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108話 やらかしてしまったホントの理由

「殿下、どうか私に発言をお許し下さい!」


 護衛として今度は室内にいて壁を背に黙して立っていたレーニエもリリアンと同様に心配になったのかそう言って一歩前に進み出た。


「いいぞ、言ってみろ」


「はい、いっそのこと色々何をするかうやむやにして『総合部』にしたらいかがでしょう?それならワイワイといかにも楽しそうな活動をする部という印象を持ちそうではないですか」


「ほう、それはなかなかいい案だな」

「おお、それなら貴族は娯楽好きだから勘違いしていくらでも引っ掛かって来そうだ。いいね!」


 良い部の名前を全く考えつかないところだったからフィリップもニコラも諸手を挙げてレーニエの案に賛成した。



「勿論それが狙いです。何をやっても許される名にしておけば何をしても面白がってついて来ますよ。まずは我々が餌となり大量に釣るのです」


「我々が餌とは?」


「リリアン様のいるところ、王太子殿下に兄のニコラ、護衛の私と我が国屈指の『イケメン』が揃って居るのですよ・・・」レーニエはニヤッと笑って続ける。


「必ずそれ目当ての輩が大勢出てくるに決まってます。まずはより多くの生徒を集めその中から良さそうなのをピックアップ、個別に勧誘するという遣り口です」



「なるほど」とフィリップとニコラも同じようにニヤッと笑う。悪い笑顔だ。



 最近、ニコラは自分の姿絵が飛ぶように売れていたというような話を聞いたりしたことで実は『イケメン』の部類に入るのだという自覚が出て来たのだ。

 それならば使えるものは使ってやろうじゃないか!!



 何故だろう?彼らの会話を聞いているとリリアンには悪い事をしようとしてる人達にしか見えなくなってきた。特にやる気に満ちたお兄様の顔が怖い。


 だけどソフィー様にはそうは見えなかったようだ。



「私、ニコラ様を目当てに集まる女性たちにどんな顔をすれば良いのですか、とてもそんな方々に笑顔で接する自信はありませんわ」と眉を寄せた。


「誰がどれほど来ようと関係ないよ、俺は君だけだって分かってるだろ?」と恋人の可愛い嫉妬にニコラは上機嫌でソフィーを引き寄せた。



 レーニエはリリアンと心配げなソフィーに真摯な視線を向けて言った。


「ええ、もちろん餌と言っても浮気するつもりも、気を惹いて騙すつもりもないですよ。大体私たちはそこにいるだけで人が寄ってくるものですから立っているだけでいいんです。

 ですがそもそも騎士を目指せる人材は少ないでしょうから少しでも多く足を止めさせて興味を持って貰わないと結局1人もいなかったなんてことになりかねないんです」


 レーニエは先程は楽しそうに提案していたが決して安易に考えているわけではない、むしろ簡単に見つかるとは思っていないのだ。それこそ千人来ても一人も該当者が居ない可能性がある。いやその可能性の方が高い。



「もちろんだ。では具体的に女性騎士志望者発掘のための作戦を考えよう」とフィリップ。


 これ以降の話し合いは白熱し、ソフィーの乗る馬を決めるのはまた日を改めることになった程だ。



 それぞれがこれらの計画は本日中に、パメラが不在のうちに考えて決めてしまわねばならないと考えていたからだ。



 皆はパメラが騎士を続けながら愛するレーニエと結婚して可愛い子を産むこと、それら全てを手にすることが幸せだと考えている。どれか一つでも欠けたら、その人生はどこか空虚なものになるだろう。


 だけど小さな頃からの夢を叶えて護衛の仕事を天職だと言い、リリアンに心からの忠誠を誓い守り抜くと決め、貴族としての義務を子を産むことではなく国を守ること即ち王太子妃となるリリアンを守ることで果たそうと既に心に定めているパメラは皆のこれからすることを先に聞いたらどう捉え、どう思うのだろう?


 自分の為にそこまでするのは止めてくれ、これが私の幸せなんだからと言い張りそうだ。



 人の幸せを他人が『こっちの方が良いはずだ』と決めるなんて、お節介で烏滸がましいことかもしれない。


 でも、でも、せずにはいられない!


 私たちはこうせずにはいられない。


 舞台を整えた上でパメラに言いたい、精一杯の努力をした上でどうするか決めましょうと。あなたはレーニエを手放さなくていいのだと。



 だから必ず発掘したい!





 結局、夕方近くになりパメラが王宮に戻って来たと知らせを受けるまで議論は続いた。勤務は明日からなので多分ここには顔を見せることは無いだろうが話し合いは終わることにした。


「段取りは大体このくらい決めておけばいいだろう、また何か思いついたことがあったら言ってくれ。それにしても今日はソフィーの馬を選びに来いと2人を呼んでいたのに話し合いで終わってしまったな」


「いいえ、ちょうど今日呼んで下さって良かったです。色々決めることが出来ましたし」


「ああ、今日しか出来ないことが優先だ。馬選びはまた改めて来るからよろしく」



「そういえばフィル様、5月の馬術大会と9月に剣術大会があると仰ってましたよね?私はそんな大会があったとはちっとも知りませんでした昨年もあったのですか」


「それはどちらも学園でのイベントで外部からの見学は許していないからね。今年からはリリィも観られるし馬術大会は出場もできるかもしれないよ。

 ちなみに学園以外でも大会はあって王室主催全国騎士団剣闘大会は4月開催で前回の優勝者はレーニエだ。そして僕が主催する馬術大会はプリンスカップと言って9月に行われる、学園とは季節が逆になるんだ」


「たくさん大会があるのですね、フィル様が優勝されたのはどの大会ですか」


「馬術大会ではどちらでも優勝してるけど、プリンスカップの方は自分で主催して自分が優勝っていうのは度重なると八百長みたいでしょ、最近はエキシビションとして見せるようになっているんだ」


「では私もそのエキシビションでフィル様の演技が観られますね」


「それがねー、無理なんだ。

 去年の春の大会の後、父上に大会の出場だけでなく競技自体を禁止されたんだ。あー、あれが父上の耳に入るとは迂闊だった」らしくなく溜息をついて頭を抱えるフィリップ。


「フィル様?

 いったい何があったのですか?」



 かぼそい声で「バク宙した・・・」


「え?何ですか?」



「リリアン、それ以上聞いて殿下の傷を広げるな。

 俺が説明しよう。

 殿下は表彰式でレゼルブランシュの背からバク宙つまり後方宙返りでステージに降り立ったんだよ。

 あの高さから空中で後ろに一回転するんだぜ、ただバク宙だけするのも危険なのに愛馬とはいえ不安定な背からだし、ステージに上手く着地出来てなかったらどんな事になっていたか・・・思い出すだに恐ろしい。俺の人生で一番肝が冷えた出来事だよ。

 あの時は間に合うはずないけど、とにかくなんとかしようと走ったね」



 そう、殿下は前大会での表彰式でレゼルブランシュに乗ってステージ前まで来たと思ったら、有り得ない事にレゼルの鞍の上に立ってそこからステージに見事なバク宙を決めて降り立ったのだ。


 会場は割れんばかりの拍手と喝采に包まれた。


 それは人馬の強い信頼関係があればこそ出来た事だけど、最高の演技に気分が高揚し過ぎたのだろう。

 もしステージの下に落ちて首の骨でも折ったら、もしレゼルが驚いて暴れたりしたら・・・とんでもない事になっていたかもしれない。

 バク宙が見事だったせいで余計話題になったし。


 この不安定な馬上からの危険行為が無ければ陛下はまだ競技を続けるのを見守ってくれていただろうに、全く殿下もアホな事をしたよな。




「傷を広げるなと言っておいて、何気に広げているのはお前だろ・・・。もう2度とあんな事はしないよ、肝に命じたから」


 文句を言いながらもフィリップは反省しきりだ。



 あの時は、ベルニエ邸でリリィに初めて逢った後で兄と妹になる約束をして花祭に招待し、リリィに送るドレスや靴、アクセサリーも出来上がり、もうすぐ会えると思うと嬉しくてハイになっていたんだ。なんならリリィに優勝報告しようと思って張り切ってたし。


 今思えば最初から惚れてたんだよな〜。


 リリィはニコラの説明を聞いて驚いた顔をしている。なんてバカな事をするのかと流石に呆れただろうな。



「でもあの時は学園中の女生徒が色めき立って凄かったですよね。

 父と兄があの直後に1000通を超える釣書が届いて1日で届く最高新記録も更新したと言っていましたし、学園では殿下を一目拝見しようと放課後に馬術練習場とその周囲が女性で連日埋め尽くされて通り抜けられないほどでしたもの」とソフィーが当時を思い出して補足する。



「ああそうそう、そうだった!俺も思い出した。

 あの時いつもは見せない笑顔を見せたから女どもがステージに押し寄せて来て騎士団が盾になってる間に殿下と裏から馬で逃げようとしたんだ。

 だけどゲートを出た所で振り返ったら女ばかりの大群衆が柵を笑顔で乗り越えて追って来ててマジで怖かった。倒す訳にいかない相手だしな!

 殿下〜もうホントに突然慣れないことをするのは勘弁して下さいよ、あと予定にないことをするのも」


 ニコラはその時の騒ぎを思い出して身震いした。あ〜こわこわ。



「そうそう、それで何とか沈静化させる為に陛下と父達が考えて翌週の花祭でリリアン様を婚約者候補と大々的に発表することに急遽決めたのですよね!」


 ソフィーは宰相の娘だけあって情報通だ。



「え?あの発表と関係がある事だったのですね!?」


 びっくりだ。

 確かに花祭ではバルコニーへ招待するとしか聞いてなかったのに、現地に行ったら婚約者候補と発表することになっていたんだった。それにこんな裏話があったとは!!


 あの頃の話だったんだ。



「あ〜、ナルホドね」ニコラはソフィーの言葉でうすうす気が付いてしまった。


 殿下のバク宙する程のハイテンションと笑顔の訳を。成る程、リリアンのせいだったか。


 ニヤつくニコラ。


「そういうことですよね!」とソフィーもニコラと顔を見合わせてニンマリ頷いた。アレとソレの関係に気がついたようだ。



「コホン!

 もうそろそろこの話はお終いにしていいかな?さあ、撤収、撤収〜!」


 これ以上2人に喋らせていたら何を言われるかわかったものじゃない。これ以上リリィを呆れさせるわけにはいかないとフィリップは皆を部屋の外へ促した。




 皆の話を驚きつつ聞いていたリリアンの心中はフィリップが思っているのとはちょっと違った。



(それほど危険な事をまたして下さいとは言えないけれど、絶対にカッコ良かった。絶対、絶対、カッコいいに決まってる!

 ああ、私もそのバク宙が見たいです!フィル様〜っ!!)



 ただただフィリップのカッコイイ姿を見逃したことをとても残念がっていた。


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