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223話 内緒の相談

 やはりリリアンはベッドに座ったまま、興味津々でこちらに身を乗り出してきた。


「えっ!なに、なに?知り合ったキッカケって?コレットのカレって誰のこと?」


「・・・誰でもないです」と目を逸らすコレット。


 いくらリリアンの頼みでも、明かせない訳ありだ。



「ええ〜、でもコレットはお祖母様には話したのでしょう、私には教えてくれないの?」とリリアンに上目遣いに可愛くおねだりされて、あまりもの僥倖にコレットはブホッと血を吐きそうになった。


でも。


「ちょっとムリです」


「ええ〜そんなぁ、コレットぉ〜」



「夫人はああ仰いましたが、実を申しますとその方と私はお付き合いしている訳ではないんです、だから言えないんです。本当に申し訳ありませんリリアン様」


「そうなの?」とリリアンはキョトンとして小首を傾げた。


 それから顎に手を当ててンーと考えて(そういえばいつもハキハキとしたコレットが今は辛そう。そうか、そうか、そうなのかコレットも片思いなんだわ)とリリアンは一人で納得してウンウンと首を振り、コレットの前まで来てその手を取った。


「いいのよ気にしないで、コレットも片思いをしているのね?それなら言えなくても仕方がないわ。私たちは同志の仲間ね!」



「はい。いえ、そんな、私はともかくリリアン様は、」といいかけてコレットはハッと口を噤んだ。


 うっかり両思いですよ、と言ってしまいそうになったからなのだが、リリアンの目には辛くて言葉に詰まったように映ったらしい、心配そうに励ました。



「まあコレット・・・コレットは素敵な女性よ、自信を持って。

 ハッキリと嫌いって言われたの?そうではないのでしょう?だったら本当は両思いかもしれないじゃない。お相手の方もコレットの気持ちが分からずに悩んでいらっしゃるのかもしれないわ。ただ悩んでいるより勇気を出して告白してみたら?」


「・・・」


 コレットの沈黙はリリアンの言葉に思案しているように見えたので、リリアンは尚も応援するつもりで言った。


「お相手の方は好きになっちゃいけない人ではないのでしょう?振られるまでは振られてないわ、勇気を出して」


「それはそうなんですけど・・・」


 これほど言っても元気が出ないコレット。お相手はどんな方で、どうしたらそんなに悩むことになるのかしら?と不思議に思いつつもどうすればもっと前向きな気持ちになって元気を出してくれるかとリリアンが思案していると、グレースが立って二人の側に来た。



「リリアン、あなたもよ」


「えっ、なに?私も?」と驚いて目を丸くするリリアン。



「人のことは分かっても、自分の事は分からないものね。

 好きな人のちょっとした態度や言葉で気持ちが上がったり下がったりするのはよくある事だけど、大抵はこちらの考え過ぎなのよ」


「私も考え過ぎですか」


「そうよ。二人とも相手の気持ちを推しはかるばかりでちっとも相手に聞こうとしていないでしょ、あなた達は勝手に想像して苦しんでいるの、取り越し苦労をしてるのよ。

 振られるまでは振られてないんでしょ?結果が分かる前から落ち込むなんてそんな事に時間を費やすのは勿体無いわ、イライラするのは精神的にも良くないし、お肌も荒れるし良いことナシよ。そう思うでしょ」とグレースは二人の背中を叩いた。



「そっか、私が勝手に考えて、悩んで、悲しんで、落ち込んでいただけか」とリリアンはつぶやいて一度は納得しかけたが、またすぐに戻って来た。


「でもね、お祖母様。先程のフィル様のご様子を見たらお祖母様もきっと私と同じことをお思いになると思いますよ。

 フィル様は私のこと可愛がって下さいますが妹と思っていらっしゃるからで、ニコ兄様が私を可愛がって下さるのと同じです。もし私がフィル様を好きと言ったらフィル様はそれはお喜びになるでしょう、でもそれはニコ兄様を好きの好きと同じだと思ってお喜びになるのです。

 ニコ兄様は私が生まれた時からずっと私を可愛いがって、ずっと抱っこしていたとお母様が言っておりました。フィル様が私を抱っこしてくれるのもそれと同じです。

 だけどお兄様は最近そんなことしてくれなくなりました、たぶんソフィーを好きになったからだと思います。妹より恋人の方が大事だからです。だからフィル様も」


 リリアンの言いたいことは良く分かる。が、こちらは王太子殿下のお気持ちを聞いてるから杞憂だと知ってるのだ。口を尖らして一生懸命ダメだと思う理由を説明するリリアンの小さなお口にグレースは指を当てて言った。


「ほらリリアン、また始まってるわよ考え過ぎが!

 それにあ〜んなに可愛がってるリリアンからそんなに勝手で酷い人のように思われているなんて王太子殿下がお可哀想!

 リリアンにそんな風に思われているとお知りになったら王太子殿下はさぞお悲しみになられるでしょうねぇ、勝手に想像して薄情な人のように言われてね〜、あんなに大事にして下さっているのにね〜」と言いながらグレースは横目でリリアンを見る。


「うっ、うぐっ!

 確かにフィル様は貴い方ながらいつも優しく、そしていつも正しくあろうとなさっておられる素晴らしい方です、酷いことなさるお方ではありません。

 もちろん私が誤解をしている可能性は大いにあります。あの時ちょうどエミール様がフィル様を呼びにいらした時でしたし・・・。

 でしたらいつかフィル様と二人っきりでお話が出来る機会がありましたらちょっと聞いてみます。どうして私を突き放すのですか、と。

 そして私が用済みならもう家に帰らせて下さいと言いますし、・・・そうでないのなら私を遠ざけないで下さいと言います。

 決してフィル様を悪く言うつもりはなかったのですがフィル様のお耳に入ったら悲しまれますね、そのようなことを口にしたのは良くない事でした」



「そうそう。

 だけど今回は声の届かない相手ではないのだから、そんな風にお気持ちを聞いたら良いわね」とグレースは嬉しそうに手を叩いていたが、それがひと段落すると遠い目をしてちょっとしんみりとした。


「私もあなた達に偉そうな事は言えないんだけどね。

 かく言う私もあなた達の同類で、マルセルにどうして私と結婚したのって聞かなかったことを今になって後悔しているんですもの。

 私も歳が離れるとか、身分が違うとか、後妻だとか、前妻の子がいるとか、他にも意識してない何かでマルセルとの間に壁を感じていて、何十年も時間はあったのにたったの一度もその一言が言えなかった。

 改めて考えてみると本当は気になってたのに気になり過ぎて無関心を装っていた気がする。仕事に打ち込んでいたのもそのせいだったのかも・・・忙しさに逃げていたのね。

 最近、マルセルの日記を読んだりここに来て子供達の話を聞いて、彼が私を大切にしてくれていたことを知った。

 さっきクレマンとも話していたんだけど、子供の目からは私は最愛の妻というように見えていたんですって!そうなの?って心底驚いたんだけど、私のいないところで毎晩私の肖像画に話しかけて寝るのを見たらそう思っちゃうわよねぇ?

 まあ真実は分からないけど、もしかすると彼も歳の離れた私に愛してると言う勇気が無かったのかもって今ふと思ったの。もしそうだとしたら似たもの同士とてもお似合いの残念夫婦ね。

 私が出来なかったからその代わりと言ってはなんだけど、あなた達には連れ添う相手と気持ちを伝え伝えられる間柄であって欲しい。その方がきっと人生は豊かになる、それにもし死んだ後で真実が分かっても失われた時は戻ってはくれないわ。ウジウジしてる間にすぐ何十年って経っちゃうんだから」



 マルセルがらみで後悔している話はこれまでも口にしていたし、小さな子供に年寄りがくどくど言っても面倒なだけよねという気持ちがあって今晩は聞き役に徹するつもりだったのに、結局また自分の思いを語りに語ってしまった。ちょっと失敗したな、と思ったがリリアンは「お祖母様!」と抱きついてきてジッと胸に顔を埋めていた。


 リリアンはお祖父様がもういないことや、夫婦でありながらお互いの気持ちを伝え合えなかったお祖父様とお祖母様のことを残念に思った。そして後悔が募るグレースの気持ちを慮って涙をながした。


 しばらくグレースはそんなリリアンの頭を優しく撫でていた。



「さあ、もうそろそろ寝ることにしましょうか」


「はい」とリリアンが頷き、コレットは部屋の灯りをベッドサイドの一つだけ残して消した。



「では今晩はこれで失礼致します」


「ええじゃあコレット、例のアレをよろしくね。遅くとも明後日の夜には欲しいわ、この部屋に持って来て頂戴。それから他にも良さそうなのがあったらいくつかカレに見繕ってもらってね」


「はい、承知致しました。

 リリアン様、明日の朝はアニエスと共に参りますのでこちらでお待ち下さい。お時間はいつも通りでございます」


「はい、分かりました。待ってます」


「それではこれで失礼いたします、お休みなさいまし」


「お休みなさい」



 リリアンにバイバイと手を振られながらコレットは退出した。


次回はコレットの話をちょっと聞いてやって下さい

_φ( ̄▽ ̄ )



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