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178話 褒美を与える

「それにしてもリリアンはお手柄だった、なにせ歴史的発見をしたのだから。なあ、そうだろう?」


 リュシアンがそう言うと、すかさず皆が「その通りでございます」と国王陛下のお言葉を加勢した。



「国王陛下、お褒めに預かり光栄です。ですが私は手元の紙をただ開いただけですからお手柄なんて滅相もございません」とリリアン。


 お礼を言うだけでも良かったのかもしれないけど、一応そうではないのだと否定しておいた。

 謙虚で奥ゆかしく聞こえたかもしれないけど実際に何も大したことはしていない。このままお手柄、お手柄と囃し立てられたら恥ずかしくなってしまう。


 それにさっきうっかりリュシー父様と皆の前で呼んでしまい場を騒つかせてしまったということもあり、このままでは王妃教育が上手くできているのか危ぶまれてしまうかもしれないからここでちゃんと国王陛下と呼ぶことで挽回するつもりもあった。



 

「いいえ、そうは言ってもやはりリリアン様が見つけなければ分からなかったのですからお手柄です」


 リュシアンが答えるより先にアンブロワーズ・アルノー王立騎士団総長が口を開いた。彼の声は安定感がありよく通るので皆が注目した。真っ直ぐに背を伸ばして座っていたアンブロワーズは、やや胸を張って続けた。


「しかしながら我がアルノー家の嫁、パメラの功績も讃えて欲しいものですな。何しろ誰も開けられないという伝説の小箱をここでパッと開けてみせたのです。

 更に言わせていただくとその小箱の中にはこれほどの有用な情報が詰まっていたのですよ、まず小箱が開かねば話になりません。これは大手柄です、そうでしょう陛下?」



「ハッハッハ、うむ、全くその通りだ。パメラよ見事であった。

 これはお前達に何か褒美を取らせねばなるまいな!」


 リュシアンは笑って言った。

 総長がパメラの肩を持って張り合ってきたのを面白いと思ったようだ。


 いわばリリアンとパメラの嫁対決だ。両者自分()の嫁の方がエライと思っているからどっちも勝ちだ。




 アルノー総長は国王の言葉に大いに満足しパメラを見てきた。そしてその隣に座るユルリッシュ・ボーソレイユ軍事相もまた同じようにパメラを見てウンウンと頷いた。



 パメラは思った。


(アルノー家の嫁って何よ・・・総長、いったいどうしちゃったの???)



 自分が嫁として受け入れられる訳がないと思い込んでるパメラにとって、総長の真意に辿り着くのは秘密の小箱を開けるよりよっぽど難しいことだった。


 それで高速で頭を巡らせ考えてみた結果 (総長は息子の恋人の大手柄に嬉しくなって血迷ったに違いない)という完璧な答えが見つかったので納得した。

 まさか本気で自分を身内として自慢していたとは思いもよらなかったのだ。




「では大手柄をあげたパメラよ、褒美に欲しい物はあるか?あれば言ってみよ」


 国王陛下に尋ねられ、パメラはちょうど欲しいと思っていた物があったので即答した。



「はい、私は丈夫な懐中時計が頂けると嬉しいです」



「丈夫な懐中時計とな」


「はい、雪山でさえ使えるという懐中時計のことです」



 それを聞いた列席者が我も我もと言い出した。

 リリアンが持っていたマルセル・ジラール辺境伯の雪山仕様の丈夫な懐中時計の事を知ってから、それは皆の憧れの的になっていたのだ、こんな風に・・・。



(無骨な懐中時計の裏蓋を開けたら愛する夫人の肖像画が隠されているなんて、これほどロマンチックなことがあろうか。辺境伯も粋なことをするものだ、見た目に似合わずやることがお洒落過ぎる。自分も真似して妻を感激させたい)


(何より当の夫人やリリアン様がそれを知り皆がいるにもはばからず大泣きするほどだ、女性にとって夫や恋人が自分を想って肖像画を持ち歩き、夜はお休みと言葉をかけるなんてのは相当嬉しいことに違いない)


(私も妻の肖像画を入れた懐中時計を懐中に入れて澄ました顔で使いたいものだ。

 そしてある日何気なく分かるように置いとくんだ。自分の肖像画が入っている事に気付いた妻がどんなに驚き喜ぶかと考えるとまだ持っていないのにほくそ笑んでしまう。どんなに高価であろうと私は買うぞ!もう今から楽しみで仕方がない、しかしあれはどこで売っているのだ?)


(懐中時計にレティシアの肖像画を入れたなら、私は仕事も勉強も手につかず、ずっとそれを眺めてしまうだろう。ああ、でも欲しい、どうしても手に入れたい、レティシア〜!!)



 あ、なんか最後のは固有名詞が入ってしまった為に誰の心の声かバレてしまったかもしれないがシリルだと分からなかったことにしておいて貰いたい、ちょっと無断で覗いてしまったものだから・・・。



 とにかく皆は口々に喋り出した。彼らは普段から案を出したり意見したりと考えていることを発表するのが仕事なのだ、言いたい事は喋るのだ。


「私もちょうどそれが欲しいと思っていたところです」


「あれはいったいどこで手に入るのですか」と。



 国王陛下は皆がとりとめもなく喋り出したのを止めもせず逆に「確かにあれなら野営の時も水が入るのを気にせずラフに使えるな」と一緒になって盛り上がっていたのでワイワイガヤガヤとしたままお喋りは一向に治まる気配がなかった。



 仕方がないので頃合いを見て事態を収拾する為にヴィクトルが立ち上がった。


「皆さん、ただの丈夫な懐中時計ならば我が辺境領の時計職人ばかりが暮らす集落で作っておりますので手にいれることは簡単です。それは我が騎士団の関係者全員に使わせているような物ですから在庫もある程度あります。

 しかしながら肖像画は入れられません。唯一いた装飾職人がもう高齢の上に長年硬い金属に細工をし続けたせいで手に力が入らなくなり肖像画が描けなくなったのです。

 肖像画なしでよろしければ注文を受けて帰ります」



 あ〜という落胆の声の中、リュシアンが言った。


「パメラよ、ヴィクトルがああ言っているがどうする」



「はい、私は職務中に使いたいと考えていますので辺境領騎士団で使っている物と同じ懐中時計が良いです」


「よし。ではヴィクトル、パメラに一つ頼む」


「はい、畏まりました」


「他は個別にヴィクトルに注文せよ。次にリリアンよ、褒美は何が良いか考えたか?」



(え〜っと・・・)


(さっきから一応考えてはいるのだけど、いくら考えても欲しいものは思いつきそうにないわ、だけど国王陛下のお気持ちを無碍にすることは出来ないものね、とりあえずお菓子でも貰っておく?

 でもそれだっていつだって十分あるもの、何も欲しい物が思いつかないわ・・・)


 何かないかと思案していると、横に座るお祖母様達を見てふと思いついた。


(あっ、そうだ!)



「はい、私はヴィクトル伯父様達がお帰りになる前に一緒に来られている辺境の皆さんに会いたいです。サロンを開かせていただいてもよろしいですか」


「そうだな、せっかく親戚が近くに来ているというのにリリアンはまだ会っていなかったのだな。勿論リリアンの名でサロンを開くが良い。しかしそれは褒美でなくてもすれば良いことだ、他に欲しいものはないか」



(え〜、ようやっと良い案を捻り出したのに?もういくら捻ってもこれ以上出て来ないわ)


 心の中で降参しつつ他に何かないかと考えているとフィリップが良い案を出してくれた。



「では、その時に皆んなと一緒に肖像画を描いて貰ったらどうかな?」

 

 フィリップがそう言うとリリアンは手を打って喜んだ。


「わあ!素敵です。とっても嬉しい!!

 お祖母様、お父様、伯父様、お兄様も!皆んなで一緒に描いて貰いましょうね!ソフィーもトマトマも呼びましょう!フィル様、素敵な案を考えて下さってどうもありがとう!最高のご褒美です」



「父上、マイヤ・カバネルがちょうど帰って来たところです。肖像画を描かせてそれを褒美にとらせましょう、きっと良い記念になります」


「そうか?」


 リュシアンは肖像画も褒美でなくてもいくらでも描いたら良いのにと思ったが、リリアンがとても喜んでいるので言わずに収め、代わりに「よし、それでは好きなだけ肖像画を描いて貰うがよい」と言った。



 フィリップはリリアンが部屋に飾る用と、辺境に土産に持たせる用と、王族の至宝殿に飾る用にグレースの肖像画とリリアンの肖像画とベルニエの家族の肖像画に辺境の親族の肖像画も描かせようと思っていた。



 マイヤ・カバネルは壁画制作の為の弟子を求めて旅をすることになったという口実で、実家に一度里帰りをさせていた。王家お抱え画家になったマイヤ画伯の凱旋帰郷だ。

 弟子の方はこの短い期間に自力で探すのは難しいだろうと思ったので、こちらで各領主に声をかけて8人ばかり使い物になりそうな若い絵師と途中で会える手筈にしてやった。


 昨日は自分が不在だったのでまだマイヤとは顔を合わせていないのだが、エミールに聞いたところではその肝心の弟子探しも上手くいって2人ばかり一緒に連れて帰って来ているらしい。

 その2人の実力を見せて貰うのにもこの肖像画制作はちょうど良い、それぞれに描かせてみようと思っている。


 何はともあれ予定通りリリアンの入学式に間に合うように戻って来たので、マイヤにはこれからはじゃんじゃんリリィの絵を描いて貰うつもりだ。




「では集いはこれにて終わる!」と閉会の挨拶をしてリュシアンが立ち上がった。


「父上、お待ち下さい」


「どうした」



「はい、せっかくなので午後からグレース辺境伯夫人とその親族の者達を王家の至宝殿にお連れし、夫人の両親であるアンリ殿下とアナベルの肖像画、それから二人を偲べる品々をお見せしようと思うのですが宜しいですか」



 皆をこの集いに招待する際に午後は引き続きこのサロンでフリースタイルで交流すると通知していたが、その準備は実を言うと全くやっていない。最初から至宝殿に行くつもりだったからだ。

 しかしこの集いが始まる前はフィリップ以外はグレースと王族の関係をまだ何も知らない状態だったから先に予定に入れておくことが出来ず今思いついたことにするしかなかったのだ。


 至宝殿は王族はいつでも入室出来るが、他の者は都度王族の許可を得て尚且つ王族と一緒の時でなければ入室出来ないことになっている。

 フィリップがグレース達だけを連れて入るのなら国王の許可はいらないが今回は父や他の皆も連れて行きたかったので断りを入れるという形で伝えたのだ。



「おお、そうか!なるほどそれは良い考えだ。私も行くぞ!

 しかしそのアナベルとやらの肖像画や遺した物が王家の至宝殿にあるか?」



 リュシアンは王家の歴史にそれほど興味を持っておらず普段は忙しいので余程のことがない限り王家の至宝殿に行くことがない、それこそもう何年も足を踏み入れてなかったのだ。


 それにしてもプリュヴォの歴史の中で有名な事件の被害者として名が出るアナベルは戯曲の題材にもなっていて王都のような大きな劇場のある所では割と知られた存在なのだがリュシアンにすればアナベルは王弟の娘で直系ではなかったので余計興味がなく覚えていなかったようだ。



「はいあります。私は調べ物があり先日至宝殿に赴いたばかりなんですがその時にたまたまその名を見たのでよく覚えています。王家の傍系の血筋の方です」


「私はその名には覚えが無かったが・・・そうかよし、それもそこで確認しよう!

 せっかくだから興味がある者がいたら来ても良いぞ、どうだ皆の衆?」



 リュシアンが提案すると全員がせっかくの機会なので行きたいと言った。王家の至宝殿は通常は公開されておらず入れないのだ、それは行きたいに決まっている。




(さあお昼を食べたら午後はいよいよ本丸だ)とフィリップは心の中で腕まくりをした。


 至宝殿へ行けば誰もが納得する答えが披露できるだろう。


 それに至宝殿は近い将来フィリップとリリアンに関する物も置かれることになる場所だ。そこにリリアンを案内出来ると思うと何だか嬉しかった。


メッセージカードの紙を開いただけで大発見だとご褒美が貰えるリリたん、羨ましい限りです

多分リリアンは生きてるだけでご褒美が貰える仕様になっているのだと思います


それから辺境の懐中時計はクレマンはもちろんのことニコラやグレースも持っています

ノーマルなただの丈夫な懐中時計で肖像画は入らない仕様です

_φ( ̄▽ ̄)




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