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101話 初夢 〜まどろみの中で〜

 ん、どこいったんだろ?


 オコタン・・・目を閉じたまま傍にある何かに抱きついた。


 いつもは寝る前にお喋りしておやすみを言うとすぐに寝てしまう。そして朝はいつ誰が運んでくれるのか知らない内に私室のベッドで寝ている、そんな寝つきが良く眠りも深いタイプのリリアン。

 だけど今夜は建国&新年を祝うパーティーの疲れでいつもよりかなり早く寝てしまった。そのせいで、普段に無く中途半端な時間に眠りが浅くなったのだろう。



 その時はオコタンを抱いたつもりだった。


 温かく上下に呼吸する厚みのある広い胸、大好きないつもの匂い・・・フィルさま、・・・だいすき。


 すやぁ〜。




 でもちょっとなんか違う、一度は寝かけたもののオコタンとは違う厚みと硬さの寝心地に落ちかけた意識がまた戻ってきて気がついた。


 大変!フィル様の胸に乗り上げてた!!



 リリアンは驚いてガバッと起き上がった。


 ふう、良かったフィル様は寝てるみたい。とベッドの上に座っていると、暗闇の中で手が伸びてきた。



「リリィ?夜中だよ、まだ寝てて」とフィリップに眠そうな声で言われて腕を引っ張られまた頭を胸の上に戻された。さっきまで私室で本を読んでいて遅くにベッドに入ったフィリップはまだ寝始めてそう時間が経っていない。


 リリアンの頭の上にフィリップの大きな手が乗ったままだ。



 はわわ、フィル様。


 ちょっとフィル様は枕にしては高すぎますし、この体勢は不敬な感じがするしで、とにかく寝にくいです。



 内心焦ってモゾモゾしていたらフィル様を完全に起こしてしまった。



「珍しいね、リリィが夜中に目を覚ますなんて。眠れそうにないの?」


「いいえそんな事はありません。少し早く寝過ぎて目が覚めてしまったけど、すぐに眠れると思います」



「そうだ調度いい、寝る前にリリィに言おうと思っていたんだ。

 王都も含めてこの国の北部では建国祭の夜に見た夢は現実になるって言われてるんだよ、それを初夢っていうんだけど知ってた?」


「そうなのですか、知らなかったです」


「もし良い夢を見たら他の人に話しちゃダメで、悪い夢を見たら皆んなに話すんだ。そうしたらその夢で見たことは現実にはならないから」


「面白いですね」


「うん。キースにも教えてやれば良かったな」


「うふふ、そうですね。喜んでメモを取りそうですね」



「ねぇリリィ、これって迷信だと思う?」


「うーん、どうでしょう。夢が現実になったら面白いですけど、実現が難しい夢もありますよ?もしドラゴンが出てくる夢を見てしまったら実在しないから叶いませんよ?」


「まあドラゴンは無理だな、でも僕は夢が現実になった事がある。

 白い馬に乗る夢を見た年の誕生日にレゼルブランシュが贈られてきて僕の馬になったんだ。だから初夢が正夢になる、そんな事もあるんだ。・・・だからおやすみリリィ・・・良い夢を」


「はい、おやすみなさい」


 私、起きてから夢を覚えてることなんて殆どない、でも今日は夜中に起きたからもしかして夢が見られるかな?見るならフィル様の出てくる良い夢が見たい・・・。



 フィリップはリリアンが寝やすいように腕枕をして抱き寄せた。



 こうしてフィル様の身体に頬を寄せて抱かれたような体勢でいると、なんだかフィル様にすごーく愛されてる・・・みたいな気持ちになってくる。


 わぁ〜。

 いいな、いいな。こんなのいいな。

 ドキドキするけど、

 なんか幸せ。



 無意識にフィル様の二の腕の軟らかいところに頬をスリスリしてた。




「ちょ、リリィ、くすぐったいよ」とフィル様がくすくす笑いだす。



「ごめんなさい、あったかくて気持ちよくて、つい」



「うん。でもオコタンの代わりだ、甘んじて受け入れるよ」



 ああ、確かに私いつも寝る時にオコタンにスリスリしてるわ。

 これ寝る前の癖みたい。



「ほら、おいで」とフィル様が身体ごとこちらを向いたので向かい合わせになった。



「うふっ、フィル様が私の抱き枕になって下さるのですか?」



「うん!ボク、フィリップ等身大抱き枕『フィルたん』だよ!ボクを抱いて寝ておくれ!」


 真夜中のテンションでフィリップがふざけて自己紹介する。



 リリアンは笑いが止まらなくなった。


 ちょっと待って下さい!

 麗しの王太子フィル様の作り声なんて意外で破壊力高過ぎです。



「うふふ、ふふ、やだわ、ふふ、ふふふ、フィル様わたしを寝させる気がお有りですか、こんなに笑わせて・・・」


「寝させたいか寝させたくないかで言えば寝させたくないけど、寝てくれないと困るんだ」



「そんなナゾナゾみたいな事を言われたらいよいよ眠れませんよ」



「寝てくれないと危険だよ?・・・初夢見れないよ?」



 初夢を見るより楽しいから、こっちの方が良いんですけど。でも、フィル様が眠たいのなら仕方がありませんね。


「はい、では初夢を見る為に寝ますね。今晩はフィルたんを抱いて」


 リリアンはまださっきの笑いを引きずってニマニマしていたけど、フィリップの身体に身を寄せて大人しく目を閉じた。



「いい子だ」


 フィル様は体を少し起こしてオデコにゆっくりキスをしてくれた。

 あたたかで、やわらかくて、おだやかな・・・。


 リリアンはそのまま眠りに落ちた。


 すぅ〜すぅ〜。



 さすがリリィ見事な秒落ちだ。この寝付きの良さにはいつも驚かされるがもしかすると自分にも心の中で子守唄を聴かせているのだろうか。


 僕もリリアンに子守唄を歌って貰ったら一瞬で寝られるのに・・・とちょっと残念に思っているうちにやがて眠りについた。





 リリアンは夢を見た。


 結婚式の夢だ。


 結婚式に出席した事がないので絵本で見た風景やニコラの婚約式の様子や色々混じる。



 フィル様がリリアンの指に指輪をはめてくれて、誓いの口づけをしてくれた。

 熱くてやわらかで優しい感触に胸がきゅーんとなる。


 今度はリリアンがする番だ。

 リリアンがフィル様の指に指輪をはめると、フィル様がにっこり微笑んでお姫様抱っこをしてくれた。



 わぁ〜、すごく素敵!


 そうだ、フィル様は本物の王子様だから、これは本当のお姫様抱っこだわ。私が大好きなフィル様に憧れの『王子様のお姫様抱っこ』されるなんて。あ〜、夢みたい!


 いつもフィリップがリリアンを抱く時はお尻を腕に乗せて縦抱きにする『幼児向け抱っこ』なので、毎朝そうやってベッドに運ばれているのを知らないリリアンは『大人のお姫様抱っこ』にとても憧れていた。



 夢の中のフィル様は自分にもお返しのキスをしてと言っている。


 フィル様、フィル様、・・・私の王子様。


 と〜っても幸せ。



 ちゅっ





 フィリップは今、ベッドから抱き上げようとしたリリアンをそのまま静かに元のベッドに横たわらせ、手で顔を覆ってしゃがみ込んだ。


 ほんわりと頬が熱を持つ。



 朝、起きていつものようにリリアンの寝顔を堪能してから「おはよう」の口づけをした。


 それからやはりいつものようにお姫様抱っこでリリアンの私室に運ぼうとしたら、



 リリアンが



「私の王子様」と呟いて、フィリップを引き寄せ頬にキスをしてきたのだ。




 しばらく固まってリリアンの様子を観察したけど、どうやら起きてはないらしい。


 いったいどんな夢を見ているの?

 その王子様が僕であることを祈るよ・・・。




 ベッドに腰を掛けてリリアンの美しい銀の髪を撫でると、リリアンが目を覚ました。


 とっても幸せで素敵な夢を見た。


 ぽや〜んとする。


 すごくリアルな夢で、起きてもまだ本当に口づけをしたような感触がくちびるに残ってる・・・。



 夢心地で寝転んだままフィリップに聞いた。



「フィル様・・・夢を見たかどうかは人に話しても良いのですか?」


「いいよ」


「素敵な夢かどうかは?」


「そのくらいなら大丈夫」


「フィル様、私とっても素敵な夢を見ました。だから絶対に誰にも話しません」



「そう、良かったね」


「はい。フィル様はいかがでしたか?」


「うーん、僕は話すよ。

 なんか池のある野原みたいな所で寝ていたらデッカイ亀がお腹に乗ってくるっていう夢を見たんだ。亀は卵を産む場所を探して移動していたんだけど僕の上から下りれなくなってジタバタしてた。

 これは夢が現実になる事はちょっと無いと思うけど一応良い夢では無さそうでしょ」



 ・・・それはもしかすると私が乗っちゃったから見た夢ですね?



「フィル様の初夢は来年に期待しましょう」


「そうだね、このリベンジは来年だ」


「うふふ、来年も亀だったりして」


「なかなか毎年同じ夢は見れないよ。ちなみに去年見た夢は何だったのか全く覚えてないけどね」


「忘れているだけで去年も亀の夢を見てたりして・・・私は忘れたくないな、今日の夢」



「よっぽど良い夢だったんだね」



「はい」



 私はきっと今日見た夢を忘れない、来年も再来年もその先も今日と同じ夢を見たい。



 初夢、叶ったらいいな。


本日1月1日に王子様は女嫌いのブックマークが200件になりました。本当にどうもありがとうございます、とっても嬉しいです。

お礼の気持ちで番外編『ルネがいるから』をアップしました。

楽しんでいただけたら嬉しいです。


前回100件の時の短編『ルネの猫』の続きのお話です。

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