141話 ロビーにて
朝一番、パメラはいつも通り王太子執務室を訪れた。
「ああ来たな、パメラこっちへ」
「はい」
普段はドア番が来訪を告げドアを開けると、パメラはドアから一歩中に入った所に立ってフィリップからリリアンの今日の予定などを拝聴し、こちらからも何かあればやり取りをして退室という流れなのだが今日は何故か奥の方、執務机の前まで入って来るようにと指示があった。
「うんまあ髪型や化粧、身なりはそのままで良さそうだな」
そう軽い感じで言って徐にその場で立ち上がると、王太子の顔になって言った。
「パメラ、今日は9時から謁見の間でお前の特権授与式並びに学園護衛隊任命式を行う。
謁見の間では武器を持つことは許されない、全ての武器は所定の保管場所に置き帯剣ベルトも外して来るように。それからバッジ類も外しておけ、入室前に検査があるからそこで手間取らないようそのつもりでな、後の事は現場での指示に従うように。
尚今言ったことについて式が始まるまで他言はするな、以上だ」
「はい」
フィリップは言うだけ言って座ったがパメラは返事をしたものの急な事で驚きが先行し次の動作に移れない。今、確かに殿下は ”お前”の”特権授与式”と言ったのだ。
「どうした、もう行け」
「は、はいっ。では退室させていただきます!」
敬礼し緊張でガチガチになったパメラがぎこちなく回れ右して出て行くのを見送ったフィリップはドアが閉まると呆れ顔で呟いた。
「いま同じ側の手と足が出ていたが、あいつあれで大丈夫なのか・・・?」
まあいいか、面白かったから後でリリィに教えてやろ!
パメラはリリアンの私室へ向かいながら、自分にはいったいどんな特権が与えられるのだろうかとそればかり考えて頭がいっぱいだった。
「リリアン様、おはようございます。パメラ・バセットただいまより本日の任務に就かせていただきます」
「お早うパメラ。今日もよろしくね」
「はい、私の方こそよろしくお願い致します」
いつも通りの挨拶を済ませ定位置につく。
最近のリリアンは起きてから朝の当番の侍女が飲み物を用意したりバスタブに湯をはったりするのを待つ間、暇を持て余してベッドの上でストレッチをしている。今は前後開脚していた。
「本当は床でやりたいんだけどコレットが床で寝転ぶのはお行儀が悪いからまだベッドでした方がマシって言うの。でもベッドの上だと沈むからやりにくいわ」
「コレットの言うことなどほどほどに聞いておけば良いですよ」とパメラが言うと、奥から「聞こえてますよ、お嬢様!リリアン様もお転婆は娯楽室でして下さいよ」と声がした。そう言えば今日の当番はコレットだった。
「あんなのは無視です」と声をひそめてリリアンに言うと、ちょうど倒立を失敗してコロンと転がりそのまま仰向けに寝た体勢になったリリアンは顔だけこちらに向けて「うふふ、まあ侍女の言うこともちゃんと聞かなきゃね」と笑った。
可愛らしい顔をして口ではそんな賢明な事を言っているが、ネグリジェの裾を脚の間で結んで逆立ちしても落ちてこないようにしている辺り、どう見ても常習犯だ。
これではコレットにお転婆と言われても仕方がないとパメラも笑った。それから話が落ち着いたのでついでに今日ある大イベントについて報告しようと口を開いた。
「リリアン様、実は今日、私に」とそこまで言ったところでリリアンがパッと起きてパメラの方を向くと、シーッとでも言うように人差し指を立てて唇に当てた。
「?」とりあえず静かにしろということかと口を閉じる。
「パメラ、よく聞いて。今日私は朝食後はフィル様と行動を共にします。あなたは私をダイニングルームに送った後はもう迎えに来なくていいからあなたの用事をして下さい。
時間に遅れぬよう少なくとも15分前には現地に行っておいた方がいいわ。携行品は全て外しておくのよ、支給品がありますからね、以上です。じゃあ私はお風呂に入るわ」
それだけを口早に言うとコレットが迎えに来てもいないのにリリアンはそそくさと奥のバスルームに向かった。
パメラは言いかけのままの宙ぶらりんになってしまったが、どうやらあの口ぶりだとこちらが教えたかった特権授与式についてはご存知のようだ。
その後はもう会話らしい会話をすることもなくリリアン様をダイニングルームに送った後は自分も食堂で食事をし、自室に戻って携行品を外すと他にすることもないので少し早いかと思ったがもう謁見の間のロビーに向かった。
なるほど、帯剣ベルトやバッジまで外して来いというはずだ入り口では身体検査をしていて早くも列になっている。
一番乗りしようと食堂から直行したのだろう、携行品を外し忘れて来たうっかり者がそこで預けようとバッジやベルトを外したが流石に剣を預けるのは良くないと「やっぱり置いてくる」と急いで戻って行き、それを皆が笑って見送った。
剣は騎士の命、人に預けるなんて以ての外、身分や所属それに勲功を示すバッジだってここで預けたらどれが誰のだか分からなくなってしまう。預けられると言われても騎士たるものそんな事が出来るわけがないのだ。
まだ並びもせず来ただけで立ち話をしている者もいたが、パメラはどうせ待つなら中に入って待った方が良いとすぐに身体検査の列に並びに行くと、ちょうど前に立っていたのはベルナールだった。
「おう、パメラも来たか」
「ベルナールじゃん、おはよ」
「はよ」
お早うをちょっと略して言ってやったら更に短く返された・・・悔しい。ベルナール相手だと何故か張り合ってしまうパメラだ。
そのまま二人は前後に立ち無言でいたのだが、ベルナールがすぐ近くでまだゆっくりお喋りをしている仲間を見つけて声を掛けた。
「おい、アルセーヌ、セドリック!お前らも並んでおけ。まだ大勢くるんだから先に終わって入っておいた方が身の為だぜ」
「おお!」とアルセーヌが応えてセドリックを連れて来た。
「お早う」「お早うございます」と二人はパメラの後ろに並ぶ。
それに対してベルナールは「はよ」とさっきと同じように挨拶したが、パメラは「お早うございますアルセーヌ、セドリック今日も調子は良さそうね」とこっちの二人にはちゃんとした挨拶を返して差をつけてやった。ベルナールざまぁ。
「それにしてもこんなに人が多いなんて思ってなかったから来てみてびっくりした」と周囲を見回してパメラが独り言ちると、ベルナールが振り返り何でもなさそうに教えてくれた。
「ああ、俺たち元々の専属21人に加えて学園護衛隊200人がここに来るからな」
「へえ!そんなにいるんだ。学園の護衛って50人いたんじゃなかったっけ?」
「殿下とリリアン様が同時に学園に通われるということで手分け出来るように増員されたんだ。あっそうだ殿下の専属にニコラがいるからプラス1で総勢で222人な。
ちなみにお前と学園護衛隊の200人は学園と通学中が護衛範囲だが、俺たち専属護衛隊は今まで通り24時間態勢で常に護衛に入るからシフト制になる。だから誰がその日の当番か毎日確認を忘れるなよ、ここ重要!」
「うん、分かった。
でもさ何でアンタばっかりそんなに詳しいのよ?」
「俺たちはもうずっと前から準備してきたからな。大体、学園護衛隊が組織されたのはリリアン様の受験直後の11月だし打ち合わせや合同訓練も終わって後は出陣を待つばかりだぜ」
「ええっ!私なんにもしてないんですけど」
「可哀想にな〜、お前は呼ぶのを忘れられてたんだな」
「ウソッ、マジで?」
そんなぁ、みんな酷い〜!とパメラがショックを受けているとアルセーヌが庇ってくれた。
「セザールそんな意地悪を言ってやるな。パメラは最前線でリリアン様の護衛をし続けていたんだし、年末からこっちは事情があって敢えて情報開示されてなかったのは誰もが知っていることだ。お前も知ってる癖に」
「そんな怒るなよ、ちょっと揶揄っただけだろ。俺たちにとってこのくらいはいつもの事だもんパメラだって気にしちゃいないさ」
「フン」アルセーヌは分かってはいるが気に入らないと鼻息を漏らした。
(何なんだ?私以外のみんなは何か色々知っているみたいだ)と二人の会話を聞きながらパメラは首を捻った。本当に仲間はずれにあったとは思いたくないのだが。
アルセーヌの後ろにいた専属護衛隊で一番若手のセドリックが仲を取り持とうとしてマァマァと入って来た。
「パメラあのですね、今まで我々は学園での護衛業務関連についてパメラに話すことを禁じられていたんです。それはあなたの”試験”に関係していたものですから仕方がなかったんです。誰かが悪意を持ってあなたを誘導しないようにということですから意地悪じゃないんですよ」
「試験って?いつあるの?そんなの受けてないしまだ聞いても無いんだけど」
「セドリック、それは言い過ぎだ。ちょい早まったな」さっきまでニヤニヤしていたセザールが難しい顔になって腕組みをする。
「そうですか?やばっ失敗した」とセドリックは口を押さえた。
「いや、ギリギリ大丈夫だろ?中に入ってしまえばこっちのもんだ。もう数分!大丈夫、大丈夫」と言いながらアルセーヌは周囲を見回して「でも、もうお喋りは止めて黙っとこうぜ」と一人だけそっぽを向いて他人のフリを始めた。
そんなあからさまな他人のフリは無効だろう。本当に大丈夫なのかな・・・大体なんで皆んなそんなにビクビクしてるのか分からないし。
3人がそれぞれそっぽを向いて黙っているからパメラもだんだん心配になってきた。よく分からないけどこれ以上この話は続けない方がお互いの為のようだったから追及はしないことにして一緒に口を噤んでおく事にした。
パメラの知らないところで色々と準備が進んでいたようです
しかし護衛隊員が222人とか多過ぎ?
_φ( ̄▽ ̄;
え?ここで終わり?
特権授与式はどうなるのか気になってるんだけど〜って方は
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