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180話 建国の話と王女ピピ

 昼食後にフィリップとリリアンが国王夫妻と共に至宝殿の前に赴くと、約束の時間より早いのにもう皆んな集まっていた。それならわざわざ時間まで待つこともないとフィリップはさっそく扉の鍵を開けた。


 この至宝殿は役割としては宝物庫であって博物館ではないのだが、王族が自分たちで鑑賞したり先日のケネス王国の王女夫妻が来られた時のように外国からの来賓を案内する事も想定しいつでも入れるように展示室が一室設けてある。

 最初の扉を入るとサインスタンドが一つだけ置かれた部屋があり、その先は展示室への扉と倉庫へと向かう通路の二手に分かれている。今から皆を連れて入るのはもちろん展示室の方だ。


 入室者は一人一人サインを書く決まりになっているのでまずフィリップが日付と時間、そして名を書いて中に入った。




 フィリップが中で待っていると、二番目に入って来たのはグレースだった。


「まあ、広いのね!」


 グレースは入るなり立ち止まって周囲を見回し驚いている。


 宮殿と繋がっているが実は後から建てられた別棟だ。天井は宮殿の高い天井より更に高く、幅も奥行きもある。その上展示物も多くて一つ一つじっくり見ていたら夜になってしまいそうなくらいだ。



「グレース夫人、ゆっくり見て回っているとかなり時間がかりお疲れになるでしょうから今日お見せしたい物の所へ先にご案内しようと思っています。

 順序としてはここを奥に行った突き当たりの壁にある家系図を見て初代辺境伯へ嫁いだ王女ピピ、それからあなたの両親と思われるアンリ殿下とアナベルがどの辺りにいる方々なのか一緒に確認し、それから向こうへ回って肖像画や彼らにゆかりのある物を見る、というように見て行きたいと考えていますがそれで宜しいですか」


「はい、もちろんそれでけっこうです。

 私はこのように色々見られる所に来たのは初めてですからどのような物を見せて頂けるのかとても楽しみです」


「そうですか、私も楽しんでいただけるようにご案内したいと思っていますから途中で何か気になった物がありましたら気軽に声を掛けて聞いて下さい」


「はい、どうもありがとうございます」


 そんな会話をしている内に皆が入って来たので彼らにもザッと見ながら進み家系図の前で少し解説をするつもりだと言っておく。

 他の者達も同じように入り口から向かって左回りのコースを通りまずは正面一番奥にある家系図を目指すことになった。



 リリアンはグレースと手を繋ぎフィリップの後に付いて歩いた。

 入り口に近い場所には建国に関する物と初代プリュヴォ王のアルトゥーラス一世に因んだ物が陳列してあるそうだ。


 パッと目に付いたのは見覚えがある衣装だ。

 今年の建国祭の時にリリアンが着ていたドレスにそっくり形が同じに見える。ただその時に着た物に比べると布が質素で黄ばんでいて、いかにも年代物という感じだった。

 それにフィリップが着ていたようなカボチャパンツに先の尖った靴、リュシアンの身に付けていたような凄く長くて重そうなマントに立派な王冠もあった。



「あっ、お祖母あれをご覧くださいませ。今年の1月1日の建国祭で私もよく似た衣装を着たんですよ」


「まあ!そうなの素敵じゃない」



 リリアンがシンプルなドレスを指さすと、グレースはその時のリリアンの様子を想像したのだろう嬉しそうに目を細めた。


「ええ、そうなの。フィル様もこの衣装がとってもお似合いで素敵だったんですよ!」



(あ〜そうだった、普段着なれないあの格好は毎年のこととはいえ着るのにちょっと抵抗があるんだけど、何故かあのレトロな王子衣装がリリィに大好評だったんだよな)


 まああれほど喜ばれるのなら来年もレトロ衣装を着るのはやぶさかではない。



「リリィもとっても似合ってて綺麗で可愛かったよ。

グレース夫人、ここに展示してある物は建国の宣言の時に国王となったアルトゥーラスと王妃となったティエサとオリアーヌが当時身に付けられていた実物なんですよ、およそ100年前の物です。

 私たちが建国祭で着た衣装はまさにこれを模して作ってあるんです、ただ国王陛下の王冠と杖はここにあるこれをそのまま使いましたよ」とフィリップ。


「まあ、100年も前の本物を!?」とグレースは驚いていた。


「はい。建国後の物は比較的良好な状態で残されているものが結構あるんですよ。それにこの王冠と杖は特に新しい国作りの象徴的なアイテムで私たちにとっても重要な意味を持っているので本物でないといけません。

 実はこれは豪族達が持っていた貴金属を溶かして作り直した物で一緒に苦難を乗り越えた仲間達からの提案で作ったものであり彼らからの贈り物なんです。なんとうまい具合に豪族の元から逃げ出した宝飾職人まで仲間にいたのです。

 ああ、急にこんなことを言っても説明不足ですね。グレース夫人はこの国が出来た時の話はご存知ですか、簡単に説明しましょうか?」


「お願いします。若い時にヴィクトルからこの国の歴史を習ったはずなんですけど実を言うとよく頭に入ってないんです。それに王太子殿下から教えていただくお話は一味も二味も違っていて興味深いですから是非聞かせて頂きたいわ」


「ではお話ししましょう、あなた方の先祖にも関係のある話ですよ。

 まずこの国が出来る以前はどんな状態だったのか。

 最初は豪族と呼ばれる地域的支配権を持つ一族が多数いて、てんでバラバラに自分たちのいる地域を好きなように支配していたんです。

 時が経つにつれ彼らはもっと勢力を拡大したい思うようになり戦に明け暮れるようになりました。大体7つの支配圏に分かれた所でいったん安定した時代に入りますが40年もするとまた勢力争いが勃発しました」


「まあ、争いばかりなんて嫌な時代ね」


「そうです、当時は王様はいない時代でしたから誰も咎める者はおらず豪族達はやりたい放題でした。それで農民達はもちろんそこに暮らす人々はひどく苦しい生活を強いられていました」


「まあ、どうにかならなかったのかしら・・・」


「ええ、まさにどうにかするために立ち上がった人達がいるのです。

 7つの豪族達の争いが始まってから国が一つにまとまるまでの14年に渡る一連の争いを『デルニエの戦い』と呼んでいますが、特に武力に優った豪族が他を圧倒しその数が2つにまで減った頃、彼らの争いに巻き込まれ家を焼かれ畑を荒らされ家畜を襲われ家族の命も奪われた農民と、同じく街を荒らされ売り物を奪われ何もかもを失った商人達が手を組みました。

 それまでやられるか逃げ惑うしかなかった彼らは自衛集団を作り悪い支配者に立ち向かう決意をしたのです。その中には豪族の元に出入りし儲かっていたはずの武器商人までいて豪族の武器をメンテナンスをすると偽って借り受けては自衛集団にタダで流していたそうです。戦争で美味い汁を吸うはずの彼らにさえ恨みを買うほど豪族はやりたい放題だったということです。

 これはいわば革命です、彼らは奇襲をかけて豪族の城の一つを乗っ取りました。

 そこは今はもう崩されて無いのですが、この城は現在のアングラード領の岩山の上にあり彼らの最初の根城になりました」


「アングラードと言えば来る時に通った道の悪い所ね、なるほどあの辺りのことなのね」とグレースはウンウンと頷いている。


 フィリップの話は初代国王になるアルトゥーラスに移った。


「その時に活躍したのが後に初代王となったアルトゥーラスです。

 彼の存在が人々に知られるようになった時、彼はまだ豪族達が争う隙間でいつの間にか強大になっていた自衛集団の一員にすぎませんでした。

 しかし彼は皆に注目されていました。戦えない老人や女子供を守り、食糧が行き渡るように心を配り・・・とても賢く、統率力があったので彼の所には慕って来る者が引きも切らず自然とリーダーとして扱われるようになりました。

 奪った城を拠点に更に集団は大きくなりやがて皆は彼に国を治めて欲しいと願うようになり、彼はそれに応えることにしたのです。

 彼は黄金の髪、青い目をしていたと当時の記録にあります。

 当時のこの地方では見られない珍しい色だった為、初代アルトゥーラス一世は建国伝説の中では太陽の子とされています。建国伝説は各地で自然と語られるようになった当時の話を後世の人が聞き取りまとめた物ですが太陽の子の話はどこへ行っても必ず出てくるそうです。

 大抵その語られる場所に生まれ落ちたことになっているので実際に生まれ落ちたのがどこの地だったのかなど詳しい事は明らかになっていませんが、今ではその容姿から遠い国から来た冒険者だったのではないかという後の研究者による説が一番有力だと考えられています」


「まあ、そうなの。王様って生まれた時から王様なのかと思っていたわ、でもそうではなかったのね〜」とグレースが頬に手をあて感心したように言った。


「そうですね、初代は最初から王ではありません。でも最も王になるに相応しかったから、大勢の中から残り、選ばれて王になったのです。やはり王になるべくしてなった王なのですよ」


「確かにそうなんでしょうね」



 フィリップが一番内側を歩き、グレース、リリアンと並んでいるのでリリアンが歩いているのは壁側で王族の衣装が展示してある側の通路を挟んで反対になる。

 そこには長い槍などの武器やポーチの付いたベルトや帽子などの装備品が置かれていたが、どれも粗末で黒い染みがあり革や布が傷んでボロボロだった。これらは元の持ち主は分からないものの建国前の戦いで使用された物だという。


 それら展示品の奥の壁には大きな絵が掛けてあった。



 タイトルは『アルトゥーラスと騎士たち』この部屋に飾ってある絵の中で一番大きな絵だった。


『解説:黄金の髪のアルトゥーラスと『アルトゥーラスの三騎士』と呼ばれたジル、ラウル、クロードの三人、そして銀の民のルミヒュタレが勇敢に剣や槍を持って戦っているところを描いている。これは彼ら五人の功績を讃える絵である』



 リリアンが歩を緩めて絵を見ているとフィリップが足を止めて説明してくれた。


「こちらはまだ王になる前の無名のアルトゥーラスと共に戦う仲間たちで、特にその三人は目立って強かったので『三騎士』と呼ばれていました。

 そしてここに描かれているのが敵の大将を討ち取った時のルミヒュタレです。

 彼はいよいよ戦いも終盤になる頃に辺境から駆けつけてアルトゥーラスの危機を救いました。このルミヒュタレが初代辺境伯ですよ」


「ウチの初代さんも凄いことをしたものね」とグレース。


「ハハ、そうですね凄いです。この国の恩人で英雄です。

 なにせルミヒュタレの一太刀でそれまでの長い戦いの歴史がとうとう幕を閉じたのですからね」



「英雄・・・」とリリアンは呟いた。


 辺境伯の爵位を賜ったのは、その昔国王を助けたからだと物心つく頃にはもう聞かされていた。だからもちろんお祖父様のお祖父様のそのまたお祖父様?は偉い人なんだわと思っていたけれど、このようにフィリップから改めて話を聞くと本当に凄いことなんだと分かる。

 リリアンはルミヒュタレお祖父様のことを心から誇らしく感じた。



「アルトゥーラスは国王になった時にルミヒュタレの功績を讃える為にその血が続く限り永久に辺境伯を名乗って良いという許しと、辺境に住む銀の民の民族特有の性質を尊重し独自のルールを持つことを許すなどの特権を与えました。

 また褒賞として彼とティエサの長女である王女ピピを嫁がせることにしました」



「まあ、本当の本当に王女様が辺境に来られていたのね!

 まあまあ、マルセルもあなた達も王族の血を引いてるってこと!?まあやだわ、クレマン、あなたもよ!?」


 グレースは目を丸くして可笑しくて仕方がないと言わんばかりにクックと笑ってすぐ後ろにいたクレマンの腕を叩いた。その様子が面白かったらしくリリアンも「お祖母様ったら」なんて言って笑っている。


「母上、笑いすぎですよ。それに今更です・・・」と、いつも王族の血を引いてるとは思えない怖い顔と揶揄われるのがお約束のクレマンは苦笑いするしかなかった。




 ひどく楽しそうな彼らを見ながらフィリップはピピに関するエピソードを思い出していた。


 実はピピのことを王女だ王族だと言っているが、ピピはデルニエの戦いが起こった年に生まれてずっと戦乱の世を生き抜き、プリュヴォ国が興り王女を名乗るとすぐ辺境入りしたのだ。

 それを考えると結婚する時点では確かに彼女の肩書きは王女なのだが、まずお姫様のような生活をしたことは無いと思われるのだ。


 それどころかビジューが見つけた当時の記録によると建国時に余興で行われたレスリング大会の女性部門優勝者の名前が王女ピピになっていたのだ。



(それを見せられた時には自分の目を疑ったよ・・・)


 当時は生き残るのも大変な時代だったのだから男女関係なく強ければ強いほど良かったのだろうが、それにしても相当だ。



 だから王女ピピの血を引いているのは逆にクレマンの先祖のイメージにピッタリだと教えてあげたい気もするのだが、彼女の一般に知られている建国伝説の中の高貴でお淑やかな王女様というイメージを守る為に一応伏せておいてあげようと思い直し、ただ微笑んで彼らの様子を見守っていたフィリップだった。

王女ピピ、まさかのパワー系・・・

ᕙ( ˙꒳˙ )ᕗ.


いや〜、ここのところすごく時間をかけて歴史の話を事細かにダラダラと書いていたのですが、アップする段階になってやっぱりこんなに書いたら読むの怠いかもと思い直しゴッソリと削ってお蔵入りにしました。

どうでしょう歴史の需要ありますか、それとも読むの面倒ですか?

何かもう別の物語が1本書けそうデス。

_φ(* ̄▽ ̄* )



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