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164話 トマトマがやって来た

「リリ!」


 二人が同時にリリアンの名を呼び、同時に同じ方の足を出して、同じ方の手を上げて入って来た。今日もトマトマは息がピッタリだ。


「久しぶりだな。おい、こりゃあまた驚いた!しばらく見ないうちにリリは一段と美人になってるじゃないか!!」


 これだけの長文も全くズレることなく同じイントネーションで同時に言った。それも同じように足を止め、同じようにのけぞり、笑ってだ。



 トマトマは双子でも顔や背格好がそっくり同じというわけではないのだが、まあ『とてもよく似ている兄弟』のレベルでよく似ている。

 髪型や服装こそ同じにしているが二人は身長だって2センチも違うし、骨格の差かトマスの方が顔も体もほんの少し痩せて見える。それからトマは前髪で隠れているが額に怪我の跡があり、トマスは鼻を骨折したことがあるから鼻梁が途中でちょっと曲がっている。笑うとできるエクボは右と左で反対だ。



 いつも一緒にいる家族や友人からすれば充分違っていて見分けがつくのだが、あまり会わない親戚やそう親しくない人からすれば違いは僅かで紛らわしいらしく見分けようとすればするほど訳が分からなくなるらしい。


 その原因の一端は今みたいに気が合い過ぎることにあるのだろう、打ち合わせもなしに同時に喋ったり動きが揃うのは日常茶飯事で、さっきみたいなミラクルが度々しょっちゅう起こるのだ。

 それにリアクションがいちいちオーバーなことも加味されて見てる方が目の錯覚が起こったようなややこしい気分になり「はいはい、さすが双子だ。ソックリ、ソックリ」と見分ける気が失せてしまうのだとか。

 まあそれが狙いでわざと同じ格好をしているのだ、そのせいでほとんどの人にトマとトマスではなく双子のトマトマとニコイチで扱われることになるのだが。



 ちなみにニコラは二人が単独でいても並んでいても間違えることはないが、リリアンは2〜3回に1回は間違える。まあその頻度で間違えるということは当たるのも外れるのも偶然でとどのつまり全く見分けがついていないのだろう。



「トマトマ!」


 リリアンはパアッと喜色を表して、二人の渾名を呼んで駆け寄った。



「さ〜てリリ、行くぞ〜」


 トマトマは両手を擦り合わせ、声を揃えて言った。


「どーっちだ?」


 さっそくなにやら始まったようだ。



「えーっとね、こっちがトマで〜、こっちがトマス!」


「当ったり〜!ようやくリリも我らトマトマの違いが分かったか?」


「うふふ、もちろんよ!」



「じゃあアッチを向いて」


 リリアンは自分の手で目隠しをして後ろを向いた。口元はニマニマとして楽しみでたまらない様子だ。



 二人は何度も行ったり来たりした挙句、お互いの両腕を掴んでクルッと半周まわって言った。


「さあ、どーっちだ?」


「今度はー、こっちがトマで、こっちがトマス!」


「ハッズレ〜!」

「やっぱりリリは初心者のままだな成長が感じられん。トマトマ検定3級だ」


 違ったことがショックだったのか今度はトマトマの声は揃わなかった。



「え〜、わたし前に2級になったのに、また3級?」


「この検定には降級がある」

「次までによく覚えておくように」


「はーい」


「で、トマはど〜っちだ?」


「こっち!」


「おい、今は入れ替わってないだろ、そっちはトマスだ」


「えへへ、そうだっけ?」



「ダメだ、リリは全然覚える気がない」


「だってソックリ過ぎて分かんないもの、それに覚えてしまったらクイズにならないわ。でも今度は絶対に当てるからまたやりましょうね?」


「ああ、またやろう」と二人は声を揃えて言った。




「おい、トマとトマス、お前ら随分と楽しそうなことしてるじゃないか」


 リリアン達の遊びがひと段落したところで、フィリップは腕組みをしてニヤッと笑って言った。


 以前ニコラがリリィが一番仲が良い従兄弟はトマトマで、彼らは飽きもせずいくらでもリリアンの遊びに付き合うからよく懐いているんだと言っていたが納得だ。このいきなり始まった『どっちだ』という遊びもどう見たって相当やり込んでいる。



「あっ!殿下!!すいません、全然いらっしゃることに気がつきませんでした」

「私達はこの通り基本的にリリの事しか眼中に無いですからね」


 などと散々失礼な事を言っておいて、とってつけたように姿勢を正して挨拶をした。


「王太子殿下、今日はお目にかかれて光栄です」


 彼らの態度はともかくもピタリと声と動作が揃うのは見ていて気持ちがいいほどだ。



「あ〜もういいからそこに座れ」とフィリップは手で指し示した。



 フィリップと彼らはニコラを通して顔見知りで、ニコラがいれば一緒に立ち話などする事はあるが直接の繋がりはない。でも友人のような一定の気安さはあった。



「はい」と同時に返事をして歩き出そうとして室内に目をやって言った。


「おや?」

「なんだ。よく見たらお祖母様に、ニコラもいるじゃないか」



「今更かよ」とニコラはさも呆れた声を出した。


 辺境の男の癖に探知能力低過ぎだ、リリアンしか見えていないっていったいどんな目をしてるんだ?それよりお前らより先に戻って来たんだからもう居るに決まってるだろう。



 今朝、ニコラがお祖母様の荷物を取りに屋敷に帰った時にトマトマはやっぱりまだ来てなかったからベルニエ邸から使いを出してリリアンを訪ねて王宮に来るようにと伝言を頼んでおいたのだ。彼らはそれを聞いてやって来たはずなのだ。


 ニコラはもうとっくに王宮に戻っているし、とっくにお祖母様の荷物を運び入れた。

 殿下が待っている間に手帳を読む為の拡大鏡と、それらの貴重品を仕舞っておけるように鍵のかかる丈夫なチェストを用意してくれていた。


 これがまた急拵えの貴重品入れにしては出来過ぎで、全面を鉄板で覆ってあり更に床と壁にしっかり固定するという念の入れようなのだ。ちょっと引き出しの出し入れに力はいるが少し体重をかければお祖母様1人でも扱える。これならいつ部屋を空けても安心と大変喜んでいた。



 フィリップがそこまでしたのはグレースの宝物はフィリップの目から見ても大変価値のある物だったからだ。

 それはリリアンの祖母の出生の秘密を握る物と、リリアンと銀の民のあれこれを知るヒントになる可能性の高い日記帳で、もし失いでもしたら色んな意味で大損害。代わりの効かない唯一無二の物だ。





「あれ〜?それによく見たらそこにいるのはクラリスにアニエスじゃないか」


 ソファに向かおうとして壁を背に並んでいる侍女に目を止めたトマスが仰け反って言うと、トマも手を庇のようにかざして言った。


「ヤァ、本当だ。ここにいたのか2人とも!」



「トマトマ様!覚えていてくださったのですね。再びお会い出来て嬉しいです」とクラリスはその言葉通り嬉しそうに言った。


「・・・お久しゅうございます、トマトマ様」とアニエスの方は恥ずかしげに言って俯いた。



 こっちの双子はハキハキとしたクラリスと内向的なアニエスで、かなり性格が違うから言うこともする事もバラバラでちっともハモらなかった。



「私たちが君たちを忘れるわけがないじゃないか」と大袈裟に手を広げて言うトマス。


「そうだとも!」とトマも大袈裟に腕を組み大きく頷いた。



「なんだ、知り合いか?」とニコラが聞いた。



「そうさ私たちは初等部の一年の時に同じクラスだったんだ。

 双子同士だからか何かと縁があってね、ダンスの授業でパートナーをしたり授業でグループ分けする時は決まって同じ班になってたのさ」


「そうそう、男女校舎が分かれるまではよく喋ってたな。

 図書室で試験勉強をして教えあったりしてね、まああの時は他にも何人かいた気もするけど」



「へー、双子なんてただでさえ珍しいのに知り合いの双子同士がここでまた会うことになるとは奇遇だな。なんか面白い」とニコラは感心した。


「ホント、ホント、奇遇!奇遇!!」


 トマトマはニコラと気軽な感じで喋りながらクラリス達侍女に背を向けて薦められたソファに腰を下ろした。


 リリアンはトマトマとお祖母様を並んで座らせる為に席を譲って立ったのだが、余っている一人掛けのソファには行かず定位置に座るつもりのようだ。


 よいしょっと。



 トマトマの目は自然にリリアンに向く。



 リリアンはフィリップに支えられながら肩に掴まり、膝にちょこんと座った。


(リリが自力でソファに上がる一生懸命な様子の可愛らしいこと!)


(ああ、それが王太子殿下の膝の上でなく僕の膝ならもっといいのに・・・)



 身体を支える為に回された腕に包まれて、リリアンの手は自然に王太子殿下の手に重ねられた。座ってすぐ足をピョコピョコしたせいで跳ねたドレスの裾を綺麗に広がるようにフィリップに直してもらい、嬉しそうにお礼を言っている。


 笑顔で見つめ合う二人は和やかで幸せそうで・・・。



(これがリリの日常の風景か)


(しかし、これがあの”女嫌い”の麗しの王太子殿下と同一人物なのかと目を疑いたくなる。女嫌いが治ったのは朗報だが、その相手がよりによって何で僕らの女王様なんだよ。

 そんなに大切そうにするな、リリの憧れのお姫様のように扱うとか止めてくれ!それにリリもリリだ。こっちは赤ちゃんの時から抱っこしてるんだぞって言ってやりたい!でも、そんなの少しもアドバンテージにならないんだ)


(分かってた、今日この目で確かめるまでもなく。どうしたって僕らが太刀打ち出来る相手じゃないことくらい)



 ここに来るまではまだ、悔しいから当て付けに王太子にリリアンとの仲の良さを見せつけてやろうなどという大それた思いがあったのだ。


 けれど、逆に見せつけられて完敗だ。




「トマトマはねっ、学園と領地の行き帰りにいつもベルニエに寄ってくれてね、遊んでくれるの。でも今日はね一年ぶりに会ったのよ」


「へえ、そうなんだね」とリリアンの話を聞くフィリップ。


(そうさ、リリが王宮に上がったから一年も会えなかったんだ。ベルニエに寄っても居ないし)



 トマトマはフィリップとその膝に座るリリアンを黙ってしばらく見守っていたが、見れば見るほど一緒にいるのが自然に見えてお似合いだった。


 ニコラに先に聞いていたから時間をかけて心の準備もしていたし、もう自分の中でケジメはつけていた。ほんの少し感傷的な気分が残っているのはこれまでかけてきた時間の長さのせいだ。



 僕らはリリを守るために生まれて来たのだと、僕ら皆んなのお嫁さんにして守るのだとお祖父様に聞かされてずっとそれを信じてきた。リリが本当に可愛くて、愛しくて、独り占め出来ないなら皆んなの中の一番になるつもりで訓練も頑張ってきたしマメに交流も重ねてきた。

 でも、この国は一夫一婦制で、多夫一婦なんて事も聞いたことがない。お祖父様の言ってることは支離滅裂なことだとつい最近気がついた。それから急に夢から覚めるように現実が見えて来たのだ。兄や従兄弟たちも同じように考えだして今、辺境は婚約ラッシュだ。


(だから僕らも新しい一歩を踏み出すつもりだ)


(寂しいけど、これでいい。リリが幸せなのが一番いい。リリはこれからも僕たちの可愛い従姉妹でいてくれる)


 トマトマは目を閉じて人知れず細く息を吸って、細く吐き、心を整え目を開けた。



(もう大丈夫、気持ちをすっかり切り替えた)と自分自身に宣言し、彼らはそこで本当にリリアンへの想いにケリを付けた。





 侍女達は早速トマトマをもてなす為に動きだした。

 コレットはまた護衛を一人連れて厨房にお菓子を取りに行った。フィリップやリリアンが口にするかもしれない食べ物はお毒見が必要だからだ。

 クラリスは茶器の用意を始めたが、一緒に来るかと思ったアニエスは固まってしまったかのように壁際に留まったままだ。もちろん御用聞きに一人残っていても良いのだがいつもと様子が違って見えた。



 クラリスがアニエスにバックヤードに下がるように言おうとした時、アニエスは思い余った様子で声をあげた。




「あのッ、トマ様!」




「ん?」と呼ばれたトマは振り向いたが、もちろんここにいる全員が顔を上げ一斉にアニエスを見た。




 アニエスは下を向いて顔を真っ赤にしているがモジモジしているというよりガチガチで何か思いつめているようにも見える、大人しい彼女がこのような突飛な行動を取ったことは過去になかった。



 しかしだ。


 話しかけられたのならともかく、主人にお客様が来ているのに侍女が許可なく口を挟んだり私語を話すのは当たり前だがNGで、直接侍女が主人のお客様に話しかけるなどあってはならないことだ。



 パタパタとクラリスが早足で来てアニエスの代わりに頭を下げた。


「妹が場所をわきまえず勝手に声をあげ申し訳ありません、よく言って聞かせます」


 そう言って腕を引っ張って連れて行こうとしたのだが。



「・・・」



 アニエスは突っ立ったまま、そこを動こうとはしなかった。


トマトマはニコラより一学年上の従兄弟で学園の寮住まい

どちらも明るい性格で一番のウリは双子ということ!

服装や髪型は常にお揃いにしています

その方が何かと都合が良いらしいですよ


159話でリリアンがトマトマに会いたいとニコラに言って呼ぶことになりました。

数話前ですがあれはまだグレースが王宮に来た初日のこと。そしてトマトマが来たのはその翌日でまだ1日しか経ってません。

初日 158、159話

2日目 160話〜

非常にスローペースで進んでおります。


お正月頃は本気で実際の季節に合わせてお話を進めていけると信じていました。

とてもじゃないけど無理でした。

_φ( ̄▽ ̄ ;)



<お礼>

初めて小説を投稿してから今日でちょうど一年経ちました

こんなに長く書き続けることができたのは読んで下さる皆様のお陰です

どうもありがとうございました

まだこの後もこのお話は続く予定です楽しんでいただけたら幸いです


一周年を勝手に記念して久しぶりに連続投稿に挑戦します

ということで明日も11時に投稿予定です

<(_ _)> ペコリ




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