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146話 満喫!

「ちょっとここシャワー無いしお風呂沸いてないよ、どうしよう?」


「・・・」



 宮殿では栓を捻るだけで潤沢に使える水も湯もここにはない。

 当然の事ながら家の中に水は湧いてはいないのだからそれは使用人が川や公共の井戸から汲んで運んで来てくれて初めて使えるものだ。

 その川だってどこだって良い訳じゃないし運ぶ方法だって色々ある。水汲み一つとっても経験とか縄張りとか時間帯とか、とにかくそれぞれがより良く簡単に行えるようにと培ってきたノウハウが必要なのだ。

 だが、そんなことも高位貴族のご子息ご令嬢である2人は知らなかったらしい。




 昨日は仕事が終わって宮殿の食堂で食べて帰ったから後はお風呂に入って寝るだけだと思っていたのだけれど、どうすればお風呂に入れるようになるのかとんと分からず洗顔用に準備してくれていたらしい水差しの水でタオルを濡らして絞り体を拭くくらいしか出来なかった。


 それでもまあ私たちは騎士であって、もしもの時には野営なども想定して行動しなければならないくらいだからこんなのは屁でもないのだ、気にすることはない。



 お風呂は早々に諦め、家の中の探索もほどほどにしてお互い持って来ていたあの香水をつけると仕事の疲れもどこへやら、二人で明け方まで起きていたから翌日はお昼近くまで寝ることとなった。

 でもそんな事もここでは許されるんだから、もうめっちゃ自由!!



 かといっていつまでもゴロゴロしている訳にもいかない、待っていても食卓に朝食が並ぶ訳はなく、お腹が空いてきたので連れ立って外に出ることにした。


 近所にパン屋や立ち食い出来るファストフード店が並ぶ一角があった。これなら食べるものは何とかなりそうだ。

 セントラル広場にある女性受けしそうな飲食店とはまた違う趣で、初めての土地の見慣れない風景がパメラの目にはやけに新鮮に映る。



「わお!いっぱいあって迷うね〜」


「そこのホットドックなんてどう?美味しそうだよ」


「ちょっと大きすぎない?」


「あれくらいがこの辺りの普通サイズだよ」


「え〜?少なくとも通常の倍!いや、それ以上あるよ!?

 お腹は空いてるけど、起きたばっかりだし私はもっと軽めがいいなぁ」


 騎士向けアパルトマンが近くにあるだけあって体力自慢の男達にウケそうなガツンとしたものが多い中で甘い香りをプンプンさせて異彩を放っているお店があった。


「私、あのお店のゴーフレットに決めた!」


「そう?ホットドックの量が多過ぎるなら僕と半分こにしてもいいんだよ」


「ううん、今は甘い味の気分なの」


 さっそくおじさんに二枚頂戴と注文する。

 紙に挟んでもらった楕円形の少し厚みのあるゴーフレットを手にベンチに腰掛け、一口齧った時の驚きときたら!

 しっとりした生地から香ばしいバターと甘い香りが広がって、挟んである砂糖のジャリッとした食感も癖になる。これはまさに美味しさの洪水、まるでお菓子の王様、何コレすっごく美味しい!!


「ねえレニ、私今日食べたこのゴーフレットの味は一生忘れないと思う。それぐらい美味しくて衝撃的だった!凄いの見つけちゃった、もう最高!!」


「そう、それは良かった。確かに美味しいね、すっ・・・ごく甘いけど」


「私、もう1個食べちゃおっと!レニは?」


「僕はもういい・・・パメラ、さっき軽めって言ってなかった?」


「軽いでしょ、私もう2、3個はいけるけど?」


「マジで?朝から飛ばすね」


「そうだ!やっぱりお持ち帰りにしよう、いっぱい買っておいて後でゆっくり味わって食べよっと」と言うやいなや走って行った。


「おじさーん、これ最高!もっと頂戴」


「はいよー」


 パメラは早くも新生活を満喫しまくりだ。

 レーニエは食べかけのゴーフレットを持て余したまま「やれやれ、ホントに一人であんなに食べれるのかなぁ?」と言いながらも楽しそうな様子のパメラを目を細め笑って見守った。




 家に戻り美味しい紅茶を飲んで口直ししたら、ようやく何かやっておかないといけないことはないかチェックすることにした。一応全部の部屋を確認して歩いたが家具も一通りあるし綺麗に掃除してあって、どこに何があるかも分かりやすかったから特に無さそうだ。


 元はお祖父さんが若い頃に一人で住んでいた家というだけあって部屋数は少ない。1階はリビングとダイニングを兼ねたような広い部屋が1つにキッチン、バストイレ、2階には広めの部屋が2つあって片方は書斎、片方にダブルベッドが置いてあったのでそこが寝室だ。


 外に出ると昨夜レーニエが言っていた馬房の向こうに馬場もあったし、薪がぎっしり詰まった薪小屋もあった。


 それとは別に小さい小屋があり、窓から中を覗くと一部屋の中に炊事場、暖炉やテーブルと椅子、ベッド等がある。


「ここは何の小屋だろ?」とパメラ。


「馬丁の詰所とかかな?だとしたら随分と待遇がいい」


「さすが馬好きだね!」


 馬場屋敷と名がつくはずだ。



「ねえ、いつソレイユとファルファデを連れて来る?今日の夕方はアルノー邸に行くからそんな事してる暇はないかな」


「そうだね」



「ん?誰か呼んでるわ」


 そんな風に話しながら敷地内を見てまわっていたら表の方で「パメラ様〜、パメラ様はいらっしゃいませんか〜」と声がした。

 ここに私がいるって知ってる人がどれくらいいるというのか、私も昨日連れて来て貰うまで場所も知らなかったのにいったい誰だろうと行ってみるとバセット家の使用人だった。



「なんだポールじゃない。

 よくここが分かったね、どうしたの?」


「ああ良かった。パメラ様、随分とお探ししましたよ。今朝コレットからパメラ様が夕方アルノー邸にディナーパーティーのご招待を受けていると連絡があったんですよ、もしかすると着て行く服がないんじゃないかって」


「あっ!そうだった。服のこと忘れてた!騎士服はプライベートでは着られないんだったわね。騎士服がダメならあとはこんなのしか無いよ困ったな。

 でもディナーを食べるだけじゃなかった?パーティーだったっけ?パーティーじゃなかったよね?」


「お客様を招いてのディナーはどんなに内輪の者だけであってももうパーティーと言うのですよ、お嬢様。先方に失礼ですから身なりも整えて行かなければなりませんよ」


「そうなの?レニ、レニ、どうしよう!この半年間仕事仕事でドレスなんて1着も作ってないし、そもそも総長の家なんて何着て行けばいいのか分からないよ〜」


 横柄な態度がウリ(?)のパメラでも流石に王立騎士団トップの総長の前では借りてきた猫のようになってしまう。なにしろ子供の頃から夢見て目指した騎士の頂点に君臨している人なのだから、パメラにとったら総長とはそれはもう国王の次くらいに偉い人だ。



「パメラ落ち着いて。総長っていっても僕の親だよ、何を着て行っても問題ないよ」


「ダメだ、レニじゃ役に立たないっ」


「お嬢様落ち着いて下さい、私が持って来ておりますから」


「それを早く言ってよ」


「こちらが話しているのにパメラ様が話し始められたのですよ、今日は奥様がご不在でしたけどこんな事もあろうかとお嬢様に仕立てて下さっていたドレスがありましたのでそれを一式持って参ったのございます、まあちょっと見てやって下さい」


「うん、じゃあ中に入ろ」



 バセット家の使用人であるポールが乗ってきた馬車の荷台にあるドレスの入った大きな箱と靴やバッグの入った小さい箱を手分けして運び入れて中を見ると華美過ぎない上品な淡い赤茶色のドレスが入っていた。これならホームパーティにぴったりだ。


「へー、素敵じゃない。でもどうやって着よう?コルセットの紐もまだ通してないし着方なんて分かんないよ、髪はこのままでいいと思う?お化粧はどうしよう?」


「私はちょっとその辺のことは・・・」とポール。


 知ってた。


 彼はドレスを持って来ただけでそもそも着付けや化粧なんて出来る訳がないのだ。逆になぜ侍女を一人連れて来てくれなかったのかと問いたい、離れて暮らしてみて初めて分かる侍女の有り難さ。


 彼女達がいればこちらが出掛けると一言口にしただけで全てが手際よく準備され、ドレスもヘアメイクもアクセサリーに化粧、持ち物はハンカチに至るまでトータルで完璧にコーディネイトしてくれるのだ。これが王宮にいる時ならばリリアン様の侍女達が気を利かせてこちらが言う前にやってくれていただろう。



 レーニエも同じ事を考えていたらしく思案の末に言った。


「仕方がない、これは一度戻ってリリアン様の侍女に頼むしかないだろう」


 王太子婚約者候補付きの侍女の私物化なんて人に聞かれたらダメと言われそうだが他に方法が無いのだ、リリアン様はきっと助けてくれるに違いない。




 パメラもレーニエもよっぽど職場が好きと見える、せっかくの連休中、しかも初日に早くも宮殿に舞い戻ることにしたのだから。他にパメラの実家に行くという手もあったのかもしれないが気がつかなかったのだから仕方がない。


 善は急げだ。ポールと別れ昨日乗って帰った馬車で宮殿に向かった。もちろん、先触れを出すための使用人もいないのでこのまま突撃する。





 一方、リリアンの方はというとパメラのことをとても心配していた。


 朝になってパメラが総長の屋敷に招かれているのだと耳にしたコレットがこんな事を言い出したのだ。


「お嬢様がピンチです。今晩どんな格好で行かれるおつもりなのか私に相談がありませんでしたから、きっと何も考えていないのだと思いますよ。とても独りでは決められませんもの」


 それではいっそ呼び戻してどうなっているのか聞こうかとか、さすがにもう気が付いてバセット家に駆け込んでいるだろうとか、せっかく羽根をのばしているのに休みを邪魔するのもなんだからなどと皆で言っては気を揉んでいた。

 結局、リリアンに「念のために確認しておきましょう」と勧められてコレットが文言を書いてバセット家に使いを出したのだが『今日はローズ夫人が侍女を連れて出掛けていらっしゃるので私たちで何とかする 使用人代表ポール』という返事が返ってきて、それを見たコレットが頭を抱えたので余計心配が増していたという・・・。



 だからパメラには安心して欲しい、王宮に行けば歓迎して貰えること間違いなしだ。


今日から一緒に住める!

そこは2人のパラダイス!!

ゴーフレットも感動するほど美味しいはずですわ

 _φ( ̄▽ ̄ )



ここまで読んでくださいまして、どうもありがとうございます



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そしてなにより作者がとても喜びます


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