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236話 招かざる客

「ソフィー、アレはいったい何者なんだ?」


「はい。

 あの方は名をコロンブ・ビュイソンといいまして、結婚詐欺師のような・・・と言ってもお金を盗られるわけではありませんが、とにかく関わらない方がいいような、タチの悪い男です」


「ふうん?」


 それだけではどういう者かよく分からないが、まああんな所であんな事をするようなヤツだから気の多い女ったらしといったところだろうか。

 それにしてもソフィーもブリジット夫人も酷く毛嫌いしているようだ。


 ニコラがそんなことを考えているとコレットがブリジット夫人の横から恐る恐るといった感じで顔を覗けてきた。



「あ、あの〜」



「ん?なんだコレット」



「あ、はい。あの、あの人はコロンブなんとかじゃなくて、ナルシスという司書の人です・・・」



 本来ならば侍女は尋ねられてないことに口を挟むべきではなく、余程言いたいことがあっても空気に徹さなくてはならないというのはコレットも百も承知だ。だけど恋人を犯罪者のようなのと一緒にされたら堪らない、口を挟まずにはいられなかった。


 とは言え、コレットの心の中は色んな感情が渦巻き複雑だ。


 だってコレットが忙しくなるからしばらく会えないとナルシスに告げて、まだたったの4日しか経ってない。なのにもう他の女性と親密になっているとはどういうことだ。

 これを浮気と言わずになんと言う?


 彼に対して不信感も持ってしまうし、裏切られたという気持ちでいっぱいだ。

 だからといってコレットに彼を問い詰める勇気なんてない。

 逆に今すぐここから逃げ出したい、自分の部屋に駆け戻り布団を被って篭っていたいくらいだった。それでもコレットは自分の辛い気持ちに目を瞑り、持ち前の正義感でもってナルシスを冤罪から守ろうとしたのだ。




「ってことは今のヤツと詐欺野郎は別人か?」


「はい、そうです」とコレットは答えた。



 しかし、ブリジット夫人はピシャリと言った。


「いいえ、同一人物よ。

 彼はナルシスとも名乗っているわ、それは通称というか偽名というか、彼が女性を口説く時によく使う名前なの」



「え、え、え、え?


 偽名?


 ・・・口説く??


 ・・・よく???」



 コレットはあまりのことに理解が追いつかず、こんかぎり首を捻りながらブリジットの言葉を繰り返した。



「ええ、そうよ。

 彼に口説かれたことのある女性によると、彼はコロンブという名前が好きではないとかでナルシスと呼んで欲しいと言っていたそうよ。

 相手によってはパピヨンと名乗ることもあるようね。

 だけど本当は社交界にその名が知れ渡ってしまったから本名を名乗れないのではなくって?だってコロンブと聞いたら大抵の女性は危険人物だと警戒して逃げてしまいますもの」



「えぇ・・・そんな、彼が?偽名を使って?・・・本当ですか?

 でも、でも、でもそんな人が宮殿に勤められるでしょうか、何かの間違いではないですか?」



「いいえ、間違いではないわ。

 しばらく噂を聞かないと思ったら、まさか宮殿内にいたとはねぇ・・・」


 ブリジット夫人は首を横に振って大きく溜息をついた。



 どうやら間違いではないらしい。

 ブリジット夫人はナルシスがコロンブ・ビュイソンだと確信していた。


 逆にコレットはナルシスをかばってやれるだけの情報をもうこれ以上持ってない。



(そういえば彼は自分のことを何も話してくれなかった。しかも唯一私が知っている名前でさえ偽名を使っていたなんて)



 今更ながら彼から彼のことを何も教えられていなかったという事実を目の当たりにして心が沈んだ。ブリジット夫人の方がよっぽど詳しいのだから笑える。


 どうやら自分は恋人でもなんでもなく、ただ弄ばれていただけなんだ。と流石のコレットも気が付いた。



「彼のことをよくご存知なのですね」と漏らしたコレットの声はいつになく暗かった。





 ところでだがソフィーとブリジットがコロンブ・ビュイソンについてよく知っていたのは、彼がアルノー家のパーティーにやって来たことがあるからだった。


 それはレティシアの初等部卒業を祝うもので多くの令嬢が呼ばれており、それこそ親しい者もそうでない者もいた。

 もっともパーティーの名目は卒業祝いだったが、真の目的は社交界デビューを直前に控えたレティシアのお披露目であり、社交界に集う淑女達との事前の顔繋ぎだ。

 アルノー家と言えば代々王立騎士団の団長を任され、三騎士の一人ジルと初代王の血を引く王女ララを祖に持つ由緒正しい大貴族だ。

 その奥方のロランス・アルノーといえば社交界の華中の華で、その娘のレティシアもまた新たな社交界の華として咲き誇ることが約束されており、この日は同じ年頃の令嬢だけでなく母親の世代も祖母の世代もいて新旧交えて広く交流を深めることになっていた。


 ソフィーはそんな大人のパーティーに出るには年齢的にまだ早かったが、ロランス夫人とブリジットが仲が良かったからソフィーとレティシアも幼い頃から親しくしていた関係で特別にこのパーティーに招かれていた。




 レティシアとソフィーが友人達に囲まれて楽しくお喋りをしていると、アメリという令嬢が男性を伴って入って来た。その男性こそコロンブ・ビュイソンであり、ナルシスだった。


 しかしこのパーティーは男子禁制。


 彼は招ばれてもないのに勝手にやって来たのだ。


あらすじの誤字報告どうもありがとうございます。修正しました。

(*ᴗˬᴗ)⁾⁾⁾アリガトー

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