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167話 ご機嫌なふたり

 さっきトマトマが帰って行った。


 結局、帰る頃になってもまだアニエスがあの通りでなかなか話が進まず、見かねたリリアンが二人の間に入ってお互いの予定を聞いてデートの日時を決めてあげた。




 なんでもアニエスの次の定期のお休みはリリアンの入学式前日だったから、色々と準備することがあって違う日に繰り延べるつもりだったらしい。でもそうするとトマ達は学校が始まってしまうからデートはいつ出来るか分からない。

 アニエスのことだからあんまり先になると待ってる間に神経をすり減らしヘトヘトのフラフラになってしまわないか心配だ。それにお祖母様が「こういうのは勢いが大事よ、あんまり先延ばしにすると気持ちが落ちついちゃって盛り上がるものも盛り上がらなくなるわよ」なんて仰るから急遽アニエスの休みを2日前倒しにしてデートは明後日ということにした。その日は元々コレットが休みの日だったのだけど、クラリスがいるからこっちの方はなんとかなると思う。


 その上、さらに気の利かせて待ち合わせが失敗しないように念には念をいれ、トマに王宮の正門までアニエスを迎えに来るようにと約束までさせた。それほどリリアンは二人の世話を焼いたのだ。




(あ〜、今日はトマトマを王宮に呼んで大正解だったわ。カップルが二組も誕生するなんて思いもよらなかったけど、どっちも本当にお似合いだった。

 トマは無事にアニエスと会う約束を取り付けられて嬉しそうにしていたわ。トマスなんて別れ際にクラリスに何か耳打ちして早くも恋人っぽい空気を出していたし、いい感じ)


 そんな事を思い出していたら自然に顔はニッコニコ、鼻歌を歌い自然にスキップしていた。



「ふーん、ふふ〜んふ〜ん」





 僕のお姫様はさっきからかなりご機嫌だ。


 ダイニングルームに向かう道すがら繋いだ手を歩くのに合わせて前後に振ってやれば、リリィはこちらに笑顔を向けて同じように前後に振った。

 傍から見ても僕らはご機嫌で、随分楽しげに見えるだろう。



「ねぇ、フィル様。トマスとクラリス、トマとアニエス、どちらもとってもお似合いでしたよね?」



「うん、そうだね」


 まあ、どちらもと言ってもどっちのカップルも見た目はほぼ同じなんだけどね。


 でもお似合いなのは本当だ。特にトマスとクラリスが並んで立つと早くも恋人のような空気を出してしっくり馴染んでいた。



 トマとトマスは三つ子の兄がいるから四男と五男だし、クラリスとアニエスは王都にも屋敷を持つ東部の中堅貴族の令嬢で跡継ぎには兄がいる。どちらの家もこの縁談を歓迎こそすれ障害になるようなことは無さそうだから順調に交際を進めて結婚することができるだろう。


 それにしても四人とも家柄的に引くて数多のはずで、よく今までフリーで残っていたものだ。

 クラリスとアニエスは学園を初等部までで卒業した後、お行儀見習いで高位貴族の家に侍女として入っていた。これは婚約者のいない令嬢の卒業後の定番のルートで上級貴族ほど良い奉公先を見つけられる。そこで通常は一年を目処にその家の令息に気に入られて結婚することになるとか、そういった令息がいない場合は顔の広い伯爵や夫人から良い人を紹介して貰い嫁入り先を決めるという流れになる。


 しかしクラリスとアニエスに限っては特別にヘアメイクの技術が高くて本人達も自分の腕に自負があったから結婚するよりまだ仕事を続けたいと申し出て二年目に入ったのだとソフィーに聞いた。

 こちらとしても彼女達のその選択が幸いした。リリィの侍女にこれほどうってつけの人材はそう簡単に見つかるものではないからだ。


 それに宰相邸にいたクラリスがマルタンと恋仲にならなかったのも幸いだった。マルタンが相手だったら仕事を辞めて家に入らねば屋敷が回って行かなかっただろうからね。




「それにしても今日はカップル誕生だけでなくリリィの次の護衛まで決まったから本当に良かったよ、二人がリリィに付いてくれたら百人力だ」


「うふふ、2人で100人は大きく出ましたね」


「じゃあ20人力だ」



「20人も相当ですよ?でもまあ私としてもトマトマが護衛になってくれたら従兄弟だし、小さい頃からよく知ってるから安心だしで嬉しいですけどね」



 なーんてリリィは言ってるけどトマとトマスの実力は本物だ。


 以前から辺境で行う訓練でもニコラの相手は殆ど彼等がしているのだと聞いていた。2対1で戦うのが常らしいがなんと子供の頃にニコラから1本取ったことがあるそうだ。


 それが自慢らしく彼等定番の鉄板ネタだからさっきもまたパメラ相手にその時の話になって、パメラから尊敬の眼差しで見られていた。


「闘ってる最中なのにニコラがボンヤリしてたから両側から同時に脇腹を突いてやったんだ。審判は一本!って言ったけど、二本の間違いじゃないかと思うんだけどどう思う?」などと言って。


 ニコラが何も言わずに彼等に言わせたままにしていたから聞いてみたんだ。「いつもトマとトマスはあんな事をふれまわってるけど本当か?あれを放っておいていいのか」と。

 ニコラは「ああ、本当だ。あんまり揃った動きをして見事なので見惚れていたらやられてしまったんだ。あれほどマヌケなやられ方は後にも先にも無かったな」と笑っていたが、それこそが彼等の戦い方で、最高の武器なのだ。



 彼等が護衛になったなら、親戚だから他の護衛よりリリィの近くに置いても良いだろう。今までと全体の配置を変えて常に二人をリリィの後ろに置くつもりだ。そうすれば見栄えも良いし誰もリリィに危害を加えることなど出来はしない。

 僕もリリィがより安全になって安心だしご機嫌だ。


 懸念だった護衛の人員問題が解決した。


 あとは前から考えていたあの計画を実行に移し、リリィの立ち位置をより盤石にする。

 理想とすれば入学式の前にやってしまいたかったんだけど父上の都合で一週間延びた。でもいいさ階段を一段一段を上って行くことに変わりない。


 リリィと僕のよりよい未来の為に次のステップに進む。




「ところでリリィ、本当は前からトマとトマスの見分けはついてたんじゃない?今日だって途中からは普通に名を呼んでたよね」


「ええ、そうなんです」


 指摘されたリリアンはあっさりと認めた。



「実はですね、去年お兄様がいつまでも見分けがつかないなんて有り得ないと言って余計なことに見分け方を教えて下さったんですよ。私はトマトマ当てっこクイズをするのをとても楽しみにしていたから覚えたくなかったんですけどね。

 そのせいで分かるようになってしまって・・・焦点を合わさないようにしたり他のところを見たりしたんですけどもうさっきなんて声とか雰囲気で分かっちゃって間違えにくくて苦労しましたよ」


「間違えるフリをしていたとはリリィはなかなか演技派だ」


「そんなに上手に出来ていましたか?トマトマにももうバレバレだろうと思っていました。

 でももうこれで当てっこクイズはお終いです。

 どちらにしても私ももう学園に通うくらい大きくなりましたし、彼らが私の護衛になるのだったらもう分からないフリはしていられませんもの」


「まだもうしばらくはいいんじゃない?あんなに楽しそうだったのに止めなくても」


「いいえ、トマトマはアニエスとクラリスの恋人ですよ?いつまでも私の子供の遊びに付き合わせられませんよ。だって、親しき仲にも礼儀あり、ですもの」


 リリィは自分で状況をちゃんと見極めて、また一つ大人に近づこうとしていた。

 難しい言葉を使い、一人で心に決めて最も楽しみにしていた遊びとその遊び相手から卒業しようとしていたのだ。


「残念ですけどね」


 でも、そう言って笑うリリアンは言葉に反してとても嬉しそうで、むしろ清々しいといったような表情だ。





 今日はトマトマを呼んで本当に良かった!


 トマトマとの関係はこれまでとは変わってくるけど寂しいというより嬉しい。それはきっとトマトマに意中の人がいると分かって安心したからだと思う。


 今なら分かる、今よりもっと小さい頃の私は無意識に彼らをちょっと警戒していた。

 彼らはいつも自分が私の一番目の夫だ、いや二番目の夫だと訳のわからないことを言って他の従兄弟となにかにつけ競おうとして私を困らせていた。私はそういう展開になる度に先が思いやられて気が重くなっていたのだ。

 だって、私の王子様が従兄弟達だなんて夢がないというかつまらないというか、なんか違うでしょう?


 だけどお祖父様がいらっしゃる時は諌めるどころかむしろそれを奨めるくらいで「そうだリリアンは仲良く皆んなでシェアするんだよ、自分一人のものにしようと思うんじゃないみんなのものだ」なんて仰るの。

 私はそんなの嫌だからお祖父様に「リリは皆んなのリリじゃない、リリは王子様は一人だけがいい。みんなのリリなんて嫌」と言って泣いても「大丈夫、その内分かる。そういうものなのだからね」と逆に嗜められる始末。

 まるでボール遊びのボールを皆んなで使いましょうみたいな言われように悲しい気持ちになったのを覚えてる。


 でもお父様だけは「ちゃんと普通にお嫁入りさせるから心配しなくていいんだよ」と仰って下さっていた。だからきっと大丈夫だと信じていたけれど幼いなりに考えて、誰にも期待を持たせないように気をつけていたわ。トマトマは名前を覚えようとせずマルクからは逃げ回るみたいな小さな抵抗だったけど。


 ・・・まあマルクは本気で苦手で嫌だったんだけどね。



 でも今日のこの様子だとお祖父様の仰るような事にはならずに済みそう。

 トマトマにはちゃーんと好きな人がいたんだし、お祖母様だって私の学園入学と王太子婚約者候補になったお祝いに駆けつけたと仰ってたのだから従兄弟達と結婚するなんてことは期待していらっしゃらないもの。


 あんまり皆が "私は従兄弟達と結婚することになっている" と当たり前のように言うから現実になりはしないかと本気で心配していたんだけど結局あれは小さい私を揶揄って面白がっていただけだったんだわ、本当に皆んな意地悪ね!




 そう気づいたら、閉じ込められていた狭い檻からスルリと抜け出せたような解放感があった。


 

 私は自由なの。


 後はもう、のびのびと目標に向かって突き進んでいくだけ。



 これからもこの調子で他の従兄弟達にも早く良い人が見つかるよう応援しましょ、そして私は私でがんばってフィル様に選んでいただけるような素敵な淑女になるんだわ。





「そうだリリィ、また王宮にトマ達を呼んだらいいよ。放っておいてもそれぞれデートもするだろうけど向こうは学生でこっちは仕事をしてるんだ、新学期が始まったらなかなか休みが合わないだろうからね」


「ええ、そうします。二人っきりじゃなくても一緒にいたら楽しいですものね!じゃんじゃん呼んじゃいますよ」



「そうだ、一緒で楽しいと言えば皆んなでどこかに遊びに行くという手もあるよ」


「わあ!素敵です。私もフィル様と参加したいです」



「じゃあ今度計画を立てようか、合同デートだ」


「わ〜、とっても楽しみです!!」



 フィリップの提案を聞いて、さらにご機嫌になったリリアンだった。


フィリップは従兄弟のマルクがライバルだったのは父から聞いて知っていましたが、どうやらトマ達までリリアンと結婚したいと言っていたとは思わなかったようです

知らぬが仏

そっとしておきましょう

_φ( ̄▽ ̄; )



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