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123話 一緒にいたい

 それにしてもレニはどこでどうしているのだろう、昨日の午後から一度も顔を見ていない。早くこの顔を見せたいのに・・・。



 初日はレニがオークレアと親しくするのを見てなんか軽薄というか不真面目な感じがして無性にイライラしてたから顔を見たら当たり散らしたかったくらいだったんだけど、時間が経つにつれだんだん焦燥感に駆られて顔を見たくて仕方がなくなってきた。

 今度はそれがストレスになって腹が立ってきて・・・で、夜は眠れず目の下にクマを作る始末。

 翌日は今日こそ会えるだろうと期待した分がっかりし、クラレスにお化粧をして貰ってからは新しい自分を早く見せたくて。



 なんて言うだろうか、パメラじゃないみたいって言うだろうな。

 もしかして皆んなと違って前の方が良かったって言うかな?でも殿下からこれでいけと言われたから元に戻れないんだよね。


 ううん、レニならこっちもきっとイイネって言ってくれるはず!綺麗になったって喜んでくれるんじゃないかな。



 ああ、早くレニに見せたい。



 夕方になり2転3転する気持ちの浮き沈みにまた疲れが出始めた頃、パメラは食堂で会ったベルナールにとうとう聞いた。


「ねえ、全然レーニエの姿を見ないんだけどどうしてるのか、あんた知ってる?」


「アンタとか言うな、せっかくの美女顔でパメラみたいな口の利き方をされるとマジでガッカリするからヤメれ」と呆れた口調で言いながらベルナールはパンを口に入れて咀嚼した。そしてこちらを見ずに言った。


「レーニエはだな、特殊任務中だ」


「え?何?」


「昨日、会議がちょっと早く終わったからって新人の訓練場に行って手合わせをしてやってたらしい、そこへ緊急事態発生の伝令が入って新人達を連れて現場に急行したらしい。新人達はすぐ帰って来たが・・・それが・・・まだ、解決してないらしい」


 らしい、らしいと言葉を濁され状況がはっきりしない。

 だがこれがもうギリギリのラインだということはお互いに知っている。特殊任務は関係者の安全確保の為とかで秘密が多く任務に関して何も漏らしてはいけないのだ。


 これ以上のことは仲間内であろうと聞くのも話すのもどちらも懲戒対象となりタブーだ。


 だけど・・・。


「ちょっと、もっと詳しく教えてよ。何が起こってるの?ううん、レニは大丈夫なの?それくらいは教えてくれても大丈夫じゃない?」


「さっきジロー達が応援に行った。それ以上は、知らない」と後は貝の如くだった。





 コンコン、コンコン、パメラ、パメラ



 ん、なんか遠くで名前を呼ばれてるような気がする・・・。



 ・・・ドン、ドン、ドン!


「パメラ、起きてるか」



「っ、・・・はい!」


「これを見ろ」


「はいっ!」


 明け方、パメラの部屋のドアを叩く音がして飛び起きるとドア下にスッとメモが一枚差し込まれ、そのまま足音は去った。



『レーニエは第一医務室に居る。

 日付の変わる頃に戻って来た。

 飲まず食わずと言うからスープを摂らせて眠らせた。

 今日は休ませる。


 追伸

 出勤前に一度顔を見せて安心させてやれ。


 ジロー』



 有難い。パメラが余程心配しているだろうと考えてジローはわざわざ知らせに来てくれたに違いない。今ならまだ出勤までに時間がある。


 だけどこの追伸、変じゃない?

 私がレニの顔を見て安心するなら分かるけど、これじゃあ逆よね?


 うんそうだ、私が朝早い内にレニの所に行けるようにってよっぽど急いで書いたから反対になっちゃんたんだ、ふふっ、ジローってばああ見えてちょっとあわてん坊な所があるのね、でも本当に親切でいい人だわ。



 すぐ着替えて医務室に行くと中はシーンと静まり返り、薄暗い室内の奥の方にあるベッドでレーニエは死んだようになって寝ていた。

 耳を近づけて確認すると、呼吸音が聞こえてホッと安心したくらいだ。


「レニ」と小さな声で呼びかけて、手を触ると冷たかったから自分の手で挟んで温めた。


 ここに入る前に会った仲間に聞いた話によるとレーニエは怪我は無いものの、長時間飲まず食わずで睡眠もとっておらず疲労困憊しているという事だ。先ほどまでジローが付き添ってくれていたらしいが今は誰も居なかった。



「ん・・・」とレーニエがうめいた。


「レニ、大丈夫?水飲む?」


「パメラ?」


「うん」


「あぁ、パメラ、僕に会いに来てくれたんだね」


 レーニエの腕が伸びてきてパメラを抱き寄せた。



「ねえ、パメラ僕のこと怒ってる?」


「ううん、怒ってないよ」


「そう、良かった」


 安心したレーニエはパメラに優しく口づけをしてきた。しばらくそうしている内にレーニエがパメラの髪に差し入れた指を動かして・・・。


「・・・!」


 何かに驚きウワッと声を上げてパメラを振りほどいたかと思うとベッドの向こう側に急いで逃げた。


「わっ」


 ドサッ、ゴチーン!


 ベッドから落ちたのは不測の事態だったらしく頭を床で打ったようだ。運動神経の良いレーニエらしくない失態で余程慌てたらしい。



「ちょ、大丈夫?」


「ゴメン!君のことを恋人と間違えたんだ!!さっきはまだ目が覚めたばかりで意識が混濁していて・・・それでっ!


 嘘じゃない、まだ朦朧としていたから間違えたんだ!ああ、私としたことが・・・ああ〜」



 レーニエは頭を抱えて床に蹲って動かなくなった。



「え?ちょっと恋人って誰よ?二股?浮気?」と腕を組み眉間に皺を寄せるパメラ。



「浮気をするつもりは全くない。私はパメラ一筋なんだ、今のは間違えたんだ。本当に違うんだ」と必死に言い募っている。



 あー、そっか。


 この顔とこの髪だから私じゃないと思ったのか。そう思うとレーニエの必死さがとても愛おしくなってくる。


「レニ、私だって。パメラだよ」


「え?」


 うずくまって頭を抱えていたレーニエは恐る恐る顔を上げ目を眇めるようにしてパメラを見上げた。

 部屋が薄暗いせいもあるけど、イケメンのレーニエはよく女性に言い寄られそうになるのでこういう時は騙されないようにと人一倍疑り深かったのだ。



「声と背格好はパメラだけど」とリリアン様のような事を言いだしたのでパメラは「何言ってんのよ」と思わず笑ってしまったのだが、それを見た時のレーニエの顔ときたらまるでスローモーションを見ているようだった。


 目をいっぱいまで見開いて驚き、数秒置いて、その表情はみるみる内に変化してこれ以上無いほどの喜びを露わにした。


「パメラだ!子供の頃のパメラがそのまんま大きくなったみたいだ!


 パメラ!!」



 ベッドの向こうで座り込んでいた筈なのに、一瞬でワープしてパメラの頬を両手で挟んでジッと見つめた。パメラはレーニエの様子に満足して面白そうに眦を下げニンマリと笑っている。


「ああ、パメラ!その眦の下がる可愛い笑顔!懐かしい・・・」



 幼少期に会った時の、パメラのタレ目の、顔じゅう崩して思いっきり歯を見せて笑う、いいとこの令嬢にあるまじき心底嬉しそうなあの笑顔を彷彿とさせる。


 ゴダールの妹、パメラ・バセット。

 剣の相手をしてやったら何度でも真剣な顔で掛かって来ていたのに、褒めてやったら急に愛好を崩し二コーッと嬉しそうに笑ったのを見た時、その落差に驚いたんだ・・・可愛すぎて。


 あんな風に笑う子を他に知らなかったからか、大人になってもまだずっとその無邪気な笑顔が心に残っていて、たった一度の短い邂逅だったにも関わらず名を忘れてはいなかった。


 その、面影が、ある。



「いつもと全然違ってるけど・・・間違いなく僕のパメラだ」



 レーニエはパメラを抱きしめて離そうとしない。

 何度も髪やおでこや、唇に口づけをした。


 そして合間に「ねえ、ホントにもう怒ってないの?」とか「機嫌を直してくれる?」と囁いてくる。


 その度に「怒ってない」って言ってるんだけど、しつこいな。

 ジローの言ってた安心させてやれってのはやっぱりレニの事だったのか?



「ちょっと待って。ねえ、なんで私が怒ってるって思ってるの?」



「だって一昨日の昼、僕がビジューと話ししてるときに嫉妬して怒った顔をしてたから」


 逆にパメラがレーニエの両頬を押さえてキスを止めさせて聞くと眉を下げ心配そうな顔をした。


「へ?嫉妬?」



(あっそっか)


 ストンと腑に落ちた。


(私、嫉妬してたのか)


 それでイライラして、妙に不安になって・・・腹が立ったり悲しくなったり夜寝られなかったりと忙しかったんだ。精神も体力も根こそぎ持って行かれて。

 てっきりレニがチャラチャラしてたのが腹が立って仕方がないとばかり思ってたけど、これが嫉妬というものか。そういうことなら納得だ。



 パメラは気が強いのにも程がある。

 嫉妬したら負けみたいな気持ちが深層心理にあって絶対に認めたくなかった為に自分の本当の気持ちに今の今まで気が付いて無かったのだ。



「でもお揃いの赤い髪をやめてしまうなんて、やっぱり凄く怒ってたよね?」


 なるほど、この変身をそう捉えたのね。了解、了解。



「いや、これはね学園で警護に当るのに相応しいスタイルを皆んなが色々考えてくれてこうなったの。

 これからはこの格好でしかリリアン様の側にいることを認めて下さらないと殿下が仰るからレニもこれに慣れてよね」と最後は少々つっけんどんに言った。


 クマを隠す為とかの色々は今は言いたくない。



「そうなんだ、良かった。

 機嫌を直して貰えなかったらどうしようかと思ってたんだ。せっかくジローが言ってくれてるのに」


「ん?ジローが何を言ったって?」


 あの野郎、何かレニに要らん事を吹き込んだんじゃあなかろうな!?


 パメラの眉がピクッとする。

 ジローが私が嫉妬してたとかメソメソしてたとか有る事無い事言ってたらシメる!さっきまでの感謝の気持ちを返してもらう!



「ジローが今住んでる所を出て本邸に戻るから、そこに僕たちが住めば良いって!」


「え!」



「一緒に住もう、パメラ。毎日一緒にいたいんだ」



「うん」


「えっ、いいの?」


「うん、一緒にいる!レニと一緒にいたい!」と柄にもなく本音を言ってパメラは自分からレーニエに抱きついた。


「パメラ・・・うれしいよ」


「レニ・・・」



 パメラは『断る!』ともう心に決めていたにも関わらずこの時はそんなことはこっから先も思わず反射的に頷いていた。


 


(一緒に住んだら、ほぼ毎日会える!)



 たぶん、ここのところずっとレニ欠乏症を患っていたせいで判断力が鈍ったのだ。予定と違った返事をしたのも仕方がなかったと後になって思った。



 それでも先のことなんて今はどうでもいい。

 この貴重な時間は刹那だ。自らふいにするなんて出来やしない。



 だって、今、


 レニと、とにかくレニと一緒にいたい。



 ただそれだけがパメラの心全部を占めていた。





 きっと早朝の医務室でこんなやりとりがあったなんて、宮殿中の誰も気がつきもしなかっただろう。


 ジロー以外はね。

ジローは良い奴ですね!


それにしても

タイトルでネタバレ・・・

_φ( ̄ー ̄;)



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