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126話 朗報

 結局、文科相の仕事は一通り全部終わっていて、父上の所へ出す前に僕次第で変更を余儀なくされる部分の確認をしておきたかったということのようだ。


 僕の方は今一緒に確認作業をしているのだから後からもう一度最初から目を通すとかいらないでしょ、これが終わったら僕の決裁印はここで押して帰ろうと思ってる。

 

 

 

「では次〜、高等部の方に移ろうか〜・・・いや、ちょっとその前に休憩にしよう」

 

 重要度の高い科目からやっていたこともあって途中からは随分とスピードアップ出来た。

 それでも朝からぶっ通しでやっていて昼食もここに運ばせて食べながら続けたし、途中丁々発止のやり取りになることもあったりでそろそろ皆んなも疲れが出てきているようだ。

   

 外ではもう陽が傾き始めフィリップのとる音頭もお疲れ気味になっていたからちょっと休憩にすることにした。


 紅茶とチョコレートが配られ一息つく。




「王太子殿下、次の高等部については上手く出来たと自信があるんです。きっとご確認の時間は初等部ほどかかりませんよ」



 この後、ディブリーに代わって説明役を任されている文科相室所属の若い補佐官ジュストが席を前に移動して来て、休憩中にも関わらずそう話しかけてきた。


「そうなんだ、それは楽しみだね」とフィリップは紅茶を一口飲む。


「ええ」



 ジュストは更に話を続けた。



「特にスキップ制度に対応した時間割が完璧なんです。

 今まで学年ごとに特に考えずにそれぞれで時間割を組んでいてそれでよかったのですが今期からはスキップ制度に対応しなければならないので最初は随分苦労しました。

 しかし途中から同じ系列の必須科目は違う学年と時間が被らないように4年分を同時に配置していきましたので被ることなくスキップし易いはずです。

 この方法について宰相補佐見習いのシリル・マルモッタンからのアドバイスがありましてね、言うようにやってみたら上手くいったんです。

 簡単だし、間違いがないしで後から他の学年と被っていないかと時間をかけてやっていた確認作業も省けて実に効率的でしたね。

 同じ考え方で選択科目も系統別に分けて領地経営学系、騎士系、工業系、商業系などと分けて考えるとスルスルと埋めていけるんです。本当に助かりました」



 余程そのシリル発案の方法がラクで感動したらしく時間割について語るジュストは饒舌だ。ちなみに時間割が上手く組めてるかどうかまではこの会議ではチェックしないのだがフィリップは面倒くさがりもせずその話に付き合った。



「ふ〜ん、さすがシリルだな。早く卒業したがっていただけあってこのパズルみたいな難題の解法を見つけるとは並ならぬ情熱を感じるよ。

 それでも選択科目を欲張ってあれこれ取ってるニコラには絶対スキップは無理だな。領地経営と騎士の専門課程だけでなく商業や工業、農業畜産まで領地経営の助けになると基礎課程を余分にとってるし」



「それはそうです。あくまでも一つの系統で考えたら一年で複数年の授業を取るのが可能だという事で、どうしても上限はあります。複数の系統の授業を受けるのなら規定通りの4年通って頂きませんと時間的に不可能です」



「まあ私は学ぶ以前に4年間通う事に意義があると言われているからスキップ制度は利用出来ないし、ニコラは最初から私と一緒に卒業すると決まっているのだから取れるだけ取ればいい。

 しかし、あいつあんなに取っててちゃんと試験をクリアして卒業出来るのか?

 私の場合は交流と人選に必要だから社会勉強の意味があって通うのであって、そもそも授業で新しく知るような知識なんて無いから履修科目の数はほどほどにしているけどね」



「そこなのですよ、殿下」


 と、ジュストが我が意を得たりと身を乗り出してきた。




「リリアン様も殿下と同じように高等部に4年通う事に意義があるとお考えですか」



「え?

 いや、そうじゃないの?

 どうだろう、母上・・・じゃなかった、ジョゼフィーヌ夫人、ソフィーやパメラと高等部にいたからリリアンも当然行くものだろうと思っていたが、考えてみたら女性の現状の進学率は1割に満たないくらいだったな・・・」


 うっかり口を滑らせるところだったが母上が我が国の高等部に在学していたのは極秘事項だった。しかもリナシスは初等部・高等部という教育システムではないから可笑しなことになるところだった。



 近くに座り、黙して話を聞いていたロクサンヌ夫人が今この時とばかりに会話に入って来た。


「殿下、私もお話に入れて下さいませ」


「ああいいよ、どうぞ」


「今仰っておられたベルニエ伯爵夫人はご両親を早くに亡くされていたからご自分で後を継いで領地経営をする為にどうしても必要だったから高等部に進学されたのですよね?そのように余程学園での勉強が必要な方ならともかく、そうでなければ早く卒業された方がその後の人生に有利だと私は思いますわ。

 今は以前より高等部に進学される方が多い傾向ですけど、学びたいことがあるからというより殿下がいらっしゃるからという理由で通われている方が大半でしょうから今後はまた元の水準まで減っていくと思われますわね」


 バレリー夫人も頷いて話に入ってきた。


「私もそう思いますわ。

 オジェ嬢とバセット嬢がいらしたのは婚期を遅らせる為でございましょう。そんな理由で3年も余分に学園に通われるのは大願でも叶わない限り勿体ないことです。

 バセット嬢はお辞めになったから良かったもののオジェ嬢はもう学園に通う理由も無くなったのにこれからまだ2年も拘束されるのでございますよ?これは時間の無駄と言わせていただいても差し支えないでしょう。いっそ私たちの後に続いていただいて王族の教育係に御成りになったらいかがかしら?

 まあそれは戯言としても、特に高位貴族の令嬢方は高等部に通うより家庭教師に実践的かつ必要な学びを受ける方がずっと有意義ですからオジェ嬢も婚約されたのならすぐにお辞めになって花嫁修行をなさっても良いかもしれませんね」


 つい語りに熱が入ってしまったバレリー夫人だったが、賢明なことに本題を言い忘れるところだったことに最後に気がついた。


「それはともかく、リリアン様の学習内容としては私どもの王妃教育が学園や他で習うより量質共に圧倒的に上なのは間違いございませんよ」



 それを受けて再びロクサンヌ夫人の登場だ。



「そうですとも。そもそも王妃に必要な教育は一般の貴族のソレとは別物です。同じであるはずがないのです。

 リリアン様は学園で教えることなど出来ない事を私たちから習われていらっしゃるのです」


そして夫人方は声を揃えて言った。まったくよく気があっているものだ。


「殿下、お分かりになりまして?」




 フィリップは夫人方の勢いに若干押され気味だ。


 ジュストとはリリアンについての話をしようとしていたのだが、途中で彼女たちの話が盛大に脱線した為に何について語ろうとしていたのか論点が迷子になってしまいそうだ。視線をジュストに戻し、続きの説明は彼に任せることにした。



「なるほど、と、いうことは?」




「と、いうことはですね・・・」



 と、文科相室所属の若い補佐官ジュストはゆっくり立ち上がり、確信めいた表情でフィリップを見た。



 長い間があり、そこにいた者達には長〜〜〜いドラムロールの音が空耳で聞こえた気がした。



 ダララララ・・・・・・・


 ララララ・・・・



 フィリップも何を言うのかと、ジュストを見つめた。



 ラララ・・・・


 ジャーーーン!!




「スキップ制度を利用し、りリアン様は最短2年で御卒業が可能です!!」



 その発言を聞いた周囲の者からは「オオ!」と感嘆の声が漏れた。




 ジュストはフィリップに告げながら、その事に気がついた時の興奮を思い出して震えがきていた。




(これほどの朗報を自ら王太子殿下に伝えられるこの栄誉!

 

 間違いなく末代まで語り継がれることだろう。


 ああ、今この瞬間が我が人生のハイライトだ!!)




 皆の反応を見る限りやっぱり皆もリリアンが高等部まで進学し最短で4年通わなければならないと考えていたようだ。

 しかし、ジュストはこの資料を揃えていた時に思ったのだ。農業?法律?果たしてリリアン様に学園での学びは必要なのか?と。それらは王妃教育で足るほど習っているはずだ。


 だったら全貴族が通うことになっている初等部だけで良いのではないかと。


 


 フィリップも目を大きく見開き驚嘆した。



「そんなに早く卒業出来るのか!!」




 リリィは今7歳、9歳の冬には卒業ということになる。

 そんな事、有り得るのかと耳を疑いたくなるほどだ、凄過ぎる!あと2年もすれば成人と認められ、結婚出来るようになるってことだろ?



「マジか〜」


 フィリップはその事実をしみじみと味わいながら天を仰ぎ呟いた。



 急に遠くて、遠くて、遠かった未来がすぐ近く、手の届く所にやって来た。

 凄い、凄い!身体が熱くなる程の驚きと喜びに満ちた報告だった。



「殿下、殿下と同時にご卒業を迎えられる事になりますよ!」とエミールも立ち上がって来てフィリップの肩を叩き興奮を隠せない。


「ああ、そんな事が出来るんだな。あとはリリィがどうしたいと言うかだ」



 それなら普通に初等部に4年間通うとか言い出さないで欲しい。


 この前は早くパメラを解放したいから早く卒業したいと言っていた。

 早く卒業しようと遅くしようとパメラは卒業後もずっとリリアンの護衛なのだから関係ないのだが、どうやらリリアンはニコラがそうであるように学園にいる間限定の護衛だと思っているようだ。



 しかし交代要員となる新しい女性騎士を数名養成するという目標に焦点を置くと2年は短か過ぎる感もあるから、やっぱりそっちの線で長く居たいと言い出す心配がある。



 それでも、2年後卒業の可能性があるのは嬉しい。




 ああ、今夜は興奮して眠れないかもしれない。




 その後の高等部の方はリリアンに関係ないと場の空気が一気に緩み気楽な気分になったことが影響したのか、朗報に気分が浮ついてそれどころじゃなかったのか、トントンと進みアッサリと履修表決定会議は終了した。



「これなら予定の日程で全校生に向けて発表出来そうだ」

 

「良かった良かった」



「リリアン様が2年でご卒業されるなら王太子妃にお成りになる日も近いだろうね!」


「良かったな!」


「やったな」


「良かった良かった」


 そう、2年にまで短縮出来るのは、文科相の皆がこの半年の間に頑張って頑張ってやってきた仕事があってこそなのだ。大変だったけど、考えてみればこれ程やり甲斐のある仕事は他にないと断言してもいいだろう。



  ジュストからもたらされた思わぬ朗報に皆ホクホクな事もあり、口々に良かった良かったと言い合いながら会議室を出る表情にはもはや疲労した様子は無く、充実感に溢れ実に晴れ晴れとしていた。


ジュスト、間を溜め過ぎだよ!




<お知らせ>

ブクマ250件達成したら番外編『ルネがいるから』の第2話をアップしようと用意しています。

今245件ですので何日先になるか何ヶ月先になるか分かりませんが、その時はここ後書きと活動報告にてお知らせさせていただきますね!

本編でも、もうじきルネの出番が来る予定ですよ〜!

_φ( ̄▽ ̄)




いつも読んでくださいましてありがとうございます。

作者は皆さんの応援を燃料にしています。


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