104話 サプライズだったのに
「この近くにあるファストフードといえばクレープでしょうか。
メニューは果物やチョコを挟んで折った甘い系のクレープ・シュクレとハムエッグやチーズなどのお食事系クレープ・サレがありますよ」
ファストフードは今日の予定に無かったけれどパメラ様の提案で行くことになり、ソフィーは無難なお店を挙げてみた。
「他にセントラル広場で有名なのは今や王都名物と言われている『リュカのホットドック屋台』なのですが、少し場所が離れていますし大きな口を開けて食べなければならないから女性には少々食べにくいかもしれません」
「ああ、それでも敢えて食べて欲しいほど美味しいんだ。
けれど残念ながら今はリュカの屋台はやってない、この季節はフールニエの店頭で焼き立てクロワッサンを売っているよ」とレーニエが教えてくれた。
彼は時々騎士団の仕事で街中を警邏しているのでよく知っているのだ。
「あそこのクロワッサンもね、最高なんだ。風味の良いバターをたっぷり使って幾層にもなった生地の外側は香ばしくザックザクで中はしっとりやわらかでジュワ〜っっとしてて、本当にわざわざ並んで買う価値がある。
ノーマルも勿論美味しいけど特にブルーベリージャムの入った焼き立ての、粗熱をとったばかりのクロワッサンは想像を絶するほどに美味しくて。あ〜、あれはいつ思い出しても無性に食べたくなる!!」
うわ〜、聞いただけで唾が出る。
レーニエのプレゼンが上手すぎてニコラはそわそわと今にもそっちに向かって歩き出しそうだ。
「ですけどお兄様は大丈夫なのですか?
先ほど甘いエクレアとオランジェットをあんなに沢山食べたのですから甘い物より甘くない物の方が良いのではありませんか?」
リリアンもそのブルーベリージャムのクロワッサンはとても食べてみたいと思ったけど、それ以上に甘いもの続きの兄の口の中が心配だ。
「ん?俺は続いてもいいけど。
では、口直しに食事系クレープを先に食べて後から甘系クロワッサンの店に行くか!」
兄はさっきのオランジェットも口直しと言っていたが、どれだけ口直しをして食べ続けるつもりなのか。朝食も食べて来ているはずなのにあの大きな体を維持するにはまだまだエネルギー補給が足りないらしい。燃費が悪過ぎるぞ!
「お前、間に塩気を入れたとしても前後に甘いものを食べ過ぎだろう。あれだけいつも食べる量と栄養のバランスに気をつけろと私に言ってくるのに」とフィリップが呆れる。
「今日はチートディだ。たまには息抜きしてストレスを溜めないようにすることも大切なんだ」
「知ってた、そう言うだろうって。でも最近チートディ多過ぎだろ」
大体、もうリリィやソフィーはそんなに色々食べるのは量的に無理だろうから食べ歩きはまた別の機会で良い。
「まあな、だったらクロワッサンはまたの楽しみにしよう」とニコラが折れたので皆はクレープ屋に向かった。
途中で「あっニコラ様〜!」と声がして、見ると太った男が手を振りながら小走りでこっちに来る。
「私です。馬具専門店シェルリの店主ですよ」
「おお、こっちに来てたのか」
「はい!王太子様に招かれて王都に店を出すことになりました!」嬉しそうに報告するシェルリ店主。
「んんっ!」
「こちらの店はですね、用途別にカラーとサイズ展開が豊富で、デザインもじょせ・・・」
「んんんんっ!」
「?・・・とにかく、素晴らしい品揃えの店になりますのでニコラ様も是非お越し下さい!」
「んんん!!」
さっきからフィリップが派手な咳払いをしている。
「あの、何か?」
「お前、私が行くまではリリアンに知られないように注意しろと言っておいただろう」
「え?あなたは?」
「私だよ」
フィリップはウィッグを取った。
美しい金髪が現れて「キャーッ」とあちこちで王太子に気付いた女性達が歓声を上げた。だが、シェルリの店長が上げたこっちのキャーッは悲鳴だ。
「キャーッ!!まさか王太子様!?」
店主は腰を抜かしたのか地面にへたり込んでしまった。
「もう、今日の最後にリリィを連れて行くサプライズだったのに・・・計画がパァだ」
リリアンは目をパチクリしている。
何の話だか分からない。シェルリの店主も分かっていない。
「いいえ王太子様、もちろん誓って私はリリアン様には言っておりません」
「あのー、私がリリアンです」と、さすがにここでウィッグを取るわけにはいかないからリリアンは片手を上げて自己申告した。
「ヒャーッ!!申し訳ございませんっ!!!!!」
店主は毛を逆立てた猫のように驚き、まだ地べたに這いつくばったままだったのでそこで頭を下げ地面に擦り付ける始末だ。
「あの、フィル様いったい何のことでしょう?私に何か関係があることですか?」
「ああ、実は今日のお出掛けはそもそもこの男の店に行くのが目的で計画していたんだ。
ベルニエで一緒に馬具店に行っただろう?あの時この男が『これからはリリアンが喜ぶ商品を作る』と言っていたのを思い出して、セントラル広場沿いに空き店舗が出たからリリアンはこっちにいるのだから王都に来て商売するようにと招んだんだ。
今日はプレオープンとして我々が貸切りで買い物出来るようにするというのでお出掛けの最後に訪れてリリィを驚かせようと思っていたんだ」
店主だってそういう訳で王太子様がリリアン様を連れて店を訪問する予定になっていたから、午後からの予定なのに待ち遠しくて早くから外に立っていた。
そしてそんな時に既知のベルニエ領主の嫡男ニコラを見つけたから嬉しくて声をかけてしまったのだ。今思うと彼は王太子様や妹と一緒にいて当たり前の存在だったのにウッカリしたものだ。
「ということは、私とラポム用の馬具店が近くに出来るのですね?」
「そうだよ。リリィとラポムに似合う可愛いラインナップを作ることが出店の条件だ。同時には無理だったけど近くあの時のウェアの店もこっちに店を出すことになっている」
「わぁすごい!フィル様、ありがとうございます!すっごくすっごく嬉しい」
リリアンはフィリップの手を握ってピョンピョン跳ねた。最近は王妃教育が行き届いていて跳ねたりしてなかったのだけど嬉しすぎてやってしまった。
フィリップはリリアンがとても喜んだので気が収まったのだろう店主に向かって食事に行った後で店に行くと言い、ニコラが地べたに座り込んだままの店主を立たせた。
どうやらリリアンに先にバラしてしまった失敗は許してもらえたようだ。
「はい、お待ち致しております」店主は彼らがクレープ屋に向かうのを頭を下げて送ると「はあ、さっきは生きた心地がしなかった。よし、戻ってお迎えの準備だ!」そう言ってスタコラと店に戻って行った。
馬具店に来られるお客様は当初の予定のお二人だけではないニコラ様や他にもいる。顧客を増やすチャンスだ陳列を工夫しなければ!よ〜し、急いでやるぞ〜!!
早く馬具店に行きたくてクレープ屋では時間短縮の為に同じ物を頼もうと最初に何にするか決めたニコラに倣って皆が同じハムエッグクレープにした。
大きく円形に薄〜くパリパリに焼いたクレープに具を挟んで折りたたんだ物を立ったまま手に持って食べるのがこの店の流儀だというのでリリアンもそれに従ったが。
すごく悪い事をしてる気分・・・。
多分、座ってナイフとフォークでゆっくりと食べたなら美味しかったのだろうけど、この食べ方はこぼしたり手や服が汚れないか気になってしまってリリアンはよく味わって食べられなかった。
しかも見た目から軽い食事と思っていたら、かなりボリュームがありリリアンとソフィーは三分の一食べたところでギブアップ。
逆にニコラは自分用に2つ注文していたがリリアン達の食べきれなかった分も食べてやってようやくお腹が満足したらしい。明らかに食べ過ぎだが、まあ満足出来て良かったということにしよう。
食べ終わるとさっそく馬具店があるという方に向かった。
その店の看板には『ラ・プランセス・リリィ』と書いてあった。
一般的に文字が読めない平民の為に看板は分かりやすいお決まりのマークになっていることが多く馬具屋の場合は大抵は蹄鉄の絵にするものだが、ここはユリの花をシンボライズしたマークですごくお洒落に見える。
ベルニエにある馬具店は業務用みたいな感じで洒落っ気はなかったけど、王都に出店してきたお店は高級感たっぷりでショーウィンドウの中はカラフルな革製品がキラキラした光沢を放ちながら鎮座している。
『ラ・プランセス・リリィ』
リリィ姫という意味の店名はもろにリリアンを意識したものだと思われる。
だけどこれは困った間違いだ。
領地のお店に行った時にフィル兄様と呼んでいたのでフィル様と兄妹だと勘違いされたのだろう、伯爵家の娘で王女ではないのだから私をお姫様と呼ぶのは間違いなのに・・・。
「いらっしゃいませ。お待ち申し上げておりました、どうぞ中へ」
「ええ、ありがとう。
でもこのお店の名前は誤解されそうで私としては困ります」
とリリアンが言えば、フィリップも
「店名を変えるとは聞いていないぞ、これはダメだ」
店の前まで迎えに出ていた店主は本命2人のダメ出しに狼狽える。
「ええ、ダメですかっ?もう全ての商品にシンボルマークとブランド名を刻印してあるのですが・・・」
相手は王太子だ、それでもなんとか情に訴えようと頑張って抵抗を試みた。
確かに店を出店するための書類には変更するとは書いていなかったが『この店名にすれば2人により喜んで貰えるはずだ』と考えていたのは事実なのだ。良かれと思ったとは言え後から勝手に変えたのは軽率とかいうレベルの問題ではなく、許可を出した王太子を騙したのと同じことで大胆不敵で不敬な行為だと言わざるを得ない。
「あの、リリィというのがもし私の名前からついているのであれば、ですけれど、私は王女ではなく伯爵家の者ですからこの店名は間違いなんです」と困り顔で訴えた。
ただの店名なのだから見逃しても良さそうなものだけど、王妃を目指しているリリアンにとって切実な問題なのだ。
この店名を放置するとリリアンの人となりを知らない人に『王宮に住んでいるからいい気になって自分のことをもう王族だと勘違いして思い上がっているんじゃないの』と誤解されてしまうかもしれない。
婚約者候補に相応しく振る舞うのと王女ヅラして歩くのでは与える印象が全く変わってしまう、この違いには注意が必要ですよとバレリー夫人に度々言われているのだ。
将来の為に人々に広く好意的に受け入れられる事は非常に重要な事で、足を引っ張られたり反感を買いそうな種はなるべく無い方が良い。困ったな・・・。
「そうだな、ウチは中流の地方の伯爵家だから実を伴わない呼び方が市中に広まるのは良くない。
違うだろうと言い掛かりをつけてくる者が出るくらいならまだいいが、知らないうちに敵を作ることになるかもな」とニコラもリリアンの言い分に加勢する。
店主は庇ってもらえるかも・・・と頼みの綱にしていた領主様のところのお坊ちゃんにもバッサリと綱を切られてしまう。
「大体、私以外の者がリリアンの事をリリィと呼ぶ事もお姫様と呼ぶ事も気に入らない。店名になったら皆が口にするではないかそんなの迷惑だ」
実際のところフィリップが気に入らないのはこの一点だ。
リリィは私のお姫様だから店名が間違っているとは思わないが、他の者がそう呼ぶのは今は嫌なのだ。
「あのう、明日がグランドオープンなんですが・・・」
「いやいや大体、届出は『馬具店シェルリ』でされていただろう、私はその名前で許可を出したんだぞ」
「本店とは著しくラインナップが変わりますので、それで・・・」
「看板はすぐに下げるように。オープンは延期、全てを正してからだ」
フィリップはめっちゃ厳しい事を言い渡すがここで要求しないと、いつするのってやつだ。
「は、はい・・・」店主は泣きそうな顔になりながらも王太子様の仰る事には逆らえないので承諾した。
そもそもこんなに喰いさがる事自体が有り得ないのだけど地方の商人は経験不足から王族方に対する態度が少々緩い傾向にあるようだ。
店名を元に戻すことについてはフィリップの要求でもあったのだが、リリアンは自分の我儘で店主を困らせてしまっていると感じてしまい店主が可哀相になってきた。
この店名のままでは困るけど、さすがにこれだけの準備をしているのに伯爵家の娘だと自分で言いながら王族並みの要求をしてやり直させるなんて、我ながらこの方が思い上がってる態度じゃないかしら。
しかも自領のお店が王都の中心部に出店するのだから応援したい気持ちもあるし・・・。なんとか折衷案を捻り出したい。
「フィル様、私の要求の為に既に有る、せっかく職人さん達が作った物を世に出せないのは心が痛みます。
私はリリィという名前さえ入らなかったら良いですから店名の看板は作り直したらすぐに取り替えて貰う、マークはこのまま、ブランド名の刻印は今ここにある商品までで今後はリリィ付けないようにして貰うというようにすればどうでしょう?」
「そうだな・・・『ラ・プランセス』か。
それなら、ただお姫様をイメージしたラインナップのお店ということで誰かを特定していないからいいだろう。
リリィの心が痛むというのならその希望通りにしよう」
心の中でリリィの名の刻印の入った物は出回らないように全部買い取ろうと思いながらフィリップは承諾した。
「ありがとうございます!!」リリアンが言うより先に店主がお礼を言った。
店主はリリアンにフィリップとの間をなんとか取り成して貰った形だ。このままと言う訳にはいかなかったが看板の発注やロゴの金型を作り直しをすることになっても全商品を取り下げることにならずに済んだのは有難い。オープンも明日出来そうだ。
「ではそういうことで店に入って商品を見せて貰おうかリリィ」
「はいっ、フィル様!」
ここで帰ることにならなくて良かった、リリアンは中を見るのが楽しみだったのだ。
2人は手を繋いで店内に入った。
「私達ももう中を見てもいいのかな?」
パメラもさっきから早く見たくてウズウズしていた。
「どれどれ。わぁ、レニ見て!この真紅の差し色の入った鞍、カッコいい。その真っ黒もイイと思わない?」
「ホントどっちもいいね、騎士団の質実剛健な鞍とは一線を画してる。発色が鮮やかで映えるよプライベート用に買おうかな」
パメラとレーニエは早くも欲しい物が決まったようだ。
「じゃあさ、サドルパッドは?」
「赤だと差し色が目立たないから黒にしようか?」
「うーん、どっちもカッコイイから両方欲しいな。私はプライベート用は赤にして、仕事用に黒にする!」
「じゃあ私もそうする」
黒に真紅の差し色が入った馬場鞍とそれに合う馬具をお揃いで買うことにした。
布製のアクセサリーにまで全て刺繍でロゴが入っていて素材も上質で品がある。
しかも、今ここにある物だけはロゴにリリアンの名前入りで貴重なのだ。
もちろん市場に出回る数的な希少価値もあるだろうが、パメラとしては主人であるその名が入っているものを使う事は特別感があって誇らしくていい。
(ああ、何もかも全部欲しいっ!!)←パメラ心の叫び
それからも熱心に見て回り、後で来て買えるだけ買い占めとこうかなと考えていた。
「確かにあの黒はいいと思う。だけどエクレールは黒毛だから鞍も黒にすると何もかもが真っ黒だからどうかな。この明るい茶と深い茶色のツートンはソフィーの色って感じがする。ツヤツヤしていて気に入ったこれにしよ」
ニコラも決まったようだ。
そして「二人乗り用の鞍も同じ色で買おう」と言うとソフィーが「ニコラ様、私も乗馬を始めてみたいのですが、まだ馬も持っていないのに鞍を先に買うというわけにはいかないのかしら?」と言い出した。
「ちょっと待ってよソフィー、落馬とかの危険もあるし馬の世話も大変だよ?」とニコラは喜ぶより先に心配そうだ。
「ええ、でも将来ベルニエ領に行ったら馬に乗れた方が移動に都合が良さそうですし、ニコラ様や皆と一緒に遠出ができるかもしれませんし、乗馬に挑戦してみたいと前々から思っていたのです」
確かに都合が良いことは多々あるだろうが、この広場に来るのに二人乗りするのでさえ怖がっていたのに?
大丈夫なのか・・・。
「お兄様、ソフィー様、でしたらこちらに初心者用の鞍っていうのがありますよ!安定感があって持ち手が付いているんですって」
「あら、それなら乗れるかしら?」
「持ち手ねえ・・・そんなのに頼っていたら却って危なくないか?ソフィーは高さが苦手なんだから、このポニー用の鞍にしてまずはポニーを乗りこなせるようになってからにしたら?」
「はい」
皆は立派な馬に乗っているというのに自分はポニーとはかなり残念だけど、至極まっとうなアドバイスのような気がしたので大人しく従うことにした。実は高さだけでなく馬の大きな顔と大きな瞳も怖いの、ポニーだったら小さそうだから怖くないかも。
「ニコラ、それはないだろう。さすがにポニーは子供向けだ。いくらソフィーに怪我をさせたくないからといっても度が過ぎるぞ。
大人しく従順で比較的小柄な二歳馬がいるからそれに乗ってみたらいい、皆で走る時に1人だけポニーだったらギャグみたいだよ」
「まあそれが正解だろうけど、来がけの様子を見ると心配でたまらん」
「うふふ」
兄達の様子を見てリリアンが笑っているとフィリップが聞いてきた。
「リリィは気に入ったのがあった?」
「はい、フィル様。中央で一際目立っているこれが可愛くて心惹かれます」
ラポムをイメージしたというリンゴ色の馬具のセットが一式お店の一番目立つところにディスプレイしてある。それはツヤツヤとした光沢の、ちょっと黄みがかった赤でリリアン自身の瑞々しい可愛さにもピッタリだった。
「リリィにもラポムにも似合いそうな色だ、こんな綺麗な色の鞍を付けている銀の馬なんて最高に美しいだろうね」
「はい、フィル様はお気に召したものが有りましたか」
「ああ、あの競技用の鞍がいい・・・と思う」
「フィル様が競技?をなさるのですか?」
「少しね」
「リリアン、少しどころか殿下は障害競技の大会で何度も優勝しておられる本格派だぞ」
「まあ!ちっとも知らなかったです」
「最近は練習してなかったからね」
「お前知らないって、王宮にもジョワイユーズ宮殿にも競技用の馬場があっただろ、どちらもゲートには王太子の紋章が入っている。特にジョワイユーズ宮殿のは年に一度の王太子杯全国馬術大会の会場だ」
確かに柵の中に遊具みたいなのがセットされた所があった。
「あれは馬術大会の為のものだったのですね」
「そう、人馬一体となって息を合わせてすることだから練習が不可欠だからね。
だけど今年の大会からは出られそうにないんだ・・・。次々にジャンプがキマってレゼルブランシュと一体となった時の達成感と爽快感は何にも増して最高なんだけど、事故でもあると大変だからと私が競技に熱中するのを周りが嫌がって何度も止めるようにと進言されていたんだ。それでも続けていたんだけど、とうとう前大会の後に父上から止めるように言われてね・・・」
フィリップは寂しそうに肩を落とし溜息をついた。
そんなフィリップを見守るニコラ。
同情はする、競技にすごく打ち込んでいたのだから禁止されたのは相当辛いだろう。
だが仕方がない。
だって例えニコラでもあんな危険な事は流石にやろうと思わないくらいなのだから・・・。
フィリップとニコラがそれぞれの想いに耽っている時、リリアンも思案顔で立っていた。競技の話に興味を覚えたようだ。