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125話 白熱の、履修会議

 新年度の履修表の発表は入学式もしくは始業式の10日前だ、と国王リュシアンの名で既に通達を出しているというのに準備が整ったとの報告がいつまで経っても入ってこない。


 進捗を文科相に聞きに行かせると「まだ最終調整が終わっていない」ということで「是非、王太子殿下のお手をお借りしたい」という返事がきた。



 まだ終わっていないだと?特に今回は大きな変革があったのだから生徒や親も前もって知っておく必要があるのだ。新入生も入学時に履修登録をすることになったのだから選択科目は何にするか、スキップ制度を利用するのかどうか等決めておかなければならないというのにか。

 間に合うのかとリュシアンにもヤキモキする気持ちはあったのだが、敢えて彼等を責めるようなことは言わなかった。


 なにしろスキップ制度導入における新しいルール作りに始まって、新しく加わる科目もあれば内容を大幅に見直す既存の科目も多数有り、その科目の内容や進め方も何もかもを一から構築し直さなければならなかったのだから・・・。

 そう考えてみるとこの春から実施するというのは無茶ぶり中の無茶ぶりだったのだ。傍目に見てもとても終わるとは思えない膨大な量の仕事を文科相の連中はこの半年ほどの短い間によくこなしたものだ。しかしそうは言っても終わってくれないと困る。



 当初、フィリップは現役の学園生だからという理由でこれらの話には全く加わらせてなかったが、そういう訳でで手伝いに行かせることにした。




 文科相は本来であれば教育プログラムを作るプロだ。しかし王太子妃になる者が学園で学ぶという前例が近年無かったため今回は配慮すべき事が何なのか分からない事も多かった。

 その中でも特に難しいのがフィリップが意図的に王宮教育から外して学園で習うことにしていた科目で、内容についてリリアンが学ぶのに相応しく過不足がないかどうか、それを学ぶタイミングをいつにするかはフィリップの意思を確認する必要があると思われた。



 フィリップの他には頼れるご意見番として王妃教育の内容を熟知しているエミール、バレリー夫人、ロクサンヌ夫人が呼ばれている。



 エミールは2週間の結婚休暇があと2日残っていたが、文科相から声を掛けられたこともあってもう今日から現場復帰した。


 静かに座る姿にどことなく余裕が感じられ落ち着いて見えるのは一家の主になったせいだろうか。





「ではダンスの授業は同じクラスの男女で行う、ということで良いですね」文科相ディブリーがフィリップに確認する。


 ダンスはディブリーの念願叶って6年ぶりに必須科目に復活することになった授業だ。


 実はディブリーはフィリップの王太子教育の教育係の一人だったから旧知の仲だ。幼少の頃から初等部2年までエミールと一緒に彼に学んだ。3年からは実際の執務の中での勉強に移行したので王太子教育は終了し、ディブリーは文科相に就任したから久しぶりに席を共にする。

 ディブリーは穏やかだが一本筋の通った信頼出来る男だ。



「仕方がない、ダンスは男女ペアでやるものだからな。

 どうせならいつも見る同じ顔とばかりでなく組み合わせを替えて初等部と高等部が一緒に行えるようにしてみてはどうだ」


 もちろんフィリップはリリィと同じ授業を受けたくて言っている。


 しかしディブリーはいくら殿下の願いでもそれを了承するわけにはいかなかった。

 貴族の出会いの基本はダンスの授業やダンスパーティーだから、より男女が知り合う機会を増やす為には良いのだろうが、今から初等部と高等部のダンスの授業が合うように時間割を組み替えるとなると他へも影響があり実務作業的に物凄く大変なのでここは譲れない。



「殿下、それではリリアン様がより多くの男性とダンスを踊ったり知り合ったりする事になりますが宜しいのですか」


「う・・・それはダメだ。元の案のままで」


「はい、ありがとうございます」


 さすがディブリー、フィリップの扱い方を知っている。




「では次に行くぞ!

 こっちも必須の基礎課程だが閨教育は1年生でやらなくても4年生になってで良いのではないか?すぐ結婚出来るわけでもないのに知識を得るのが早すぎるだろう」


 王宮で行っている王妃教育の中で閨について取り上げると、あまりに直接的なので学園にお任せすることにして保留にしていたが1年で習うのはまだ早過ぎだと思った。だって今からほんの数ヶ月先に習うことになるんだよ。



「私の時はこんな授業は無かったんだし別に急ぐ必要は無いだろう」とフィリップ。



 まだリリアンを耳年増にしたくない。


 リリィが色々と知ってしまうと夜に一緒に寝にくくなるじゃないか。あと膝に乗せるのも恥ずかしがるかもしれない。

『私ちょっともう無理です、ごめんなさいフィル()様』とか言われたら泣く。



 今は兄のような存在だと思っているからこそリリィは警戒心ゼロでどんなに触れようが許してくれるし、時には甘えたり頼りにしてくれる。それをこれから学園に通う内にゆっくり兄から一人の男として意識し愛してくれるようにジワジワと変化させていこうと考えているところなんだ。

 まあ時々タガが外れて飛び越えることもあるけど、それも今のところ許される範囲内だと思ってる。


 それが急に色々知ってみ?急にここにいるのは自分を襲う可能性がある男なのだと気づいてみ?その時リリィも僕もどうする・・・。


 いくら想像しても可能性を知るだけで未来で起こる事を先に知ることは出来ないが、ただ一つ言えるのは僕は絶対にリリィでなければいけないということ。

 最高の結果を期待しているが最悪の結果になる可能性もあるからここは慎重に行くつもりだ。


 何せリリィはしっかりしているようでも、まだほんの小さな子どもなのだから怖れを持たせるのは禁物なんだ。



 ディブリーは穏やかに言った。


「いいえ今までもやっておりました。実は王太子殿下の学年は殿下が公務などで学園に不在の時にやっていたのです」


「えっそうなの?」うっかり素で驚いてしまったじゃないか。



 エミールが身を乗り出して補足説明する。


「国王陛下がお気を使われてそう指示されたのですよ。色々とあったあのタイミングでしたから」



 そういうことだったのか。



 当時、色々あったが僕がまだ具体的な行為を知識として持っていなかった為に彼女達が触ってこようとしたり乗って来ようとしても僕に何をしようとしているのかよく解っていなかった。

 いつも身の安全を最優先にされて生活している身だったこともあって彼女たちの妖しい雰囲気にただ危険だ、拒絶しなければ『王位を継承出来なくなるような事が起こるのではないか』という恐怖を漠然と感じていたんだ。


 まあ行為の意味が分からないからこそ底知れぬ恐怖を感じていたという部分もあるのかもしれないが、それをまだ不安定だった時や心の平静を取り戻したばかりの頃にこの授業で知ったら・・・色々を思い出してその意味が解ったら・・・ワーッて叫びそう。


 今思い出しても物凄く不快なのに当時だったら授業中に絶対叫んでた。それに使い物にならなくなったかもな。うわ、怖〜っ!最悪!


 まあ、僕抜きでやってもらって助かったという事か。



 フィリップが心の中で慄いているとバレリー夫人が穏やかに言った。



「殿下、女性の閨教育はその頃にするのが調度良いのですよ。

 初等部の頃に女性の身体は子供が産める準備が整ってくるのですから早い内に正しい知識を持つ事が必要なのです」


 ロクサンヌ夫人も加勢する。


「そうですよ殿下。何も知らないことで騙されたり事件に巻き込まれる可能性もあります。それで初等部在学中に妊娠でもしてごらんなさい、卒業できず成人貴族としても認められない事にもなりかねませんわ。この授業の内容は将来子を産み育てるための知識を得ることですが同時に望まぬ妊娠をしない為、女性を守る為に必要なのです、無知は不幸の始まりです」


「そうです、殿下。リリアン様を他の男達から守るためでもあるのです」


 フィリップがなかなか良い返事を返さないので最後にはエミールまで加勢した。



「分かったよ。これはこのままでいい。確かにリリィに限らずこの授業は犯罪に巻き込まれない為にも大切だ」



 それにしてもだ、殿下の意見を是非聞かせて下さいと招かれたのだがここまでフィリップの意見は全部却下されている。


 これ、僕が来る必要あった?


 まあ、リリィに関する事を知っておくのは重要だから意味はあるか。

 


 目の前に積まれた資料はまだかなりの量が残っている。しかも彼らは今日中に全部を検討し決着をつけるのが目標だと言っているから下手したら明日の朝までかかるかも!?



「よし、次行くぞ!えっと次は『貴族のあり方』と『貴族のための法律』を一つの科目にまとめたということだが、これについて説明してもらおうか」


「はい、それはですね・・・」


 と、いう感じでそれからも各科目について一つ一つ議論した。これ、マジで終わるのか〜!?

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