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182話 納得したこと

 リュシアンはモルガンやダルトアと家系図の顔の絵の劣化問題について話をしながら来たので集団の後ろにいた。

 そこでフィリップが自分の母の家系の話を始めたので耳を傾けていると、なんと母上とグレース夫人が再従兄弟はとこだと言うのだ。


 それで驚いて人を掻き分けて前に来たのでリュシアンはグレースのすぐ後に立っていたという訳なのだが、グレースはすぐ後ろから国王陛下の声がしたので驚いたし、真後ろに立たれるのは居心地が悪かったからリリアンの手を引いてそっと横に避けて国王陛下にその場所を譲っておいた。



 リュシアンはしばらく家系図を下から丹念に目で追っていたが首を傾げ顎に手を当てて言った。



「えーっと、アンリの子ということは・・・」



「父上、どうぞこれを見て下さい」


 フィリップはエミールに持たせていた紙を受け取りリュシアンに渡した。



 王家の家系図だけではグレースが記載されていないしアンリとアナベルも繋がっていない。だからフィリップは前もって王族と初代宰相のクレール・デュボワの家系図を並べて書いた物を用意していた。それにはグレースの名もしっかり入っていてアンリとアナベルは婚姻を結んだことになっている。もちろんこれはフィリップ自身が書いた特別版の家系図だ。

 これなら宰相の娘のエリアーヌとモニク、それぞれの子アリアーヌとアナベル、そのまた子であるレオノール前妃とグレース夫人と同じ世代同士が隣り合うように書かかれているので関係が分かりやすいはずだ。



「なるほど・・・祖母が姉妹だと子は従兄弟いとこで従兄弟の子同士は再従兄弟はとこになるのか。つまりグレース夫人は私の母と同じデゥボワをルーツに持っているという訳なんだな。

 うん、こうして見るとよく分かるぞ」


 そう言って貰えるとわざわざ書いてきた甲斐があるというものだ。


「ええ、クレール・デュボワの家系は何故か女系で女子ばかり生まれています。アリアーヌが森のアルノー家に嫁いだ為にデュボワの家名はもう残っていませんがモニク、アナベル、レオノール前妃と肖像画を見る限りその血を引く女性は皆んな美人で顔立ちがよく似ています」



「そうなのか、それはそうと一世の孫であるアナベルと二世の子であるアンリが親ならばどちらにしてもグレース夫人は王族の子ということになる。だったら侯爵を名乗るべきではないのか?

 しかしアンリは死んだことになっていたからプリュヴォ姓のままで領地も爵位を得ていないしグレース夫人もアンリの家名を継いでる訳ではない、しかも辺境伯の夫人だ・・・モルガン、司法相よ、ちょっと来い!こういう場合はどうすれば良い?」


 思い立ったが吉日のリュシアンは即刻その問題について協議したいようだ。



 それを聞いていよいよグレースは困ってしまった。



 今まではまあそうは言ってもとタカを括っていたけれど、そうも言っていられない状況になってきた。

 さっきアンリ殿下の失踪がプリュヴォ歴40年のことだと聞かされた時はあまりに出来過ぎたタイミングにドキッとした。そもそも秘密の小箱を持っていたという事実もあるし、これでは他の人の目からはもうグレースが王族の血を引くという証拠がすっかり揃ったように見えるだろう。

 それでもまだグレースからすれば穴だらけの証拠でしかないのだが、それにも関わらずこちらには反論するに十分な材料がないのだ。


 これではこちらがいくら違うと言っても誤解を解くのは難しそうだといよいよ追い詰められた気分になり、グレースの胸はザワザワとしてきた。王太子殿下のお話に国王陛下まで再従兄弟だと信じてしまったようでこのままでは本当に王族の仲間入りをさせられてしまいそうだ。

 これまでの生活が激変してしまいそうで怖い、ちゃんと辺境に帰して貰えるのかしらと不安になった。




 国王陛下の側に宰相と司法相が来て、フィリップまで交えてその問題について討議し始めると他の者だって負けてはいられないとギュウギュウと集まって来た。皆会議でこういう事を話し合う時のメンバーだ。良い案を出して有能さをアピールしようと瞬く間に国王を中心に団子になってあーだこーだと言い出した。


 さっきまで王太子に付いて歩いていたから集団の先頭にいたはずなのに今は辺境のメンバーだけポツンと取り残された形だ。

 ちなみにパトリシア王妃は我関せずで少し離れたところにある椅子に座って自分の侍女達と笑ってお喋りをしている。リュシアンがすぐ話し合いを始めるのはいつものことなので立って待つつもりはないらしい。



 そんなパトリシア王妃を見ながらグレースは(私これから一体どうなるのかしら)と途方に暮れた。



「困ったわね」


 ついポロリとこぼしたその小さな声を、クレマンの耳は拾った。グレースはリリアンと手を繋いでいたが、そのリリアンの横にクレマンが立っていたのだ。


「母上、何をお困りで?」


「だってクレマン、おかしいと思わない?どう考えても私が王族に連なる者とか話に無理があると思うのよ、なのに皆んなが皆んな信じてしまったみたいでしょう?このまま黙っていたら丸め込まれてしまいそうでなんだか怖いの」


 相手は気安い息子だ、せっかく聞いてくれたのでグレースは声をひそめて正直に不安を訴えた。するとクレマンとは反対側でグレースの隣に立っていたヴィクトルが言った。


「そうでしょうか、私は今日の話とあの系図を見てそんな事もあるかもしれないと考えていたのですが」


「まあヴィクトル、あなたまでそんなことを言うの?

 そんなに何でもかんでも信じていたら騙されて領地経営もすぐに傾いてしまうわよ?マルセルも言ってたでしょう、うまい話はまず疑ってかかれって」


「父上の教えを守っているのはご立派ですが、これだけ証拠が揃うともはや疑う方が困難ではないですか。それでは母上の持っていた小箱はどう説明するのですか」


「あれは盗賊が私に預けたのかもしれないわよ?それか落とし物が間違えて届けられたのかもしれないし・・・」



 別にマルセルの教えを守っているからそう言ってる訳ではなくてグレースは本気でそう思っているのだ。


 だってさっきトゥリアイネンの泉の精が言ったのだ "小箱は別の人が近くに落ちていたのを拾って後から届けた "のだと。


 小箱はずっと私の両親が私に持たせた物だと信じてきたけど、ここにきてそれが違っていた可能性が出てきた。盗賊が落とした可能性もあるし、襲った人か襲われた人が落としたのかもしれない。私が持つべき物である可能性もほんの少しはあるかもしれないけど全く私と関係のない物かもしれないの。


 泉の精は最後に私が尋ねた "それは私の両親か "の問いに答えなかった。

 ニコラと話していたから聞いてなかった?それとも単に知らなかったから?

 もしも泉の精が "あの時襲われたアンリ殿下とアナベル様はあなたの両親ですよ"と一言返してくれていたならこの大それた説も信じられたかもしれないのに。




 そんな精霊とのやりとりの内容までは知らないヴィクトルは目を細めて笑った。


「ふふふ、盗賊がですか?・・・盗賊が赤ちゃんにねぇ」



 グレースは大真面目に言ったのだがヴィクトルにいかにもそれはないと言わんばかりに笑われたので自分でも変だったかしらと思い、その説を披露したのがちょっと恥ずかしくなり赤くなって言った。


「とにかく、私を王族に連なる者に仕立て上げたい理由が分からないわ。そうでしょ?」



 その問いにはクレマンが答える。


「まあ、私には仕立て上げたというよりただ単に母上の持ってる小箱を調べたらそういう答えが導き出された、という風に見えましたがね。

 でもそうですね、その方が都合の良い理由があるとするならば、例えば王太子婚約者候補であるリリアンの祖母が王族の血を引いていたらどうでしょう、リリアンの強い後ろ盾となるかもしれませんね」



「ああ、なんだ。そういう事なの」


 グレースはそれで初めて合点がいった。


 王家はリリアンに強い後ろ盾が欲しかったのか、だから私をこんなにも引き込もうとしているのね。銀の民の血を引いて辺境伯の孫というだけでもかなり有力な後ろ盾になってると思っていたけど彼らからしてみれば足りなかったのかしら?どちらにしてもそれより王族の血の方がもっと強いって事なのね。


(・・・まあ、私がリリアンの後ろ盾になれるならそれも悪くはないわね)



 そもそもこちらには違うということを証明する確固たる証拠がないのだから抗う術はなく、向こう(王族)があれだけそれらしい事実を並べてそうだと言うのだからこちらもハイと言うしかないのだ。でも気持ちの問題で素直に受け入れられなかった。でも今はちょっとだけ王太子殿下の話に乗るのも悪くない気がしてきた。



「仮にそうだとしてあなた達は迷惑じゃないの?何か困ったりするんじゃない?」


「何を困るのです?うちはそもそも辺境伯で侯爵と並ぶとされる爵位があるのですからほとんど何も変わらないですよ、侯爵の爵位を賜っても現在優遇されていることが取り消しになるとは思えませんし。それに母上のことは私がちゃんと領地に連れて戻ります。ですから何も問題はないですね」


 ヴィクトルは説くように穏やかに答えた。


 そしてクレマンも涼しい顔で言ってのけた。


「でっち上げならお断りですが母上の場合は爵位を賜るのが正当でしょう」



(あらあら、二人ともそんな感じなの?)


 グレースは肩透かしを食らった気さえした。


(なんだか意外だわ、今朝の様子を見てもヴィクトルもクレマンも王家を敬遠して反発しているのだと思っていたんだけど気のせいだったみたいね。この話ぶりだとどうやら私が王家に連なる者と言われることや侯爵になることについては受け入れるつもりなんだわ)


(そうなっても私もこの子達も困ることはないってことなら話は違ってくるわね)




「ふう〜ん、そうなのね」とグレースは納得顔で言った。



 リリアンは彼らが話すのを顔を上げて聞いていたが、お祖母様の憂いが晴れた様子を見て微笑んだ。リリアンの目から見てもお祖母様の出自は王族で間違いないように見えるし、きっとお祖母様にとっても両親のことが分かるのは素敵なことだろうと思うのだ。




「父上、細かいことはまた場所を移して後ほどという事にして先に肖像画を見ましょう」というフィリップの声に「うむ、そうだな」と応える声がした。


 グレース達がそんなことをヒソヒソと話をしているうちに向こうの話もひと段落したようだ。


グレースはリリアンの後ろ盾になれると意気込んでいますよ

基本的に世話を焼かれるより人の世話をするのが好きなんです

_φ( ̄▽ ̄ )


トゥリアイネンの泉の精霊とのやりとりは176話


グレースはヴィーリヤミのことを知らないので人の名前と思ったようです

イヌワシの姿をした大岩の精霊なんですけどね



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