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160話 お祖母様大好き!

 お祖母様がお使いになる客室はお兄様専用客室のお隣で、向かいには私の両親専用客室がある。


 フィル様によると夫婦で使うという前提で両親用の客室にだけミニキッチンが付いていて、さらにリビングとベットルームに部屋が分かれていて広いらしい。


 昨日、それを聞いた時に私は良いことを思いついた。その部屋をお兄様との共用スペースにしてお祖母様が滞在されている間のお食事をそこでとっていただいたらどうかしらって。さっそくフィル様にお伝えしたら、それは良い案だと仰ってすぐに手配して下さった。

 その後すぐお祖母様達がお見えになったので私たちは共用スペースがどうなったか確認する暇がなく、夕飯に向かう時に案内がてら付いて行って覗いてみた。


 綺麗でお洒落、とっても居心地が良さそう。

 お花がテーブルやキャビネット、窓にとたくさん飾ってあって、それが特にお祖母様を喜ばせた。

 なんでもお祖母様のお住まいになる高地にはない花だったそうで見たことのない彩りに歓声をあげられた。



 それにしてもわずか2、3時間でこれだけのことをやってのけるとは凄い。

 だって、フィル様の指示は手前の部屋をダイニングとして食卓を置き、奥の部屋はリビングとしてベットを出して代わりにテーブルとソファ、それにロッキングチェアも入れてくつろぎの空間を作るようにということだった。

 元々あるキャビネットや書き物机などは残してあって壁には宮殿が描かれた絵が飾ってあった。


 フィル様と私は顔を見合わせて、ここなら気を使わず食事も食後の会話もゆっくり出来るはずとニッコリしたわ。

 お祖母様は私たちが少しでも居心地良く過ごしていただきたいと心を砕いたことにお気付きになって、それはもう本当に深く感謝して下さった。お祖母様はとても喜び上手で私たちの方が逆に嬉しくなったほどだ。



 それからお祖母様の侍女にはコレットを付けることにした。

 このお部屋は王族専用の王宮内にあるから他に頼める人がいないということもあるけど、私の侍女ならここの作法をよく分かってるし、私達も安心だもの。それから護衛にはお兄様がジローが良いんじゃないかと仰ったのでジローにメインで付いてもらうことにした。





 お祖母様はこのお部屋で初日の夕食はちょっと早めに、そして翌日の朝食はちょっと遅めにお兄様と二人でとられた。


 お夕食の時にお祖母様がせっかくニコ兄様がお屋敷に行ってくれるのならついでに『綺麗な柄の入った変わった木』以外のお祖母様の荷物を全部取って来て貰いたいと仰ったそうで、今朝早くにお兄様が許可を取りに来たのでフィル様が他の物も取って来る許しを与えたと仰っていたわ。




 そのゆっくりとした朝食後、お兄様はお祖母様を私の応接室に送って来て下さった。


「おはよう、俺はすぐ出る。トマトマは学園の寮に泊まってるからまだこの時間は屋敷に来てないと思うんだ。居ない時はわざわざ呼びに行かないぞ?お祖母様の大切な物を持ってウロウロしたくないし戻ってくるのが遅くなるから」


「ええ、お兄様はお祖母様のお使いで行くんですもの、それでよろしいですよ。でもトマトマに会いに来てって私が言ってると伝言を残しておいて下さいますか」


「じゃあそうしとく。では殿下、10時に門の外に戻って参ります」


「分かった10時だな。その時間に出ておくよ」



 私たちの計画はどういうことかというと、こういうことだ。


 お祖母様によると荷物はそこそこあって騎馬で背負って来るにはちょっと無理があるというのでお兄様は馬車に積んで来られる。フィル様は正門の外でその馬車に乗り込み、ご自分の荷物としてノーチェックで持ち込む。王宮の守衛門もワゴンに乗せ換えた荷物と一緒に通過する。というのがこの作戦の全容だ。



「じゃあお兄様、気をつけて行ってらっしゃいませ」


「ニコラ、面倒をかけるけどお願いね」


「はい、行ってまいります」



 ニコラは任せとけと言わんばかりに力強く頷くと、颯爽と部屋を出て行った。





 ニコラを見送ってからグレースとリリアンは昨日と同じように並んで座るとさっそくお祖母様から今日の話題について提案があった。


「ではニコラとトマとトマスを待つ間、今度はリリアンの事を私に教えてもらおうかしらね?」



 言われてみれば昨日はお祖母様の事を尋ねるばかりだったかもしれないわ。


「はい、もちろんです。お祖母様は何が知りたいですか?」




「そうねぇ、色々教えて欲しいわ。考えてみたら私が知ってることってあまりないのかも、だって聞いてもあの人達の話っていつも同じなんだもの。とにかくリリアンは可愛いってことと、私の贈ったドゥドゥをとても気に入ってくれてるっていうことしか基本無いわね」


「えっ?お祖母様が下さった?ドゥドゥ?何のことかしら」


 リリアンはキョトンとした顔で首を捻った。


 私が赤ちゃんの頃の話かしら?贈り物を下さったことさえ覚えてないなんてお祖母様に失礼なことこの上ないのだろうけど、本当にそれが何か分からないから知ったかぶりも出来なくて困ったわ。



「あら?とても気に入ってると聞いていたのだけど違ったかしら。

 リリアンとマルクが1歳になる時にそれぞれインコのドゥドゥとイノシシのドゥドゥを作って贈ったのよ、その後もリリアンにはインコをリアムに頼まれて2度作ったわ、つい最近も作ったわよ?」



「!!!」


 リリアンは本当ですかと心の中で叫んだけれど驚き過ぎて声にはならなかった。代わりに息を大きく吸い込み、目を見開いて立ち上がった。


「ちょっと、ちょっと待って下さいお祖母様!

 オコタンはお祖母様が作ってくださったものだったのですか?それは黄色いインコのヌイグルミのことですよね?」



「ええ、そうよ黄色いインコよ。まあリアムったら何にも言わずに持って来ていたのね、大らかなあの子らしいけどちょっと大らか過ぎるわね?」とグレースは笑った。



「ああ、お祖母様!!」


 リリアンはグレースに抱きついた。


 一日中連れて歩き寝る時も一緒の、自分の人生で一番一緒にいた大事な心の友がお祖母様が自分を思って作って贈ってくれたものだと知って心の底から喜びを感じた。


(離れていてもお祖母様は私のことを気に留めてくれていた、そして何度もオコタンを作ってくれていた!)



「ありがとうございます、それは私の大事なお友達です、何より大事なオコタンがお祖母様が作って下さった物だと知らずお礼を言うのが遅くなりました。お祖母様、本当に本当にありがとう、私にオコタンを下さってありがとう。オコタンは私の宝物です。オコタンが居なければ私はずっと独りぼっちでした」


 一気にお礼を言った。


 両の目から涙が溢れてきてポロポロとこぼれた。悲しいからではなく嬉しかったからだ。グレースはリリアンの背中を宥めるようにポンポンと優しく叩いてくれた。



 なぜだかこうしていると両親と暮らしながらも何か満たされなかったあの頃の寂しさ、そして現在もなかなか会いにも来ず手紙さえくれない両親に対して持っていた小さな、でもずっと燻り続けていた不満まで綺麗さっぱり昇華されていくようだった。


 絶対的な優しさに包まれて心がすっかり満足したのだろう。グレースがオコタンの作り手だからだろうか、オコタンと同じくらい信頼し安心できた。




 リリアンの様子を見てフィリップはもらい泣きしそうだ。


 ベルニエ領で隠された存在だったリリアンはとても孤独だったのだ。

 しかし一方で寂しさも感じていた。僕も出会ってからずっとリリィに幸せな気持ちでいて欲しいと思って心を配ってるつもりだったけれど、僕では力不足だったのだろうかと。




 グレースはリリアンの頭を撫でてやりながら優しく言った。

「そう、私の贈ったインコがあなたの役に立っていたのなら良かったわ」



「はい、いっぱい役に立ってくれました」

 リリアンはまだくすんくすんと言っていたが涙はおさまってきたようだ。



「今も抱いて寝ているの?」



「えっ・・・えっと、いえ、二代目オコタンがヨレヨレになってからは・・・その、今はフィルた・・・フィル様がいらっしゃるから、もう大丈夫で・・・えーっと、抱いて寝てません」


 リリアンはモジモジと赤くなりながらもそう言ってから、フィリップの方をチラッと見たら、フィリップは天を仰ぐようにして両手で自分の顔を覆っていた。


 それはリリアンが一緒に抱き合って寝ていることをバラしたから恥ずかしかったのではなく、恥ずかしがりながらも正直に告白するリリアンが凄く凄〜く可愛かったからである。しかも、自分がいるからオコタンはいらないと言ってくれたのだ。

 これでも悶絶しなかっただけ理性が働いて偉かったのだと言いたい。



 グレースはリリアンと王太子フィリップの様子を見て楽しそうに言った。


「ふふふ、気にしなくていいのよリリアン。オコタンより大事な人が出来たのなら、そっちの方が何千倍も素敵なことよ。誰だってそうやって大人になっていくの、だからリリアンがオコタンを卒業したのなら、それもまたお祖母様にはとっても嬉しいことなの」


「お祖母様!

 お優しいお祖母様、大好き!」



 リリアンはグレースの言葉に感動した。

 お祖母様はなんて心が広くお優しいのでしょう!


 辺境に住む皆んなが羨ましいな、いつもお祖母様と一緒にいられるなんて!



「ふふ、私もリリアンが大好きよ」とグレースは自分にくっついているリリアンを抱きしめてやった。


「ああ、お祖母様は本当のお母様よりお母様みたい。とっても優しくて温かいです」


「私は親を知らずに育ったからそう言って貰えると嬉しいわ。私の子や孫にちゃんと愛情を伝えられているかしらっていつも自問自答しながら育てていたから」


「お祖母様は愛情たっぷりですよ」


「だったら良かった」



 リリアンは幸せいっぱいといった表情でくっついたままグレースから離れない。その様子はまるで信頼しきって懐いて甘える子猫のようだった。

オコタンの秘密が明らかに!

お祖母様のお手製でした〜!!


リアムはヌイグルミを紐で縛って背負ってくるのでリリアンの手に渡る前に包装は破れて失くなり、カードも落としてしまうのです。確か前にそんな記述がチラッとあったような気がしますがどこか忘れました。

とにかく全く悪気はなく、そういう大雑把な性格なのです。

_φ( ̄▽ ̄; )



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