから私どもは王太子殿下からリリアン様を護衛するよう仰せ付かったリリアン様専属護衛隊です。これ以上無理なことを仰るなら、私もこの慇懃な態度を改めさせていただくが」


「はあ?王太子殿下?専属護衛隊?訳わかんねえ!クソ。リリ、早く起きろ!向こうで待ってんぞ!」




 ドアの外の騒ぎにリリアンは誰がそこにいるのか気がついた。

 ああ、まだ夢の中でまどろんでいたいのに・・・もう起きなければマルクはおさまらないだろう。




 このマルクこそがリリアンの『急所狙い』の餌食になった対戦相手だ。


 ただし、大変な騒ぎの内容については多分フィリップが想像したものとは違うだろう。



 まだ祖父伝授の護身術は護身術でしかなく、どのくらい役に立つのか試してみようということで、祖父やおじさん、従兄弟達の立ち会いの元にマルクと勝負した。


 いつもマルクがリリアンが嫌がっても抱きついてきたりするので、それを自分で撃退できるかどうかという訳だ。


「リリーっ!」「いや〜来ないで〜」結果、リリアンが逃げ回る展開になってしまった。


 部屋の角に追い詰められ、祖父が「勝負あった、マルクの勝ち」と声を上げて制止しようとした直前、危機感を強めたリリアンが『急所狙い』を繰り出したのだ。


 声なく崩れ落ちるマルク。


 さすが祖父が必殺技と伝授してくれただけある。すごい効き目だ。


「リリアンの勝ち!」


「やったーっ!!」と飛び上がるリリアン。


 しかし、マルクはまだ蹲ったまま動けない。


 マルクの父であるリアムと兄弟達がそばに行って助け起こそうとするが、マルクは動かすなと声にもならず首を弱々しく振るばかり。


 その時、リアムおじさんが余計な一言を放った。


「あーあ、これはリリアンに責任とってもらわねば!マルクは嫁を貰えないぞ」


 それを聞いたマルクは「え?どういう意味?」とガバッと顔を上げる。


「マルクのが使い物にならなくなったら、誰も嫁さんに来てくれないだろ?だからリリアンに責任とって嫁に来て貰わないとな!」と笑って言うものだからマルクは大喜び!


「オレ、責任とってリリアンと結婚する!嫁にもらってやる」


 それを聞いたリリアンが「やだー、やだー、いやだー」と泣き出し、


 マルクが「泣いて喜ぶなって、笑って喜べよ」


「いやー、わーんわーん」もう大泣きだ。


「よしよし、いい子だ。さっそく結婚式の日取りを決めようぜ!」


「やーだー、うおーんおんおん」とリリアンは声が涸れるほどの激泣きだ。


 マルクが喜びリリアンが泣くという無限ループに周囲が困り果てたという、そういう大騒ぎの事なのだ。

 そしてこの騒ぎを発端に護身術は攻撃的要素が追加されていくようになったのだ。



 祖父が「リリアンは『急所狙い』を命の危険にさらされようとしたとき、または暴漢以外に使わないこと。今回は初めてで分からなかったのでリリアンに責任追及はしないこととする。マルクも責任を要求してはならない」と宣言し、ようやく収束した。



 マルクは「そんな〜、もう一度オレにチャンスを!!ねー、リリちゃん?リリアン様!!ほれ、ほれ」などとまだ言って追いかけ回していたが。


 ああ、嫌な思い出だ。

 こんなので私の心を上書きされたくない。




 わたしはまだフィル兄様との思い出の中にずっと留まっていたいのに。


 さすがに6歳、いやもうすぐ7歳になるリリアンでも、あの指輪をもらった時にフィル兄様への自分の気持ちがどんなものなのかはっきりと気がついた。



 『大好きなフィル兄様』より上の『好き』



 だって、あんなに素敵な王子様がリリアンの事をリリィと優しく呼んで大事にしてくれるのだ。好きにならないなんて無理でしょう?誰だって憧れる、誰だって好きになる。わたしだって・・・好きになるに決まってる。


 初めて遭った時、王子様より王子様みたいだと思った。


 リリアンの知っている童話の王子様の絵は、眉がキリッとして口がギュッと一文字にの男らしい顔をしていたからニコ兄様のお友達がまさか本当にこの国の王子様だなんて思いもしなかった。


 リリアンを妹だと言って話をよく聞いてくれて、褒めてくれて、膝に乗せて優しく話しかけてくれる。


 いつも一緒にいたい、いて欲しい。



 だけど、妹だから優しくしてくれているのよ。


 あの花祭のとき、フィル兄様は言っていた。

「これは婚約発表ではない。婚約者候補のお披露目だ。婚約発表はもっと盛大にする」と。



 そう、いつか、隣国の可愛い王女様がいらして、その方とご結婚なさるんだわ・・・。それまでのほんのひととき、私と過ごして下さる。



 リリアンはその右の薬指に嵌められた指輪に触れる。


 私が妹でいられるのは、あとどの位なんだろう?妹でもいい、たくさんフィル兄様といたい・・・。




「リリ!まだ寝てんのか!おい、マルク様が来てやってるんだぞ、ちょ、お前ら、放せっ、・・・」


 なんか五月蝿い声が遠ざかって行く。

 護衛の皆さんありがとう。



 侍女を呼んで、朝の支度をしてもらう。

 エマはお母様の侍女だけどヘアメイクや衣装を選ぶのが得意で、私の侍女のリサは紅茶をいれるのが得意なので朝食のサーブにまわることが多い。


 今朝はエマが来てくれた。

「リリアン様、今朝はマルク様がいらっしゃってます。どういった髪型にしましょうか?」


 マルク相手に着飾る必要はない。それより逃げやすいように身軽でいることの方が重要だわ。


「髪は崩れないようしっかりとコンパクトにまとめてちょうだいね、服も動きやすいワンピースにしたいわ。リボンなど引っ張られるものは無しにしてね」


「はい」


 エマはこれから繰り広げられるであろう追いかけっこ(そんな楽しいものではないのだけど)を想像したのだろう、困り笑顔でブラシを手に取った。

マルクはリリアンの天敵だったのか

 _φ( ̄▽ ̄; )



<登場人物紹介>


マルク・ジラール リリアンの従兄弟 7歳

 リリアン大好き

 リリアンはオレの嫁

 リリアン親衛隊の自称隊長様

 リアムの息子 5人兄弟の末っ子

 唯我独尊オレ様系元気爆発台風小僧


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