295話 ご対面
彼らのことは宮内相マルタンが直々に案内してやってきた。流石は侯爵、VIP待遇と言えるだろう。
そのマルタンは彼らを連れて来ただけではなく簡単に皆の紹介もしてくれたのだが、リリアンのことを「こちらはフィリップ王太子殿下の婚約者候補のリリアン・ベルニエ様です」と紹介したのでジョゼフィーヌ、クレマン、グレースの三人が口を揃えて「婚・約・者!」とツッコむという一幕もあった。
「お父様達ったら息がピッタリ過ぎ!」とリリアンにはウケていたが、皆は目を丸くした。
まあ婚約者になったということより三人のツッコミの勢いに皆は驚いていたようだが、マルタンがまだそれを知らなかったのも当然だ。なにせ国王陛下夫妻でさえついさっき知ったばかりなのだから・・・。
それに気付いたクレマンは改めて「リリアンは先ほど王太子殿下に求婚されて正式に婚約者となったのです」と説明すると、皆それは素晴らしいことだと喜んでくれた。
中でもルイーズは特に喜んで「わあ!」と大きな声をあげるとリリアンの手を握って「すごい、すごい」と連呼しながらピョンピョンと飛び跳ねた。
「ふふふ。どうもありがとうルイーズ」
ルイーズはちっとも取り繕ったところがなく自分の感情に素直で、何をしても可愛らしく微笑ましい。リリアンはそんなルイーズが大好きだ。
それでされるがままに繋いだ手を上下にぶんぶん振られながらリリアンは頬を染めて嬉しそうに笑っていたらルイーズの父であるアングラード侯爵に「ルイーズ、静かにしなさい」と嗜められた。
ルイーズはすぐに跳ねるのは止めたものの悪びれもなくエヘッと舌を出したので、また侯爵に「これっ」と叱られた。
それからルイーズが落ち着いたのを見ると侯爵は臣下の礼をとり、まずはリリアンにお祝いを述べた。
「失礼致しました。
リリアン様、そしてご家族の皆様、この度は王太子殿下とのご婚約誠に御目出度うございます。聡明なリリアン様が王太子妃、そしてゆくゆくは王妃になられましたらこの国の未来は大変明るいものになりましょう。私たちにとりましても大変喜ばしいことでございます」
続いて「ほらお前達も」と促されて、彼の妻や子供達からも順番にお祝いの言葉が贈られた。
「ご婚約御目出度うございますリリアン様」
「リリアン様、ご婚約おめでとうございます」
「おめでとうございます」
「おめでとうございます、リリアン様」
リリアンはそれぞれに「ありがとう」と礼を言い、最後に「私リリアン・ベルニエは王太子フィリップ・プリュヴォの婚約者として皆様のご期待に添うよう努めます」と応えた。
その様子を見てクレマンは「うんうん、七歳とは思えん立派な挨拶だ」と目を潤ませる親馬鹿っぷりを発揮し、ジョゼフィーヌはその隣で「ほんと、ほんと、いったい誰に似たのかしらね?」といかにも自分のお陰と言わんばかりの言い草で胸を張った。
クレマンとジョゼフィーヌからすると侯爵夫妻は既知の仲で、伯爵家と言えどこのくらい砕けた態度でも不興を買うことはないと知ってやっているのだが、それを知らないグレースにはふざけ過ぎているように見えたようだ。
「まあまあ、あなた達ったら他所様の前でそんな態度をとって!リリアンの親はどうなっているのかマナーが悪い人達だと思われてしまいますよ・・・」と言って今度は侯爵の方に向き直り「どうもうちの者達が失礼をしました」と謝罪した。
アングラード侯爵はちっとも気にしておらず「いえいえ、リリアン様のご両親はお二人共大変聡明な方々です」と笑った。
気難しいはずの侯爵が今日は格別の機嫌の良さを見せている。
「それこそお二人の事は私が一番よく存じ上げておりますよ、それに実に情け深い方々です。
この度も我がタウンハウスに何度もご足労いただいて、それはもう素晴らしい案をいくつも授けていただきました」
「まあ、そうなんですの?」
「ええ。
また後で改めてお礼を申し上げさせて頂きたいのですが、伯爵夫人からいただくアドバイスはいつも斬新で素晴らしいものばかりです。その中でも特にこの度は我が領を未来永劫斜陽の危機から救うようなそのくらいで、我が領民にとってベルニエ伯爵夫妻は救世主。とても足を向けては眠れません」
「あらまあ、そうなんですか。
まあなんにせよウチの子たちがあなた方のお役に立てたならそれは良かったです」
「はい。しかしジラール辺境伯夫人、我々は他所様ではありませんよ。まさに今日、私どもはそのご挨拶をしにここに伺ったのですから。
我々は初代王アルトゥーラスという同じ祖を持つ親戚同士ではないですか、あなたの父君アンリ殿下は私の祖父と兄弟です。あなたとも、クレマン伯爵とも、リリアン様とも私たちは王家の血で繋がっているのです」
「ああ、そうでした。
私に親戚が出来たのでしたね。ひとりぼっちだった私に家族ができ、子ができ、孫ができ、そして今、父と母、そして親戚がいたことが分かった。
・・・嬉しいわ、感無量です」
「はい、私もです」
二人は歩み寄り、手を取り合った。




