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179話 リリアンの疑問

 集いの午前の部を終えて国王と王妃が先に退席すると、残った者達も席を立ち誰が先とも言わず三々五々サロンを出た。先に食事をとってから改めて至宝殿の前で集まることになったのだ。



 それぞれ向かう先は違うが喋りながら歩いている中で、リリアンの耳にこんな会話が聴こえてきた。



「普通の女性は褒美と言えば宝石のついたアクセサリーだよ、それが辺境騎士仕様の頑丈な懐中時計を所望するんだから我が家の嫁の志は見上げたものではないか。

 この話は女性騎士の鏡として後世に伝えられていくだろうね!」


「そうだな。

 そろそろ女性騎士パメラの伝記を書き始めるか」


「いいね〜、そりゃあ名案だ」



 リリアンは(あれ?)と首を捻った。


 あれはレーニエの父、アンブロワーズ・アルノー王立騎士団総長の声だ。耳に心地よいバリトンのよく響く声は特徴的だし、さっき聴いたばかりだから間違うはずがない。


 確か先ほども彼は皆の前でパメラの事を『我がアルノー家の嫁』と言っていたのだ。




(話が違う・・・)



 パメラから以前聞いた話では、レーニエの父はパメラとの交際は認めてくれたが結婚は認めてないはずだった。


 確かしばらく恋人として付き合うのは許してくれたものの帰り際にレーニエに遅くならない内に別の良い相手と結婚するようにと聞こえよがしに言ったと。

 なのに総長の言葉はどう考えてもパメラを嫁として迎える気満々にしか聞こえない。



(なんでパメラの事をアルノー家の嫁と皆の前で言うのかしら?それこそ結婚を反対しているんだったら本人にも周りにも勘違いされないように一番使わない言葉だと思うわ。

 ・・・ちょっと待って?パメラは何か重大な間違いをしているんじゃない?

 だって、だって、どう考えても変よ。

 ああ、どういうことなのか直接聞いてみたいけど今はたくさん人がいてプライベートな事を訊くにはいいタイミングじゃないかも、でもでも今を逃したらアルノー総長とこの話をする機会なんてきっと永遠に来ないわ・・・どうしよう)



 広い廊下だ、自然と歩くのがゆっくりの者と早い者に左右分かれていた。このままではすぐに追い越され声の届かない所へ行かれてしまう。だけどすぐ横に並んだとしても護衛に囲まれた小さな私では話しかけるのも難しい。



 しきりと後方を気にするリリアンに気付きフィリップが声を掛けた。


「リリィ?何か気になってるようだけど、どうかした?」



 フィル様の顔を見たら自然と心を強く持てた。


 繋いで歩く手に勇気を貰う。


(フィル様にお願いして引き留めて貰おう!私がそれを聞いたとしてきっと状況は今より悪くはならない、それより上手くいく可能性がある。ならやっぱり今、聞いてみるべき!)



 リリアンは顔を上げてはっきりと言った。


「はい、フィル様。私、アルノー騎士団総長とお話がしたいんです」



「それは今?時計工房へ寄るなら僕たちはもう時間に余裕がないし、もうそこを曲がって行かないといけないよ」


「時計工房はまた今度にします」


「分かった」と答えるとフィリップはリリアンを抱き上げ、ゆっくり歩く列から抜け出して上手く後ろから来るアンブロワーズ・アルノーを捕まえてくれた。



「総長」とフィリップは声を掛けた。


 ユルリッシュ軍事相と歩いていたアルノー総長は笑顔で近づいて来て挨拶をした。



「これは殿下、今日の集いは今まで参加したパーティーや会議の中で最も楽しく興味深いものでした。お誘い下さいましてありがとうございます」


「そう言って貰えると企画した側としても嬉しいよ」


「はい、流石でございます。それこそまさかの玉手箱でしたよ、今朝集まった時にはまさかアンリ殿下のお話が出てくるとは夢にも思っていませんでしたからね。

 先ほどダルトア歴史文化相から我が騎士団倉庫に眠る当時の日誌や事件簿を調べさせて欲しいと頼まれました。アンリ殿下とアナベル嬢を繋ぐ確実な裏付けが欲しいのだそうですよ、我々も膨大な資料の中から探すのは大変なのですが喜んで提供致しますと返事をさせて貰ったところです」


「それは恩にきる。

 しかし総長がご機嫌なのはそれよりもパメラが大手柄を立てたからだろう?」


「分かりましたか。いや、本音を言えばそうですね。本当に私は鼻が高いです、ハハハハハ」とアルノー総長が良い声で笑った。


 そこでフィリップがリリアンの背をポンポンと叩いた。



 抱き上げて貰ってるお陰でリリアンの目線は高く自然に会話に入っていけそうだ。でも話を聞きながらどう切り出そうかと思ってずっとドキドキ緊張していた。



(上手く話せるかな?この合図は今が会話に加わる良いタイミングということね、せっかくフィル様が下さったチャンスだもの無駄にはしない)



「アルノー総長のお鼻が高くなるのは当然ですよ。私の小手柄に比べるとパメラのは大手柄でしたものね?」


 嫌味にならないように気をつけて心からの称賛を込めて笑顔で言った。



「おやおや、リリアン様。小手柄などとご謙遜を!なんの、なんの、我がアルノー家の嫁の大手柄に匹敵するお手柄でしたよ」



 匹敵すると言いながらリリィの手柄はパメラと同じ大手柄には入れたくないらしい。

(お前は負けず嫌いかっ!)とフィリップはリリアンの会話の邪魔にならないよう心の中で突っ込んでおいた。



「いいえ、本当に私のはお手柄でもなんでもありません。

 でもアルノー家の嫁とはどういうことでしょうか、まだレーニエは結婚していませんよね?」



 リリアンの最初の構想では "どうしてパメラがレーニエのお嫁さんになっちゃダメなんですか "と聞いて "パメラがお嫁さんで問題ないですよね、許してやって下さい" と説得しようと思っていたのに、言い方を間違えてレーニエの話をしてしまった。この先どう展開していくのか迷子になってしまってちょっと失敗だった。



「ああ、それなのです。ちょうど良い機会と思って聞いて下さいませんかリリアン様。

 ウチのレーニエはパメラと直ぐにでも結婚したいと常々言っているのですが、パメラの方から今はまだダメだと止められていてすぐには結婚出来ないのです」


 リリアンとフィリップはそれを聞いて(は?どういうこと!?)と目を見張ったが、まだ話は続きそうなのでとりあえずそのままアルノー総長の話を聞いてみた。



「多分、来月からの任務が今までのような安全で守られた王宮内と違い、外で大勢と交わることになる学園での護衛ですからリリアン様の専属護衛としてただ一人お側に付く責任の重さに緊張しているのだと思います。今はその役目を果たすことだけに集中したいと考えているのでしょう。

 私たち一族はその意を汲み、首を長くして待つ所存ではございますが、私はいっそのことリリアン様のご卒業を待たずとも夏期休暇や冬季休暇などを利用して先に結婚してしまった方が良いのではないかと考えているのです。

 専属護衛の任はリリアン様が学園を卒業したら解かれるのではございませんでしょう?それ以降も続くのでしたら尚更のこと、それこそ殿下とリリアン様の人生の大イベントを何よりも優先する為に先にした方がいいと老婆心ながら考えている次第です。

 まあそうは言ってもこれについてはやはり二人が考えるべき事ですから私が口を挟むのもアレなんですが、その時には休暇や人員のことをご考慮いただけたら幸いです」



「そ、そうですか」と言って、フィリップと顔を見合わせたリリアン。



(なんか、パメラに聞いてた話と違うよね?)とリリアンがパチパチと瞬きをすると、


(そうだね)とフィリップも瞬きをし、二人は目で語り合った。



 アンブロワーズ・アルノーはそんな二人の様子を見て嬉しそうに続けた。

 彼は自分が結婚を反対していると思われていたなんて思ってもみなかったので、今言った案、つまり ”早く結婚させるのも良い手だ” ということをフィリップ達に気づいて貰えたと思っているのだ。


「まあそういう訳で早く嫁に来て欲しいという願いを込めて我が家ではもうパメラのことを『アルノー家の嫁』と呼んでいるんですよ。

 それがうっかり外でも出てしまったようですな!ハハハハハ」



「それじゃあ、アルノー総長が結婚に反対してるのではないのですね?」


 リリアンがそう念を押すと総長は心底驚いた顔をして言った。


「滅相もない、反対などするはずがありませんよ。

 あれほどアルノーの嫁に相応しく、また誇らしい令嬢はどこを探しても他にはいません。それに何より息子が深く心を寄せているのです、私は心から歓迎しています。

 それなのにどうして私が反対していると仰るのですか?」


「それは・・・」



 その時、後ろでパメラが突っ立ったまま急にレーニエの名を呼んで泣き出したのだ。パメラはリリアンの護衛として3歩下がったところにずっといた。ここまでの話を聞いてようやく全てが自分の勘違いだったと気付いたのだ。


「レニ、レニ・・・」


 自分の父親とフィリップ達が話し出したのを見て、ニコラやジローの後ろで一緒に立ち止まっていたレーニエは急いで「どうした」とやって来た。


 フィリップが後ろに体の向きを変えたのでリリアンにもパメラの様子がよく見えた。


 そこにはいつもの気の強いパメラはいなかった。



「レニ、レニ、わたし・・・」と言いながらパメラはレーニエに抱きついた。そして背の高いレーニエのみぞおちに顔をうずめながらパメラは言ったのだ。



「結婚して下さい!レニ、私と結婚して下さいっ!!」




 一瞬呆気にとられ、レーニエのパメラの背中にまわそうと開いた腕が止まった。




「え?・・・もちろんしよう、結婚しようパメラ!」と言うとガシッとパメラの頭と肩に手を回して抱きしめた。



「でもどうして急に結婚する気になったの?僕が毎日のように結婚しようって言っても聞こえないフリしてたのに」



「私、ずっと反対されてんだと思ってた。レニと結婚出来ないんだと思ってたの、うえ〜ん」



「ええ!?そんなまさか!」とレーニエが驚き、アルノー総長は「なんてことだ」と頭に手をやって呻いた。




 涙と鼻水でベトベトになりながらいつまでもしがみつきレーニエから離れようとしないパメラ。せっかくの綺麗な顔もせっかくのレーニエの格好いい騎士服もパアだ。


 フィリップはその様子を見てフッと笑い「良かったな」と呟きリリアンを抱いたまま祝福の拍手を送った。リリアンも「はい、良かったです」と笑って二人に拍手を送る。

 それがニコラ、グレース、ジロー、エミール、ユルリッシュ、クレマン、ヴィクトルと広がって・・・。



 くっつき虫のパメラを優しく見つめていたレーニエが顔を上げると、そこにいた全員が立ち止まりこちらを向いて笑顔で拍手を送っていた。

 アルノー総長のバリトンの声が遠くまでよく響くせいで、先に帰って行った国王陛下と王妃殿下を除いた残りの全員が事の成り行きを見守っていたのだ。


 照れ臭かったけど、嬉しかった。


「皆んなありがとう!私は絶対にパメラを幸せにする!」


 そう言ってレーニエは高い高いをするようにパメラを高く抱き上げると、下ろす時に口づけをした。すると皆は余計にワッと湧き「おめでとう」という祝福の声でいっぱいになった。




 リリアンの活躍により、パメラの誤解は解けた。


 喜びに湧く輪の中で一緒になって笑い、拍手をしながら(リリアン様のこれこそが本当の大手柄だ)と柄にもなく目頭が熱くなったアルノー総長だった。


レーニエパパもママやレティシアに負けず劣らずの、いや輪を掛けてパメラ大好きっ子ですね!


流石の意地っ張りパメラもアンブロワーズ総長の心の内を聞いたことで自分が勘違いしていただけだったと気が付きました

いや〜、ヨカッタ!ヨカッタ!

一時はどうなることかと思いましたがリリちゃん決死のアタックでようやく誤解が解けました

_φ(* ̄▽ ̄* )



今更ですがパメラの勘違いっぷりは98話にあります


エマに対してなんだかんだ理由をくっつけて偉そうに出来ない理由を説明していますが

本当の根っこの理由は総長がパメラとの結婚を許していないという所だったのです

それがクリア出来ました



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