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172話 キラキラ

 中から応答があったので、どうぞとドアを開きジローはフィリップを通した。しかしその表情はいつになく心配気だった。



 本当に不思議な体験だった。

 さっき自分達が目にした奇跡を、ニコラは何が起こったか結果以外は忘れてくれと言った。


 あれは誰にも知られるべきではないことは言われなくても私にだって分かる、ジラール辺境伯夫人は私たちを助けようとその貴重な超常の力を惜し気もなく使ってくれたのだ。

 何の足しにもならないかもしれないが、もしそのせいでジラール辺境伯夫人が窮地に陥るようなことになるならばその時は陛下や殿下に全力土下座してでもそっとしておいて下さいと頼む。



 そんなジローにニコラは大丈夫だというように余裕をみせて頷いた。本当は全然大丈夫じゃないのだが。


 殿下の人柄は知っている、悪いようにはならないと信じているけどお祖母様が今回見せたような力はとても貴重で凄いのだと思う。国を統べる立場から見ればきっと他にも有効な使い道があると思われるに違いないのだ。



 フィリップは護衛を外に残し部屋に一人で入って来た。


「ニコラ、グレース夫人、今エミールに聞いて来たのだが、ジローの嫁のお腹の中を皆で見たというのだが本当か」


 もうちょっと遠回しかと思ったらめっちゃ単刀直入に聞かれた。


 さっきエミールにも同じように忘れてくれと頼んだのだが、エミールは殿下に言わない訳にいかないと断ってきた。それでもオブラートに包んでふんわりと伝えてくれたりしないかな、とちょっと期待していたのだが相手は忠臣エミールだ、あの時の様子が殿下に詳細に伝わっていないはずがなかった。



「ええ・・・本当です」とニコラ。


「私もそれを見たいのだが見せて貰えるか」


「え?見たい?今?えーっとそれは・・・」


 そう来たか。


 まだこっちは何の準備も出来ていない、自分のことならともかくお祖母様のことなのでどう対応して良いものやらニコラは答えに窮した。




 そこにグレースが前に進み出て言った。


「王太子殿下、それが私もあのような事は初めてで戸惑っております。

 普段は女神様の声が聴こえるだけで、今回も『こどもは何人ですよ』と私にだけ聴こえる声でお言葉が返ってくるものと思っておりました。あれは女神様の気まぐれ、私自身の力で出来た事ではないのです」


「そうなのか?」とフィリップは眉間に皺を寄せると残念そうにため息をついた。


「はあ、私はとんでもないものを見逃してしまった。すごく残念だ。

 もう二度と外回りの仕事など行きたくないトラウマになりそうだ」などと言っている。



(そう言われても困るわ、そもそも私の力でやったことではないし再現は不可能だもの・・・)とグレースも困ってしまった。




 すると一粒、二粒とキラキラとした光が天井から落ちてきた。



「なんだ?」とフィリップそれに気がついた。


「また来たか」とニコラが困ったように眉間に皺を寄せた。



 フィリップが夢中で光の粒を目で追っている間に、部屋がキラキラとした光で満たされてきた。


 どんなものが落ちているのかと手のひらを上に向けると光の粒がそこにみるみる降り積もり、乗り切らなかったものがポロリポロリと落ちて弾けて光った。なんとも不思議で美しい・・・。

 指で摘んだら弾けるのかと摘んでみたら、指の間で呆気なくパァーッと光を放って弾けた。それでいて全く感触も重さもないのだ。フィリップはしばし不思議な光の粒に見入っていた。




<ほ〜ら、見せてあげたわよ。それでご満足していただけたかしら?王子様>



 フィリップは声のする方を見て、息を呑んだ。



 三人が向かい合った横、少し離れたところにいつの間にかリリアンと同じ髪の色、同じ目の色をした美しい、この世のものとは思えないほど美しい女性が立っていた。


 人間の姿をしているが、一目でそうではないと分かる。どことなく透けているような感じで実態感がなく、しかも肌だけでなく服も髪も全身が輝き光を放っていたからだ。



「エルミール」


 ニコラはその姿を認め、名を呼んだ。


 最近はグレースに合わせてリヤ様と言っていたが本人を目の前にするとやっぱり馴染んだこっちの名前で呼んでしまう。しかしなんで来たのと言わんばかりのちょっと咎め口調だ。



<ハ〜イ!ニコラ、元気そうじゃない?>



 エルミールと呼ばれた雪と氷の大精霊リヤはフィリップからニコラに視線を移し、機嫌良く手をヒラヒラと振った。



「あの、あなたは氷の女神様ですか?」


 両手を胸に当て、ニコラの横から顔を覗かせてグレースが尋ねた。


 ドキドキと心臓が早鐘のように鳴っている。子供の頃から友として親しくしてきたがその姿を見るのは初めてだった。


 初めて会えた喜びでグレースの目は潤んだ。



<アンナ、そう、私よ>


 リヤはグレースの方を向いて微笑んでそう言ったが、口は動いていない。

 言葉は脳に直接届いているからだ。



<こういう時、初めまして?って言うんだっけ?>



<いや〜あなたがそんなに困るなんて思わなかったのよ。ニコラの案が面白いと思っただけなの、でも悪かったわ。

 だから、お詫びに後始末をしに来てあげたのよ>



 後始末なんて取りようによってはちょっと物騒な言葉を使うからフィリップは怖れて一歩後ずさった。


 ニコラはそれはエルミールらしい言い回しだと思ったが、一応、殿下に自分の後ろに来るように言った。ニコラが動くとグレースが一人離れることになるからだ。



「で、エルミールは後始末に何をしてくれるっていうんだ?」


 ニコラは自分が盾になり、リヤに尋ねた。



<いや〜ね、そんなに怖がらないでよ。

 そうね、まあなんでもいいんだけど今思いついたのは皆んなの記憶を無くして何も無かったことにするか〜、それか〜記憶は置いといてそこの彼がアンナの『巫女の力』を利用しようとしたり問い詰めたりしないように私からお願いするかのどちらか、かしらね?>


<でも最初の子たちは綺麗だってすっごく喜んでくれてたじゃない?それにあの子達は大丈夫だと思うのよ。だから私のオススメは後者ね!>



 それくらいではグレースの心のうちにある不安はまだ消えなかったようで、それを感じ取ったリヤは前言撤回して代替え案を出してきた。



<でもやっぱりダメだわ、私がお願いしたくらいでは聞いてくれないかもしれないものね。

 アンナは王様に知られるのが怖いのよね?

 仕方がないから皆んなの記憶を消して今回のことは全部無かったことに戻すわ、その方が後々の心配がないものね。

 でもその時は加減が難しいから王子様の記憶の中のリリアンまでぜ〜んぶ消しちゃうことになるかもしれないけど、それは仕方がないからいいわよね?>



 加減が難しいとか、絶対に嘘だ。


 エルミールの提案は予想以上に鬼畜だった。



「ばっ!!それだけは絶対止めてくれ!何もしなくて良い!お前の後始末は不要だ。

 私はグレース夫人の巫女の力を利用するつもりはない、ちょっと不思議体験をしてみたかっただけだ!

 そもそもそんな特異な力が公になったら国が揺れる。私はそれを利用するつもりなどさらさら無いしグレース夫人のことはリリィと同様あらゆる外敵から守る所存だ」


<ふう〜ん>



<私はその心に嘘偽りは無いと知っている>



 フィリップを見つめていたリヤは、グレースに目を移しニッコリと笑って言った。



<じゃあ問題解決ってことでいいわね?アンナ>



「はい、わざわざご足労下さいましてありがとうございます女神様」とグレースは頭を下げた。



 リヤはフィリップにバレたとしても面倒なことにならないと知っていたけど、ただアンナが不安がっていたから安心させる為に出てきただけなのだ。

 氷の乙女の保護者であり想い人であるフィリップには巻き込んだお詫びというかサービスで超常体験をプレゼントしておいた。



<ふふっ、いいのよ。だって私たち友達じゃない>



 その声が聞こえている間にキラキラの粒が次々と弾けるように光ってリヤの姿が見えなくなっていき、それがおさまった時にはもう消えていた。



「・・・」

「・・・」

「・・・」



 三人はあまりのことにコレットが戻ってくるまで、言葉もなくただ立ち尽くしていたのだった。


奇跡はグレースではなく女神のきまぐれで起こったものです

それを伝えに来ました

リヤ様も案外世話焼きです

(∩^o^)⊃━☆゜.*・。


<お知らせ>

ブックマークしてくださっている皆様どうもありがとうございます。

ブクマ300件になりましたので番外編『ルネがいるから』の第3話をupしました。


フィリップのご学友で134、135話辺りで活躍(?)したルネ・カザールが主役のサイドストーリーです。こちらも楽しんでいただけたら幸いです。


ルネがいるから https://ncode.syosetu.com/n9627hz/



いつも読んでくださいましてありがとうございます


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