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225話 リリアンの賑やかな一日

 今日はやるべき事があったしお客様もいっぱい来て、とても賑やかな1日だった。そしてそれは悲しい気持ちを引きずっていた私にとって、とても有難いことだった。



 昨夜はお祖母様やコレットに沢山励ましてもらってすっかり元気が出たと思っていたけれど、どうやらそれは見せかけの元気だったみたい。お祖母様が寝てしまわれたらやっぱり考えるのはフィル様のことばかりで「間の部屋には鍵を掛けてもう一緒に寝ない」というお言葉を思い出しては胸がギュッと苦しくなった。


 そして色々と考えを巡らせている内に私はある重要なことに気が付いた。

 誰になんと慰められようとフィル様がそう口にされたという事実は覆らない。私の気持ちが上がろうと下がろうと、どう受け取ろうと関係なく、それこそがフィル様の望む事であり嘘偽りのない本心から出たお言葉なのだ。



(ああ、でも!)



(何の前触れもなく、あの嬉しくて幸せな時間が突然終わってしまうなんて!

 もう二度と、フィル様とあんな風に過ごすことはないなんて!!

 嫌です、嫌です、フィル様!)



 何度もそう心の中繰り返しては、悲しくて涙がこぼれた。




 朝になるとコレットがパメラとアニエスを連れてお祖母様のお部屋に来た。


 アニエスは私の赤くぽってりと腫れた目と浮腫んだほっぺを見て「リリアン様!いったいどうなさったのですか!?」と手に持っていた大事なお化粧セットを落としてしまうくらい驚いていたけど、私をベッドに横たわらせると目を冷やすことに専念してそれ以上は聞かずにいてくれた。


 そしてある程度腫れが引いたらアニエスの魔法の手で優しくマッサージをしてくれて、お化粧もしてもらったら気にならないくらいまで復活出来た。

 だけど、私の心はポッカリと穴が空いたままだった。


 もしも今日、何もすることがなく1人でいたらきっと一日中溜息ばかりついてウジウジandメソメソゴロゴロして過ごしていたと思う、でもパメラやアニエスが私の気持ちを盛り立てようと気を遣ってくれているのが分かったし、コレットは昨夜はちょっと元気がない様子だったのに、いつも通りキビキビと元気に働いている。

 流石だな、私も見習わなくちゃなって思って、それからはカラ元気でもとにかく楽しげにして笑って過ごそうって決めた。

 せめて皆といる時だけでもね。




 そういう訳でここからは元気を出していきますよ。


 さてさて、今朝一番のトピックスはエマのこと!


 今日も私の専属護衛隊の方達は通学の予行練習や他にも何か合同で訓練があるとかで出払ってしまうのだけど、朝食後に出発だからと顔を見せに来てくれたパメラが「エマが明日と明後日だけ仕事に出てくることになりそう」と教えてくれたの。




 エマは王太子婚約者候補付きの筆頭侍女だけど先日パメラの兄エミールと結婚して休暇中だ。

 それも王宮侍女になって休んでなかった分と結婚に伴って与えられた10日を合わせて40日の休みを取るように宮内相に言われて消化中なんだけど、元々本人は家で休むより仕事に出る方が好きという性分だから事あるごとにもう仕事に出たいとエミールや義母のローズ夫人に言ってたらしい。


 特に最近は「学園に入学するというリリアン様を取り巻く環境が大きく変わる人生の節目に自分も傍にいてお手伝いしたい、一緒にお祝いをしたい」と熱心に訴えて困らせていたのだそうだ。

 でもエマに高位貴族としてのマナーやバセット家の夫人としての仕事を教育中のローズ夫人は「まだダメ」の一点張り。それでも王太子婚約者候補のリリアン様の為にと言われると強くは反対出来ず、夫であり現在宮内相に助っ人として出仕しているオスカーに「あなた、どうにか言ってやってください」と泣きついた。


 もちろんローズ夫人はエマを諌めて欲しかったのだけど、オスカーは涼しい顔で「別に連続して休まなくてはならないなんて言ってないんだからそこだけ出てまた休めばいいじゃないか」と言ったので、エマは「ならそうします!」と出ることにしたということだ。


 パメラはこれを今朝出勤して来た時に偶然廊下で父であるオスカーにバッタリ会って聞いたらしい。



「兄は昨夜ここに泊まって家に帰ってないのでまだ知らないそうですが、父がエマの代わりに今日休暇返上願いを出すと言っていたから、たぶん明日は出て来ることになると思いますよ」とパメラは言った。


「わあ嬉しい!明日はエマに会えるのね!楽しみ〜!!」リリアンは両手指を胸の前で組んで喜んだ。


 エマは小さい時からベルニエの本邸に住み込みで侍女をしていたから誰より長い付き合いで私にとって身内のような存在だ。出席出来なかった結婚式の話や新婚生活など聞きたいことがたくさんあるのだ。



 リリアンの表情が明るくなるとパメラとアニエスも安心したようだ。その後リリアンは私室には戻らず直接王家のダイニングへ行くことにしてパメラに送って貰った。




 朝食の席ではリュシー父様が私のお茶会について「いくらか見当をつけたか」とお聞きになったので「次の土曜か日曜に親族を呼んでやりたいと考えています」とお話しした。


 リュシー父様は「それなら土曜日の叙爵式に親族も参列させるか?終わったらそのまま会場に移動して昼食を食べながら歓談したらどうだ」と提案して下った。私はそれは素敵な案だと思ったので、すぐに「そうします」と答えて日程は決まった。

 リュシー父様とパトリシア母様は他にも招待状やお茶会について色々と教えて下さり、私が退室する時にはパトリシア母様が「私たちも顔を出すからね、リリちゃんのお茶会楽しみにしているわ」と言って送り出して下さった。



 朝食後はいつもの応接室に戻った。私はさっそくお茶会の準備を進めることにしてお祖母様とお父様に協力してもらいながら招待客のリスト作りを始めた。


 お祖母様によると現在親族は全部で32人いるそうで、そのうち招待するのは王都にいる人だ。それからリュシー父様とパトリシア母様の名前も忘れずに入れておいて・・・っと。



「えーっと、私の家族が4人、ソフィーはお兄様の婚約者だから絶対でしょ、それからさっき教えて貰った親戚を合わせると〜、イーチ、ニー、・・・うん、16人ですね!」とリリアンは細い指で一つずつ書いた名前を押さえながら数えて最後に『16』と書いてぐるっと丸で囲んだ。


「うふふ、16人もいたら立派なお茶会が出来るわね!」とリリアンはご満悦だ。


 さあこれで招待客は決まったし日程も決まった、次は招待状の文を考えれる番だ。





「式のあと、お昼を一緒に食べましょう・・・っと、あれ?でもそれだとお茶会じゃあなくなくな〜い?」文案を書き留めていた手を止めて、コテンと小首を傾げるリリアン。


 だってお茶会ってお茶を飲む会のことよね?



「ねえ、お父様。お昼ごはんを食べるのにお茶会で良いと思う?お食事会の方がいいかな」


「そうだな、食事会のが良さそうだな」


「あら、でもお食事会って言ったらなんだか若い子らしくないし、華やかさに欠けない?リリアンが主催の会よ?お茶会の方が可愛いくていいわ」とグレースが謎のこだわりを見せたのでお食事会とするのはやりにくい空気になった。



「別にそんなことないと思うがね〜」とクレマンは言っていたが、すぐに代わりの案を出してくれた。


「じゃあ、フェットにすればどうかな?

 フェットはお祝いの会のことだからお茶を飲もうが食事をしようがどっちもいける。ちょうどタイミング的にもピッタリだからリリアンの新入学のお祝いで集まることにすればいい」


「まあ、それは名案だわ!あなたったら顔の割に洒落た事を言うわね」とグレースも感心している。


「へえ、フェット?フェットってなんだか素敵です、さすがお父様は物知りです!だけど私のお祝い会を私が開くのですか?それってなにかカッコ悪くないかしら」



「リリアン、それなんだがね、リリアンの入学祝いにヴィクトル伯父さんとお祖母様の爵位を賜るお祝いもくっつけて一緒にやってくれないかな?」


 リリアンは父の提案を聞いてビックリした。


「本当だわ!爵位を賜るなんて凄いことなのに!ぜひお祝いをしましょう!!

 私ったらちっとも気が付かなくて、ごめんなさいねお祖母様」


「うふふ。いいのよ、ありがとう」



 そんな話をしていると、扉の外から声が掛かった。

 リリアンとグレースにアングラード侯爵から面会の許可を求める願い出が届いていると。


 本日広く国内全土に公表される予定のグレースの出自と一代侯爵になるというという知らせが侯爵家には他に先駆けて朝一番に届けられたのだ。それを受けて今日の午後、一家で挨拶に来たいとのことだ。

 二人はもちろん「どうぞお越しください、お待ちしております」と返答しておいた。



 リリアンは再びペンを手に取り「ルイーズが来る前に終わらせてしまおう」と言って招待状の文面を考える作業に戻ったがしばらくするとまた外から声が掛かった。



「リリアン様に御面会です。入っていただいても宜しいでしょうか」と。


「お客様はどなたかしら?」とリリアンは尋ねると


「顔を見るまで秘密だそうです」と返ってきた。



「ええっ何それ?誰か分からないと入室の許可は出せないんだけど」とリリアンはびっくり仰天した。



 国王陛下やニコ兄様なら勝手に入ってくれば良いし、ルイーズが来るのは午後からだし・・・だいたい王宮に来てそんな非常識で面倒な事を言って許される人って、誰がいるのかしら?


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