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106話 ブームを作りたいのです

 今日はエマの結婚式がある日。

 だからエマはもちろんのことパメラもいない。それで侍女達3人と静かに過ごそうと思っていたら、お兄様とソフィー様が普段より早い時間から来て下さった。

 もしかすると室内の護衛が不在になるからお兄様がパメラの代わりに居て下さるおつもりなのかな。お兄様はああ見えてよく気のつくお人だから。



「ソフィー様はラ・プランセスで長い間迷っておられたようでしたが、どの鞍にされたのですか?」


「最初は薄い黄色のサドルが可愛いなって思ったのですけど、ニコラ様がすぐに汚れるから濃い色にした方がいいとおっしゃって赤茶色にしました。もちろん初心者向けですよ、座った感じに安定感があるそうです」


「そうなんですか、赤茶色は品があってソフィー様に似合いそうですね」とリリアンが言うとソフィーは「ありがとう」と嬉しそうに微笑んだ。


「でもまだ馬が決まってないだろ、殿下が1歳馬か2歳馬で性質の良いのがいるから気に入った方に乗ればって言ってくれて鞍を買うのは馬を見てからにしたんだ。一応それを店に取り置きしておいてくれって言ってあるんだけど」


「そうなんですか、あの子逹はどちらもとってもいい子で可愛いですよ。

 だったら練習は王宮の馬場でなさいますよね?」


「そうだな王家の馬だしな」


「私が王家の馬に乗るだなんて恐れ多いことだわどうしましょう、なんだか緊張してきたわ」


「大丈夫ですよ本当に穏やかな子逹ですから。

 でもその時は私もご一緒させて下さいませ。フィル様がラポムがいると他の馬も従順になるようだとおっしゃるのです、もしそうなら少しは役に立てるかもしれません」


「そうなんですか、ぜひよろしくお願いします」とソフィー。


「そうなの?ならよろしく頼むよ」とニコラも軽い調子で言ったが、もちろんその理由に気が付いた。



 確かにラポムは精霊だから、それは考えられる。


 きっとラポムは俺にするように馬達にも心か頭に直接話しかけているに違いない。そして馬達は精霊の言う事に従順に従うのだろう。

 辺境への旅の途中でもし熊や狼が出た時は・・・とラポムに言った時、精霊を襲う動物なんていないよと言っていた。動物は精霊がどんな形をとっていても分かるらしい。


 ソフィーの乗る馬がラポムみたいに人の心と言葉を理解出来ればずいぶん簡単なのにと思っていたけど、案外ラポムを通訳にしたら簡単に乗れてしまうかも!?

 もしそう出来たとしたらだけど、なんちゅう便利なヤツなんだ。


 それにしても殿下はさすがだよ、いつもながら鋭過ぎる。

 ラポムが精霊ということを知ってるはずはないのにアイツがいると普段と何か違うと気づくなんて並大抵の洞察力じゃない。案外読心術でもう全部バレてたりしてね。




「ねえお兄様、それにしてもラ・プランセスは女性に合うように新しく独自に座るところを平べったくしたとか軟らかくしてみたとか申しておりましたがわざわざ女性向けの商品を開発しなければならないほど女性はあまり乗馬をしないものなのですか」


「そうだな、地方の庶民は生活のために乗ってる者もいるがそれでもそんなに多くないだろう。それにいてもあんな立派な鞍は使っていないよ、鞍なしか使っていても男女同じものだろうな。

 貴族の場合は辺境の方ではまあまあ乗れる人いるよ。でも俺たちの馬より少し背が低く足が太い種類だな。荷物を運んだり山道を行くのは馬車を使うよりそっちの方が安全で勝手がいいからね、お祖母様も最近は乗らなくなったけど以前は乗っていたと聞いたことがある。

 だが王都とうちの領地では今のところお前とパメラくらいしか見たことない。領地では馬の産地として出荷もしているけど母上は乗れないだろ?だいたい一般的には女性が馬に乗るのはハシタナイことだと思われているからそんな感じだ」



「ふーん。


 そうなんだ、そんなにいないんだ・・・」



 ちょっと愕然としてしまった。リリアンの想像以上に乗馬をする貴族の女性はいなかったのだ。



「どうした?」


「うん、ちょっと。

 乗馬がもっと女性に流行ったらいいなと思っていたけど、とても流行るどころの話じゃないみたい・・・」



 リリアンが肩を落とすとソフィーがさも簡単そうに言った。


「リリアン様、リリアン様こそが発信源になれるお方ですよ、無ければ作れば良いではありませんか流行を!」


「ええ、私がそう出来れば良いのですけれど・・・。

 私は今、乗馬を女性に広めたいと思っています。でもどうすれば興味を引いて、良いものと思って貰えるのか名案が浮かびません。

 例えばですが、ラ・プランセスでフィル様が馬術競技の心得があると仰っていたので私が教えていただいて大会に出れば誰か1人くらいは女性の乗馬について興味を持ってくれるのではないかと思ったのですが、フィル様が止められたことを私が許されるとは思えませんし無理でしょうね」



「あれは殿下が終わった後で競技より危険なことをしたからだ。

 でもリリアンも禁止されるだろうな、高い技術を持つ事は良いことだと思うけど障害競技はいかにも危険そうに見えるからね・・・でもハードルを飛ぶ以外にも競技はある」



「ではやっぱり何か競技に出てみようかしら?

 優勝を狙えなくても女性が出るだけで注目を集められるかも・・・でも、上手く出来なかったら却って乗馬をすることがマイナスの評価になるかもしれないわ」そう言ってリリアンは考え込んだ。


(おいおい、お前の馬はラポムなんだぞ。

 ヤツは人語が分かるどころではないこちらの心が手に取るように分かるんだ指示も完璧に届く。もう練習しなくても乗って出るだけでリリアンが優勝してもおかしくない。

 代わりに俺が乗って大会に出たいくらいだよ)


 そうニコラは思ったがそこは口に出して言ってはいけないのだ。

 なので代わりに「まあ確かに初心者だけど何とかなるんじゃね?」と言っておいた。



「リリアン様、でしたら乗馬部を作ったら良いですよ。

 学園には部活動というものがあって課外時間に同じ事に興味を持った学園生達が集まって活動するのです。馬術系の部は既にいくつかありますが今は男性ばかり、上手な人ばかりですから気後れするし、初心者が入れば迷惑だと思われるかもしれませんが。だから女性だけの乗馬部を新たに作ったらいいと思います。

 その方が入る方も気負わずに入部しやすいし楽しいでしょう?」


「なるほど、その手はアリだな」


「部活動ですか・・・乗馬部・・・確かに良さそうですね」



 ちょっと光明が見えてきた。



 学園で仲間を募れば何人か興味を持って入部してくれる人がいるかも。


 そして皆で馬を走らせたらとっても楽しそう!


 中には上手に馬を乗りこなす人だってきっといるわ!!



「ではでは、ソフィー様、女性の部活動は他にどういったものがあるのですか、女性の体術や剣術の部活動はあるのかしら?」


「ありませんね」


 即答だ。


「部活動をする人自体が女性は少ないので。以前聞いた時にはティーパーティー研究部と刺繍部、文芸部があったけど・・・今も活動しているかしら?」



「そうですか、ならばそれも作らねば」




「で、それをして本当は何をしたいんだ?」とニコラ。



「えっ?」


 リリアンは思わぬツッコミを受けてビクッとした。



「・・・・」



 うーん、我ながら話が壮大過ぎて実現出来るかどうか分からない事だから無理と反対されるかも。それとも馬鹿な事をしようとしていると呆れられるかしら?

 大体、公には王太子婚約者候補という身なのに自分で自分の専属護衛を、女騎士になれる人を探したいとか言い出すなんて多分有り得ないことでしょう。



 リリアンが口篭っているとソフィーが助け舟を出してくれた。


「もしかするとリリアン様は自ら女性騎士を育てたいのではないかしら?

 いくら募集してもパメラ様以外誰も応募して来ないのは、そもそも貴族女性には馬に乗れる人も剣術が出来る人もいないからですものね。

 でも興味を持ってそれらをする人が増えてきて、裾野が広がれば身体能力の高い人も、騎士になりたいと思う人もきっといると考えていらっしゃるのではないかしら?」



「え、ええ」



「それはパメラ様の為、ですね?」


 ソフィーはリリアンの考えている事をズバリ言い当てた。



「ええそうです。さすがソフィー様ですね何でもお見通しなのですから恐れ入ります」


「それくらい、俺も気づいていたぞ」と主張するニコラ。



 兄は最近、負けず嫌いの血が騒ぐのか?


「ふふっ、そうですか。さすがです、お兄様」



 バレてしまっては仕方がない。協力を仰ぐために説得にまわる。



「パメラは私がいる以上、その仕事への情熱と責任感から仕事を途中で辞めることはもちろん長期休暇を取ることも出来ないでしょう。でもエマが侍女を増やして結婚したように交代出来る人がいればどうかしら。

 それならば1日も早く女性騎士になれる人を見つけて、いなかったら育てて、私の専属女性護衛騎士の人数を増やすしかないのです。

 そうすればパメラも交代ができて長期休暇も取れて騎士と結婚に出産という3つを全て手に入れられる!そしてゆくゆくは後進の指導とか、女性騎士の頂点に立って牽引する役を担う、そういうのパメラに合ってると思うんです。


 出来れば私より年上で私より早く卒業する人の中に騎士を志望してくれる人がいればベストなんですけど。


 そして私は一年でも早い卒業を目指す!パメラを長い間縛り付けずに済むように。



 諦めて欲しくない!



 私だって諦めない!



 私、パメラとレーニエに幸せになって欲しいんです!!」



 リリアンは最後には立ち上がり、握りこぶしを作った。




「素晴らしいです、リリアン様」


 リリアンの熱い思いにソフィーは拍手を送る。


 パチパチパチ



「おお、熱いな。それパメラが聞いたら泣くぞ〜!!まあ俺も協力してやるよ」


「私も是非協力させて下さいね」


「本当ですか?」



 リリアンはニコラとソフィーの元へ行って、2人の手をそれぞれ取った。


「ありがとう、お兄様とソフィー様がいてくだされば百人力です!」


「俺は百万人力だけどな!」




「うっ、りっ、り”り”あ”んざま〜ぁ、み”な”ざま〜、ホントにっ本っ当に、あ”りがとうございます〜!」


 突然そう言って壁に控えて立っていたコレットが鼻をぐすぐす言わせながら泣き出した。


「あーんあんあん、お嬢様は、お嬢様は幸せものです〜」


 バセット家から王宮勤めに転職しても、やっぱりコレットにとって長年お使えしてきたパメラは永遠に大事な大事なお嬢様なのだ。



 クラリスとアニエスも「きっと成功します、私たちも何かお手伝いしたいです」と瞳をうるうるさせている。





 リリアンは気づかず話していたが今日のドア外の護衛は、皆がしている話のもう1人の当事者であるレーニエだった。


 ただでさえ感動しやすい男、レーニエは一部始終を聞いて猛烈に感動していた。今すぐ中に入って手を取って跪きお礼を言いたいくらいだ。



 もちろんレーニエ自身も結婚への道を模索していた。


 実際のところ王立騎士団総長である父に頼んで国王陛下に王妃と王太子妃(今は婚約者候補)の護衛を主目的とする『女性騎士団』の創設を進言して快い返事を貰っている。

 しかし募集すれど誰も興味すら持たないらしく問い合わせすらないのだ。


 現時点では専属女性護衛騎士を務められる程に能力の高い貴族女性はパメラをおいて他にとんと見当たらず、八方塞がりだった。



 リリアン様がこれほどまでにパメラの事を深く考えてくれている、そして皆もこれほどまでに応援してくれている。なんて有難いことだ。



「私もパメラを諦めない、決して」


 レーニエは改めて胸に誓った。


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