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142話 特権授与式は???

 謁見の間って、こんなに広かったのか・・・。


 これから学園護衛隊任命式がここであるのだが大勢の関係者をすっぽりと収めて尚、余裕があった。



 それにしても変だな、さっき副総長は「これから学園護衛隊任命式を始める」としか言わなかったんだけど私の特権授与式も一緒にあるんだよね?こっちは殿下からの情報なんだから間違ってるはずないんだけど。


 あっそうだ、師匠の特権も詳細は公にされてなさそうだし私のも公にしないのかもしれない。きっと私の特権授与式は後からこっそり別であるんだろう。



 今日の進行役であり司会も務めるカジミール副総長から開会の挨拶の後、まず学園護衛隊員となる彼らに対して正面右手に列席している人達の紹介があった。

 前から宰相、王立騎士団総長、軍事相、文科相、王立貴族学園学園長がいてそれから王立騎士団の団長達がいるのだとか。


 1人、パメラが知らない顔があったが一人ずつ役職と名を呼んでくれたのでそれが学園長だと分かった。あの人の顔と名前は覚えておいた方がいいな・・・と頭に叩き込む。


 他のメンバーについてはどうだ?

 パメラは入団して最初に訓練期間があったとはいえ、すぐにリリアンの元に配属されたからそれほど詳しいわけではないけど、でも顔くらいは大体分かる。


 もちろん王立騎士団総長アンブロワーズ・アルノーはレニのお父さんだから知っているし、隣の軍事相ユルリッシュ・ボーソレイユだって入団面接試験の時に話をしたから知ってる。


 ん?待てよ・・・ボーソレイユって、ジローと同じ姓じゃん?


 もしかして軍事相ってジローのお父さんなの?

 なんか細身で背が高いし顔も系統が一緒だ、絶対そうだよ。


 そんな凄いエピソードがあるんだったら一番に教えてくれないとダメじゃん!軍事相の息子だったなんて知った日にはジローを見る目が変わるってもんだ。



 な〜んて思っていたら今度は左手に並ぶ私たちの紹介をする番だ。


 前から王太子専属特権付き学園護衛ニコラ・ベルニエつまり師匠、それからリリアン専属女性護衛騎士の私パメラときてリリアン専属護衛隊の皆んなだ。隊長アレクサンドルを筆頭に20名が並ぶ。

 一番近い所で護衛をする彼らは護衛業務の中核を成すから重要で一人一人名を呼んで紹介されるようだ。



 パメラは真っ直ぐ前を見て胸を張りニコラの次に名を呼ばれるのを待った。


 女性はパメラが唯一だ。

 大勢の視線を感じスポットライトが当たったようで誇らしかった。



 そして最後に中央にいる学園護衛隊200名は王立騎士団の中から自ら志願し更にその中から選抜された精鋭達だ。彼らは編成が既に決められていてチームごとにまとまって整列しているらしい。前に並ぶのがスタンダード隊10隊で後ろに並ぶのがサポート隊10隊だ。



 ふんふん、なるほど。

 リリアン様専属護衛隊の20人も半分はリリアン様のより近いところで守るメイングループで、あとは移動時の安全確認や廊下や階段下で見張りをするとか、交代要員になるサブグループに分かれているからあっちもそれと同じ感じで分かれているんだろう。

 レニやジローがいるメイングループにより精鋭を集めてるってことだと私は解釈してるんだけど、アレクサンドル隊長は何故かサブグループの方にいるんだよね。一番歳を食ってるから隊長ってなってるけどあんまり役に立たないのかな?あの人。


 学園護衛隊200名は多すぎてさすがに一人一人名を呼ぶ訳にはいかなかったみたいで紹介は小隊隊長の20名だけにとどまった。じゃないと午前中に終わらず昼食後にまた集まり直しになるもんね、そりゃそうだ。




 そうやって主要メンバーの紹介が終わるといよいよ前方から王族方のお出ましだ。


 国王リュシアンを筆頭に王太子フィリップ、そして王太子婚約者候補リリアンが入って来た。学園の護衛はニコラを除けば全員王立騎士団の騎士達でこの式も騎士団の行う旗揚げ式という位置付けだから国王と王太子もそのような軍服という出で立ちで現れた。これは騎士服とはまったくデザインが異なっていて儀礼用の衣装として見た目の差別化が図られている。


 彼らが段の上に並ぶ様を皆は息をのんで見守った。


 リュシアン国王陛下は黒一色の軍服姿で今日も冴え渡るような精悍さだ。

 フィリップ王太子殿下はこの頃すっかり逞しくなり凛々しさを増した。今日のような衣装を着るとより一層それがよく分かる。しかし男らしさが増してもその麗しさは損なわれることなく、白の軍服に黒のブーツ姿が似合いすぎて眩しい程で直視するとその輝きに目が潰れそうだ。

 それからサッシュという肩から反対の腰に斜めにかけるリボンも着けているからこれは儀礼時の正装ということだ。この式典はそれだけ重要な位置付けにあるということを示している。


 そしてまた今日のリリアン様ときたらこれはまた素晴らしい。


 光沢のある白いドレスはシンプルな形でスカートはほとんど膨らみがなくタイトだ。アクセサリーも着けず銀の髪は留め具が見えないようにサイドを上げて後ろでまとめて留めている。唯一の飾りは王太子とお揃いの青いサッシュだけだ。


 しかし飾り気をそぎ落としたせいで余計にリリアンの持つ素材の良さが光り、美しくおごそかだ。この方の為に働けるとはなんて光栄なんだと気が引き締まる、そんな気持ちにさせる程の圧倒的な存在感はもうとても7歳とは思えない程だった。



 パメラがリリアンに見惚れている間にも国王からフィリップとリリアンが安心して充実した学園ライフを送れるようにしっかりと護れという趣旨の激励の言葉があり次にフィリップの毎日のルーティンに慣れるな昨日何も起きなかったからといって今日も何も起きないとは限らない、いかなる時も細心の注意を払って事に当たるようにという趣旨の訓示が続き、次はリリアンの番だ。


 リリアンは全員から注目される中、堂々と声をあげた。


「皆さんが王太子殿下並びにわたくしを護りたいと自ら手を上げて下さったこと、大変嬉しく思います。皆さんがいて下さるお陰でわたくし達は安心して学園生活を送ることが出来るでしょう。

 どうもありがとう」



 そう言って礼を言い、ほんの少し目を細め口角を上げて微笑むとその気品溢れる様に、ここまで何があっても水を打ったように静まり返っていた学園護衛隊から静かな溜息が漏れた。どうやらその姿に見惚れていたのはパメラだけではなかったようだ。


 すかさず騎士団副総長が「有難いお言葉を頂いたのだ。皆気を引き締めて臨め!」と一瞬ほんわりと緩んだ空気を再び張り詰めさせ、そして言った。


「ではここで皆に聞く。

 先に言ってあったこの4ヶ月の間に、そこにいるパメラ・バセットが規律違反を犯したのを知る者は隠し立てすることなく挙手をして申し出ろ」


 突然自分の名が呼ばれて何事かと思った。

 しかも規律違反などと不穏な事を。



 何なんだ?


 よく分からないまま誰かがいらない事を言い出して変な嫌疑かかけられるかもという思いが頭を掠め、緊張でジンワリと汗が浮いてきた。まるで、いきなり公開処刑が始まったかのようではないか。



 えーっと規律違反と言えば・・・昨日のお出掛けは殿下にプライベートのデートっぽく振る舞うように言われていたんだから多少無礼なことしてしまったとしても大丈夫なはずだし、この間はレニの特殊任務について聞こうとしたけど聞いてないし持ち場を離れたりもしなかった。普段から時間厳守で遅れたことはない、仲間ともちょっと言い合うくらいで争いは起こしたこともないと心当たりを1つ1つ思い返してみる。

 うん、限りなく近い事はあったかもしれないが、どれもセーフだよね?


 えーっとそれでは今度は基本に立ち返ってみよう、騎士の規律には色々あるが最も重要な事は主君に忠実であることだ。

 私であればリリアン様が直接の主人だ。私はリリアン様にはいつも忠実であるから問題ない。

 だけど、リリアン様にだけ忠実であれば良いかと言えばそうじゃなく、リリアン様より王太子殿下の命令の方が上位で、更にその上の国王陛下の命令は最上位である、と。


 ん、殿下の命令?

 それか!


 分かったぞ。さっきリリアン様が唇に人差し指を当て、私に喋らさなかった訳が。



 私は今朝、殿下から聞いた事について『式が終わるまで他言はするな』と言われていた。それなのにリリアン様に『今日特権が貰えることになって授与式がある』と報告しようとしていたのだ。あっぶな〜っ!!


 それをリリアン様は外にいるドア番・・・今日はロジェとサイモンだった、彼らに聞かれないようにあの後もずっと私に喋らさないように忙し気な空気を出し続けてくれたんだ、間違いない。



 そうなのだ、彼らの役割は外からの侵入者を拒むだけでなく、室内の監視も兼ねている。

 今回のような場合だと、王太子殿下に他言しないようにと命令された事について喋るのは忠義に反した行為として許されず規律違反を犯したとみなされる。


 更にそれをロジェやサイモンが聞いていながら黙って揉み潰したら、例え仲の良い護衛騎士隊の仲間であっても、いくら仲間と協調するのが尊ばれていても、それ以上に彼らが守らなければならないのは主君に対する忠義だから私を庇ってしまえば彼らもまた規律違反を犯したことになるのだ。

 しかもその代償は大きい。不適合者を主君の専属にするという過ちを犯す原因を作ったとして彼らは護衛騎士の資格を失うだけでなく、相応の罪に問われることになるのだから絶対に見逃して貰えないのだ。



 うっわ〜、タイムリミットギリギリの所でホントの規律違反を犯すところだった!!


 他は?他は大丈夫だよね?

 そんな事を思い巡らせていると汗がダラダラ、パメラはもう気が気ではなかった。




 しばらく応答を待った騎士団副総長がもう一度声を上げた。


「それではパメラ・バセットに規律違反は無かったということで間違いないのだな?」


「はい、ありません」とそこで集団は声を揃えて答えた。


 そう、今朝のフィリップの『命令』を守れるかが一応試験を兼ねた唯一のトラップだったのだ。

 パメラは他に替えの効かない役目を担っているからフィリップは絶対にパメラが引っかからないように簡単過ぎる課題を選んだ。それに普通に引っ掛かりかけたパメラだったが、リリアンが上手く逃げてくれたお陰で結果的にセーフだったという訳だ。

 



「よし、ではパメラ・バセット、フィリップ王太子の前へ進み出よ!」


「はいっ」


 返事をしていざ歩き出すと肝が座ったのかパメラの心は落ち着いていた。

 どうやらこれで特権授与という流れになりそうだ。




「王太子フィリップ・プリュヴォ、私の名の下にパメラ・バセットに次に言う特権を授ける。


 パメラよ、お前の主人リリアン・ベルニエはこれから学園に通う。その学園生活を送る上でリリアンの安全を確保しあらゆる危険から守るのがお前に課せられた使命だ。


 その使命を確実に行使する助けとして通常の護衛に許された範囲に加え2つの特権を与えよう。


 学園において、また学園の通学中、もしくは校外で行われる学園由来の活動においてリリアンが他に害された、若しくは害されそうになったと判断される時、その者を罪人としてその場のお前の独断で次に言う刑に処す宣告をすることを許す。


 一つは収監。


 もう一つはスエル島への追放、つまり流刑だ。


 その刑を実行する期間についてはこちらで決めるがどちらも一度収容されたら解放されても一生その荷を背負うことになる重い処罰になる。しかし私のリリアンに危害を加えようなど決して許されることではないのだから、いざという時にこれらの宣告を躊躇ってはならない。逆に命があるだけでも有難いのだと考え迷わず自信を持って行使せよ、それによってお前が咎められることが無いことを今、国王陛下の前で私が約束しよう。


 期間はリリアンが学園に通う2年間、入学する日の朝宮殿の敷地からリリアンの乗った馬車が出た時から卒業して王宮に戻るまでだ。


 尚、この特権はお前に規律違反など重大な過失が認められた場合に無効になることがある。それは私の一存で決める。


 その上で問う。


 パメラ・バセット、お前はお前の使命が果たせるか」



「はい!私は私に課せられた使命を果たします。

 頂いた特権を有効に使い、私は必ずやリリアン様を悪から御守り致します」この言葉がパメラの宣誓となった。


「よろしい、ではリリアン。特権付きリリアン専属女性護衛パメラ・バセットにそのあかしを」



「はい」


 リリアンが前に進み出ると横から数人の若い女性が来て並んだ。たぶん王妃殿下の侍女だろう。

 彼女達の手には帯剣ベルト、ロングソード(長剣)、ダガー(短剣)、新しい護衛服にスカーフとバッジがあったが正面を向いているパメラにはまだそれらは見えていなかった。


 リリアンは捧げ上げられたトレーから帯剣ベルトを取り、パメラに授けた。


「パメラよ、あなたが私の特別な特権護衛騎士である証として、まずこれを授けましょう。今ここで身につけてごらんなさい」


「はい」とその手から謹んで受け取り腰に巻いた。今までのと同じ作りだったので難なく身につけられたがこれには剣を差すホルダーが2箇所あった。


「よく似合っていますよ、それでは次にこれを授けます」とリリアンがスカーフを手に取った。スカーフとバッジが載せられたトレーを持つ女性がパメラに「跪いて首に巻いてもらいなさい」と言うのでパメラは片膝を立てて跪いた。



 リリアンの手がパメラの頭の後ろをまわり、前でスカーフをクロスさせるとクルッと一回通してふんわりと形を整えた。


 パメラはリリアンの指が顔の近くで動くのだけでもとても緊張した。普段お側に控えていても触れることなどほぼないのだ、このようにスカーフを巻いて頂くなどなんと恐れ多いことか。余りもの待遇にこの時の事は一生忘れることはないだろうと思われた。


 目をウルウルさせてリリアンを見上げて跪いているとフィリップから声が掛かった。


「パメラ、次はこっちだ」


 パメラがリリアンの元を辞去しフィリップの前に行き跪くと、今度はダガーが手渡された。


「これはこの度特権護衛騎士であるお前の為に特別に作らせたものだ。気持ち新たに励めよ」


「はい、必ずや」


 そして王太子殿下の左には国王陛下がロングソードを手にお立ちになっていらっしゃるのですが・・・もしや、もしや、恐れ多くて信じられないけど、陛下御自ら?


 ダガーを帯剣ベルトに差し今度は国王の元に跪く。


「パメラよ、リリアンをよくよく頼んだぞ」


「ハハァー」陛下から直々に剣を下賜されお言葉まで賜るとはあまりもの勿体なさに両膝を付いてロングソードを両手に受け取り、もう頭が床に付く程畏まった。


 はっきり言うと頭を床に付けるのはやり過ぎだ。


 リュシアンが「直れ」と言ってから立ち上がった時、陛下のその横にいた新しい護衛服を乗せたトレーを持つ侍女が必要以上に笑っていたのがちょっと気になったが彼女に「こちらはあとでお届けすることになっています。元居た所にお戻り下さい」と言われたので戻った。



 特権付き護衛として大先輩である師匠の隣に立つ。


 与えられた特権はリリアン様を害するヤツを収監か島送りにすることだった。それは師匠ほどではないもののかなり強力だ、悪いヤツに島送りを言い渡すなんて胸がすくだろうなぁ、すっごい楽しそう!

 早くこの特権を行使してみたい気もするがリリアン様が怖い思いをしたりとかそもそも事件や問題はない方がいいんだ。卒業式が終わってから一度も使う機会が無かったねと言う方がずっと良い、その為に師匠みたいに睨みを利かせ周囲を牽制する必要がある。



(誰にも悪い気を起こさせないよう私が強い盾となり、必ずお守り致します!!)



 そんな風にパメラが決意を新たにしていると、上からその師匠ニコラの声がした。



「行こう、新しい特権持ちさん。我々の仕事の時間だ」と。

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