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116話 お姫様みたいな乗り方で

「我が姫、では参りましょうか」

 王子様がお姫様にするように手を差し伸べる。


 ブワッと鳥肌が立つくらい素敵!

 あ〜ん、キラキラ笑顔のフィル様が王子様すぎる〜!!




 あの後、脚をかける鞍の突起の位置や大きさが私に合うかどうか先に確かめておこうということになって、王宮に戻る前に一度座ってみることになった。


「合わないようなら馬具屋を呼んですぐに作り直させるから」とフィル様は仰るのだけど、ラ・プランセスで聞いた時は店頭にない鞍は注文を受けて受け渡しまで少なくとも2ヶ月はかかると言っていたから合わなかったら春の馬術大会に間に合わないかも。


 だからどうかピッタリでありますように!



 

「じゃあリリィ、僕がリリィを上げるからまずは椅子に座るみたいにこっち向きに足を揃えて座ってみて」


「はい」


 オークレア先生は鞍への足の掛け方を見せる為に乗って見せてくれると踏み台の上に上がって鞍に跨って見える位置まで来てくれたけど、私はフィル様が抱き上げてふわりと鞍の上に座らせてくれた。足を揃えてまるっきりの横向きでまだフィル様が支えていて下さる。



「怖くない?」


「はい、全然怖くないです」


「うん、手綱は持っていて。次はラポムの頭の方を向いて右足を上げてここに掛ける。ほらビジューを見てあんな風に座るようになるから」


「はい」


 オークレアは右足を鞍の突起に掛けて左に足先を下ろした。左足は馬に沿わすように少し曲げて足先を鐙に通す。


「そうそう、左足を鐙にかけるよ。それで足先はこうして・・・そんなに前のめりになって足を見たら危ないよ僕がするから背は上に伸ばして。

 うん、リリィ、とっても優雅でカッコいいよ、よく似合ってる。気品があってまるでお姫様だ」


「まあ!ほんとうですか、フィル様」


「ああ、本当に」


「わあ、うれしい。早くこれで上手に乗れるようになりたいわ」


「リリィならすぐに上手になるよ。

 うん、ここの隙間はちょうど良さそうだ。どこも痛くない?」


「はい」



「それなら降りるよ、まず右足をこっちに戻して・・・はい」


 ふわり


 軽々と地上に降ろしてくれた。



「今はラポムも比較的小柄だし、リリィの体重が軽いから楽に上げられるけど、どちらも背が高くなったらこうはいかないかもね」


 それに私がいない時の乗り降りの仕方も考えておかないといけないな・・・だけどリリアンを抱き上げたり降りる時に抱きとめたりするような真似を他の男にさせる訳にはいかない、必ずパメラにさせるようにしなければ!!などと考えているとリリアンが心配そうな顔をして言った。



「フィル様、私体重が増えないように気をつけます」


 リリアンは自分がフィリップを煩わせ負担になっていると思ったらしい。


「ダメだよ、まだこれから背も高くなるから今の体重は維持できないよ。大丈夫、筋トレして鍛えておくからね。じゃあ午前の部はこれで終わりにしよう」


 そう言ってフィリップは首元の一番上のボタンを留めると、キリッとした表情でリリアンの正面に足を揃えて立った。


「フィル様?」どうしたかしらと小首を傾げると、フィリップはリリアンに向かって仰々しく手を差し伸べた。



「それでは我が姫、参りましょうか」



「え?」


「ほら、さっきお姫様みたいだったから」


 リリアンが驚いて固まっているとフィリップは微笑んで再び王子様然として促した。



「姫、私の手の上に姫の右手を重ねるのですよ」


「は、はいっ」


 リリアンはフィリップの王子様然としたキラキラ攻撃を受け緊張してカチンコチンになりながら言われたようにフィリップの手の上に自分の指先をそっと乗せた。

 その手は優雅にフィリップの腕に誘導され腕を組んでエスコートされているような格好になった。いつもなら手を繋いで歩き出すところだったけど今日は違ったのだ。


「わぁ・・・!」リリアンの口から小さく感嘆の声が漏れる。


「では姫、参りましょう」


「はいっ!フィル様」


 リリアンは突然のお姫様扱いに頬は紅潮し瞳を輝かせてフィリップを見上げた。とっても嬉しそうだ。そして時々スキップを織り交ぜながら宮殿に帰って行った。



 その様子に皆はほっこりする。

 側からは腕を組んでいても身長差からいつもの手を繋いでいるのとそう変わった見た目ではなく、お兄さんが妹の手を引いているように見えるのだがリリアン様には大違いの対応だったらしい。先ほどまで不安そうにしていたことなどちっとも感じさせないくらいウキウキしていて可愛らしく微笑ましい。



 リリアンは内心(まるでお姫様にするみたい。あ〜ん、素敵!フィル様が王子様すぎる〜!カッコ良すぎる〜!)と悶えていたし、フィリップはフィリップで(リリィ可愛すぎだろ〜ちょっとお姫様扱いしただけでめっちゃ喜んで、もう何なのそれ可愛いすぎーっ!!)と心の中で絶叫していたのだが、立場上あまりに威厳を欠く態度は取れないのでそう見えないように精一杯スマートに振る舞っていた。


 もちろん皆はそんな心中を推し量る術はないのでフィリップのスマートな対応にさすがリリアン様の事をよく分かってらっしゃると感心したのだった。




 午後になってリリアンは再びサイドサドル講習を受けに行き、フィリップはそれを見送ってからレーニエと会議室に向かっていた。


「午後はリリィの練習に付き合えると思っていたのに」とフィリップがこぼすと、レーニエがニコニコして言った。


「まあまあ、学園でのリリアン様の護衛計画の最終調整は私たちの最優先事項ですからね」


「もちろんそうだ。でももう何ヶ月も前から準備して今日は既に決まってることを一通り確認し合うだけですぐ終わる予定だったのだけどね」


「あの人、話が長いですからねー。まあ今のところ特に計画の見直しの必要はなさそうですし貴重な体験談ですから承っておきましょう。それに初めての者には参考になるところも多いでしょうしね」


「うん、まあね」


 確かに現場の体験談は貴重だ。でも今日は最終確認だけの予定だったのだからそういう細かい話は余計な雑談だと言えなくもない。そういうのはもっと早い段階で話しておくべきだろう。

 とにかく彼は話好きで枝葉が多くて話が長いのだ!もし聞かずにおいて現場で同じ事が起こると困るから止めもせず聞いていたのだがお陰で半日で終わらせるどころか会議はほとんど進んでない。



 ・・・。


 それよりも何かおかしい。


 横を歩くレーニエは鼻歌でも歌い出しそうなくらい明らかに浮かれている。いつもならフィリップよりレーニエの方が『隊長の時間泥棒』とか文句を言っていそうなものなのに今もめっちゃニコニコしてるし。



「何だかやけに機嫌が良いな」


「あれっ殿下、分かっちゃいました?」


「分かっちゃいましたって?それだけ浮かれてたら誰でも分かると思うけどね」


「それがね聞いて下さいよ。

 さっきパメラがね、嫉妬してくれたんですよ〜」


「は?」


 めっちゃ良い笑顔で教えてくれる内容がソレか?

 しかもそれって喜んでていいことか?


「お前それ大丈夫なのか?パメラを怒らせたら命の保証はないぞ。あいつすぐ手が出るタイプだろ」


 レーニエは余計ニッコニコの笑顔になった。


「大丈夫でしょう、たぶん。

 いや〜、これまでね、何度もプロポーズしてるのに私が結婚するときは『スッと後腐れなく身を引くから』とか、『いつか別れる時の為に』とか、そんな事ばっかり言うんですよ。だから本当は私のことをそれほど愛してくれてないのかと残念に思うことも度々あったんです。

 それなのに私がビジューと話していた時のパメラときたら夜叉か般若かという形相で、もちろんこちらとしてはそんな嫉妬させようとかそんなつもりは全く無かったのですが、ふと見たら耳まで真っ赤にして鼻息フーフーいわせて凄い顔してたから、もう嬉しくて、嬉しくて!」



 心底喜んでいるレーニエを見てフィリップは心底呆れた。



「・・・そんなのよく喜べるな。お前はすごいよ、鬼と化したアイツを見て喜ぶとは!パメラの相手はお前以外ムリだ。今そう確信した」


 とにかく僕はムリ。



「ええ、ええ、そうでしょうとも!私は必ずパメラを頷かせてみせますよ!」



「・・・おお、まぁ・・・がんばれ」



 レーニエすげ〜。

 アレはタデ食う虫どころじゃない。


 ホント、人の好みは千差万別なんだなとつくづく思ったフィリップだった。





 一方、リリアンは午後も引き続きオークレア先生からサイドサドルの講習を受けることになっていたが明日からはソフィーやルイーズと一緒に馬を歩かせる訓練をする予定になっているから今日中に乗り降りのノウハウを確立させなければならなかった。


 ちなみにソフィーとルイーズが使うサイドサドルはリリアン達が馬具専門店ラ・プランセスを訪れた際に店頭に並べられていたもので、リリアンがどの色を選ぶか分からないということで作られていた色違いだ。

 もちろんリリアンが選ばなかった物とはいえ、どれも素晴らしい発色と光沢の高級皮革で作られた最上級品だし『ラ・プランセス・リリィ』の刻印が入った市場に出回らないスペシャル版だ。リリィの名が刻印された物が渡らないようにと他の者の手に渡らないようにとフィリップが全部買い取って回収していたが、ソフィーは身内みたいなものだしルイーズは友人だからということで特別に許すことにしたのだった。



 リリアンが練習している馬場にはフィリップやレーニエの代わりに他の護衛達が沢山来ていた。私服の者も混じっていることから非番の者まで呼ばれているようだ。



「さて、ではどうしましょう?」


 オークレアは通勤時は補助者無しで予め設置してある踏み台を使い、踏み台のないところでは(人目を気にしなければならないが)背が高いので男性のように鎧に足を掛けて一度通常の鞍のように跨ってから右足を左に掛けるという方法で独りで乗っていたからその他の方法はよく分からないと言う。


 王太子婚約者候補であるリリアンの乗り降りは高貴な者に似合ったやり方(補助者に補助をして貰う方法)でなければならないし、特に衆目のあるところでは殊更優雅に行いたい。


 その上フィリップがリリアンに関しては馬に乗る際はパメラしか補助する事を許さないと言ったので、パメラが出来る方法でないといけない。

 身長と腕力の都合でフィリップのようにリリアンを持ち上げたり、下ろしたりが出来ないから別の方法を考えてしっかりそれを習得しておく必要があった。




 そこでオークレアがリリアンの乗り方を想定しパメラ役の護衛隊員に補助して貰う方法でサイドサドルに座ってみますと言った。

 パメラはそれが採用するのに良いか悪いかを判定する為に離れて見ている。


 まず補助者が少し腰を落として両手の指を前で組み、そこに乗り手が片足を乗せて体重をかけるタイミングで息を合わせて上に揚げて貰う方法だ。これは割とポピュラーな方法だ。


「いいですか?いきますわよ、1、2の3、はいっ」「よいしょお!」


 一回で鞍の上に横座りで上手く乗れたもののオークレアは上げてくれた護衛隊員に謝った。


「ごめんなさい、私大きいから重かったでしょ」


「いいえ、そんなことはないです。

 すいません、ヨイショは景気付けの掛け声で重かったわけではありませんからお気になさらないで下さい」


 補助を買って出た護衛隊員アルセーヌは重量級で見るからに逞しく人が良さそうでその言葉を信じて良さそうではある。


 が、問題は降り方だ。



「じゃあ、いきますわよ?」


「はい、どうぞっ!」


 今度はオークレアが鞍から目をギュッと閉じてアルセーヌめがけて飛び降りた。正面からガバッと抱きとめるアルセーヌ。


 周囲はなんだか見てはいけないものを見せられた気分だ。距離感を間違えたのかアルセーヌの顔面はオークレアの胸に埋まっている。


 そしてオークレアの足が・・・アルセーヌの腰にガッチリ回っている・・・。



「何やってんのさアンタ達、リリアン様のお目汚しよサッサと離れなさい」と余りのことにそのまま固まってしまった2人をパメラが引き離した。


「ちょっとこの方法は見直しの必要がありますね・・・」

「そうですね・・・」


 標準より遥かにデカい2人が下を向いてモジモジしている姿は微笑ましいというか、何というか・・・見てる方が恥ずかしくなり辺りが変な空気になりかけた。



 そんな中、リリアンだけは楽しそうだ。


「うふふ、何だか面白いわ。2人とも恥ずかしがり過ぎじゃない?」



 リリアンのピュアな発言にその場にいた者達の心が浄化され、変な空気は一掃された。



「オークレアの方法はリリアン様にはふさわしくない。ちょっと今度は私が乗ってみるから手を出して」とパメラがオークレアの馬に乗ってみると言いアルセーヌに早よ上げろと催促した。


「はいよっと!」


 アルセーヌの掛け声と共にパメラはポーンと勢いよく上がってから鞍にストン落ちて座った。今度はヨイショと言うのは止めておいたらしい。


「おいおい、今のがリリアン様だったら馬の背を飛び越えてたぞ。この方法は力加減を間違えたら危険だ」

「我々がリリアン様を馬にお乗せすることは許されていないからこの方法が採用される心配ない、パメラならどこへ飛んでも死なんだろ」

「ワハハ、パメラは不死身か!」


 ギャラリーを決め込んでいる他の護衛隊連中がワイワイとうるさい。頭数がいれば良い案が浮かぶかとパメラが呼んでおいたのだがそれが裏目に出たのか頼りにならない。


 パメラは彼らを無視してサイドサドルのツノに右足を掛け鐙に足を入れ背を伸ばしてそれらしくポーズをとってみた。成る程、もっと不安定かと思ったが意外と安定している。



「では、降りてみる。でもさっきのオークレアの降り方じゃダメだ。受けるのに失敗する危険性がある」


 パメラがリリアンを抱きとめようとしたならば自慢じゃないが失敗して顎と頭が当たって血まみれになったり、受け損なって尻餅をついたり、一緒に倒れこんだりするかもしれない。そうなったら目も当てられない。


「じゃあどうする?」とアルセーヌは首を捻った。


「あんたもうちょっと近くに来てそこに向こうを向いて片膝立てて座りなさいよ、その肩と膝を踏み台にして降りてみるから」


 アルセーヌは大人しくパメラの言う通りに馬の横に座った。


 パメラは右足を外しグルリと回転したその足でアルセーヌの肩を踏みつけ、次に膝を踏みつけ、地面に降りた。


「どう?上手く降りれたよ」


 パメラは自慢げに言い満足そうな表情だったがリリアンが黙ってはいなかった。


「そんな降り方、私は嫌です。パメラの肩や膝を踏むなんて出来ません。

 私、独りで滑り降ります」


「ダメダメ、そんな高いところから降りるなんて危ないし」


「いいえ、だってそんなの無理ですよ」珍しくリリアンは断固拒否の姿勢を見せた。



「おいおいパメラ、リリアン様がお気に召さない方法はとれないぞ。それにやっぱりなんか見た目が良くない。普段から人を足蹴にしていると思われたらどうする」とギャラリー。


「リリアン様がそんな事なさるわけないだろう、誰だって分かることだ。

 でもお気に召さないのなら他の方法を考えなくては・・・」



 皆でうーん、うーんと考えるけど良い方法が浮かばない。補助者はパメラ限定だから出来ることが限られる。


 結局、護衛隊が携帯出来るような折り畳み式の階段状になる踏み台を常に携帯し、降りるときには組み立てて置くことにした。パメラはリリアンの手をとってバランスを崩さないようサポートする係だ。

 さっそくお洒落な踏み台を作らねばならないがどこに発注すれば良いのか、まずは殿下に相談しなくては。



「では今日はそこの踏み台を使っての上がり下りの練習をなさいますか、リリアン様」


「そうね、そうしましょう」


 とリリアンが言う後ろでラポムがヒヒーンブルブルブルと嘶いた。


「どうしたの、ラポム」



 ラポムはリリアンが見守る前で、ゆっくりお尻を落とし前足を折って伏臥休息の体勢をとった。そしてリリアンを背に乗れと促すように首を後ろに振ったのだ。


 しかしリリアンは調子が悪くなったと思った。


「ラポム急にどうしたの?どこか悪いのかしら、大丈夫?痛い?」心配してラポムの顔を覗き込み首を撫でてやっている。



 ギャラリーは騒ついている。


「嘘だろ」

「ちょ、馬がこんな風に伏せるの初めて見た」

「調子が悪いというよりなんか乗れって言ってるみたいに見えるんだけど」

「俺もそう見えた、でも普通馬はこんなことしないよな」



 本物の馬だって座ったり横になったり出来るけど、もっとやりにくそうだったり背中が急な傾斜になったり、ゴロンと勢いよく転がるようにするのが常だ。

 でもラポムの伏せはリリアンが背中に乗っていても落ちないような安定した動きだった。



 ラポムは馬の形をしてるけど、馬じゃない。人間の考える範疇を超えた存在なのだ。


 ハハッ、こんなのワケないさ!

 私がこうやって座ってあげるから乗ればいいよ!


 そう言ってやりたいがニコラが居ないからリリアンに伝えることが出来ない。



 何でも出来そうだけど、実はラポムはニコラとしかお喋りができないのだ。

 精霊は人と関わりを持たないという精霊界のルールがあるだからだ。


 雪と氷の大精霊リヤ様は、ご自分の過去の過ちの連鎖を終わらせるために『先祖返りを起こした銀の民の子にその特徴を遺伝させない手立てを打つこと』と『最後の氷の乙女を守護』するお許しを大精霊会議で得て私をリリアンの元に遣わせた。それはあくまでも『銀の馬』として傍で見守る為にだ。

 既に吹雪の日にリヤ様が助けたことにより我々の存在を知っているニコラとは話が出来るけど、リリアンやフィリップとは守護が発動しない限りダメだ。


(まったく、人間ってのは声に出さないと喋れないなんてまどろっこしいな!)



 ギャラリーの1人が言った。

「リリアン様、試しにラポムの背に乗ってみられては?」


 ラポムは今この時とばかりにウンウンと首を縦に振りまくった。


「そんなの弱っているのに可哀想です」


「でも乗れと言わんばかりに首を振ってますよ」


「まさか〜」「マジで?」「でもそうじゃない?笑ってるような顔してるし」「それいつもじゃん」

 また皆がわいわいと好き勝手に喋り出しなかなかの騒ぎだ。


 リリアンはラポムを、心配そうに見守り首を優しく撫でてやっている。



(一向に伝わらん)


 ラポムは口でリリアンの袖を噛みクイっと興味を引いてから今度は腕を鼻先で押すように後ろへと後ろへと追いやって促した。



「え、そうなの?ラポム、私に乗れと言ってるの?」


 ラポムは目をキラキラさせてブンブンと頷く。

 ギャラリーがどよめく。本当に意思を伝えようとしているのかと。


 ラポムは今更だが誤魔化すためにちょっと上を向いたり首を傾げておく。



「まるで言葉が分かるみたいね。いいわ、座ってみる。辛かったら首を下げたりして教えてちょうだい」


 リリアンは試しに乗ってみることにした。嬉しそうな様子を見ると確かに体調は悪くなさそうだ。



 横座りで腰を掛け、右足を鞍のツノに掛けた。もしも落ちそうになったらすぐに飛び降りるつもりで鎧にはまだ足を通してはいない。

 手綱を持ったまましっかりと鞍の端を掴んだ。


 そしてギャラリー達はなんだかんだ言っても護衛隊の面々だ。念の為に引き綱を持ったり何かあった時はリリアンを支えたり受け止めたりする為にとそれぞれが位置に着いた。


「いいわ座ったわよ、ラポム」


 ラポムは本当の馬ではないから、それこそ4本の足を同じスピードで短くして低くなったり、リリアンの下に潜り込んで座らせたり、肩とお尻から腕を出してリリアンを鞍に上げたり降ろしたりと方法はいくらでもあるのだが、そんなことをここですると大騒ぎになると分かってる。


(ちゃーんと人間界の常識を弁えている、わたし偉い子だよね!)



 ラポムは用心深くゆっくり立ち上がった。


 もちろんちょっとは斜めになる、でもお尻を下げた方向になら鞍のツノに足を掛けてしっかり掴まっているリリアンは上手くバランスをとって落ちることはないだろう。


(落ちそうだったら透明の支えを出してあげても良いしね!でもそれも何か変だと思われるかな?)



「おお!」どよめきが起こる。


「わあ、すごい!乗れたわ、ラポム!私、乗ってるわ!」リリアンも大喜びだ。


 もちろん降りるときも上手くいった。



 フィリップがいない時にリリアンが乗り降りするときはラポムが伏せる、一応そういうことになった。ここにいるメンバーはラポムがいつだって必要な時にそうできると信じている。

 しかしラポムが思うように伏せてくれなかった時のためにリリアン専用に見た目も麗しい折り畳み式踏み台を作り、護衛が背負って出掛けることになった。




 この乗り降りするたびに自ら馬が伏せるという方法は、特に馬に乗る宮殿勤めの男性達にとってかなりの謎・・・ではなく奇跡みたいな事で、とても衝撃的だったらしい。

 そして銀の馬からの特別扱いを当たり前のように受けるリリアンは宮殿勤めの女性達の憧れの的になった。

 一気に宮殿中にこの噂が駆け巡り、リリアンは流石『王太子婚約者候補』であり『将来の王太子妃』であると尊敬され一層評価を上げることになったのだ。



 彼らは顔を合わせるたびに口々にこの奇跡の噂し、同時にリリアンとリリアンを見出したフィリップを褒め称えた。


 リリアン様は生まれて此の方その存在を隠されていたのにも関わらずフィリップ王太子殿下に見い出されたそうだ。


 よくぞ見出されたことよ!我らの王太子殿下は素晴らしく御目が高い。


 しかし見つけ出されない訳がないのだ。



 唯一無二の神々しい銀の馬でさえも自ら跪き、畏れ多くも背に乗せたいと願うほど高貴なお方なのだから。


 そうだ、そうだ。

 古来より氷の山に住んでいたとされる銀の民、彼らの強靭な体と統制された騎士団を見れば分かるが今は忘れ去られているものの、きっと古の時代にはそこに壮大な王国が築かれていたに違いない。そして銀の民で唯一の銀の髪を持つ女性である彼女こそ『生まれながらのお姫様』であり、王太子殿下の運命の人に違いない。




 これはあくまでも、彼らの夢と希望が入り混じり噂の中で練られ出来上がっていった話だ。


 たが、皆が共感し心をときめかせる内容だったので口から口へ実しやかに語られることになり、後に『リリアン伝説』冒頭の一節となり、銀の馬の奇跡のくだりは『女神の使い銀の馬』の章で語られることになる人気エピソードになる。

パメラはうまく表情に出さずにいたつもりでしたが相当怖い顔になってたみたいですね。

レーニエは喜んでいたけど、パメラ的にはレーニエには見られたくない顔だと思います。

_φ( ̄▽ ̄; )



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