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132話 その打ち合わせと違う

「ねえ、リリアン様。

 新しい女性護衛騎士が入られたのですね!

 パメラ様はちょっと怖かったけど今度の方はとっても綺麗でカッコイイですわ。なんだか憧れてしまいます」


 ヒソヒソ声でルイーズがリリアンに言った。


「うふっ、そう思う?」とリリアンは面白げに笑って振り返り、パメラを見た。



 パメラは何も言わなかったがルイーズの声は聞こえていたのだろう、片方の眉をちょっと上げ『気に入らないな』という意思表示をしてみせた。


「うふふ、でも憧れちゃうらしいわよ?」


 しかし、リリアンがそう言うと目元と口元を少し緩めた。



「わぁ、大人の女性って感じ!ステキ〜」


 ルイーズはちょうど振り返りその余裕のある表情だけを見て感嘆の声を上げる。お化粧が変わってから初めて会うのでリリアンの言葉を聞いてもそれがまさかパメラ本人であるとは気がつかなかったのだ。





 一行は説明会が終わっていつものリリアン応接室に移動中だ。


 リリアンは後ろにパメラを従えてルイーズと連れ立って歩き、お兄様とソフィーはそのまた後ろを歩いている。勿論彼らの前後左右にはリリアン専属護衛隊もいる。



 フィル様はと言うと、あれからすぐ執務に戻って行かれたけれど、私の説明会が終わる頃にはお仕事を終わらせて応接室に来て下さると仰って下さった。そんなお忙しい中でも気に掛けて貴重な時間を割いて私の様子を見にきて下さったのかと思うと嬉しくて心が温まる。

 それで改めてフィル様と一緒にいる為に絶対に頑張ろう、2年で絶対に卒業したいって強く思ったから説明を聞くのにも一層身が入った。


 説明会の後半は各科目の内容や単位取得条件についての解説だったのだけど、私は文科相の人達が用意してくれた2年で卒業コースのサンプルを見ながら聞いていた。

 サンプルは余程考えて作られているみたいで、私が履修したいような科目が入っていたし特に変更したい箇所は見当たらなかったからこれをそのまま届け出に使わせて貰おうと思った。


 それでも同じく2年で卒業する事を選択してくれたルイーズとはもうちょっと選択科目は私と同じで良いのかとかお勉強はどう進めていくかなど打ち合わせしたい事がいっぱいあったので、お茶をしながらもうちょっとお話しましょうと誘ったらルイーズは快く応じてくれた。

 彼女のお父様は後で決めたことを教えてくれたらいいからと先に帰られたからルイーズはお父様と一緒に帰れず申し訳なかったのだけれど。




「あっ、フィル様!終わられたのですね?」


「リリィ、終わったよ。

 ちょうど良いタイミングだったね一緒に行こう」


「はい、この後少しルイーズと履修科目や勉強法について打ち合わせておきたいのですが良いですか?」


「もちろん良いよ」



 リリアンはいつものようにフィリップに抱き上げられた。


「ん?何かニコニコしてやけに楽しそうだね、どうしたの?」


「うふふ、いま面白い事があったのです」


「へえ、何だろう」



 リリアンはとても小さな声で言った。


「ルイーズがパメラの事を本人と気づかず別人だと思っているんです。面白いでしょう?お部屋に戻って教えるつもりですからここではまだ内緒ですよ」



「ははは、なんて言って驚くかな?楽しみだ。

 期待してるよ」


「ふふっ」


 2人は肩をすくめて笑い合った。

 ルイーズのことだから無反応ってことはない、きっと信じられないとビックリしてくれる事だろう。




 応接室に戻って皆が座るとさっそくリリアンは種明かしをした。



「ルイーズ、あのね、私の女性護衛騎士はパメラ1人しかいないのよ」


「へ?」


 ルイーズは言わんとすることが分からないと首を傾げる。



「だからね、パメラが変身したの!」



「〜ッッ!!!」


 リリアンがジャーンと両手をパメラに向けて教えると、ルイーズは猫のように毛を逆立てて声にならない悲鳴を上げた。


 さっき、パメラ様は怖いって本人の前で言ってしまったのだ。

 どうしよう、命が危ない。



 ルイーズは真っ青になっているがそんな大事にならないと分かっているフィリップとニコラには大ウケだ。



「期待以上のリアクションだったな」とフィリップ。


「今のもう一回見たいくらいだ、ルイーズ最高!」とニコラは親指を立ててイイネ!として見せた。


「凄かったですね、人って驚き過ぎると毛が逆立つのだと初めて知りましたわ」とソフィー。



 流石にソフィーはルイーズが可哀想になったのか笑ったりしてないが、凄い凄いとしきりに関心している。




 リリアンは楽しそうに言った。


「うふふ、気がつかなかったとしても大丈夫。私も言われても分からなかったくらいですもの。ね?パメラ」


「はい」とパメラは仕事モードのキリッとした表情のまま頷いた。



 そりゃリリアン様なら大丈夫だろうけど・・・恐る恐るそぉ〜っと見てみたけど、どう見ても別人級!!元とは似ても似つかないんですけど!?




「あの〜、どうしてそんなにお顔が変わられたんですか?」


「それはね、クラリスがお化粧したらこうなったの。髪型はアニエスよ。それに衣装も近々変わる予定でそっちはコレットに好きな色を選ばせたから楽しみにしててね」



 ちょー待て、うっかりパメラは右手を上げかけてツッコミを入れそうになった。

 パメラにしてみればその最後のコレットの部分は初耳だ。リリアン様に選んで欲しかった、内心では何色になるのか楽しみにしていたのに・・・。


 恨めしげに横を見ると目が合ったコレットが嬉しそうにVサインをしてきた。


 違う、私の望みはお前じゃない。



 まあ自分の侍女をしていた時は一応服を選ばせても趣味が悪いとかそういうことはなかったがこれはドレスじゃなくて騎士服だぞ、大丈夫か!?

 そういえばコレットにはよく水色や黄色を着せられていたなぁ・・・。黄色の騎士服とか赤より派手じゃないか?


 パメラは楽しみにしていた学園護衛デビューが心配になってきた。




「クラリス様、すごーい!天才!」


 感嘆の声を上げるルイーズにしてみればパメラの衣装なんかはどうでもいい。気になるのはそのお化粧法だった。


「そうだ!クラリス様、私にお化粧を教えていただけませんか?

 うちの侍女はあんまり上手じゃないみたいでお姉様はお化粧をしていない時の方が綺麗なくらいなんです。私もあんな風にされたらショックだし。

 私も学園に行くようになったらお化粧をして行きたくて、せっかくするなら大人っぽくなりたいしもっともっと綺麗になりたいんです。

 どうかクラリス様お願いします」



 カトリーヌがルイーズの義姉だ。

 確かにちょっと前までのカトリーヌの化粧は(学園で濃い化粧をするなと指導されてもまだ)超濃くて髪型と共にド派手で凄かったからあんなになったら可哀想だが共学になって以降はそんなことはなく、とても美人だから心配はいらないと思うが・・・。



 ルイーズは指を組んで渾身のお願いポーズでクラリスを見た。ちょうどお茶の用意をしていたクラリスはカップを温めていた手を一度止めてルイーズの方を向いた。


「ルイーズ様、申し訳ありませんが今は無理です」


 丁寧な態度だったが返事はクールだ。


 クラリスは今、リリアン様の侍女として勤務中だ。

 パメラ様の顔を直した昨日はお互い待機中でしかもリリアン様の護衛として有るまじき酷い顔だったからともかくとして勤務中にリリアン様以外の人に時間や手を掛けるのは良くない事だ。



「あーん、ダメですか〜」見るからにガックリするルイーズ。



「今って、たった今じゃなくても良いのよ、クラリス。それでもダメなの?」とリリアン。


 リリアン様からの頼みとあってはまた話は別なのだが、それでも無理だった。



「はい、実は手元にお化粧道具がないんです」



「クラリス申し訳ない、やっぱり後で持ってくるよ」とパメラ。




「ああそうだったな、化粧道具をずっとクラリスから借りているから休みを合わせて一緒に買いに行きたいと言ってたな」とフィリップが言った。



 フィリップが王宮にいる時はパメラは朝一番に王太子執務室に行きフィリップからその日の予定や指示を聞く事になっている。

 その時にパメラからもリリアン様の事を中心に色々な報告を行うのだが、今朝は自分の4日後の休みをクラリスに合わせて3日後に振り替えたいと願い出たのだ。



 クラリスに化粧水やアイシャドウのみならずブラシにいたるまで、とにかく一式全部借りたままになっているから今はパメラの部屋に置いて有る。

 大事な道具だろうから取り敢えず返すと言ってもクラリスがそれではとても同じように再現出来ないでしょうと言って受け取ってくれないから申し訳ないと思いつつお言葉に甘えて使わせて貰っているのだ。


 そういう訳でパメラは同じものを自分用に買った上でなるべく早く新品を買い揃えて返したかったのだ。

 しかしそれらはクラリスが長い間かけて吟味し、こだわって集めたものだ。とても自分一人で探して揃えるのは無理そうだったからクラリスの休みに合わせて一緒に買いに行きたいと2人の休みが同じ日になるように申請したのだ。



「ということは、パメラとクラリスは一緒にお買い物に行くのですか」とリリアン。



「はい、リリアン様もご一緒出来れば良いのですが」


 とっても羨ましそうにするリリアン様が可愛らしくて、パメラはついそう言ってしまった。



「フィル様、私も行っても良いですか?」



「そうだな、ニコラとレーニエが一緒に行けるならいいよ。ニコラ、ソフィー明日はどうだ?」



「もちろん大丈夫です」とニコラ。王太子殿下のご希望に沿うように動くのは当たり前だ。


「はい、私も大丈夫です」



「ではレーニエに至急連絡し、すぐにこっちに寄越させろ」


「はい」とフィリップの御用聞きに控えていた新入りの従者見習いがさっそく騎士団本部へ向かった。



「ルイーズはどうする」


「ぜひお供させて下さいませっ」



「よし、そういう事ならパメラとクラリスは明日の計画を書面にして出せ、期限は今から1時間後だ迅速に立てないと間に合わないぞ。ソフィーちょっと2人を見てやってくれ。出発・移動・設定はレーニエが来てから決めるが注意することは前回に倣ってくれ。

 私は『ル・ポミエ』に寄りたいがそれはこっちに呼んでもいいから時間に余裕があればでいい。オプションは任せる」


「はい、畏まりました。

 ではパメラ様、クラリス、あちらで計画を立てましょう。クラリスお店はどこを回れば良いのかしら?私もリリアン様をお連れしたいと思っていたお店があるのだけど・・・」と奥のテーブルに3人は向かった。


「そうですね、パメラ様に使った物はオリビエとドゥリュクスです」


「まあ!どちらも王妃殿下ご愛用の品、高級中の高級品、最上級のお店じゃない、あなたがそんなお店のお化粧品を使っていたとは知らなかったわ」


「ええ、どちらも奥様が愛用されていらしたんです。ドゥリュクスのセットはこちらに来る時に奥様が下さったものなんです。どちらも確かにお値段は張りますが使い心地も仕上がりも段違いですから一度使うと他の物は使いたくなくなりますよ」


「お母様の若さの秘訣はオリビエとドゥリュクスだったのね、知らなかったわ」


「ええ、いつもお美しい奥様の秘密です。

 パーティーメイクだけでなく薄化粧にしても差は歴然です。ですからルイーズ様もこの機会にお試しになったら良いですよ。お若いキメの細かい肌にも軽く乗りますから野暮ったくなりません。

 特にドゥリュクスは一見さんは入れないお店ですけど、私が紹介出来ますからね。

 クオーターサイズやプチサイズもありますからまずはそれで試してみられては・・・。

 あっ、それとパメラ様はブラシなどのお道具はどうされますか?」


「うん、同じのが欲しい。あれスゴいね!私の使ってたのはやっぱりボッテリしてたもん、もう使いたくない」


「でしたらもう1ヶ所寄りますがどれもセントラル広場の化粧品街にあるから歩いてすぐですよ」



 3人の話しを聞いていたルイーズは嬉しそうにリリアンと顔を見合わせた。


「良かったわね」


「はい!明日がとっても楽しみです」


 クラリスに代わってコレットがお茶をいれてくれたがもうお茶どころではない。ルイーズは期待で胸を弾ませてソファーにまるで後ろを向いて座っている。

 クラリス様は子供だからといい加減な物を与えたりせず、最高の物を紹介してくれるようだ。




 ドアの辺りが俄かに賑やかになったので護衛の習性で自然とパメラはそちらに目をやった。


 師匠が外の護衛連中に明日の配置の確認の為に詳細と広域の2種類の地図を持ってくるようにと言っている。


 殿下は元のまま、ソファーにゆったり座って落ち着いていた。



 今朝パメラがお願いしていたお休みはまだ殿下から良いともダメとも返事が無いのに、さすがリリアン様には甘いからちょっとお願いするだけで即対応ときたもんだ。


 でも明日の買い物が前回と同じようにして行くのならば仕事として処理して貰えるかもしれない。そうなったら休みが丸々1日空くから得した気分だ。



 それにしても前回の街歩きの時、殿下は唯一の王位継承者である大切な御身であるしリリアン様もいらっしゃるのに随分と身軽に外を歩くものだな〜と意外に思ったものだが、さっきその謎が解けた。

 それは師匠とレニが一緒だったから、ということらしい。


 普段も学園では側には師匠がいるだけだし。

 やっぱり師匠は偉大だなぁ!


 パメラは心から感心しつつ、クラリスとソフィーとの打ち合わせに意識を戻した。




 部屋の中も外も、もうすっかり買い物の打ち合わせタイムと化した。


 リリアンは前回のお出掛けの時の話をルイーズにしている。

 そもそもリリアンがルイーズを誘ったのは履修届けの為の打ち合わせのはずだったのだが、すっかり忘れてしまっているようだ。


 フィリップは覚えていたが、それは今日じゃなくても大丈夫だろうと敢えて指摘せず、楽しげなリリアンを微笑ましく見守っていた。


 とにもかくにも明日は楽しいお出掛け(デート)になりそうだ。


なんとか4月中にりりちゃんを入園させようと頑張って連続投稿していたものの、とても書くほうが追いつかず無理っぽいです。ココからは季節感無視で行きますよ。

でも頑張って書いていたんですよ!?

気がついたら前回投稿から知らない内に5日も経っていたくらいに・・・。

_φ( ̄▽ ̄;)

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