表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

204/260

204話 クレマンからの要望

 話がまとまったところでエミールに報告に行かせたら直ぐにリュシアン国王、モルガン宰相、アンブロワーズ騎士団総長、ユルリッシュ軍事相という錚々たるメンバーを引き連れて戻って来た。


 なんでもエミールが覗いた時にはもう向こうの会議は終わっていて、ちょうどこの四人が残ってこちらはどんな話になっているのだろうと話していたところだったらしい。


 手短に情報交換し、グレースから辺境伯夫人が名乗れないと困ると言われ多少融通を利かせることにした。

 そしてこちらで話していた協定についてはリュシアンも騎士団総長もヴィクトルの出した案が良いと支持したので正式にそれで行くことになった。



 そうなると場の空気は一気に解れ雑談タイムに突入だ。


「方向が決まったところで少しお茶でも飲んで休憩しようじゃないか、このメンバーが一同に会すのは珍しいことだ!」とリュシアンが言いだして、コレットはこのとんでもない方々にまでお茶をふるまうことを許された。





 一息ついたところでリュシアンは気に掛かっていたことをクレマンに聞こうと口を開いた。



「クレマンよ、ジョゼフィーヌも王都に来ているのだろう、ちっとも顔を見せに来ないがどうしているのだ」




クレマンの眉がピクリと動く。



「んんっ?ゴホン!


私の妻がなんですって?


私の妻がどうしているのかとお聞きですか?


私の妻は大変忙しくしておりまして、陛下に会いに来る暇がちっともないのでございますよ」



 リュシアンはジョゼフィーヌがグレース夫人と一緒に王都に入ったと城門から報告を受けていたから未だに音沙汰がないのは何か体調でも崩しているからではないかと心配して尋ねたのだが、クレマンはそれだけリュシアンがジョゼフィーヌに会うのを心待ちにしているのではないかと勘違いしたようだ。

 しかしグレース夫人はリリアンに会う為にもう四日も前に王宮に入っているというのだから母親はどうしたのだろうと気に掛かるのは当たり前だと思うのだが。


 まあしかしクレマンがこんな風にヘソを曲げて突っかかってくるのもリュシアンにとっては面白いらしく「そうかそうか、忙しかったのか」と笑っている。



 クレマンはわざとらしく咳払いをした上にブスッとした顔で失礼な言葉を返したのだ、他の者が同じことをしたら大変な騒ぎになっただろう、でも彼が国王相手にこれほどの不敬を働いても誰も咎めはしないのだ。


 リュシアンは子供の頃から母や弟と共にクレマンに幾度となく命を助けられてきたということもありその信頼たるや絶大だし、こういうやり取りさえ親しみを感じて心地がよいらしく楽しんでいるのを周りはよく知っている。

 勿論フィリップとエミールも分かっているし、それこそここにいるメンバーはグレース以外は皆んな年も近く国王陛下とは幼馴染だからずっと二人のやり取りを見ていたから眉を寄せることもない。



 しかし咎めなかったからと言って見て見ぬふりをしていた訳ではない、アンブロワーズ騎士団総長はクレマンのふくれっ面を見て大笑いしだした。

 こちらだって遠慮などあったものではないのだが本人曰く私はクレマンと違って一応限度は知っている、のだそうだ。



「ワハハハハ、いまだにジョゼフィーヌを取り合っているのか、あなた方は!」



「ちょっ、なっ、何を言う!

 違うぞ!私はまだリリアンに会いに来ないのかと聞きたかっただけだぞ!」とリュシアンは焦って否定した。



 これが図星の言い訳でないのなら、どうやら国王陛下にまでジョゼフィーヌがリリアンに会いに来ないのは変だと思われていたようだ。


 リュシアンの顔を見るとついつい子供の頃の癖が出て、すぐ揶揄いがてらヘソを曲げたフリをしてしまうのはいい歳をして良くないことだと前々から思ってた。

 それに流石にクレマンでも妻の名誉回復の為にはここで例の馬の事を出しておいた方が良いと判断出来たのでリュシアンのさっきの問いに素直に答えようと思って態度を改めた。



「国王陛下、実を申しますとリリアンの為に妻が領地から40頭ばかり乗馬用に調教された若馬を連れて来ているのです。

 何でもニコラから聞いたところリリアンは学園で女性も入れる初心者向けの乗馬部を作ろうとしているそうで、それを聞いた妻がサプライズで馬や馬具を用意したのです。

 ですが学園に連れて行ったら引き取りを断られましてね、私の屋敷の厩は今いっぱいになっておりますし、あまり分散させても面倒ですし、離れた所だと不便だしで馬達を世話して貰える所を探すのに手間取っておりまして、それに忙しくて会いに来れないのです。

 今は城門の外の野原でうちの者が世話してるのですが、我々が帰郷するまでになんとかしなければせっかく連れて来た馬もまた連れて帰らなければなりません」



「なんだ、それであと何頭残っているんだ?

いや、たった40頭くらいならウチに全部連れてくればいいじゃないか、空の厩舎が何棟もあるのはお前だって知ってるだろう!本当に水くさいなお前たちは。

 こちらでももう馬は用意してあったのだがジョゼフィーヌが連れて来たのならそれを使えば良いリリアンもその方が喜ぶだろう。ジョゼフィーヌにも早くそう言ってやってくれ」


 リュシアンは呆れた顔をしながらも快く応じてくれたのでクレマンも座ったままながらも恭しく頭を下げて礼を言った。


「有り難きお言葉、誠に有難うございます」


「ああ、いつでも連れて来るがいい」


「はい、そうさせていただきます」



「父上、それなら一度こっちに連れて来さすより直接学園に連れて行って貰った方が都合が良いです。入学式の後にある恒例の部活動勧誘合戦で馬達をお披露目するつもりでもう向こうで準備を進めていますから」とフィリップ。


「ああ、勿論お前の良いようにしろ」とリュシアンは頷いた。



「ではクレマン伯爵、段取りの分かる者を明朝8時に屋敷に行かせる。それまでに馬を集め指示に従ってくれ」


「はい、王太子殿下。どうぞよろしくお願いします」




 それらを横で聞いていたユルリッシュはクレマンに労いの言葉をかけた。

 40頭もの若馬を揃えるのはかなり大変だったろうし、いくら領地が潤っていると言ってもかなりの物入りだ。娘の為とはいえ相当な太っ腹だと心底感心したのだ。



「はあ!クレマンよ、それだけの馬を揃えて学園に寄付しようとは思い切った事をしたものだな!随分大変だったろう!」

 


 しかし澄ました顔でクレマンは言った。


「まあ初期投資はそれなりに必要でしたがね。

 聞くとそのクラブは馬も持ってない初心者ばかりが相手らしいのですよ、馬がいなければ練習にもなりませんからまずはこちらで良さそうな馬を見繕って連れて来たのですよ。気に入った馬がいたら自分の馬にすればいいのです、自分の馬を手に入れたら上達も早い。

 もちろんそれらは寄付ではなく乗り手に買い取って貰うつもりですから直ぐに元がとれるでしょう。その方がお互い気兼ねがなくて良いですからね」



 商売だった。


 ユルリッシュもモルガンも目が点になっている。アンブロワーズは腹を抱えて言った。



「ワハハ、抜け目がないな!お主らは!!

 流石だよ、ジョゼフィーヌ夫人は商売上手だ。その40頭が全部捌ければの話だが」



 それ、流石と言いながら全然褒めてないやつだ。


「妻は捌けると読んでいますし領地にはまだ追加の馬も用意しています」


「ワハハ、そうかそうか抜かりない!」



 クレマンの言葉は負け惜しみに聞こえたらしくアンブロワーズ騎士団総長は余計愉快そうに笑った。


 これは処置なしと判断したクレマンは(後でジョゼの読みが当たったと吠え面かくなよ!

 この後乗馬が令嬢、ご婦人方に大流行りして馬が足りなくなり値が大いに上がる、その時を狙って第二弾、第三弾を連れて来る。我々は王太子婚約者候補のリリアン御所望と既に一帯の若馬を買い占めているのだ。第一弾は流行を作る為の初期投資に過ぎない。それだけじゃない、ウチが今も有数の馬産地だと広く印象付ける撒き餌でもあるのだぞ!)と心の中で思いつつ話題を変えた。



「国王陛下、あともう一つ。

 息子が王宮に泊まらせていただいておりますがアレも学園が始まりますのでそろそろ私が交代させて頂こうかと思っております」


「それは良いな!で、いつからだ?」


「念の為に泊まりの荷物も持って来て守衛門に預けておりますが、まだ当のニコラとそれについて話をしておりませんので決まっておりません」


「うん、楽しくなりそうだ!!おいフィリップ、そういう事らしいぞ」


 ニコラは一応、王宮客室で慣れない生活をしているグレースのサポートの役目を仰せつかっており、クレマンもその為に来ることにしたのだが、リュシアンは心から嬉しそうだ。しかしグレースとニコラはリュシアンではなくフィリップが招いている客だ。



「交代されるのは構いませんが王宮に慣れないグレース夫人の為にニコラを呼んでいたのですから勝手に二人だけで遊ばれては困りますよ」とフィリップが釘を刺すとリュシアンがこともなげに言った。


「何、大丈夫だ。私が二人がいるところに尋ねて行けばいいのだろう」



「ヒェッ!」


 グレースはクレマンがいるせいで国王が自分のいる所へ訪ねてくると聞いて思わず変な声を漏らしてしまったが、それは無視された。



 クレマンはフィリップの案件だったと気付いて向き直った。


「これは失礼致しました。私は国王陛下からの召集だと勘違いしておりました。

 王太子殿下、私がニコラの代わりに母に付き添う事をどうぞお許しください、こちらにいる間、私は常に母に付き添うことを誓います」



「そうしてくれ」と返すと「はい、必ずや」とクレマンは慇懃に応えたので、フィリップもまあ色々不敬を働く男だが母親のことを随分と大事にしているようだし信頼して大丈夫だろうと思った。


「うん、では今夜からニコラと代わってやってくれるか」


「はい」



 グレースはそれを聞いて盛大に溜息をつきたくなったがあからさまに嫌がってはいけないと何とか飲み込んだ。


 ああ、でも、食事の部屋やリリアンの応接室に国王陛下がやって来たら落ち着かないから御免被りたい。だけど、私のことは放っといて他所で好きにやってくれという訳にはいかないのだろう。


 そんなグレースの心の内には頓着せずに、リュシアンは機嫌良くケネス王国のあのクセのある旨い酒がまだあるぞなどといよいよどうでもいい話を始めた。




(どうやら一通り必要な話は済んだようだな)


 親世代の昔馴染みが集まるとお約束のように昔話が始まって、あの時はあーだこーだと盛り上がりそのまま酒盛りに突入するのが常なのだが今日は更にヴィクトルとクレマンというレアキャラがいるせいで放っておいたら朝までコースになりそうだ。

 千回聞いた話に付き合わされるよりリリィの所に戻りたい、お前も付き合えと言われる前にグレース夫人とコレットを連れて早めに退散するのが正解だ。



 これを飲み終わった時を潮時としようと紅茶を飲み干してカップを戻そうとした時、強い視線の圧を感じてその方に目をやるとクレマンがその銀青の瞳をフィリップに向けていた。


 それは大の大人でもいてつかせ縮み上がらせるほど威力がありフィリップも一瞬ギクッとしたのだが、周りにそれを気取られずに済んだのは日頃から抜き打ちでニコラの強い気を受ける訓練を受けているお陰だろう。

 それに最近はすっかりクレマンのジョゼフィーヌ夫人とリリアンに向けるフニャフニャの顔や全然頼りにならなそうな弱弱っちい言動を見慣れていた事もあってちょっと驚いただけだ。



 ここで気が付かないフリをして部屋を出て怖気付いて尻尾を巻いて逃げたと思われるのも癪だし、王族を睨むとか不敬だと指摘するのも国王相手に許されている相手に今更な気がする。

 なんでそんな目で見られるのかよく分からないが受けて立ってやろうと思った。




「クレマン伯爵、私に何か言いたいことでもありそうな目付きだな」



「・・・そうですね、ありますね」



 王太子であるフィリップに問われクレマンは素直に言いたいことがあることを認めたがそれでも迷っているのか一瞬逡巡する様子を見せた。が、話すと決心したようで、真っ直ぐフィリップを見据えた。





「王太子殿下、私の娘のことで一言申し上げたい事があります」



「何、リリアンのことだと?」



 クレマンの口調は静かではあったが、二人の間に緊張が走った。


 武道を嗜む者なら感じられる穏やかな中に漂うただならぬ気配。談笑していたリュシアン達も口を閉じ、何が始まるのかと静かに見守ることにしたようだ。


クレマンを一言で言えば『単純明快!』なのです。


子供の頃から武芸に秀でていたクレマンはリュシアンとその弟オーギュスタンの友人兼武術全般の練習相手として毎日のように宮殿に上がっていたんですよ。本当に小さい頃からなので彼らとは兄弟のように仲が良かったのです。


ちなみに当時は子供に王族の警護をさせるなんて大胆な考えを持ってる者は誰も居なかったので、あくまでも友人として。彼らの命を救ったことが有ってもクレマンには今のニコラのような王太子の護衛という役目はありませんでした。

_φ( ̄▽ ̄ )




ここまで読んでくださってありがとうございます。

最近なかなか集中して書く時間がとれず1話書くのにも日にちがかかる上にストックもないのでなかなか以前のようなペースではアップ出来ないのですが、来年も投げる事なく根気強く続けていきたいと思っておりますので引き続き読んで頂けたら幸いです。


「王子様は女嫌い」は年内はたぶんこれが最後の更新になると思います。

ブックマークが346件になっていましたのでこの後は「ルネがいるから」の続きに取り掛かろうかなと思っていますので・・・。間に合うかどうか、若しくは何ヶ月も先までチャンスが来ないのか全然分かりませんが一応ブクマ350件でルネの次話を更新しようと思ってます。


ポイントやいいね、ブックマークなどで応援していただけると嬉しいです。

一件でも増えると嬉しくてとても励みになってます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ