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154話 朝食は王族と

 翌朝は約束通りニコラは王族と朝食の席を共にした。


 朝一番でエミールが部屋に来て、食事は王族ととることになったと初めて聞かされたニコラ。

 その時にはリリアンから「兄が一人で寂しがってるから一緒に」と言われたのだと聞いて「え〜、全然寂しくないのにぃ〜」と言っていたが、いざダイニングルームに案内すると実に堂々と座っているのだからエミールは流石だと思った。


 見栄えが良いからニコラは得だ。とてもさっきまで口をへの字に曲げて「国王陛下とご一緒するなんて嘘だろ?俺が寂しくないから部屋で食べるって言ってるって伝えといてくれよ」などとエミールに言って抵抗していたとはとても見えないのだから。


 でも、移動中に背後で「王族方と食べるのに大盛りでおかわり頼んでいいのか?王妃殿下もいらっしゃるし、ちょっと言いにくそうだよな?仕方がないオヤツの時間まで我慢するか〜」とため息混じりに呟いているのを聞いた時はエミールは気にするところはソコ?って思った。

 なんなんだ、畏れ多いと恐縮してたんじゃないのか。まったくこの男は神経が太いのか細いのかよくわからない。




 しかし、ニコラの杞憂はお皿が運ばれてくると同時に吹き飛んだ。


 長いまま渦巻き状に巻いた腸詰め肉をボイルしたものが大きな皿にドーンと出てきたのだ。酢キャベツとピクルス、マスタードを添えてあり美味しそうだ。それに料理長自慢の丁寧に湯煎で作られたフワフワのトロトロで黄色い色が鮮やかなスクランブルエッグがあって、フルーツはリンゴだ。

 それにニコラの前にだけおかわりが出来るように平たいパン籠が置いてあり、外はサクサク中はしっとりじんわりバターの香りフールニエのクロワッサンがたっぷり並んでいるから充分満足できそうだ。


 それらは『朝から豪華な朝食を食べている王族の食事』ではなく、ニコラの為にわざわざ用意された物らしい。

 リリアンにはミルクティーと小さいクロワッサンがひとつ、それにスクランブルエッグがちょっととリンゴ一切れだ。ニコラに比べるとほんの少ししか無いがこれでちょうど良い量らしい。国王陛下でさえもそんな感じだった。



 さて食事が始まるとリリアンは隣に座る兄の方ばかり見てニコニコだ。だって今日の話の中心は常に兄で、やけに皆から話しかけられて大人気だったのだ。

 リリアンは物おじせず落ち着いて受け応えする兄が誇らしい、いつだって誰に対してだって堂々としていて強くてカッコ良くて時々面白いことを言ったりする優しい自慢の兄だ。リリアンはそんな兄が大好きなのだ。



 ニコラはリュシアンからは次回の対決はどうするかなどと聞かれ、パトリシアからは主に母について聞かれていた。



「ジョゼフィーヌはどうしているかしら?」


「母はちょうどリリアンの新入学に合わせて王都に向けて移動中です。

 しかし領地で辺境から王都に上がる伯父のヴィクトルや祖母達と合流して来てますので通常より移動の速度は遅いようです。現在はアングラード領辺りにいると思われますのであと2〜3日でタウンハウスに到着すると思われます。

 父は先に着いて皆を迎える準備をしているのですが、母達が着いてから揃って国王陛下並びに王妃殿下にご挨拶をするため宮殿に上がる予定だと申しておりました」


「それは楽しみだわね、ねえリリアン?」とパトリシア。


「はい、わたしも祖母に会えるのをとっても楽しみにしているんです」



「あなたの両親とも会えるわよ、来たらゆっくりして貰えば良いわ。私も色々話をしたいし」


「ええ、私も祖母はすごく遠い辺境からわざわざ1ヶ月もかけて私に会いに来て下さるのですから是非ゆっくりして欲しいと思っているんです。

 沢山一緒にいて、沢山お話がしたい!私祖母と会うのはこれが初めてなんですよ」


 リリアンは楽しみで仕方がないといった風にリュシアンとパトリシアを交互に見ながら言うと、フィリップはリリアンのその様子が可愛くて目を細めて言った。


「グレース夫人には王宮のリリアンの客間にしばらく滞在してもらうつもりです。そもそもリリィに会うためにヴィクトルが辺境伯の爵位移譲の為に王都に来るのに便乗したということですからゆっくり交流する時間をとってやりたいと考えています」


「うむ、リリアンもこんなに楽しみにしているのだから良きに計らえよ」


「はい、そうします。リリアンの祖母グレース夫人は辺境から出ることが無くその人となりはあまり世間に知られておりません。

 ニコラが言うにはグレース夫人は随分聡明で有能な女性で辺境ジラール一族の長なのだそうです。辺境では屋敷も騎士団も何もかも彼女が切り盛りしていて、何もかもが頭に入っているから皆からも頼りにされ、彼女がいないと機能停止に陥るほどだそうですよ。

 さすがリリィのお祖母様です、なあニコラ?」



「ええ、祖父は常に身体を動かしてないといけない(たち)でジッと座っていることが苦手です。帳簿を見るなんてことは全くしませんから祖母がいないと辺境は回らないのです。

 屋敷や領地のことはもちろん、騎士団のスケジュール管理や備品管理などの事務的なことや騎士の衣食住、悩み相談まで祖母の管轄です」


「確かにマルセル・ジラールはそんな感じの男だ、アイツはゆっくり座って話とか出来んのだ。

 だから年に2、3度は顔を合わせていたのにこっちは何年も氷街道の話も知らないままというような事になっていたんだ、全く困ったヤツなんだ。

 しかし私も辺境とあの偏屈男を支えている夫人に一度会ってみたい、この度の訪問は実に楽しみだな」


「そんな重要な存在の彼女が王都に来ている間、辺境は大丈夫なのかしら?」とパトリシア。


「はい。このたび辺境伯の爵位を嫡男ヴィクトルに移譲するのに合わせ、辺境の切り盛りも新しく辺境伯夫人となる伯母に譲ることにしたのです。

 いずれ伯母が受け継ぐ予定でこれまでずっと仕事を教えてきたのですから上手くやっていることでしょう」


「そう、ならひとまず安心して良いのかしら?」


「はい、他の叔母達も祖母に付いて来たのでいきなり一人で放り出されたようなものですが却ってその方が責任感が芽生えてやれるものです。頼る者がいれば頼る者達も、頼る者がいなければ自分の頭で考えるでしょう。必要な事は十分教えておいて突き放す、辺境方式の指導法ですよ」



 なんて話していたらいつもより朝食に長い時間をかけていたようだ。今日の引見の準備をそろそろとモルガン宰相が呼びに来るまでゆっくりしていたのだから。


 宰相は来るなり国王陛下と食事をしているニコラを二度見していた。

 モルガンだってダイニングルームに入って国王が食事をする後ろに控えて立つことや、仕事上の流れや打ち上げで国王と食事や酒を共にすることはあるのだが、国王の『家族の食事』に同席するなんてことは無い。

 だから今朝、ダイニングルームにニコラが居ると聞いた時は護衛として誰かの代わりに入っているのかと思っていたのだ。それが来たらただ一緒に食卓を囲んでいるだけでなく、笑顔でパン籠に手を伸ばしていたのだから驚くはずだ。



 リュシアンが食事を終えて立ち上がろうとしたのを見てニコラが見送りに立とうとしたが、それを手で制して言った。


「もうそんな時間か、私は行くがお前たちはまだゆっくりするがよい。

 フィリップとリリアンは今日は一緒に過ごすことにしていると言っていたな?」


「はい、パメラに休みを出している明日まで私は執務の予定を入れていません。今日この後はニコラ達と乗馬をします」


「乗馬とは羨ましいことだ。

 パトリシア、お前の今日の予定はまだ聞いてなかったな」


「ええ、私宮殿のお針子にリナシス仕様の乗馬ドレスを作らせてみたの、今日それが届くと聞いているわ。その後はお茶会も来客もないから後は趣味に時間を費やそうと思っているの。

 乗馬ドレスはリリアンにも作ってみたからどんな物か見に来れば良いと思っていたのだけど、すぐに馬場に向かう予定なのかしら?」



「えっと、どうすれば良いかしら?」と言ってリリアンはフィリップとニコラを見た。ドレスは気になるけど勝手に決められない。


「私は先にソフィーを迎えに行ってから馬場に直接向かう予定だ」とニコラ。


 フィリップは少し考えてから言った。


「そうだな、リリアンがそっちに付き合っていたら午前中が全部潰れてしまう、我々はずっと馬場にいますから母上が馬場のサロンの方に来て下さると良いのですが」



 王妃殿下に来いとは息子ながら大胆なことを言うがパトリシアからすると悪くない提案だったらしい。


「ふ〜ん馬場にね、その発想は無かったけど良いアイディアだわ。

 じゃあ私が乗る馬を一頭用意しておいてちょうだい。さっそくそのドレスで乗ってみたいわ、最近ウエスト周りが気になっていたから1日も早く乗りたかったのよ」



「まあ待てパトリシア、お前の馬はまだないぞ」とリュシアン。


「ええだから金の馬でなくて良いの、私はただ馬に乗りたいだけなのよ。でも一人で乗るのはつまらないと思っていたからちょうど良い機会だわ」


「分かった、じゃあ俺も後で行く。俺の馬も用意しておいてくれ」とリュシアン。



 そしてモルガンに「引見が終わったら他は全部明日以降に回す」と言いながら去って行った。


 なんだ、なんだ?

 国王や王妃というのはこんなにあっさり一日の予定を変更しても大丈夫なものなのか?



 そういう訳で今日の乗馬は思わぬ豪華メンバーですることになった。

 ソフィーが聞いたらさぞびっくりすることだろう、ソフィーも一緒に乗馬をすることになるのだから・・・。


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