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144話 ニコラの部屋

 フィリップが学園護衛隊の任命式が終わった後、パメラの護衛業務を一時中断させて護衛隊仲間と一緒に支給品を取りに行くように指示したのはニコラがいたからだ。

 ニコラがいるならパメラの代わりにリリアンに随行させればいい。


 リリアンはいつもの応接室に戻る前にパトリシア王妃のサロンに衣装を着替えに行くことになっていたのでフィリップとニコラに挟まれるようにしてまずそちらへ向かっていた。



「ねえお兄様、私がお部屋に戻った後はどうされるのですか」


「ん?」


 今日はソフィーを伴って来ていなかったので、すぐに帰ってしまわれるのかしらと思ったリリアンがそう聞くと、ニコラはリリアンに目を落として言った。


「ちょっと話しておこうと思ってることがあるからまだ居るつもりだが?」


「そうなんですね!なんでしょう?」


 興味津々で尋ねるとニコラは優しい兄の顔で目を細め口角を上げたが「うん、後でね」と言ってリリアンの頭を撫でてやり、顔を上げてフィリップに言った。



「殿下、私はおそらく予定より数日早く寮に戻ることになると思います」


「そうか」


「はい、その時には改めて連絡申し上げます」


 そう聞いてフィリップは何かトラブルがあったのだろうと推測したが、後で話すと言っているのだからここでは敢えてそれ以上触れなかった。

 しかし、話を聞く場所は念の為に王太子のサロンを使うことにした。いつだったかニコラが祖母の出自について告白した、あの部屋がいいだろう。


 後ろを歩く従者見習いに声をかけ、一番奥の王太子のサロンで食事をとるから給仕のいらない食事を3人分用意しておくようエミールに伝えに行けと言いつけておいた。




 王太子のサロンに用意されたランチセットの、マッシュルームのポタージュを一口飲んでからニコラは話し出した。


「昨日の夕方、ウチに父上とトマトマが到着したんだ」


 ちなみにトマトマとはニコラの一学年上にいる従兄弟で双子のトマとトマスのことだ。

 マルセル・ジラール辺境伯の次男にあたるヒューゴおじさんの息子は7人いるが、上が三つ子のレオ三兄弟、次がトマトマだ。ちなみに下も双子だ。


 トマトマは双子でも顔や背格好が瓜二つということはなく、似ていると言っても兄弟レベルだから見分けるのは容易なのだが名前がソックリな為に遊びに来た彼らを小さかったリリアンが一緒くたにしてそう呼んだことから発したあだ名だ。

 リリアンが他の従兄弟達はただの名前で呼ぶのに対して、自分達にはあだ名を付けて親しげに呼んでくれるというのが彼らの自慢で「俺たちトマトマが」などと普段でも自分たちの事をそう言うので学園でも面白がられ皆からもひとまとめにトマトマと呼ばれている、それはもう歳下やよく知らない人からも。

 という訳でフィリップも彼らの事は知っている。リリアンがつけたあだ名のお陰で辺境の双子トマトマは学園で結構有名なのだ。



「お父様とトマトマが!?」リリアンは嬉しそうに言ったけど首を傾げた。

「あら、でも3人だけ?お母様やお祖母様達は?」


「それなんだ」と言いつつバゲットを手に取った。


「何があったトラブルか」とフィリップが問う。


「はい、お祖母様ら辺境の一行はベルニエで私たちの両親と合流し一緒に来ていたのですが、アングラード領の手前で馬車のブレーキの効きが悪くなって調整し、他も点検していた時に客室の床に亀裂が入っているのが見つかったと言うのです。

 ベルニエを出る時には無かったということで走っている間に入ったのでしょう。それで代わりの馬車をトマとトマスが取りに来たのです」


「では事故が起こったというわけではないのだな?」


「はい」


「それにしても馬車を取りに王都までとなると往復にかなり日数がいるぞ、少なくとも4日はかかるだろう。現地での補修もきかないほどの亀裂だったのか」


「ええ、街と街の間ですし。馬車は普段は使わないからそもそも古くて劣化していたのでしょう」


「馬車を使わないの?」


「ああ、辺境は大型の馬車が連続して走れるような道が無いからね。移動は騎馬か徒歩、持って移動出来ない程の荷は荷車で運ぶ。必要があればその時だけ道を作るけどまた元に戻すからね。

 使うとしたら下界からお嫁さんを貰う時だよ。今回の馬車もおじさん達が結婚する時に使った年代物だと言っていた。だから昨日もトマトマが自分たちの時には絶対に新品の馬車にする、あんなボロボロの馬車で嫁さんは貰えないと言ってたよ」


「まあ!トマトマにお嫁さんが決まったの?」


「いや、これからだろ」


 リリアンはトマトマの結婚話を前のめりになって喜んだがニコラはバッサリ言い捨てて続けた。


「辺境の過酷な山道を下りた事で余計ガタがきて、大きな亀裂だったから父が補修より馬車を交換した方が良いと取りに来たということです。

 もう近いとはいえアングラードの山越えは難所ですから無理をして越えようとしなかったのは良い判断だと思います。馬も充分な休息を取らせる必要があったからそうしたようですね。

 それに慣れない長旅にお祖母様やおばさん達の疲れが溜まっていたでしょうから少し休んだ方が良かったのでしょう、まあ慣れない野営で疲れが取れるかどうかは分かりませんが」


 そこでニコラはリリアンに向き直って言った。


「リリアン、お祖母様達は普段よく働いていらっしゃるから普通の若い貴族女性と比べても体力はおありになる。でも馬車でずっと座りっぱなしというのは相当お辛かったらしい。

 父上がこぼしていたよ、”膝が笑う”というのは聞いた事があるがあの人達は”お尻が笑う”と言っては休憩、”足が棒になる”というのは聞いたことがあるが”お尻が板になる”と言っては休憩と、休憩ばかり要求してくるので止まってばかりでちっとも前に進まないのだと」


「それは本当にお辛そうですね」と言いつつ笑ってしまうリリアン。

 余程お尻が辛いらしくお可哀想なんだけど可笑しいわ、お祖母様はそんな面白いことを仰るような方なのね。


 もうすぐ会えるお祖母様を想像するとワクワクしてきた。



「しかし父上がブランディーヌおばさんが休憩を要求してくる場所は何故かいつも食べ物屋の前だと気が付いて、死角になるように上手く馬を進めて窓から食べ物屋が見えないようにしてやったら格段に休憩が減ったのだと言ってたよ」


「うふふ、ブランディーヌおばさんは食いしん坊なのですか?」


「どうだろうね?でもまあお祖母様達が辺境を出発されたのは昨年末だ。途中でゆっくり観光する時間も無いらしいから疲れもするし飽きもする。食べるくらいしか楽しみがないんだから仕方がないよ」

 

「えええ!そんなに前に辺境を出られたのですか」リリアンはビックリした。1ヶ月近くも馬車で移動しているなんて!!それでまだ到着していないなんて過酷過ぎない?

 


「事故は防げたかもしれないが、なかなか難儀しているようではないか。それなら王家の馬車を迎えに行かそう、少しはラクだろう。トマ達はもう出たのか」


「いえ、点検やいくらか買い物してから出ると言っていたのでどうでしょう?段取りよくいっていればそろそろ出る頃かと思います。しかし殿下、我々の為に王家の馬車を使うなんて大変勿体無いことですから大丈夫です、もう近いですし」


「いや、グレース夫人は他でもないリリィのお祖母様だ、すぐに手配するよ」


 こういうことは早く行動するに越したことはない、フィリップは後ろに控えていたエミールに早急にベルニエ家に騎士を1人向かわせ、追って王家の馬車を2台に御者と何かあった時のサポートに騎馬騎士も数名つけてグレース夫人達を迎えに行かせるよう言いつけた。


 フィリップの斜め後ろに立ち、ここまでの話を聞いていたエミールは万事心得たとすぐに手配に向かった。



「で、それらの話とお前が寮に早く戻るというのは関係があるのか」


「はい、辺境伯は王都にタウンハウスを持たずいつも私の屋敷に泊まっていたのですが、来た者全員が寝られるほどの広さはありません。いつもは私設騎士団の者ばかりですから王都の手前の草原で野営させていたのです。

 でも今回はお祖母様達はもちろん他の者も慣れないペースで気も使って疲れただろうから屋敷なり宿なりで寝られるようにしてやりたいと父が申しまして手分けして宿の手配に走ったのですが、何しろタウンハウスを持たない地方貴族がまだ社交シーズンギリギリまで残っていたり新入学や新学期の準備で王都に出て来ていたりするから全然空きがなかったんですよ。それこそ一室も!

 仕方がないから私の部屋は父とまだ入寮の手続きをしていない従兄弟達に明け渡して寮で寝泊まりしようかと。

 そういうわけでタウンハウスのリリアンの部屋もおばさん達に貸してやってくれるかい?」


「はい、もちろんですよ使って下さい」



「なんだそれならニコラは宮殿にあるお前の部屋を使えばいいじゃないか」


「え?あ、そういえば私に部屋を用意して下さると前に仰ってましたね」


「ちゃんといつでも使えるようにしてあるんだぞ。色々と」



「ありがとうございます。

 じゃあそこを使わせて貰うことも考えますが、宮殿に泊まるなんてなかなか畏れ多いですね」


 それはそうだ。王宮にある部屋に寝泊まりして食事も出して貰っておいて日中はソフィーに会いに行ったり、屋敷に戻ったりするなんて本当にただ宿代わりのような使い方だ。

 それはどうかと思うがせっかく殿下がそう仰ってくれているのだから一度くらいは寝に来てみようか・・・などと思うニコラだった。



「うん、後で場所を案内しておこう。

 そもそもリリィが寂しくないように家族が来て泊まれるようにしてあるのだから他に用が無くてもいつでも来て使えばいいんだ、気にする事はない。

 それにグレース夫人もリリアン用の客室を使えばいい、リリィからみて二親等以内の親族だから家族という扱いで良いだろう」


「わぁ!もしお祖母様が来て下さったら沢山お話が出来ますね!私、お祖母様に会うの初めてだから楽しみです」


「あれ?リリィはお祖母様に会ったことが無いの?」



 フィリップにしてみたら辺境の人たちはとてもリリアンを尊び大事にしている印象があったので祖母の顔を見たこともないというのは意外に思ってそう聞くとリリアンは頷いた。


「ええ、お祖父様はよく会いに来て下さっていたんですけどお祖母様とはお会いしたことがないんです。

 以前、お母様にお祖母様はどうしてお祖父様と一緒に来ないのかしらと尋ねたら、遠くて大変だからお母様もお祖母様に会ったことがないのよと言っていました」


「へえ、ジョゼフィーヌ夫人もなんだ。

 ということは結婚する時にも会ってないってこと?」


「殿下、基本的に辺境に暮らす女性は辺境と下界を行き来しないものなのです。

 辺境は遠いだけではなく標高も高く、体の慣れが必要な所ですから訪れる人は訓練に来る騎士位しかいません。

 行きたくても所々道が寸断されていて馬車や普通の人が通れるような道らしい道のない険しい難所ばかりです。そんな所だからリリアンはもちろん母上も辺境に行ったことはないのですよ。

 祖母の方も領地を実質的に統率していましたから今までは領地を離れるわけにもいかなかった事もあるでしょうがベルニエにも来たことはないと思います」


「道が無いってそんな事あるか?

 辺境の者だって行き来するのに不便だろう」


「我々は険しい道ほど燃えるのでそのくらいの方が平坦な道より変化があって楽しいですけど不便と言えば不便ですね。でも麓の村とは一本道が繋がっています。

 夏に水を取りに行った時に麓の村経由で行ったら随分と楽でした。それでもリリアンが行くには延々と続く断崖の上の細い道とか揺れ過ぎる吊り橋とかあって厳しいと思いますが」


「うわ〜、お祖父様は私の誕生日の時にラポムに乗っておいでと仰っていたけど、うっかり行ってたら私大変なことになっていたかもしれませんね」


「うん、止めといた方がいい。道が良い悪いのレベルが下界とは全然違ってるからね」


 それにあの時は皆のお嫁さんになるためにおいでと言っていたのだから余計やめといた方がいい。


「リリアン、辺境でお嫁さんを貰う時は大変なんだよ。お嫁さんは下界から貰うことになるんだが馬車で上まで連れてきて、その先があるんだ。

 以前の辺境伯邸があった場所は高い崖の上で最後そこに通じる道が無かったんだ。荷物の上げ下げは滑車とロープを使うが人は主人も使用人も自力で上がり下りしなければならない。

 だから嫁を貰う時には夫になる者が嫁になる娘を背負ってフリークライミングさながらに素手で上がって連れて上がっていたんだ。

 それが結婚するときの儀式として今も残っていて辺境の男達は嫁を担いで上がらなければならないからそれを成せる程の体力や技術を習得する必要がある、辺境の男が強いのはその風習のお陰と言われているよ。

 父上やリアムおじさんは辺境にいないからやってないけど、他のおじさん達は夫婦になる二人の絆を深める儀式としてわざわざ昔の屋敷のあったその崖まで行って登ってまた連れて降りるんだ。

 五男のアルマンおじさんと結婚したセリーヌおばさんはあまりの高さに上がってる最中に失神したって。ひっついていてくれないから重心が外に移動して余計重くて指が保たないかと思ったと後で言っていたって聞いたよ」


「ちょっと意味が分からない、命がけ過ぎる。

 だけど道の悪さ以前に辺境はやることが無茶苦茶だということは分かったよ。

 ジョゼフィーヌ夫人の場合はクレマンがベルニエ伯爵家へ婿入りしてお前達の言う『下界』に暮らす事になったから儀式をする必要がなく辺境に行かなかったということか。

 結果、義理の母になるグレースにも会ったことが無い訳だな。一応リリィがお祖母様に会ったことがない理由は分かった」


 レーニエが辺境は行くだけでも大変と言っていた意味もなんとなく分かった。ビジューは辺境の研究を始めるに当たっていつか現地にも行ってみたいと夢を語っていたがとても無理だな。



 リリアンはニコラの話を聞いて目が点になっている。


「お兄様、逆に言うとお祖母様もおば様も自由に下界に下りられないということですか?

 そんなの可哀想です」


「そうか?今回だってお祖母様が王都に来たいと言って実際にこっちに来ているんだからそんなことはないだろ。危険過ぎて誰かの助けなしには上がり下りは出来なかったというだけで」


「うーん、そうかしら」




 ニコラもそこに住む皆も辺境の道は一筋縄ではいかない険しくて危険な物だと思ってはいるが、そういうものだと受け入れている、だってずっと昔から此処はこうだったのだから。


 だがもっと以前は麓から辺境まで途切れず立派な道が通っていた時代も長くあった。


 それを三十数年前にアンナ(グレース夫人の当時の名前)を神殿から貰い受ける事にしたマルセル・ジラール辺境伯がその道を崩し、トラップだらけの危険な道に改変した。


 辺境伯は氷の神殿の巫女で『氷の乙女』かもしれないアンナを誰にも取られたくない、独占したい、という思いが強く、他の銀の民の末裔に奪われることを非常に恐れていたから不便よりも身の安全を取り外からの侵入を極めて困難にしたのだ。

 アンナという元の名前をグレースに改名させたのもその為だし、崖の上に辺境伯邸があるのもその為だった。


 辺境伯邸は山の頂上に新しく建てられたもので、その周囲を崩して崖にするという方法でその場所にあるのだが、辺境伯はそうまでしてグレースを、いや氷の乙女に対する強い執着を見せていたのだ。もしかすると、彼が一番恐れていたのはグレース自身が逃げ出す事だったのかもしれない。


 それでグレースは14歳で嫁いで来てからアルマンを産んだ20歳までをそこで囚われの身のようにして過ごした。その頃になると子供を何年かおきに、しかも一人ずつしか産まないし、金髪碧眼だしでどうやら本人も言ってるように氷の乙女では無い普通の娘なのだと辺境伯も納得したのか、崖の上から元々ある歴代の辺境伯が住んだ屋敷にグレースを転居させ、屋敷の切り盛りや領地経営など本人のやりたいようにするのを許すようになった。


 なんとも酷い話だが、グレースもそんな仕打ちによく耐えたものだ。

 最もわざわざ道を崩したりグレースを住まわせる為に屋敷を崖の上に建てたということはグレースは知らなかったからこそ耐えられたのかもしれない。



 ランチも食べ終わり、話もひと段落ついてフィリップが言った。


「まあニコラとグレース夫人については王宮に部屋があるんだから好きなだけ使って良いんだぞ。

 それにどちらにしてもグレース夫人には例の出自についての話を聞きたいと思っているから一度は顔を出して貰うつもりだからそのつもりでいてくれ」


「はい、分かりました」


「ではそろそろ戻ろうか。

 途中でニコラの部屋とグレース夫人が使える部屋を案内しておこう」



 リリアン専用の客室のあるフロアは誰も使っていない時でも不審な者が出入りしないよう常に騎士が二人一組で番をしていた。鍵を取って来させて3人は中に入ってみた。


 フィリップに促されて最初に足を踏み入れたのはリリアンだ。


「わぁ、すっきりしていて居心地が良さそうですね」


 体の大きなニコラの為だろうか、横幅も長さも特別に大きそうなベッド、それからテーブル、ソファ、書き物机に飾り棚、洋服を入れられるようなキャビネットなどが置かれてあった。

 そこは普段みんなが集まる応接室と比べると半分の広さもないのだがリリアンが言うようにすっきりして見えるのは家具があるだけで本も飾りも何もないせいだろう。



「バストイレはどの部屋にもあるんだがミニキッチンはベルニエ夫妻用の部屋にしかないんだ。

 その代わり飲み物や食事は部屋に運ばせることが出来るし、なんでも外にいる者に声をかけたらいい」


 フィリップは後ろにいるニコラに向かって説明しながら先に部屋に入った。


「はい、ありがとうございます」と言いつつニコラが入って部屋を見渡し、いい部屋だと喜ぶかと思いきや目を眇めて言った。



「・・・殿下、アレはなんですか」


 案内され、ニコラ専用の客室だと言う部屋に入ってみると、ベッドの上に何故かリリアンの背丈ほどもあるピンクのふわっふわのウサギのぬいぐるみが置いてあったのだ。他は何もないのに。



「ん?アレって何のこと?」といったんトボけるフィリップ。

「もしかしてウサタンの事ならお前が一人でお泊まりに来て寂しいといけないと思って置いておいたんだ。抱いて寝てもいいぞ」



「いつからしてる仕込みだよ」と、ついツッコミを入れてしまうニコラ。


 呆れた事にお気に入りのぬいぐるみがあれば持って来ていいとか随分前に言ってたフザケタギャグを殿下は未だに引きずっていたらしい。



「フィル様、ようやくウサタンが日の目を見ることになりましたね」


「そうだね、ここまで長かったけどようやっとウサタンにニコラを紹介できて良かったよ」


「何なんだよ、そのウサタン目線の進行は」

 なんか知らんが二人はウサタンになかなかニコラを紹介出来ないと気を揉んでいたらしい。そういうワケの分からんママゴトは二人だけでやってくれ。



「あのですね、お兄様。ウサタンはリアムおじさんが3代目オコタンを届けてくれた時に、せっかく遥々バルボーから来るのにオコタンだけ下げてくるのは勿体ないからってオマケで持って来てくれたのです。

 だけど私はオコタンが寂しがるといけないからウサタンの面倒をみることは出来ないでしょう?そう言ったらリアムおじさんが”じゃあ殿下に”って置いて帰ってしまわれたの。

 なのにフィル様までいらないって仰るからウサタンが可哀想で・・・」とリリアンはショボーンとして見せた。


「なんだ、それじゃあこれは殿下のヌイグルミじゃないか」


「いやいや、私はウサタンを抱いて寝なくても充分足りてるから大丈夫だ!だからお前が使えばいい」


 その言葉を聞いたリリアンは赤くなった。

 じゅうぶん足りてるって、フィル様がいつも抱いて寝てるのって私ですよ?



 ニコラ、なんとなく察し。


 俺も抱いて寝るならウサタンよりソフィーがいい。

 けど、まだ結婚するまでは貴族の規律だか掟だかで抱いて寝るのはダメなんだよなぁ。



「いいよ、もう。

 俺がウサタン抱いて寝るよ」と口を尖らせるニコラ。



 パッパラ〜!

 ウサタンにニコラという主人が出来た!!



「それでこそニコラの為に置いておいた甲斐があるというものだ。似合わなすぎて逆に似合ってるぞ!」とフィリップは至極満足げに言った。


「そうですか」とどうでも良さげに返すニコラ。



「お兄様、ウサタンがとっても喜んでおりますよ」キラキラと瞳を輝かせ嬉しそうに言うリリアンにニコラはもう脱力するしかなかった。



「ああ、そうかい・・・良かったね」



 という訳で宮殿にあるニコラの部屋のベッドの上には、やけに可愛いふわっふわのピンクのウサギの抱きぐるみ『ウサタン』が常駐し、ニコラに抱いて寝て貰う日をジッと待っているのだ。


リアムはめっちゃ遠い道のりを三代目オコタンを届ける為だけに来たそうです

直線距離なら辺境より遠いです

いったい往復に何日かかったのでしょうね、気になります

 _φ( ̄▽ ̄; )


〜ちなみに情報〜

トマトマのトマは実は再出演、55話に出てました

そして食堂で護衛隊仲間が話していた三つ子のレオナールの弟の双子がトマトマです119話


ニコラの宮殿の部屋の初出は65話

王太子の一番奥のサロンは一番防音性能の高い部屋です。前回使った時のお話は124話



ここまで読んでくださいまして、どうもありがとうございます



面白い!と少しでも思っていただけたお話は

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そしてなにより作者がとても喜びます


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